*** うそばっかりのうささぎのはなし ***

(第10話)



お姉さんのところから、マリエちゃんの家へ逃げて来たクロクロとうささぎ。

次の日になって。



うささぎ「今日は新しいぬいぐるみが来るんだよね。」

クロクロ「マリエちゃんが買ってもらうんだって。」

うささぎ「あっ、来たみたいだよ。」


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マリエ 「クロクロ、うささぎ、この子がみんなの新しいお友達、

     くまのセオドアよ。」

うささぎ「よろしく。」

マリエ 「かわいい女の子でしょう。」

クロクロ「女の子? セオドアって名前は、男の名前だよ。」

マリエ 「そう?」

うささぎ「気にすることないよ。

     ぬいぐるみには性別はあんまり関係ないから。」

クロクロ「ふーん」

マリエ 「じゃあ、セオドア、ここがあなたのベッドだからね。」

クロクロ「あっ、そこはクロクロのベッドだよ。」

マリエ 「そうだけど、今日からはふたりで仲良く使ってね。」

クロクロ「えっー。クロクロのベッドだよー?」

うささぎ「クロクロ、一人占めしないで。新入りとは仲良くし

     ようよ。」

クロクロ「ちぇっ。」

うささぎ「まあまあ、クロクロ、落ち着いて。

     ねえねえ。せっかくだから、みんなで遊ぼう。」

クロクロ「そうだよ。マリエちゃん、みんなで遊ぼう。」

マリエ 「何して?」

クロクロ「庭で『草むしり競争』」

マリエ 「何それ? 速くたくさん草を取った人の勝ち?」

クロクロ「いや。

     みんなで、夢中になって草むしりをするんだ。

     夢中になったあまり、間違って花をむしった奴の負け。

     なんでも速けりゃイイってもんじゃないんだ。」

マリエ 「ふーん。

     セオドアにはちょっと難しい遊びじゃないかな。

     あなたたちふたりで遊んでて。」

クロクロ「ふたりだけ?

     マリエちゃんは?」

マリエ 「あたしはセオドアと一緒にいるわ。

     セオドアを一人ぼっちにしちゃかわいそうでしょ。」

クロクロ「つまんないの。

     マリエちゃんも一緒に遊ぼうよ。ねえねえ。」

マリエ 「うるさいなー。

     クロクロはギャーギャー騒がないの。

     セオドアが怖がるでしょ。クロクロは外で遊んでいなさい。」

クロクロ「なんでえ。

     うささぎ、遊びに出かけよう。」

うささぎ「あっ、クロクロ。待ってくれよう。」


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クロクロ「なんだよ。マリエちゃんはセオドアのことばっかり

     可愛がって。」

うささぎ「そう怒るなよ。

     セオドアは新入りなんだから、マリエちゃんが気をつかうのも

     当然だよ。」

クロクロ「まあ、そうだけど。」

うささぎ「それより、クロクロ。

     これからウサギ小屋に行こうよ。

     うささぎはカステラ(うささぎの飼い主)に、まだ言って

     いないんだ。『マリエちゃんの家に住みます』って。」

クロクロ「そうだね、ウサギ小屋へ行こう。」



みんなも知っての通り、東京に住んでいる日本人の多くはウサギ小屋

Rabbit Hutch に住んでいるんだ。

うささぎの飼い主、カステラもそんなウサギ小屋を住処にしている。



うささぎ「カステラはなんて言うかな?

     『うささぎはカステラの物なんだからマリエちゃん

     の家に住むなんて許さないぞ』って言われちゃうかな?」

クロクロ「だぶんね。

     人間は頭堅いから、融通が利かないよね。

     ちょっとくらい家を変えたってイイようなものなのにね。」

うささぎ「だね。人間は頭堅いよね。頭を押してもへこまないもん。

     その点、ぬいぐるみは頭柔らかいよ。」

クロクロ「そうそう。」

うささぎ「うささぎなんか、頭柔らかいから、頭を押せばへこむよ。

     ちょっと押してみてごらん。」

クロクロ「ほんとだ。うささぎの頭は押すとへこむね。

     うささぎはすごく頭柔らかいね。」

うささぎ「だろ。」



と、ウサギ小屋にやって来たうささぎとクロクロ



カステラ「よう、うささぎ」

うささぎ「カステラ、今日は折り入って話しがあるんだけど。」

カステラ「何だい?」

うささぎ「カステラは大事なものがある日急になくなったら、どう思う?」

カステラ「すごく悲しいな。」

うささぎ「そうかあ。」

カステラ「うささぎは、また、何か壊したな。」

うささぎ「いや、そういうわけじゃないんだ。」

カステラ「なんだい?」

うささぎ「言いにくいんだけど。

     カステラはマリエちゃんを知っているよね。」

カステラ「直接は知っていないけど。

     クロクロが世話になっているところだろ。」

うささぎ「そう。」

カステラ「で?」

うささぎ「うささぎも、マリエちゃんの家に住みたいな、なんて思ったり

     しているんだ。

     まあ、ダメなことはわかっているけど。」

カステラ「ちっともダメじゃないさ。

     ウサギ小屋を離れて新天地で頑張るってことは、とてもいい事さ。

     マリエちゃんのとこでも達者に暮らすんだぞ。うささぎ。」

うささぎ「ありゃ。

     カステラ、早とちりだよ。

     うささぎは別に引っ越すわけじゃない。家を二つにするのさ。

     引っ越しちゃうと、カステラは寂しいだろ。」

カステラ「遠慮することなんかないよ。うささぎの希望の方が大切さ。

     引っ越していいんだよ。うささぎの自由さ。」

うささぎ「ふーん。引っ越した方がイイ?」

カステラ「中途半端な事はしないで、やりたいと思った事は一度

     思いっきりやってみることだよ。」

うささぎ「でも、やっぱり、うささぎが引っ越しちゃうと、

     カステラは寂しいだろ。

     だから、うささぎも引っ越すのは、ちょっと我慢しようかな

     とも思っているんだ。」

カステラ「私が寂しいからと言って、うささぎのせっかくの願いを台無しに

     することはできないな。」

うささぎ「でも、うささぎはカステラの物だから、やっぱり出て

     行っちゃダメだよね。」

カステラ「確かにうささぎは贈り物としてこの家に来た。でもそれは

     人間の都合であって、うささぎには関係ない事だよ。

     うささぎは気にしなくていいんだ。

     このウサギ小屋に来る蜘蛛や蛙のように、好きな時に

     ここに来て、好きな時に去っていけばいいのさ。」

うささぎ「ふーん。

     でもカステラが遠くへ引っ越す時には、うささぎも付いていかな

     くちゃならないよね。」

カステラ「うささぎを友達から引き離す事なんてしないよ。」

うささぎ「でもでも、うささぎがいなくなったら、うささぎがしていた

     賞味期限の点検はどうするんだい?

     うささぎがいなくなると、冷蔵庫の中身を見て『もうすぐ

     賞味期限切れるよ、早く食べよう』っていう役がいなくなっ

     ちゃうよ。

     そうしたら、すごく不便だろ?」

カステラ「そんなことより、うささぎが『何か新しいことに挑戦して

     みよう』という気持ちの方が大切さ。」

うささぎ「カステラはさっき『大切なものがなくなったら悲しい』って

     言ったよね。」

カステラ「うん」

うささぎ「やっぱり、うささぎは引っ越し諦めるよ。」

カステラ「うささぎがいなくなると、確かに寂しくなるね。

     しかし、うささぎ。

     やりたいことをやって失敗したとしても悔いは残らない。

     けど、だれかのために、それをやる前から

     諦めたりしたら、いつか悔いが残るよ。

     私のことを気にせず、行くんだよ、行きたいと思った所へ。」

うささぎ「うん、わかったよ。」

カステラ「じゃあ、気を付けていけよ。」

うささぎ「うん」

カステラ「おっと、うささぎ、財布忘れるな。

     うささぎの全財産が入っているんだから。」

うささぎ「うん。

     クロクロ、そこの財布とってくれる?」

クロクロ「あいよ。うささぎの全財産かあ。

     すごいな。うささぎは商売に熱心だったから。

     いったいどれくらいあるんだい? 全財産って?」

うささぎ「72円」

クロクロ「商売熱心な割には意外と少ないね。」

うささぎ「うささぎは商売で成功した試しがないんだ。」

クロクロ「それは残念だったね。」

カステラ「財布もそろったし。

     じゃあ、うささぎ、マリエちゃんの家でも達者で暮らすんだぞ。」

うささぎ「うん、達者でくらすよ。」

カステラ「がんばれよ。」

うささぎ「うん、がんばるさ。さよならーーーーー」

クロクロ「おーい、うささぎ。待ってくれよう。」


********************************


道すがら

クロクロ「意外にあっさりとカステラは許してくれたね。」

うささぎ「うん」

クロクロ「カステラは頭柔らかいのかな?」

うささぎ「・・・」

クロクロ「カステラの頭も押すとへこんだりして。」

うささぎ「・・・」

クロクロ「うささぎ、元気出せよ。」

うささぎ「出してるよ。

     でも何か気抜けしちゃったような感じがするんだ。」

クロクロ「ふーん。

     うささぎ、考えたんだけど、クロクロはお姉さんの所へ

     帰ろうと思うんだ。

     クロクロのことを一番必要としているのは、お姉さんじゃ

     ないかな? ってふと思ったんだ。

     クロクロは帰るよ。元の家に。」

うささぎ「うん。それがいいよ。きっと。」

クロクロ「うささぎはどうするんだい?」

うささぎ「うささぎは達者で暮らす事になったから、マリエちゃんの

     家に行ってみる事にするよ。

     他に行き場所ないんだ。」


           つづく


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