#7. 窪田氏の主張その3

目次へ #6. 窪田氏の主張その2
#8. 窪田氏の主張その4

 さて、#5、#6 で述べたように、マイケルソン・モーレーの実験に対する以来の解釈は間違っている、 と窪田氏は主張するわけですが、 それでは窪田氏自身はこの実験の結果をどのように解釈しているのでしょうか。

図1 (#5 の図1 再掲)
図1 : #5 の図1 再掲  左図1に #5 の図1を再び示します。窪田氏によれば、A から C 方向に発射した光が、 この図のように C' に向かったりはしないわけですが、

「はじめから光源が C' 方向に斜めにむいていたか、あるいは球面波を使った」

ために、マイケルソン・モーレーの実験で光が C' に向かうこと自体は認めています。 それを認めるなら、結局往復時間 t2t2 = 2γL/c であることに変わりはないはずですが、窪田氏によればこの式は間違っているというのです。

 図1で、鏡 C は動いているのに、その動きを考慮せず、 光は鏡の動きに関係なく速度 c で A から C' に向かう、 としているのが間違っていると窪田氏は主張します。

 「アインシュタイン 崩壊する相対性理論」p.80 にこんな記述があります。

 神戸大学松田卓也教授は、『科学朝日』1995年4月号の中で、 「鏡の後退速度で論じるべきではない」と、私の考えを非難しておられますが、 マイケルソン・モーレーの実験解析で、 横方向は鏡の後退速度や反射後の前進速度が考慮されて計算されるのに、 縦方向は一切考慮せず「鏡の後退速度で論じるべきではない。」として c 一定とするのは間違っているのです。 鏡がどんなスピードで後退していようと光速に見掛け上の変化が起きない! c だ! などという事は決してありえないのです。光速 c は一定値なのですから、 鏡がその光に向かっているか、後退しているか等で見掛け上の光速は変わってくるのです。

 確かに #2 で横方向 (鏡 AB 間) の往復時間 t1 を計算したときは、

t1の計算

と、 (c-v)、(c+v) のように見掛け上の光速の変化を考慮しています。 一方、上の図1 では装置が動いているにもかかわらず、光速は c として計算しています。

 なるほど、確かに窪田氏の言うように縦方向と横方向で光速の扱いが違います。

 でも、それは当然なのです。何故なら、図1の 縦方向 (鏡 AC 間) の往復時間の計算では、 絶対静止系で考えており、 上記の横方向の計算では実験装置の系で考えているからです。

 何度も言うように、今は19世紀末の、「絶対静止系が存在する」という考え方で計算しています。 絶対静止系では光の速さはどの方向でも一定で c です。

 一方、地球は絶対静止系に対して速度 v (少なくとも秒速 30km) で動いているので、 実験装置の系で見た光速は方向によって (c+v) になったり (c-v) になったりします。

 そして、鏡や光源などの実験装置は絶対静止系で見ると速度 v で運動していますが、 実験装置の系で見ると静止しています。

 つまり、#2 での t1 の計算は、 実験装置の系で考えているので、

鏡 A、B は静止していて、光の速度は (c + v)、(c - v) に変化する

と考えて計算し、t2 (縦方向の往復時間) の計算は、 絶対静止系で計算しているので、

光の速度は c で一定で、鏡 A、C は

A→A'→A''
C→C'→C''

と動いている

という風に、どちらでも鏡の (というより、実験装置の) 運動はきちんと考慮されています

 もちろん今前提にしている考え方では、 系によって時間が変わったりしないので、 絶対静止系で考えようと実験室系で考えようと構わないのです。

 では、なぜ縦方向と横方向で計算に使う座標系が違うのでしょうか? それは単にその方が計算が楽だからに過ぎません。

 もちろん、横方向を絶対静止系で、 縦方向を実験室系で考えて計算する事も (ちょっと面倒ですが) できます。 そして当然全く同じ結果がでます。

 実は『科学朝日』の松田教授の記事をきちんと読むと、ちゃんとこういった事も説明してあり、 縦方向、横方向のそれぞれについてきちんと実験室系、絶対静止系での計算の両方を示しているのです。 窪田氏はそれをきちんと読んでいないのか、 読んでいながらわざと無視しているのか、 どちらにしても非難に値すると言うしかありませんね

 次のパートではいよいよ窪田氏の「大発見」、c - v cosθ が出てきます。

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