#2. マイケルソン・モーレーの実験

目次へ #1. だから相対論は間違っている
#3. ローレンツの理論

 前章で述べたように、19世紀の物理学者たちは、光の運動について次のように考えていました。

  1. 光がすべての方向に同じ速さ c で運動する特別な慣性系(絶対静止系、またはエーテル系) が存在する。
  2. 絶対静止系から見て運動している系(たとえば地球上に固定された系)では、光の速さは見かけ上変化する。
  3. 光の速さは光源の運動に関係ない。

 地球は太陽の回りを30km/s(秒速30km)もの速さで公転しています。 もちろん、太陽系自体も静止しているとは限りませんが、 太陽系の運動と地球の公転が打ち消しあって地球の運動が30km/sより遅くなっていたとしても、 半年たてば、地球の公転は反対方向になりますから、その時の地球の運動は30km/sより速いことになります。 ですから、地球は絶対静止系から見て30km/s以上で運動しているはずです(少なくともそうなる時期がある)。

 地球の絶対速度(絶対静止系に対する速度)を v (>30km/s)とすると、 進行方向からやってくる光の速度は見かけ上 c + v 、 逆方向からやってくる光は c - v になるはずです。

 このような見かけ上の光速の変化を利用して地球の絶対速度を測定しようとした実験がマイケルソン・モーレーの実験です。 実験の原理は簡単で、光を異なる方向に同じ距離だけ往復させ、その往復時間を比べる、 というものです。

図1:実験装置
図1. 実験装置図解  図1を見てください。光源 P から発せられた光は、ハーフミラー A で二つに分かれます。A で反射されず右方向に進んだ光は鏡 C に反射され、 A に戻って来ます。A で反射されて上方向に進んだ光は鏡 B で反射され、 やはり A に戻って来ます。

 A に戻って来たそれぞれの光は、一部は光源に逆戻りしますが、 残りの一部は干渉計 D に入力されます。干渉計については、説明を省きますが、 二つの光が D に達するタイミングの変化を検出する装置だと考えてください。

 なお、図1は極端に簡略化された図解です。 実際の装置は精度を高めるためのさまざまな工夫がされています。

 AB、ACの長さは同じにします。その長さを L とします。 AB が地球の運動方向をむいているとき、 光が AB を往復するのにかかる時間を t1とすると、 A から B に向かう光の見かけ上の速さは c - v、B から A に向かう光は c + v ですから、

t1 の計算

となります。一方、光が AC を往復する時間 t2 は、以下のようにして計算します。

図2: t2 の計算
図2 : t2 の計算  A も B も絶対静止系から見ると図の右側に向かって動いています。ですから、 絶対静止系からみた光の軌跡は、左の図2のように、A→C'→A'' となります。

 ここで、A、C は光が鏡 A で反射した時点での 鏡 A、C の(絶対静止系での)位置、 A'、C' は光が鏡 C で反射した来た時点での位置、 A''、C'' は光が鏡 A に戻って来た時点での位置になります。

 図を見ればわかりますが、光が A を出発して C に届くまでの時間と、 C で反射して A に戻るまでの時間は等しくなります。 したがって、最初に光が A を出発したときの時刻を t=0 とすると、 時刻の経過と、A、C の位置の関係は次の表のようになります。

時刻 t 鏡 A、C の位置
t = 0 A、C
t = t2/2 A'、C'
t = t2 A''、C''

 鏡 C は時間 t2/2 の間に vt2/2 だけ動きますから、 CC' の長さは vt2/2 です。 光はその間に ct2/2 だけ動きますから、 AC' の長さは ct2/2 です。

 三角形 ACC' は直角三角形ですから、

(AC'の長さ)2 - (CC'の長さ)2 = (AC の長さ)2

すなわち、

t2 の計算その1

これを t2について解くと、

t2 の計算その2

が選られます。ここで、後の便宜のために、v の関数γを、

γの定義

と定義すれば、

t1、t2 のγを使った式

ということになります。この事から二つの光が干渉計に入るタイミングのずれ Δt を計算すると、

Δt = t1 - t2 = 2(γ2 - γ)L/c

です。x が極めて小さいとき、近似公式

近似公式

が使えますから、

γ近似公式

 ここで、地球の絶対速度 v は 約30km/s、光速 c は約 30万km/s ですから、 v2/c2 = 1.0 × 10-8、 マイケルソン・モーレーの実験では L はだいたい 10m (実際には 11m だった) ので、この事から Δt を計算すると、

Δtの計算

となります。この時間差は、その間に光がわずか 1万分の1mm しか進まない、という非常にわずかな時間差ですが、 マイケルソンとモーレーが作った実験装置はその時間差を十分検出できるように作ってありました。 にもかかわらず、1887年に行われたこの実験ではこの時間差は検出されなかったのです。 それ以来、今日にいたるまで同様のより精密な実験や、 あるいは別の方法を用いた実験が多数繰り返されて来ましたが、 いまだに光速の見かけ上の変化は検出されていません。

 マイケルソン・モーレーの実験の結果は当時の物理学者に衝撃を与えました。 そのため、この結果を説明しようとして、さまざまな理論が考えられました。 次の章では、その代表ともいえるローレンツの理論を簡単に紹介します。

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#3. ローレンツの理論