******** うそばっかりのうささぎの話し ********

  

【第3部 第8話】1998年10月

 

クロクロ「ハックション」

くまった「大丈夫かい?」

クロクロ「うーぅ。寒い寒い」

くまった「やっぱり、昨日、川に飛び込んだのがきいているね」

クロクロ「うーぅ。船長ったら。

     危うく溺れ死ぬところだったよ。

     命を助けるための避難訓練で死んじゃったら、洒落(しゃれ)にならないよな。

     ハックション」

くまった「うーん」

クロクロ「だいたい、ただ走っただけで全然避難訓練になってなかったじゃないか」

くまった「でも、おぼれるクロクロを助ける訓練にはなったよ」

クロクロ「まったく、いい加減な訓練をして。

     船長はクロクロたちを素人だと思って馬鹿にしきっているんだ」

くまった「たしかに素人だよ」

クロクロ「どうにも腹の虫がおさまらない。

     こうなったら、船長に一泡吹かせてやる」

くまった「そんなことして大丈夫かい?」

クロクロ「もうクロクロは怒っているんだ」

くまった「うーん。

     ときに、泡を吹かせるってどうやるんだい?

     炭酸水を2リットルくらい飲ませるのかい?」

クロクロ「クロクロはイライラしているんだ。そういう冗談はやめてくれ」

くまった「冗談を言っているんじゃないよ。

     まじめに聞いているんだ」

クロクロ「もう頭に来た! 船長に泡を吹かせる前に、くまったに泡を吹かせてやる。

     炭酸水2リットル飲ませるぞ」

くまった「ひえー」

クロクロ「待て、くまった」

くまった「待たないようっーだ」

クロクロ「ハックション、ハックション。

     うーぅ、ダメかあ」

 

*******************************

 

船長  「おーい、くまった、クロクロ。いよいよ『くじらの来る町』が

     近づいてきたぞ」

くまった「クロクロ、いよいよ着いたみたいだよ。甲板に上がって見てみよう」

クロクロ「ハックション」

船長  「おっ、出てきたか。くまった、このあたりはもう町の入り口だ」

くまった「川のあちこちに小さな船が並んでいますけれど、ぶつかりませんか?」

船長  「大丈夫だ。こっちも今は速度を落としているからな」

くまった「でも、船がこちらへ向けてやって来ますよ。

     ほら、あの、旗に『うずまき』の印が書かれている船が」

船長  「うずまき屋の連中だな。まったくうるさい奴等だ」

くまった「うずまき屋?」

船長  「そうだ。並んでいる小さい船を見ろ。

     あれらの船は水上商店だ。物を売っている。

     それぞれに三角、長四角、丸の印が旗に書かれているだろう」

くまった「はい? 何の印ですか?」

船長  「それぞれの店が扱っている売り物を表わしている」

くまった「というと?」

船長  「三角の印の船は、三角形の形をしたものを売っているし、丸の印のある

     船は丸い形のものを売っているんだ」

くまった「???  

     石油の出る町では、丸であろうと四角であろうと、野菜は八百屋、

     パンはパン屋で売っていましたが?」

船長  「ここの町の入り口だけは違うんだ。

     おっと、うるさい連中のおでましだ」

うずまき屋「船長! 毎度ごひいきにさせていただいております、うずまき屋で

      ございます。

      なると巻きに伊達(だて)巻き、蚊取り線香はいかがでしょうか?」

くまった「船長、となりの船から何か言って来ていますよ」

船長  「くまった、おまえがうずまき屋の相手をしろ」

くまった「うずまき屋さん、薬は売っていませんか?」

うずまき「はいはい、もちろん。蚊取り線香などはいかがでしょうか?

     夏の夜のうるさい蚊も、この蚊取り線香にかかってしまっては

     手も足も吸血口も出せません」

くまった「蚊取り線香はいりません」

うずまき「では、なると巻きや伊達巻を食べていただいて精をつける、というのは

     どうでしょうか?」

くまった「ほんとうに、うずまきの形をした物しか売っていないんですね」

うずまき「いやいや、らせん状の物も取り扱っております。

     金属ばねに空気ばね、ぶどうの蔓(つる)に尊師のDNAも取り揃えています」

くまった「ずいぶんと変わった物も売っているんですね」

うずまき「変わった物がご所望でしたら、渦巻状銀河のアンドロメダ星雲などは

     いかがでしょうか?」

くまった「船に星雲を積んでいるんですか?」

うずまき「いやいや、これは通信販売でして。

     だた、ちょっと問題がありまして。現在アンドロメダ星雲は200万光年の

     彼方にあり、お申し込みいただいてから、光速でお届けにあがったとしても

     200万年かかってしまいます。よって長生きのお客様にしか販売できない

     のですが」

くまった「くまったはそんなに長生きしないよ」

うずまき「それは残念」

くまった「船長、うずまき屋さんはずいぶんと変わった物まで売っているんですね」

船長  「このあたりには人間が来るからな。

     人間はいろいろと変わった物を買うんだ」

くまった「人間はアンドロメダ星雲とか買うんでしょうか?」

船長  「たぶんな」

くまった「そんなものにお金を払っていたら、将来は破産ですね」

船長  「そうかもしれない。

     でも、何でも買い漁ってしまう、その強欲さに、いつの日か

     この辺の動物たちも飲み込まれてしまうのでは、と時々心配になることが

     ある」

くまった「そうですかあ」

 

うずまき「船長さん! 船長さんは何かご入用のものはありませんか?」

船長  「うずまき屋、買い物はないぞ。帰れ帰れ」

うずまき「またまた、そんな冷たいことをおっしゃらないで。

     あっしは売り上げをあげないと社長に締め上げられてしまうんですよ」

くまった「ずいぶんと怖い社長さんですね」

うずまき「はい。なにしろうちの社長はとぐろを巻く大蛇でして。

     それゆえ、うずまき屋を始めたんですが、なにせ扱う種類が少なくて

     あんまり儲かりません」

船長  「じゃあ商売替えをしろ」

うずまき「わかりました。今から社長に電話してクビにしてもらいますので、

     船長、あっしを雇ってくださいまし」

船長  「ダメだ、ダメだ。あっちへ行け!」

うずまき「ひえー」

くまった「何かかわいそうな気もしますが、船長」

船長  「そんなに誰も彼も助けることはできないさ。

     くまった、おまえが代わりに助けてやれ」

くまった「そうですね。

     うずまき屋さん! 一緒に森へ行きましょう。森では食べ物に

     不自由しませんよ」

うずまき「それはご親切をどうも。

     でも、森の近くにも最近は人間がやって来ているらしいじゃないですか。

     人間が来たら、森もどうなるかわかりませんよ」

くまった「きっとうまくやっていけるよ」

うずまき「きっとそうですね。

     せっかくですが、あっしの方は、平べったい屋か長細い屋に商売替えして

     がんばってみます」

くまった「そうですか。じゃあがんばってください。

     またどこかで会いましょう」

うずまき「はい。では。毎度ありー」

 

つづく

 

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