******** うそばっかりのうささぎの話し ********

 

【第2部 第12話】

お寺の「体験修行コース」に参加した、ぬいぐるみのうささぎとクロクロ。

初日の修行も終わり、いよいよ寝る時間に。

 

正覚和尚「みなさん、一日お疲れ様でした。では各自ふとんをひいて寝てください」

うささぎ「和尚様。ぬいぐるみは寝なくても大丈夫です」

正覚和尚「そうですか。ではここに仏様の教えを書いた本がありますから、

     本でも読んでいてください」

うささぎ「はーい」

 

そんなわけで、うささぎたちは部屋の片隅で小さな明かりを頼りに本を読み始め、

丸山さん達は眠りにつきました。

 

うささぎ「ふー、みんな寝ちゃったね」

クロクロ「うん」

うささぎ「クロクロは何を読んでいるんだい?」

クロクロ『六道(ろくどう)について』

うささぎ「何だいそれは?」

クロクロ「輪廻転生の本さ。人間は何回も生まれ変わるんだって」

うささぎ「うんうん」

クロクロ「でもおもしろいのは、また人間に生まれ変わるとは限らない事さ。

     地獄に行っちゃたり、牛に生まれ変わったりするらしいよ」

うささぎ「へえー」

クロクロ「大きく分けて、六種類に生まれ変わるんだって」

うささぎ「どんな種類があるの?」

クロクロ「人間、修羅(しゅら)、天国、地獄、畜生(ちくしょう)、

     餓鬼(がき)の6つさ」

うささぎ「ふーん。ぬいぐるみはどこにあてはまるんだい?」

クロクロ「ぬいぐるみは、えっーと、畜生じゃないかい。うさぎとかは畜生だろうし」

うささぎ「ぬいぐるみは動物じゃないよ」

クロクロ「じゃあ、餓鬼かなあ?」

うささぎ「餓鬼?」

クロクロ「いつもお腹をすかせている化け物さ」

うささぎ「ぬいぐるみは食べ物を食べなくても大丈夫さ」

クロクロ「じゃあ何かなあ?

     和尚様に聞きに行ってみよう」

うささぎ「それが確実だね」

 

さて、和尚様の所へいったクロクロが戻ってきました。

 

うささぎ「どうだった?」

クロクロ「あとで説明しに来る、って」

うささぎ「ふーん」

クロクロ「時にうささぎは何を読んでいるんだい?」

うささぎ「阿弥陀経。

     すごいよ。極楽のことが書いてあるんだ」

クロクロ「ほう。で、極楽はどんな所だって?」

うささぎ「極楽には楽しいことしかないんだって。だから極楽っていうらしいよ。

     すばらしい音楽が絶え間なく流れていて、地面は純金でできている」

クロクロ「それはすごい。どうやったら行くことができるんだい?」

うささぎ「信心深い人が死んだ後、極楽に生まれ変われるらしいよ。

     もっぱら人間が行くところで、動物やぬいぐるみは行かないみたいだね」

クロクロ「ぬいぐるみはだめか。でも丸山さんみたいな信心深い人は行く事ができ

     そうだね」

うささぎ「うん。きっと大丈夫さ」

 

「ガー、ゴー、ガー、ゴー」

 

うささぎ「何か変な音がしないかい?」

クロクロ「うん?」

 

「ガー、ゴー、ガー、ゴー」

クロクロ「丸山さんのいびきだ」

うささぎ「みたいだね。ガーゴーいっている。

     気になりはじめると、結構うるさく感じるね。

     せっかくありがたい極楽の話しを読んでいるのに」

クロクロ「うん。何とかならないかい?」

うささぎ「ちょっと丸山さんの様子をみてみよう」

クロクロ「どうだい?」

うささぎ「いびきの音って鼻から出てくるんだよね」

クロクロ「うん」

うささぎ「じゃあ、こうやって鼻をつまんでみると」

 

フガフガフガ

 

クロクロ「おお、いびきが止まったね」

うささぎ「やったね。鼻に物を詰めちゃえばいいんだ」

クロクロ「だね。

     でも、うささぎ。鼻に物を詰めちゃうと、息ができなくなって

     丸山さん、死んじゃうんじゃないのかい?」

うささぎ「そうだね。

     でもいいじゃないか。丸山さんは死んだら極楽に行くことができ

     るんだよ」

クロクロ「おっ、いよいよ極楽に行くことができるのかい?」

うささぎ「そうそう。

     丸山さんも、修行に来ただけなのに、そのまま極楽に直行できると

     なれば、願ったり、かなったりじゃないかな」

クロクロ「うんうん」

うささぎ「その極楽行きを手伝うんだから、うささぎたちが感謝されること

     があっても怨まれる事はないさ」

クロクロ「だね。クロクロも常々だれかの役に立ちたいと思っていたところ

     なんだ」

うささぎ「わかるわかる。じゃあ早速丸山さんの鼻を塞(ふさ)ごう」

クロクロ「うるさいいびきもなくなるし一石二鳥だね。

     ほら、ちり紙を持ってきたよ。これをつめよう」

うささぎ「よいしょよいしょ」

 

フガフガ

 

うささぎ「よし、丸山さんの極楽への旅立ちを暖かく見守ろう」

クロクロ「せっかくだからお経も唱えてあげよう。

     あのくたらさんみゃくさんぼだい」

 

フガフガ

 

正覚和尚「さあ、クロクロさん、質問とは何ですか?」

クロクロ「あっ、和尚様、ちょうどいいところにいらっしゃいました。

     今丸山さんが極楽に旅立つところです。お経のひとつでも

     あげてやってもらえませんか?」

正覚和尚「極楽? 旅立ち? 何をしているんですか?」

うささぎ「これこれ」

 

フガフガ

 

正覚和尚「あー、あなたたち。何やっているんですか! 早くちり紙を

     とりなさい」

うささぎ「えっ。取っちゃうと極楽に行かれなくなってしまいますが、、」

正覚和尚「行かなくていいから、早く取りなさい! さあ!」

クロクロ「はーい

     よいしょっ」

 

ガー、ゴー、ガー、ゴー

 

丸山  「むにゃむにゃ」

クロクロ「あれ、丸山さん、起きちゃったみたい」

丸山  「おっ、みんな雁首(がんくび)そろえて何しているんだい」

うささぎ「いや、別に」

丸山  「そうかい。いやー、なんか寝苦しい夜だねえ」

うささぎ「修行で疲れたんじゃないですか?」

丸山  「やっぱりそうかい。じゃあ悪いけどまた眠るよ」

うささぎ「末永くどうそ」

丸山  「うん、むにゃむにゃ、、、、、、

     あっ、寝る前に、、、クロクロ、うささぎ、今すごく不思議な

     夢を見たよ」

クロクロ「どんな夢ですか?」

丸山  「何かボクは野原の真ん中にいたんだ。向こうには川があって、

     川の向こうには、きれいなお花畑があった。

     不思議な事にきれいなお花畑にはクロクロとうささぎが居て

     『おいでおいで』と手招きしているんだよ」

うささぎ「へえー」

丸山  「だから、うささぎたちの方へ歩き出したんだ。

     そうしたら、後ろの方から和尚様が叫びながら走ってくるんだ。

     『丸山さん、修行をさぼって何しているですかー』って。

     思わず『あっ、いけない。修行をさぼってこんなところにいては

     ダメだ』って思って。そのとき目が覚めたのさ」

クロクロ「何か不思議な感じのする夢ですね。でも丸山さんって夢の中まで

     も真面目なんですね」

丸山  「はは、まじめすぎてあんまり長生きできないかな?」

うささぎ「大丈夫だよ。早く死んでも極楽行きは確実ですよ」

丸山  「はは、それはありがたいな。

     でも意外と長生きするかもな。

     自慢じゃないけど、今まで死にそうな目に会った事なんか一度も

     ないしね」

クロクロ「・・・・・、それはすごいですね」

丸山  「うん、じゃあおやすみ」

うささぎ「おやすみなさい」

 

ガー、ゴー、ガー、ゴー

 

正覚和尚「丸山さんは無事に寝ましたか?

     鼻だけだったからよかったようなもの、口にまで物を詰めたら

     ほんとうに死んでしまいますからね。

     今後こういうことはしないでくださいよ」

クロクロ「はい」

正覚和尚「もうあなたたちは危ないから別の部屋で勉強しなさい。

     こっちへ来て来て」

うささぎ「はーい」

 

つづく

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