【第2部】 Vol.3



*** うそばっかりのうささぎのはなし ***



さてさて、「仕事を紹介してくれる」というおじさんと話し込んでいる

うささぎとクロクロ。



おじさん「君たちは、どんな仕事をしたいんだい?」

クロクロ「そうだなあ、どんな仕事がカッコイイのかなあ? 

     うささぎ、どう思う?」

うささぎ「若者には企画とか宣伝が人気あるみたいだよ。」

クロクロ「それにしよう。」

おじさん「宣伝かい? 宣伝だったら、イイ仕事があるよ。」

クロクロ「どんなのですか?」

おじさん「薬局の宣伝要員だ。

     よく薬屋の前に客寄せ用のマスコット人形がおいてあるだろ。

     あれと同じように、薬屋の前に立って客寄せをするのさ。」

うささぎ「給料はどれくらいもらえるのですか?」

おじさん「残念ながら、給料は支払われない。」

うささぎ「えっー、どうして?」

おじさん「薬局の前のマスコット人形は給料もらっていると思うかい?」

うささぎ「いいや」

おじさん「だろ。だったら君たちももらえないさ。」

うささぎ「そんなあ」

おじさん「給料は出ないけど、代わりにの特典はあるよ。

     客寄せをやると、もれなく『薬のみ放題』。」

クロクロ「クロクロ達は薬飲まないよ。」

おじさん「そりゃ残念だ。」

うささぎ「でもいい考えがあるよ。クロクロ。

     『くまった』の飼い主のサヤカちゃんは病気がちだろ。だから

     サヤカちゃんのために薬をたくさんもらってあげるんだ。

     頭痛薬に、胃腸薬に、風薬に、下剤と、もうゲップがでる

     くらいにたくさんの薬を飲ませてあげる事ができるよ。」

クロクロ「そんなに薬をたくさん飲んだら、かえって体を悪くするんじゃ

     ないかい?」

うささぎ「かもね。

     でも、薬の飲み過ぎで体悪くしたら、どうやって治すんだろう?」

クロクロ「どうするだろうね?

     おじさん、知りませんか?」

おじさん「薬で治すんじゃないかな。」

クロクロ「さらに薬を飲むんですか? 薬の飲み過ぎで悪くなったのに。」

おじさん「そう言われると、うーん、よくわからないなあ。」

うささぎ「薬という仕組みはむずかしいね。」

クロクロ「だね。

     まあ、なにはともあれ、薬局の宣伝、やってみることに

     します。」



さあさあ、薬局の前に立って、客寄せのアルバイトをすることになった

うささぎとクロクロ。

今日が仕事の初日です。



うささぎ「さあさあ、みんな、薬を買って行っておくれ。

     ちょっと、そこのお姉さん、薬は要らないかい? ぜひとも

     買って行っておくれ。遠慮する事はない。

     薬漬けになってこそ一人前の日本人だ。

     どうだい? 買わないかい?」

クロクロ「うささぎ、魚屋とかじゃないんだから、そんな呼び込みは

     しなくてもいいよ。」

うささぎ「そうかい。じゃあ、おとなしくしているよ。」

クロクロ「それがいいよ。」

うささぎ「うん。

     ときにクロクロ、向こうから来るのは田中さんのおばさんだ。」

クロクロ「えっ? この間ひき逃げ事故にあった田中さんのおばさん?」

うささぎ「そうそう。事故から復活したんだー。

     すごい生命力だね。」

クロクロ「うん。田中さんのおばさんは、しぶとさでは町内一じゃないかな。

     きっとダンプに轢(ひ)かれたって死なないさ。」

うささぎ「だね。

     あれ、薬を買いに来たみたいだよ。

     毎度あり。」

クロクロ「田中さんのおばさんは、何の薬を買いに来たのかな?」

うささぎ「あっ、便秘の薬だよ。

     おばさんは便秘なんだ。」

クロクロ「それは辛いね。」

うささぎ「へえー、おばさんが便秘だったなんて知らなかった。

     後で、くまったとミミズク博士と、カステラにも

     『おばさんが便秘だって』こと教えてあげよう。」

クロクロ「そんなこと言いふらしちゃダメだよ。」

うささぎ「そうかい?」

クロクロ「おばさんだって、便秘だって知られちゃったら恥ずかしいよ。」

うささぎ「そうだね。クロクロがダメって言うんならやめておくよ。」

クロクロ「あっ、おばさんが帰って行くよ。」

うささぎ「毎度あり。」


クロクロ「こんどは若い女の人がきたよ。」

女の人 「あらあら、ぬいぐるみちゃんたちが客寄せしているの?」

うささぎ「そうです。お姉さんもひとつ薬を買っていきませんか?

     お姉さん、便秘とかじゃありませんか?

     別に便秘だからといって恥ずかしがる事はないですよ。

     同じ境遇の人はたくさんいます。

     実は田中さんの、、、、

クロクロ「あーー、うささぎ、ダメだってば。」

うささぎ「おっとっとっと。危うく口が滑るとこだった。」

クロクロ「あっ、毎度あり。またのご来店をお待ちしております。」


クロクロ「今度はお寺のご住職だ。」

うささぎ「ご住職? 何の薬買うのかな? 何の病気なんだろ? 

     なんかわくわくするな。」

クロクロ「うささぎにはこの仕事、向いてないような気がする。」

うささぎ「そうかい?

     あっ、ご住職は湿布薬買っているよ。腰痛らしいね。

     出てきた、出てきた。」

住職  「ありゃ、だれかと思ったら、この間のぬいぐるみじゃないか?

     縁日には来てくれたかい?」

うささぎ「はい、もちろん。おかげで仕事にありつけました。

     ありがとうございます。」

住職  「それはよかった。じゃあ失礼するよ。」

うささぎ「毎度あり。」


うささぎ「あれ、向こうから来るのはクロクロのとこのおばさんだ。」

クロクロ「ほんとだ。」

おばさん「あらあら、クロクロとうささぎは、薬局で働くって言ってたけど、

     この薬局だったの。」

クロクロ「そうだよ」

おばさん「どう、客寄せは順調? お客さんはたくさん来てくれる?」

クロクロ「うん。さっきなんかは、お寺のご住職が来たよ。」

おばさん「ご住職? どっか悪いのかしらねえ?」

うささぎ「そうですねえ、どこが悪いかお教えしたいところですが、ご住職も

     何の病気か知られてしまうと恥ずかしいと思いますので、

     残念ながらお教えする事はできません。」

おばさん「人に言えないような病気?」

うささぎ「まあ、そんなところです。」

おばさん「それは大変ねえ。」

クロクロ(単なる腰痛だってば。もう、うささぎったら。)


ってな調子でアルバイトを続けるうささぎとクロクロです。

                             つづく



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