【第2部】 Vol.2



*** うそばっかりのうささぎのはなし ***



縁日で、「人間相手には商売しない」という露店にやってきたうささぎとクロクロ。



うささぎ「おじさん、何を売っているのですか?」

露天の

おじさん「何を売っているか知ったとして、君たちはそれを買うお金は

     持っているのかい?」

うささぎ「あいにく、うささぎもクロクロも一文無しさ。」

おじさん「それじゃ、何を売っているか教えても意味ないな。」

うささぎ「残念だねクロクロ。」

クロクロ「ちっとも残念じゃないよ。どうせ、人間には買ってもらえない

     ような『つまらない物』を売っているに決まっているさ。

     行こう、行こう。」

うささぎ「そうだね」

おじさん「まあまあ、君たちそんなこと言わないで。

     せっかくだから、何を売っているか教えてあげるから。」

うささぎ「うわー、何を売っているんですか?」

おじさん「この店では『前世占い』をしているんだ。

     君の前世は何だったか、占ってあげるよ。」

うささぎ「つまんねー。

     『人間相手の商売じゃない』っていうから、何かすごい物を

     売っているのかと思ったら、前世占いだって。」

クロクロ「前世占いだったら、人間相手にも商売できるよね。」

うささぎ「人間以外の者しか買えない物かと思ったのに、がっかり。

     行こう、行こう。」

クロクロ「うん」

おじさん「まあまあ、君たちそんなこと言わないで。

     せっかくだから、タダで前世占いするから。」

うささぎ「うわー、ぜひ占ってください。」

おじさん「じゃあ、そっちの茶色い子、、」

うささぎ「うささぎっていうんだ。こっちの黒くて着物を着ているのが

     クロクロ。」

クロクロ「クロクロだよ。」

おじさん「うささぎの前世は?  と、、、

     前世は1950年代、黄金時代のアメリカにいたらしい。」

クロクロ「わー、うささぎ、アメリカだって。」

おじさん「えーっと。アメリカで何だったかというと、、、」

うささぎ「何だったかというと、、、」

おじさん「ドアーマット」

うささぎ「ドアーマット?

     ドアのところにあって、みんなに踏まれちゃうヤツ?」

おじさん「その通り。」

うささぎ「前世がドアーマットなんて、そんなのあり?」

クロクロ「有り得るよ、うささぎ。そういえば、うささぎってどこか

     『打たれ強い』ところがあるじゃないか。」

うささぎ「前世と現世は関係ないよ。」

クロクロ「だね」

おじさん「じゃあ、次はクロクロの前世を占おう。」

クロクロ「遠慮しときます。どうせ、ロクな結果出ないから。」

おじさん「そうかい、そんなら、やめておこう。」


うささぎ「他に何か売っていないんですか?」

おじさん「君たち、買うお金持っていないんだろ。」

うささぎ「うん」

おじさん「じゃあ、まずはお金を稼ぐ事から始めなきゃな。」

うささぎ「えーっ」

おじさん「うまい具合に、この店では仕事の紹介や人材派遣も

     しているんだ。まあ君たちは人間じゃないから、人材じゃなく

     ぬいぐるみ材かな。」

うささぎ「うわー、どんな仕事があるんですか?」

おじさん「簡単な受付の仕事があるよ。」

うささぎ「どんな会社の?」

おじさん「あいにくと会社じゃない、『地獄の受付』さ。」

うささぎ「地獄って、天国と地獄の地獄?」

おじさん「そう」

クロクロ「悪い事をした人が死んだ後に送られる地獄?」

おじさん「そう」

うささぎ「なんか怖そうだね。」

おじさん「地獄の受付には、君達ぬいぐるみのような愛敬のある者の

     方がいいんだよ。」

うささぎ「なぜ?」

おじさん「悪人が地獄に着いて、『とうとう地獄に落ちてしまった』と

     思った時、君たちのようなぬいぐるみが受付なら、少しは

     ショックが和らぐものというものいさ。」

うささぎ「そうだね。地獄で一番最初に会うのが、怖い鬼だったら、

     先が思いやられるからね。」

おじさん「そうそう。どうだね、ひとつこの仕事やってみないか?」

うささぎ「怖そう。」

おじさん「この仕事は人間には頼めないんだ。」

うささぎ「なぜ?」

おじさん「以前、アルバイトの青年を『地獄の受付』にやっとたんだがな、

     トラブルがあって。」

うささぎ「ありゃ」

おじさん「地獄の赤鬼が、現地に到着したアルバイトの青年を、悪人と勘違い

     して、青年を釜ゆでにしようとしたんだ。」

うささぎ「大変だ。」

おじさん「青年は悪人じゃない旨一生懸命事情を説明したんだが、、、、、、



** 地獄で **



青年  「人違いです! ボクは悪人じゃありません! 悪い事なんか

     していません!」

赤鬼  「そういうウソつきは地獄に来ると決まっているんだ。」

青年  「ひえー」


おじさん「まあ、幸い事情を知っていた青鬼がいたんだ、青年は釜ゆでに

     ならずにすんだけどな。」

うささぎ「一安心だね。」

おじさん「それ以来、この仕事は人間には頼まないようにしているんだ。」

うささぎ「へえー、どうだいクロクロ?」

クロクロ「地獄より、天国の受付の方がいいな。」

おじさん「まあ、天国の仕事もあるが、そうだなあ、あくまでおじさんの

     個人的な意見だが、天国より地獄の方がずっと刺激的だぞ。」

うささぎ「それは言えてる。

     映画でも、大災害とかパニックとか戦争とか、まるで地獄のような

     場面を写したものがウケるしね。ハスの花を2時間写されたって

     全然面白くないさ。」

クロクロ「意外と天国を写した映画もヒットするかもよ?」

うささぎ「そうだね。」

おじさん「じゃあ天国の受付なら仕事するかい?」

うささぎ「せっかくだけど、やめときます。

     うささぎは天国も地獄も信じないから。」

おじさん「そうかい。天国も地獄も信じない者にとっては天国も地獄も

     存在しないからね。そこでの仕事は無理だ。」

うささぎ「うん」

クロクロ「ほかの仕事はありませんか?」

                            つづく



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