【第2部】 Vol.4



*** うそばっかりのうささぎのはなし ***



クロクロの家で何やら相談をしている、うささぎとクロクロ。

何を相談しているのでしょうか?



クロクロ「うささぎがカマイタチに変装して、薬局の近所の人を襲う。

     というのはどうだい?

     みんな切り傷ができれば、薬局へバンソウコウを買いに来るよ」

うささぎ「でも、カマイタチに切られた傷からは血が出ない、っていうよ」

クロクロ「本物のカマイタチに切られたんなら、そうかもしれないけど、

     ニセモノのうささぎがするんだから、血が出るよ」

うささぎ「そうかあ」

おっと聞き耳を立てていたクロクロの家のおばさん、何か意見があるようです。

クロクロの家の

おばさん「あなたたち、ずんぶんと物騒な話ししてるじゃない」

うささぎ「あっ。おばさん。うささぎたちは薬屋の売り上げ倍増計画を

     考えているんだ」

おばさん「そう。クロクロたちは客寄せをやめて、経営コンサルタントにでも

     なったの?」

うささぎ「ちがうよ。客寄せのまんまさ。でも明日の薬局の全社全体朝礼

     で、売り上げ倍増計画を発表するんだ」

おばさん「ほんとう。全社朝礼があるの。あんまり大きい薬局には見えな

     かったけど、全部で何人くらいいるの?」

クロクロ「4名さ。ご主人と奥さんと、あと、うささぎとクロクロ。

     ご主人は社長さんさ」

おばさん「客寄せのぬいぐるみを含めて4名!」

うささぎ「今までは、社長と奥さんしかいなかった。」

クロクロ「でも、今度うささぎとクロクロが増えたから朝礼をやるように

     変わたったんだ」

うささぎ「いつもは朝礼の時、社長が話しをしていたんだけど、ネタが

     なくなっちゃって」

クロクロ「だから、従業員も朝礼で何か提案しよう、てことになって」

うささぎ「それで売り上げ倍増計画をクロクロと作って提案する事に

     したのさ」

おばさん「そうだったの」

クロクロ「うん。それで、いろいろと案を考えているんだ」

うささぎ「薬が売れるためには、何よりもまず病人が増えなくちゃなら

     ないからね」

クロクロ「『風邪の菌を撒く』とか、『水道に毒を入れる』とか考えた

     んだけど、実行がむずかしそうなんだ。

     いまは身近にできそうなことを考えている」

おばさん「あなたたち何か根本的に間違っているんじゃない?

     薬屋さんはみんなの病気を治すためにあるのよ。その薬屋さんが

     病人を増やしてどうするの」

クロクロ「そうかあ」

おばさん「発想の転換が必要よ」

うささぎ「どんな?」

おばさん「こんなのはどうかしらね?

     『薬屋だけど、むやみやたらに薬を売らない』っていうのは?

     人間には元々病気を自分自身で治す力が備わっているでしょ」

クロクロ「うん」

おばさん「それなのに、いまの人はちょっと風邪気味だっていうだけで

     すぐ医者や薬に頼ってしまう」

うささぎ「うんうん」

おばさん「だから、そういう人が薬局に薬を買いに来たら言って

     あげるのよ。『風邪くらいで薬屋に来ない! 薬に頼らずに

     生きてみましょう。そうすればもっと丈夫になりますよ』って」

クロクロ「そう言ったら、薬買ってくれないよ」

おばさん「病人を治す事が目的なんだから、薬が売れなくても病人が治れば

     いいのよ。その姿勢がお客さんに伝われば、お客さんには

     『儲けを度外視して病人のことを考えてくれるイイ薬局だ』

     って評判になり、最終的には売り上げも上がるんじゃない?」

うささぎ「いい案だけど。残念ながらちょっと問題があります」

おばさん「どうして?」

クロクロ「薬局の社長も3年くらい前、同じようなことを考えたらしいよ。

     安易に薬に頼るのはよくないって」

おばさん「あら」

うささぎ「それで、風邪薬を買いに来たお客さんにも『薬に頼るのは

     よくない』って言って薬を売らなかったんだ」

おばさん「そう」

クロクロ「そうしたら、社長の言う事信じたお客さん、風邪なのに

     薬飲まずに我慢していたらよけい悪くなって肺炎になっちゃった

     んだって」

おばさん「あらー」

うささぎ「それ以来、社長は『薬ください』って来たお客さんには素直に

     薬を売っているんだ」

おばさん「そうなの。

     じゃあ別の案が必要ね」

クロクロ「うん」

うささぎ「福引きをつけたらどうかな?」

クロクロ「『金を呼ぶには金で』かい。うささぎらしいね」

うささぎ「ダメかい。じゃあ薬局内に『名医紹介コーナー』を作るって

     いうのはどうだい? これからは薬屋も情報産業の時代だよ」

クロクロ「そんなことをしたら近所のお医者さんににらまれないかい?

     遠くの名医を紹介しちゃうなんて」

うささぎ「近所の医者を名医ということにすればいいじゃないか」

クロクロ「そんないいかげんなことでいいのかなあ」



さてさて次の日。うささぎとクロクロは、またまた薬局の前でアルバイトを

しています。クロクロんとこのおばさんは様子を見にやってきました。



うささぎ「あっ、おばさん」

おばさん「どう? クロクロたちの提案は受け入れられた?」

クロクロ「ダメだった」

おばさん「それは残念ねえ。じゃあまた新しい案を考えないとね」

クロクロ「それがもうその必要はなくなったんだ」

おばさん「どうして?」

うささぎ「今日の朝礼で社長からはコスト削減策が打ち出されて、クロクロと

     うささぎはリストラされることになったんだ」

おばさん「リストラ?」

クロクロ「もう今日限りでうささぎとクロクロはクビだって」

おばさん「あらー」

クロクロ「もうガッカリだな。せっかく売り上げ倍増計画まで考えたのにな」

おばさん「残念だったわね」

うささぎ「でも退職金ががわりに薬をたくさんもらえるよ」

おばさん「そうー」

クロクロ「あーあ」

うささぎ「クロクロ元気出せよ。ぬいぐるみはリストラされたって痛くも

     かゆくもないじゃないか」

クロクロ「そうだね」

うささぎ「また次にすることを考えようよ」

クロクロ「そうだね」

おばさん「それがいいわ。じゃあ今日一日がんばって働くのよ」

うささぎ「はーい」


クロクロ「で、次は何をするんだい」

うささぎ「そうだなあ、、、、、、あっ、向こうからくるのはお寺の

     ご住職だ」

クロクロ「ご住職に仕事を紹介してもらおう」

うささぎ「だね」

住職  「よっ、ぬいぐるみちゃんたち、きょうも客寄せしてるね」

うささぎ「はい。でも今日限りでクビなんです。

     何かうささぎたちでできる仕事があれば紹介してください」

住職  「私は口入れ屋じゃないよ。

     でもぬいぐるみちゃんたち。仕事がなくて時間があるんだったら

     お寺で修行してみないかい?」

クロクロ「うわー、ぜひ修行をさせてください」

つづく

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


つづきへ  ひとつ前の話しに戻る  目次へ戻る  表紙へ戻る

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

きら星★目次へ