*** うそばっかりのうささぎのはなし ***



さて、ここはお寺の境内。ふと、お寺の鐘の方を見てみると、

なにやらぬいぐるみが2体、鐘の竜頭(てっぺん)のあたりにへばり

ついています。ぬいぐるみはどうやら、うささぎとクロクロのようです。

何をやっているのでしょう?



うささぎ「もうすぐ6時だ。鐘が撞かれる時間だよ。」

クロクロ「鐘にへばりついていて、ほんとに気持ちがいいのかい?」

うささぎ「あたりまえだよ。

     鐘がゴーンと撞かれると、響きが体に直に伝わって、しびれる

     感じがするんだ。

     ほら、ご住職が鐘をつきに来た。」


ゴーン


うささぎ「ああ、しびれる。」

クロクロ「うわー、強烈にしびれるね。」

うささぎ「だろ。この重低音、大音響がたまらない。」


ゴーン


うささぎ「ああ、しびれる。」

クロクロ「音が大きすぎるよ。

     うささぎ、はじの方に行くと落ちちゃうよ。」

うささぎ「大丈夫だよ」


ゴーン


うささぎ「うわー」

クロクロ「やっぱり落ちた。」



住職  「おっと何か降ってきたと思ったら、ぬいぐるみじゃないか。」

うささぎ「いてて、ご住職、こんにちは。」

住職  「うん? いつも境内で集会を開いている輩だな。」

うささぎ「うささぎっていうんだ。よろしく。」

住職  「上の方で何していたんだ?」

うささぎ「何でもありません。気にしないでください。」

住職  「そうかい。」

うささぎ「どうもお邪魔しました。また夜に集会の時にもお邪魔すると

     思いますが。」

住職  「今日は集会できないよ。明日の縁日の準備があるから境内は

     使えないよ。」

うささぎ「そういえば、明日は月一の縁日の日でしたね。」

住職  「そうだ。よかったら、あなたも遊びにいらっしゃい。」

うささぎ「はーい」



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そんなわけで次の日、縁日に遊びに来たうささぎとクロクロ。



うささぎ「お店がたくさん出ているね。」

クロクロ「うん。でも食べ物のお店には興味ないや。」

うささぎ「このお店は、数字合わせだ。当たると景品がもらえるよ。」

クロクロ「ぬいぐるみも景品になっているね。この子達も、うまく持ち主に

     もらわれてこの町に来ればいいのにね。」

うささぎ「うん。

     新しい友達が増えるといいね。」

クロクロ「こっちは輪投げだ。」

うささぎ「下からだと、良く見えないや。

     あそこの景品の台に登って見物しようよ。」

クロクロ「そうだね。

     よっこらしょっと。」

うささぎ「良く見える、見える。」

クロクロ「あの女の子は上手だね。」

うささぎ「うん。

     あっ、はいった!」

輪投げ屋
おじさん 「ああ、残念。輪っかが床までついていないからハズレ。」   

うささぎ「ずいぶんと厳しい判定だね、クロクロ。」

クロクロ「うん、でも次は、、、、

     あっ、今度こそはいった!」

おじさん「あーあ、はいっちゃった。

     おめでとう一等賞だ。好きな景品を選んでいいよ。」

女の子 「じゃあ、あの黒くて着物を着たウサギのぬいぐるみ。」

うささぎ「黒くて着物を着たウサギのぬいぐるみってクロクロと同じだね。

     そんな子いた?」

クロクロ「いやーな予感がするな。」

おじさん「このぬいぐるみだね。はい。」

クロクロ「うわっ」

うささぎ「あー、クロクロを持って行っちゃダメだよ。」

クロクロ「ひえー。クロクロは景品じゃないよ。ダメだよ。放してくれよ。

     ダメだよ。ダメだよ。ダメだよ。」

女の子 「おじさん。このぬいぐるみ、うるさい。一番左のお人形と

     取り替えてください。このぬいぐるみは要らない。」


ポイっ


うささぎ「あっ、クロクロ!」


ドテッ


うささぎ「大丈夫かい?」

クロクロ「いてて、まったくー、クロクロを放り投げるなんて。

     クロクロのことなんだと思っているんだ。」

うささぎ「景品のぬいぐるみだと思っているんだよ。」

クロクロ「そうだったね。

     それにしても失礼なやつだ。ぶつぶつ。」



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うささぎ「クロクロ、すごい人出だね。

     きっと、海外旅行に行くお金もない貧乏な人たちが月に一度

     うさを晴らしにくるんだね。」

クロクロ「別にそういうわけでもないんじゃない。

     でも、人だらけだね。」

うささぎ「クロクロ、そんなにキョロキョロしながら歩いていると、

     人にぶつかるよ。」

クロクロ「えっ?」


ドン


クロクロ「うわっ」

うささぎ「ほら、ぶつかった。」

クロクロ「チキショー。ちゃんと下向いてぬいぐるみに注意して歩け

     ってんだ。」

うささぎ「無理だよ。人間の目は前向きについているんだから。」

クロクロ「もう、頭に来た。うささぎ、クロクロにぶつかったのは、

     どいつだ?」

うささぎ「たこ焼きの列に並んでいる、高級そうな背広を着たお兄さん。」

クロクロ「よーし。仕返ししてやる。」

うささぎ「仕返し?」

クロクロ「そうさ、このごみ箱にある、焼き鳥の串を拾ってと、

     この串を持って突撃して、足にブスっと刺してやるんだ。」

うささぎ「ダメだよ。クロクロ」

クロクロ「止めるな、うささぎ」

うささぎ「ダメだよ。そんなことしたら、誰が刺したか、すぐバレて逆襲

     されちゃうよ。」

クロクロ「それはまずいな。」

うささぎ「ここは、うささぎに任せて。」

クロクロ「うん」

うささぎ「まず、ごみ箱のアイスクリームを拾う」

クロクロ「うん、拾った」

うささぎ「お兄さんの後ろから、気づかれないように、そーっと近づく。」

クロクロ「うん、近づいてきた。」

うささぎ「そして、このアイスクリームをお兄さんの右足にそーっと

     こうやって、ベターっと塗る。」

クロクロ「じゃあ、クロクロは左足にペチョーっと塗る。」

うささぎ「で、後は、逃げろー!」

クロクロ「うわー」



うささぎ「ここまで逃げればもう安心。」

クロクロ「ほっーーーほっほっほっほっほ。ざまーみろってんだ。

     しかし、うささぎは相変わらず性格悪くていいね。」

うささぎ「そう、ほめられると照れるなあ。」

クロクロ「ほめているわけじゃないよ。」

うささぎ「そうかい」

クロクロ「あっ、うささぎ危ない。」


ガラガラガラ、ドン


うささぎ「イテテ、売り物の植木が倒れてきた。」

クロクロ「やっぱり、悪い事はできないね。」



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うささぎ「それにしても、どこのお店も行列だね。」

クロクロ「あそこのお店はお客さんがいないよ。」

うささぎ「なんのお店かな。」



クロクロ「おじさん、こんにちは。

     ここのお店はもう店じまいですか?」

露天商の
おじさん「そんなことはないよ。営業中だ。 

      お客さんがいないから、そんなことを言うのかい?」

クロクロ「実をいうとそうなんですけど、、」

おじさん「はは、このお店は人間相手に物を売っているわけじゃないからね。

     だからお客さんがいないんだ。」

うささぎ「えー? じゃあだれに売るんですか?」

おじさん「だれだと思う?

     君たちのような異形のものを相手に売っているんだ。」

うささぎ「うわー

     何を売っているんですか?」


           つづく


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