1-1. 千代島氏の珍妙なエントロピー理論
 千代島氏のとなえる異議とは、

最初のエントロピーの低い状態はどこから来たのか?

というものです。冒頭の例でいうと、

最初の「熱湯の中の氷」という状態はどのようにして出来たのか?

ということになります。

 「世界を欺いた科学10大理論」p.269 から引用しましょう。ちょっと長いですが、まさにこの部分が千代島氏の主張のコアです。

---- 出発点の低エントロピー状態はいかにして生じたのであろうか? 言い換えると、 初期状態「以前」はどういう状態にあったのであろうか? 突然どこからともなく降ってわいたように発生したのであろうか? 神様が無から創造したのであろうか?

 物理学者たちはこの疑問からも目をそむけてしまっているのである!

 いやしくも物理学者として自然を探求しようとする者が、 その発生の仕方を理論的に説明できないいかがわしい状態をいきなり出発点に置くようなやり方で物理学の法則を説明すべきではなかろう。 まさか神様などに頼るわけにはいかないから、我々人間にとって理解可能な (しかも観測可能な) 発生の仕方というものを考えてみるべきである。

 私の考えでは、初期状態としての低エントロピー状態の発生の仕方は三通りあり、しかも三通りしかない。

  1. まず、コップの「外」から何ものかが「介入」する事によって氷ができるという可能性がある。 一番わかりやすいのは、人間が冷蔵庫から取り出した氷をコップの中に入れるという可能性である。

     しかし、物理学者はこのような可能性を素直に受け入れないはずである。なぜなら、もし受け入れれば、 熱力学第二法則は人間のような「外部」の存在者の介入がなければ成立しないことになってしまうからである。 周知のように、熱力学第二法則は一般に「孤立系のエントロピーは減少しない」と表現されており、 「孤立系」であることが前提されているのである。

     「孤立系」という根本前提を、自分の都合によって勝手に認めたり認めなかったりするわけにはいかないであろう。 あくまでも熱力学第二法則に忠実であろうとすれば、人間が系の外から介入するような可能性は排除せざるをえない。

  2. ...(中略*1 (引用者注))...

 それゆえ、結局、熱力学第二法則と矛盾することなく初期状態 (低エントロピー状態) の発生の仕方を説明することはできないのである。

 ということは、熱力学第二法則そのものが疑わしいということをはっきりと認めざるをえないということである。 なぜなら、熱力学第二法則が成立することを積極的に証明するためには初期状態として低エントロピー状態をもってこなければならなかったが、 その低エントロピー状態を説明しようとすれば熱力学第二法則と矛盾してしまわざるをえないからである。

(*1) 千代島氏の挙げる第二、第三の「低エントロピー状態発生の仕方」は本論に直接関係ないうえ、 千代島氏に指摘されるまでもなく間違っていることが明らかなので割愛します。 読みたい人は原文を読むか、ソースを見てください(笑)。

 どうでしょうか。素晴らしいですね。私はこの部分を読んだとき、自分のあごが床に落ちる音をはっきり聞いたような気がしました

 熱力学の第2法則はエントロピーの法則として割と良く知られているだけに、いろいろ誤解もあるのですが 、こんな事を言い出したのは千代島氏が最初でしょう。

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