1-0. エントロピーの法則
 熱湯の入ったコップに、氷を入れます。そして外部から熱が出入りしないように断熱して、放置します。 すると、遅かれ早かれ氷は溶けて、全体が均一なぬるま湯になります。

 しかし、コップにぬるま湯を入れて放置しておいても、自然に氷と熱湯に分離する、という事は滅多にありません、 というか、絶対にありません。

 もし、そんな事が万が一にも起こりうるとしたら、とても安心して風呂に入れません。 風呂のお湯がひとりでに熱湯と氷に分離して、大火傷と凍傷を同時に負って死ぬ、 というのは考えられる限りでももっとも不条理な死にかたでしょう。

 つまり、「氷 + 熱湯 → ぬるま湯」という過程は、一方通行 (物理用語では不可逆) だという事です。

 このような経験的な事実を法則にしたのが熱力学の第2法則です。 熱力学第2法則にはいろいろな表現の仕方がありますが、一般的には「エントロピーの法則」としてよくしられています。

エントロピーの法則
外部とエネルギーや物質の出入りがない系 (孤立系) のエントロピーは決して減少する事はない(多くの場合増大する)

 エントロピーというのは熱力学で良く使われる量で、詳しくは説明しません。 おおざっぱに言うと、物質やエネルギーが均一に分布しているほど大きくなる量、だと思ってください。 冒頭の例でいうと、温度の均一なぬるま湯の入ったコップのエントロピーは、 熱湯と氷の入ったコップのエントロピーよりも大きくなります。

 つまり、外部とのエネルギーや物質の出入りのないコップの中 (孤立系) では、

「低エントロピー状態 (氷 + 熱湯)」

「高エントロピー状態 (均一なぬるま湯)」

という変化はひとりでに起きるけれども、

「高エントロピー状態 (均一なぬるま湯)」

「低エントロピー状態 (氷 + 熱湯)」

という変化がひとりでに起きることは絶対にない、というわけです。 この熱力学の第2法則は現代の物理学にとってはなくてはならない、基礎中の基礎ですが、 千代島氏はこの法則に異議を唱えます。

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