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DESIGN ANGLE No,4 音の構造

uku0.jpguku1.jpg
デザインのための引き出しを多く持つことはとても大切です。いろいろなものに興味を持って、引き出しにストックし、デザイン構築のために引用する。この方法は、その昔ドレスデザインを勉強しているときに学びました。
現在は家電製品や携帯電話などでさえデザインする上で特にその構造や成り立ちを知らなくても済むことが多くありますが、やはりデザインする上でものを構成する要素や材料、加工製作方法を知るべきであると思っています。
今回は音の構造の入り口のお話しです。

ある時期、素材としての木と楽器作りに興味を持ちいくつかの弦楽器を作ってみました。
その時作った1本、ハワイアンコアとマホガニー、ローズウッドからなる普段よく見るウクレレよりちょっと大きなテナーサイズのウクレレです。

皆さんはウクレレは知っていてもほとんどの方はその構造はご存じないと思いますので、今回はウクレレの解剖です。構造を知ることで音が見えるかも知れません。

ウクレレは一般にはギターを小さくしたような形をしていますがその形は一定ではなく、写真のように胴(ボディー)にくびれのあるものやマンドリンのような水滴又はナス型のようなくびれのないもの(ウクレレの場合通称これをパイナップル型と言います)など、また木製の葉巻のケースを利用して作った角形など様々な、ウクレレらしい楽しい形が多くあります。音色もそれぞれの形と同じくいろいろで、ウクレレという楽器が持つ空気感というか雰囲気が「そんな堅いこと無しだよ!」と、ゆるーく楽しく言っているようです。

なので、今回はあくまでも私の作ったウクレレのお話しを中心に解説しています。

表側から見える全体の構成は、このボディーと金属フレットの打たれた指板(フィンガーボード)を持つネックと弦を張るためのチューナーマシーンを備えるヘッドとその反対側のボディ上にあり弦で発生した振動をボディートップに伝えるためのブリッジからなります。これらはウクレレの表側にあるので手に持つことができれば眺めたり触ったり、もちろん音を出したりできますが、音色を決める要素はその内側にも(内側にこそと言った方が良いかも)あります。

下の写真がそのボディーの中です。

uku-body.jpg製作途中のサイドボディ。
ネックを取り付けるためのネックブロックとボディーのお尻側になるテールブロックのところで左右のボディ板が接続接着されています。

成形モールドにセットされているのでちょっと解りづらいかと思いますが、トップボード(音の出る穴の開いている方)とバックボードを接着するためのライニング(サイドボディ縁に付いている白くギザギザした部分)が付いています。私の作り方ではトップとバックを接着するまではこのモールドにセットされています。もちろんモールドもデザインに沿って最初に手作りします。
くびれ形状は音色を創り出すため形状であると同時にこの構造の強度に大きく関わっています。小さくてナイロン弦などを使うウクレレでも安定してある音を出し続けるにはある程度の強度に対する配慮が必要になります。

uku-top.jpg穴の開いているトップボード内側uku-back.jpgバック内側
トップとバックは構造的な強度と音を創るために数本の細い木(力木=ブレース)が接着されています。この構成は見た目シンプルですが、意外と複雑な作り方がされています。ブレースは音色や出す音の大きさに大きく関わります。特にトップ裏のブレースは彫り込むことによりトップ板の強度を変化させ、弦の振動を伝わりやすくして音の出方を大きく変化させます。
uku-brace.jpgこのブレーシング形状も一定ではなく、製作者の音作りに対する考え方によって量や形状が変わりますが、ほぼこのようなブレースが何本か貼られています。写真のトップボードに施されたブレーシングはスチール弦を持つマーチンのギターに代表されるX(エックス)ブレーシングを元にこのテナーウクレレ用にアレンジしたオリジナルブレーシングです。(このコラムは作り方教室ではありませんのでこの部分の説明は省きますが、もし興味がおありでしたら連絡ください。ある程度はお教え、お伝えできると思います。)
これらの内部構成要素とトップボードの厚みとホールの大きさ、バックボードの湾曲度など、それら各構成部の組み合わせなどによって音が作られています。


uku4.jpgヘッド部デザインuku5.jpgチューナーマシーン
uku6.jpgネック取り付け部uku2.jpgヒール形状
uku7.jpgブリッジ及びテール部 結構グラマラスでしょ、そして深いです。

このウクレレはインターネットで手に入れた英文の制作教本を参考にしながら、オリジナルのデザインを製図に落とし込み、ボディ材料をハワイや東急ハンズ、お茶の水の楽器屋さんなどから調達して作り上げました。製作技術としては専門的な事は何一つ無く、中学で習った木工技術と素人レベルの塗装技術が基本的にあれば作り上げることは可能です。ただし、思ったような音を出すための知識や加工技術は当たり前のことですがこの1本だけでは理解、習得できるはずもなく、この世界も果てしなく奥深く、いつものようにのめり込んでしまっています。
uku-zu.jpgデザイン設計図 uku-brace-zu.jpgブレーシング

実はこのウクレレを作る前に、すでにウクレレより大きなスチール弦仕様のギター、いわゆるアコースティックギターを8本と、シングルピックアップを付けたマホガニーのソリッドボディーエレキギターを1本作り上げています。そのギター作りの技術とノウハウでウクレレに取りかかったのですが・・・・。

解ったことはウクレレにはウクレレの世界があると言うことでした。もちろん引き出しがまた1つ増えたわけですが、何に生かせるかはまだ解りません。
ただ、ものの成り立ちや歴史背景、構造及び製作方法などは、いろいろなプロダクトデザインを考える上で共通するものが多くあります。

現在、身の回りにはいろいろなプロダクト製品があります。もし興味を持ってもっと深く知りたいと思ったら、ぜひ一度ご自身でそれを作ってみることです。大概のものは作れるはずです。

言い忘れましたが、初めてのウクレレ製作でしたが、弾いているうちにうとうとと眠りの世界に入ってしまうような、とても優しく柔らかな良い音がします。

音の出るデザインワークはとてもワクワクしますね。      Taka

DESIGN ANGLE No,3 金継ぎ

kintugi0.jpg 2013-06-20

4月です。桜も満開になり春爛漫でうきうき・・とは全然関係ありません。
突然ですが、金継ぎをしてみました。
日々使っていたお気に入りの小皿が割れてしまって、でも捨てられず、なんとか元通りにならないモノかと考えた末に「金継ぎ」のことを思い出しました。
「金継ぎ」とは生漆を接着剤として使い、割れた陶器などをつなぎ合わせ、その合わせ目を金粉で飾り新たな価値観を生み出す技法です。
簡単に言えば、「接着剤で貼り合わせてまた使えるようにしよう。その際、ただ貼り合わせたのでは少々ビンボーくさいので金で飾ってしまおう。」と、思ったかどうかは解りませんが、とにかくいきなり「金継ぎ」という技法に興味を抱き、私でもできそうと思ったのが間違い・・・だったかな? とにかく始めてみました。

kintugi1.jpgわれてしまったお皿 kintugi2.jpgご飯(小麦粉でも)を練って漆と合わせて接着剤を作る

kintugi3.jpgこの接着剤を割れ口にまんべんなく付け、べたつかないくらいに少し乾燥させてから貼り合わせる

kintugi4.jpgkintugi5.jpg3〜4日湿度の高い状態で乾燥させると

今はここまでです。
まだ金粉で飾っていませんが、すでに味のある仕上がりが感じられるのは偶然が作り出した割れ目のせいかな。
ただし、ここまでがすでに大変な作業でした。
接着剤で貼り合わせて直すと、言ってみれば簡単な、子供のころプラモデルを夢中になって作った世代であればこんな事は朝飯前と思える事が、とても難しく奥の深さをすでに感じさせています。

当たり前と言えば当たり前なのですが、一つ一つの作業にシンプルであるが故の「コツ」や「勘」そして「熟練」が必要とされてくるのです。
たとえば、接着剤ベースとなる漆と合わせるご飯(小麦粉)の練り方、湿り加減と合わせ量。漆と混ぜてから割れ口に付けるタイミングと量、そして何よりその前に作業日の気温や湿度の加減などなど・・・はじめから何度も試しながら、確認しながら、間違えながら、するしかありません。たとえ隣で先生がお手本を見せてくれていてもたぶんすぐには出来ないでしょう。
それだけに、もっと漆のことを知りたい、試してみたい、作ってみたいというおもしろさをも感じています。

漆は、空気中の水蒸気が持っている酸素を使って漆中に含まれる酵素の触媒作用によって硬化します。なので湿った空間で乾燥(硬化)するという普段使い慣れたの糊や接着剤とは違う性質があります。色に関しては黒漆や赤漆の漆器で代表されるようですが、漆の種類も多くそれぞれ固有の色がありながら、地域によっても種類によっても、またその使い方によっても変わってくるようです。商品デザイナーとしては創作意欲をものすごく刺激される素材の一つです。
今後いろいろ試しながらこのコラムに書いていこうと思っていますのでもし興味のある方はご期待ください。

すでに漆を使って創作されている方や仕事として専門にされている方にとっては失礼や間違いがあるかもと思いますが、勉強途中の学生と思って見守ってください。

ちなみに写真の割れたお皿は、弊社スタッフでデザイン相棒の加藤祐子作です。   Taka

にDESIGN ANGLE No,2 風呂敷

SENSAI風呂敷.jpg2010-03-01
3月に入ると暖かい日がだんだん多くなってきます。そう、もうすぐ春です。ここ東京は3月の最終週に桜の花の開花が見られるようになってもう何年になるでしょう。
sakura-K1.jpgsakura-M2.jpg左-砧公園・右-目黒川の桜・2009春
桜のお花見に近くの公園へ。バスケットやトートバッグにワインとサンドイッチも良いのですが、お重にお弁当を詰めて風呂敷に包み花見に赴くのも、これぞお花見!(と言う気分になるかどうかは保証しませんが)たまには新鮮です。
風呂敷で包む行為は、外装パッケージングの極みと言っても良く、その使い方(包み方、結び方)と作法(贈答品は包んで持参するのが礼儀である等〜ここでは長くなるので省略します。)を含め日常の身の回りのアイテムの中ではもっとも「和」を感じるシンプルな道具の一つです。
大きさや使い方次第で、四角なお重や箱はもちろん、まん丸なスイカ(見事に包むことができます)やワイン・日本酒の一升瓶から家財道具一式(これは無いか、夜逃げじゃ有るまいし。でもちょっと古い人はご存じの唐草模様の6巾の風呂敷は、このためにあったようなもの。)等を持ちやすく運びやすく、そしてここが肝心 ”美しく” 包むことができます。
風呂敷は環境問題への関心の高まりや、2000年代のトレンドキーワードの一つである日本伝統回帰の「和」トレンドにのって再度、広く関心が持たれるようになってきました。ただし、道具としてはあまりにもシンプルであるが為包むための工夫と技が必要で、同じエコの代表格である綿の薄布やPETボトルのリサイクル布でできた手提げ袋(マイバック)には負けてしまっている感が強いのは少々寂しくもあります。
皆さんもっと工夫しましょ!そして、どんどん使いましょ!コンパクトにたためて持ち歩け、そしてなんだって包めるんですから。

そうそう、なんだって包めると言ったら、パリのポンヌフ(1985年)やベルリンの帝国議会議事堂(1995年)その他いろいろな建造物や大地、果てはアメリカ・マイアミ付近の小島(の周り)まで、包みに包んでそのスケールと美しさを世界に知らしめたクリストとジャンヌ=クロード夫妻は(超大)風呂敷使いの達人アーティスト、と言ったら失礼でしょうか。

写真は、縮緬生地に大きな満月モチーフプリントのカネボウインターナショナルSENSAI PREMIERブランドのスペシャルセット用オリジナル風呂敷です。   Taka

DESIGN ANGLE No,1 時代とチョコレート

NUDY-Choco.jpg2010-02-06
半つや消しチョコレートブラウンのガラス容器に入ったカジュアルなコロンです。もちろんバレンタインデーねらいで、1998年くらいにデザインしたものです。その香りも含め結構おいしそうなデザインに仕上がって、今でも私の好きなデザインの一つです。どれ位の人がこのチョコレートコロンをプレゼントされたか知りませんが、私もできればプレゼントしてほしかったと今でも思っています。
バレンタインチョコレートもプレゼントの方法も合わせて時代毎に変化してきましたが、80年代バブルのころに始まったと思える「ブランドチョコレート」から90年代後半の「有名ショコラティエ製チョコレート」を横目で見ながら、2000年からこの10年の2000年0年代は、自分で手作りの、皆創作家(みなアーティスト)、皆職人(みなアーティザン)、すなわち「アーティストな私のショコラティエ風手作りオリジナルチョコレート」の10年であったと思います。
チョコレートは原料のカカオ豆からになると少し専門的になりますが、パンやケーキは元々ハンドメイドが基本ですのでその作り方にプロとアマチュアの差はあまりありません。(とは言っても絶対的な違いはありますが。)決定的に違うのはその食材料の選び方です。材料の違いがおいしい味のプロの仕事とし絶対的な差を作っていましたし、その食材選びの目を持つことがプロの証でした。しかし昨今のインターネットはその差をかんたんに埋めてしまい、アマチュアでもプロと同じ材料を手にすることができ、その気になれば、かなりプロに近い、いや、オリジナリティから言うとプロを超えたモノに仕上げることができる時代になっています。
今の日本及び世界の現状を考えると、この手作り人はまだまだ増えそうです。
ここもプロとアマチュアの境目がだんだん消えてきています、と考えてしまうのは私だけでしょうか。
                                         Taka

更新日 2013-06-20