1996年8月5日


****** うそばっかりのうささぎの話 御殿場へ ******



うささぎたちを残して奥に引っ込んだ木下大介と父



父 「やつら宇宙人だなんて言っているけど、どう見てもぬいぐるみだ。」

大介「ぬいぐるみ? 

   ぬいぐるみに変装しているのでは?」

父 「そんなバカな。」

大介「いや、有り得る。

   たとえば、いかにも宇宙人らしい恰好をしていたらどうなると思う?」

父 「さあ。」

大介「あっという間に警察や軍隊につかまって国家の手で監禁されちゃうん

   じゃないかな。研究材料として。

   最悪は解剖されるということも。」

父 「バカな。おまえはマンガの読み過ぎだ。」

大介「お父さんはやっぱり彼らはぬいぐるみだと言うんだね。」

父 「そうだ、お引き取り願おう。」

大介「もし、ほんとうは本物の宇宙人だったらどうする?」

父 「どうもしない。

   お父さんには関係ない。」

大介「たとえばだ、彼らが隣の田沼さんを訪ねるとする。

   そこで田沼さんが彼らを宇宙人だと思ってテレビ局に通報する。

   彼らが本物だったら、栄えある宇宙人遭遇第一号としてテレビに

   紹介されるのは田沼さんだ。

   オレたち木下ではないんだ。」

父 「そうかあ?」

大介「そうだ。みすみす遭遇第一号の座を捨てることになる。

   それでもイイの?」

父 「うーん、ちょっとよくないな。」

大介「よくないさ、遭遇第一号は木下でなくちゃ。」

父 「木下がいただく。」

大介「じゃあ、さっそくテレビ局に電話をしよう。

   宇宙人のことを知らせないと。」

父 「そうだな。」

大介「もし、本物の宇宙人ならば、

   ”宇宙人、ついに現われる。輝かしい宇宙友好の時代の始まり!

   第一遭遇者は神奈川県の木下さん。”

   ”それでは木下さんに当時の状況をうかがってみましょう。”

   ってな感じでオレたちのことが全国に放映される。」

父 「もし、本物ならば、

   いよいよ木下家も全国的に有名になるな。」

大介「明日になれば、一家そろって有名人。

   学校でも”キャー、見て見て、宇宙人との第一遭遇者、木下君だー”

   って女子の注目のマトさ。」

父 「なに、マンガみたいなこと言っているんだ、大介。

   冷静に考えてみろ。

   お父さんは本を書くつもりだ。宇宙人との遭遇記録を本にして出す。

   出版後は講演とかにも呼ばれて忙しくなるだろうから、会社を辞めることにも

   なるかもしれないな。

   まあ、お父さんの方から会社をリストラしてやる、っていうことかな。」

大介「お父さんこそ、冷静になった方がいいんじゃない。

   それよりも早くテレビ局を呼ばないと。

   宇宙人は明日帰っちゃうし。」

父 「おお、そうだ。

   大介、早くテレビ局へ電話しなさい。」

大介「でもお父さん、もしニセモノの宇宙人だったらどうする?」

父 「かまうことはない。

   ぬいぐるみたちがウソをついたことにすればイイ。」



つづく



****** うそばっかりのうささぎの話 御殿場へ ******



父   「宇宙人さん、今日は是非とも宇宙人さんに紹介したい人がいます。」

うささぎ「それはどなたでしょう?」



父   「テレビ局の人です。

     宇宙人さんたちの話を聞きに、まもなく来ます。」

うささぎ「”うそばっかりのうささぎの話し”でもすればイイのですか?」

父   「何ですか、それは?」

うささぎ「いや、なんでもありません。」

父   「テレビで宇宙人さんのことが報道されれば、世界中に宇宙人さんの

     ことが伝わります。

     ときに宇宙人さんの星にテレビはありますか?」

クロクロ「ありません。」

父   「ではどうやって世の中の情報を受け取るのですか?」

クロクロ「うささぎともう一人の仲間からです。」

父   「友人からの伝聞では情報が不正確になりませんか?」

クロクロ「大丈夫です。

     我々の世界にはうささぎ、クロクロ、それにもう一人の仲間の

     3人しかいませんから、2人から聞けば、それが世界のすべてです。」

父   「3人だけの世界があるとは知りませんでした。」

うささぎ「うささぎも知りませんでした。」

父   「えっ?」

クロクロ「何でもありません。気にしないでください。」

父   「はあ。」

クロクロ「でも、かくれんぼをするときなどは、隣の星へ行き、

     参加者を募ります。」



父   「惑星間でかくれんぼをするといのは規模が大きく面白そうですね。」

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母   「ただいま。」

大介  「あっ、お母さん、今からテレビ局の人が取材に来るからね。」

母   「どこに?」

大介  「うちにだよ。」

母   「うちに? たいへん、髪をセットしなくちゃ。

     もうこの時間じゃ美容院はあいていないわね。

     テレビの取材、明日にならないかしら。セットの後に。」

大介  「明日じゃもう遅いんだ。今日でないと意味がない。」

母   「それじゃ、千代ちゃんに無理に頼んで大急ぎでセットしてもらうしか

     ないわね。ところで何の取材?

     お父さんの”アシカのチャネリング”でも取材に来るの?

     例の”オゥ、オゥ、オゥ、今ぼくは北極海を泳いでいます。

     北極の海はなんてきれいなんだろう。オゥ、オゥ”ってやつ?」

大介  「ちがう。宇宙人が来ているんだ。

     この家に。いまお父さんと話をしている。」

母   「お父さんもとうとうキレちゃったみたいね。

     そろそろ離婚も考える時期かしらね。」

大介  「まあ、宇宙人を一目みればビックリするって。」

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父   「ああ、お母さん、こちらレチクル座からいらした宇宙人さんたち。」



うささぎ&クロ「はじめまして。」

母   「お父さん、この子たち宇宙人じゃなくて、ぬいぐるみじゃない。」

うささぎ「ありゃ。」

つづく


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