******** うそばっかりのうささぎの話し ********

  

【第2部 第19話 最終回】

 

社長さんの自殺をくい止めようとしていた「ぬいぐるみのうささぎ」ですが、

ひょんなことから、うささぎ自身が自殺することに。

そして、とうとう桜の木の下で首を吊ってしまいました。

友だちのクロクロは心配そうにうささぎを見上げています。

 

クロクロ「おーい、うささぎ!」

うささぎ「・・・・」

クロクロ「ほんとうに死んじゃったのかよー。

     返事しろよー」

うささぎ「・・・・」

 

社長  「うささぎの奴、とうとうくたばったか。

     待っていろよ。オレもすぐ行くからな」

うささぎ「どこで待っていればいいんですか?」

社長  「えっ!?

     まだ生きていたのか」

うささぎ「すみません。言い忘れましたが、首を吊ってから死ぬまで

     10分くらいかかりますので」

社長  「なんだ。早くしてくれよ。

     後がつかえているんだから」

うささぎ「はい」

 

1分経過

 

社長  「もう10分くらいたっただろう。

     もう死んだか?」

うささぎ「まだです。1分しかたっていませんから

     待っているときは時間が経つのが遅く感じられるものです」

社長  「あー、待ちきれん。

     オレが先に自殺する。縄をよこせ!」

うささぎ「だめです。うささぎが先です。縄は渡しません。

     うささぎの自殺を邪魔しないでください。

     社長さんだって、自殺の邪魔をされたらイヤでしょう」

社長  「もー、早くしろ」

うささぎ「お待ちのほどを」

 

5分経過

 

社長  「もう10分くらいたったぞ」

うささぎ「まだ5分です」

社長  「おいっ、このオレにあと5分も10分も待てというのか!」

うささぎ「はい。

     それがねらいですから」

社長  「このやろー、なにか企んでいるな!

     ほんとうは首を吊っても死なないんだろ」

うささぎ「ありゃ、すっかりお見通しのようで。

     ぬいぐるみは首を吊っても死なないし、

     魂のツボなんてどこにもありはしませんの嘘八百です。

     なにせ『うそばっかりのうささぎの話し』というくらいですから」

社長  「よくもだましたな。

     コラ、縄をよこせ! コラッ」

うささぎ「ひえー、うささぎのおしりをひっぱっちゃダメだよ」

クロクロ「社長さん、乱暴はよくないよ。

     そんな元気があるなら自殺することないじゃないか」

社長  「おまえなんかに何がわかる」

 

ゴン

クロクロ「うわっ!」

 

ガシャン

クロクロ「あーあ、電話が、、、」

 

社長  「コラッ、縄をよこせ」

うささぎ「フガフガ。

     あっ、人が来た!」

社長  「まだウソをつくつもりか」

クロクロ「うそじゃない。和尚様だ!」

社長  「!?」

正覚和尚「クロクロさーん」

クロクロ「和尚様、ご住職。こっちこっちー」

正覚和尚「あー、うささぎさん、何を早まったことを、、、」

うささぎ「いやいや、和尚様。首を吊っているのは確かにうささぎですが、

     自殺しようとしているのは、こちらの社長さんです」

正覚和尚「社長さん!」

社長  「・・・・」

正覚和尚「社長さん、家族の方が心配していますよ。さあ、帰りましょう」

社長  「でも、、、」

正覚和尚「さあ、行きましょう!」

 

そんなわけで、2人の大人に取り押さえられてしまった社長さんは無事に保護されました。

うささぎとクロクロは現場に残されっぱなしです。

 

うささぎ「うささぎを降ろしてくれて行ったって良さそうなものなのになー」

クロクロ「まだ社長さんからは目が離せないからね」

うささぎ「まあ、ぬいぐるみよりも人間の方が大事だからね」

クロクロ「うーん」

うささぎ「あーあ。

     みの虫、みの虫、ブラーン、ブラーン」

 

やがて、うささぎやクロクロも本堂に戻ってきて、

 

正覚和尚「今日はみなさんのおかげでほんとに助かりました」

うささぎ「社長さんはもう自殺しないんですか?」

正覚和尚「ええ。

     いざとなったら夜逃げでもするそうです」

クロクロ「もとから自殺するような雰囲気じゃなかったですからね」

正覚和尚「きっと誰かに『自分はつらいんだ』ということをわかって

     ほしかったんでしょう。

     だから、夜にお墓参りしてみたり、とか、自殺のまねを

     したりして誰かの注意を引こうとしたのでしょう」

うささぎ「そうですかあ。

     うささぎの方は首とかが痛いです」

正覚和尚「それは、迷惑をかけてしまいましたね。

     まあ、人ひとりの命を救ったと思って勘弁してやってください」

うささぎ「はい」

正覚和尚「クロクロさんは大丈夫ですか?」

クロクロ「蹴られたところがちょっと。

     あと、蹴られた拍子に和尚様の携帯電話が壊れてしまいました」

正覚和尚「えっ?!」

うささぎ「まあまあ、和尚様、そんなにムッとしないでください。

     人ひとりの命を救ったと思って勘弁してやってください」

正覚和尚「そうですね」

 

+++++++++++++++++++++++++++++++++

 

クロクロ「うささぎ、なんとか社長さんを引き止めることができてよかったね」

うささぎ「うん。

     生き続けて行くのもイイことなのかもしれないね」

クロクロ「だね。

     丸山さんも極楽に行くのはちょっと待ってもらうかい?」

うささぎ「うん、うん。そうしよう。

     いなくなっちゃうと寂しくなっちゃうしね」

クロクロ「だよね」

 

こんなことを繰り返しながら、うささぎとクロクロは修行をこなしていきました。

一週間後には何とか修了することができたそうです。

というわけで「うさばっかりのうささぎの話し第2部」は終わりです。

長い間のお付き合いありがとうございました。

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