【第2部 第18話】
和尚様が到着するまで、社長さんが自殺しないよう引き止めなくてはならない
うささぎとクロクロ。どうしたらいいのでしょうか？
クロクロ「うささぎ、もうここは実力行使で引き止めるしかないよ」
うささぎ「ぬいぐるみの力じゃ無理じゃないかい？
ここは知恵を使おう」
クロクロ「だね」
うささぎ「社長さん！」
社長 「まだなんか用かい？」
クロクロ「はい。一応確かめておきたいことがありまして、、、
遺書はもう書きましたか？」
社長 「書いてあるよ」
クロクロ「誤字脱字とかの見直しはしましたか？」
社長 「ちゃんと読み直している。
いちいちうるさいな」
うささぎ「いやいや申し訳有りません。
念の為の確認です。
最近は遺書までにも間違った字を書いて、死んだ後も恥ずかしいおもいを
する若者がいるそうですから。
例えば『先立つ不孝をおゆるしください』と書かずに
『先立つ不幸』と書いてしまう人もいるらしいんですね。
社長さんもじっくりと時間をかけて読み直した方がいいんじゃないですか？」
社長 「いまさら読み直す奴がいるか！」
うささぎ「そうやって忠告に耳を貸さないから会社がつぶれちゃうんですよ」
社長 「おまえたちに言われる筋合いはない！」
うささぎ「そんなに怒らないでください。
短気は損気。高血圧になって長生きできませんよ」
社長 「これから死のうとしている奴に長生きなんか関係ない！
おまえたちあっちに行け」
うささぎ「わかりました。失礼します」
社長 「とっとと帰れ」
クロクロ「帰る前に一つだけ質問があります」
社長 「なんだい」
クロクロ「社長さんは死んだらどこへ行くんですか？」
社長 「知らん」
うささぎ「社長さんは悪い事とかしたことありませんか？」
社長 「そりゃ、若い頃は悪さもしたさ」
うささぎ「それじゃあ、地獄行きですね」
社長 「そうかい」
クロクロ「針の山地獄や血の池地獄。
そんな地獄にあわてて行くことはないですよ」
社長 「針の山地獄だろうと血の池地獄だろうが、この世の生き地獄に比べたら
数段ましさ」
クロクロ「この世にも地獄があるんですね」
社長 「別府にあるだろ」
クロクロ「うささぎ、別府だって、別府」
うささぎ「一度見てみたいね」
社長 「わかったら、さあ、もう帰れ」
うささぎ「まだ質問があります」
社長 「いつまで邪魔をする気だ。
いいかげんに怒るぞ」
うささぎ「もう既に怒っていますよ。
自分の気に入らないことがあると、すぐに怒る。
そんなことだから従業員もついてこないんですよ」
社長 「ついて来ないのなら、こっちから道づれにしてやる。
おまえたちを地獄への道づれにしてやる」
うささぎ「うわっ！？
道づれってどこまで一緒に行けばいいんですか？」
社長 「地獄までだ」
うささぎ「ぬいぐるみは地獄へも天国へも行かない、と言われていますが」
社長 「じゃあ、あの世へ行くんだ」
うささぎ「ひえー
あの世はどんなところですか？」
社長 「この世の苦しみからはおさらばできる、すばらしいところだ」
うささぎ「そうですか。
わかりました。
そんなにすばらしいところなら、社長さんのお供をしてあの世へ行きます。
社長さんも一人で行くんじゃ寂しいでしょうし」
社長 「よし、カンネンしろ」
うささぎ「はい。
では早速ですが、首を吊りたいと思います」
社長 「ぬいぐるみが首を吊って死ぬのか？」
うささぎ「はい。魂のツボが首のところにありますので」
社長 「わかった。一緒に首を吊ろう」
うささぎ「でも、縄は一つしかありませんね。
先にうささぎが首を吊ってもいいですか？
社長さんに縄をかけてもらわないと届かないもので」
社長 「わかった。
いま持ち上げて、かけてやるからな」
クロクロ「おーい！
うささぎまで自殺しちゃうのかよ」
うささぎ「うん、社長さんと会ったのも何かの縁。
お供をしていくよ」
クロクロ「そんなあ」
うささぎ「聞くところによるとあの世はすばらしいところだと言うし。
後はよろしく頼むよ」
クロクロ「ひえー」
そんなわけで、うささぎの首にとうとう縄がかけられました。
あとは社長さんが手を放せばうささぎはあの世行きです。
クロクロ「まあ、うささぎの話しだから、うささぎが死ぬことはないかぁ」
つづく
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