高階杞一詩集
<春'ing>より
人生が1時間だとしたら
人生が1時間だとしたら
春は15分
その間に、正しい箸の持ち方と自転車の乗り方を覚え
世界中の町の名前と河の名前を覚え
さらに、たくさんの規律や言葉やお別れの仕方を覚え
それから、覚えたての自転車に乗って
どこか遠くの町で
恋をしてふられて泣くんだ
人生が1時間だとしたら
残りの45分
きっとその春の楽しかった思いでだけでいきられる
今日はお鍋よ
だったらぼくは牛蒡と葱を買いにいこう
そう言って でていったまま
もう二十年もあの人は帰ってこない
この頃は めきめきと
空も 春らしくなってきたし
わたしは ひとりでもお鍋ぐらいは炊ける
丘の上で 雲といっしょに
トントンって 包丁をうごかしているのも楽しいし
明日は 雲雀も入れてみよう
それから
自転車にのって 街まであの人に
もうすっかり用意ができたことを告げにいこう