高階杞一詩集 vol 2

<キリンの洗濯>より

春になれば

落語にお
おもしろい話しがある

ある北国に
ひどく寒い町か村があって
そこでは何でも凍る
水たまりや
蛇口はもちろん
朝の
おはよう
まで凍ってしまう
おは
バリッ
てなもんで
どんなおはようも
ここでは
決して相手に届かない
ただ春になると
それらがいっせいに解け出して
あっちでも おはよう
こっちでも おはよう
と鳴り響き
うるさいのうるさくないの
という話
だけど
知ってる?
落語のことではなくて
今朝 ぼくが君に言ったこと
おはよう
も言ったけど
そのほかにも言ったこと
聞こえなかった
のは多分凍ったせいだろう

ここも相当寒い

だから
もうこれ以上
寒い言葉を吐くのはよそう
今は何を言っても凍るから
何も言わず
そして
ひたすら春の来るのを待とう
春になれば
きっと解けるに違いない

たくさんのおはようといっしょに
僕の言葉も
君の言葉も
それらのぶつけ合った訳も



 ホッチキスがやってきて

       朝  ホッチキスがやってきて  ぼくを  机にとめる

       手足をおさえ ぐさっと、頭に針を打ち込む

      (はずれない、、、、)

      ‘これで用はすんだ’と言うと ガチャンガチャン

       鉄の足をひきずって ホッチキスは帰る

       窓から風が吹き込んでくる

       ひらひらと ぼくの薄い胴や手足がなびく

       頭の先っぽだけがわずかに外の世界とつながって

       ひらひら ひらひら と

       一日 旗めいて過ごす

       それにしても ホッチキスのほんとの用はなんだったのか

       頭が痛い

       今度はお尻にしてもらおう と思う


              耳辺にこころ

       顔が 突然恥ずかしくなる
       まるでむきだしの目も 鼻も口も
       性器のように
       「見られてる」 とおもったら
       とたんに人と喋れなくなる

       どうしよう これでは外にもでられないし..........

       思案のあげく 顔にパンツをはくことにして

       もちろん その上にはズボンもはいて

       それから

       町で いつも通りに話をかわす
       親しくない人とははいたまま

       親しい人にはズボンをおろし
       もっと親しい人にはパンツもおろし

       そして 毎日 はいたりおろしたりしてると

       いつか、どちらが上か下か分からなくなり
       夜中にひとり 
       便所で顔を まくることもある


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