#3. ローレンツの理論

目次へ   #2. マイケルソン・モーレーの実験
#4. 特殊相対性理論

 マイケルソン・モーレーの実験の結果は当時の物理学者たちに大きな衝撃を与え、 この問題を解決すべく、当時の一流の物理学者たちがさまざまな提案を行いました。

 代表的なものを2、3上げますと、

  1. 実験にミスがあったのではないか
  2. 地球の運動が周囲の光の運動に影響しているのではないか
  3. 実は光の速度は光源の運動に影響されるのではないか

といったものです。窪田氏の考えは、1. の一種です。マイケルソン自身は 2. を考えていました。現代でも、たとえばコンノケンイチ氏等、多くの超科学者が 2. を主張しています。 私が以前パソコン通信で議論したある人は、3. に近いことを主張していました。 しかし、いずれの説も、他の観測事実や実験結果と矛盾することがわかり、 破棄されました (いずれこの事についても詳しく解説する予定です)。超科学者たちは、自分の提案を「画期的なもの」 と思い込みがちですが、実際にはとうの昔に考えられていた (そして破棄された) ものなのです。

 さまざまな提案の中で、注目するべきなのは、ローレンツの「収縮仮説」です。 この仮説は、

「絶対静止系の中を運動する物体は、進行方向にちょっとだけ縮む」

というものです。前章の説明では、光が AB を往復する時間 t1、 AC を往復する時間 t2 は、それぞれ

式2-4

でした。ここで、AB の長さがちょうど 1/γ倍だけ縮んでいる、と考えれば t1

式3-1

となり、t2と等しくなって実験の結果が説明できます。

 この仮説によれば、たとえば絶対静止系に対して 0.8c(光速の80%)で運動する宇宙船は、 0.6倍に縮む事になります。しかし、宇宙船に乗っている人はそれに気が付きません。 なぜなら、乗っている人も、ものさしも、全てが進行方向に同じだけ縮むからです。

 ローレンツはこの考え方をさらに推し進め、 今日の相対性理論とほとんど変わらない理論を作りました。

 だから今日でも、相対性理論の核心である座標変換の式を「ローレンツ変換」 と呼び、また相対論でも現れる物体の収縮を「ローレンツ収縮」と呼ぶのです。

 次の章ではアインシュタインの相対性理論の基礎を簡単に解説します。

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