エルモア地方概説/社会

文化・社会学問・技術その他


 

文化・社会


○変異現象

 『大変異現象』というものが起こった正確な原因は、科学時代に突入した聖歴789年の現在でも未だに明らかにされていますせん。そのため、現在でも魔神の呪いによるものだと信じられています。しかし、本当の問題はその原因の真相ではなく、今でも大変異現象の爪痕は残り、そして変異と呼ばれる現象が各地で頻繁に起こっているということなのです。
 変異とは万物を歪ませる全てのもの、およびその現象のことをいいます。これはその名が表しているように、系統だったものではありません。変異はその対象となるものを選ばず、無差別に影響を及ぼします。環境、生物、物体、空間、時間、そして夢や人々の心にさえも変異は起こります。また、無生物にさえ精神が宿る場合もありました。『不死者』(アンデッド)と呼ばれる存在がそれであり、それが数々の怪現象を引き起こす原因となっています。まさしく悪魔の呪いという他はないでしょう。


○宗教

 『聖母教会』、『法教会』、『マイエル教』と呼ばれる宗教が、エルモア地方の3大宗教といわれています。このうち、人民の70%が聖母教会を信仰しており、圧倒的な勢力を誇っています。神官や司祭と呼ばれる聖職者たちは、『神聖魔術』と呼ばれる奇跡を起こすことができます。彼らは人々の病を癒したり怪物たちを掃討するために、その力を惜しみなく用いるのです。そのため、この世界では聖職者は人々に非常に尊敬されています。
 これらの宗教で敵とされているのは、大変異現象を起こした魔神やその手下の悪魔たちです。悪魔の力を借りる者や変異の影響を受けた者も、教会から破門されたり、密かに私刑を受けることがあります。


▼聖母教会
 唯一神と、『聖母アリア』およびその12人の娘を神の子(使徒)として崇める宗教機関です。十字架の上に円を配した『円十字』(♀)と呼ばれる形を聖印としています。総本山である『聖母アリア教会』はユナスフィール教国に存在し、最高指導者である大主教が国王を兼任しています。『使徒教会』と呼ばれる12の教会は他の国々に分散しています。


▼法教会
 唯一神と聖人ルーンを祀る宗教です。カスティルーン、ユークレイ、ペトラーシャで国教として信奉されており、聖母教会に次ぐ勢力をもつ宗教機関です。これらの3国は神聖同盟を結成しており、軍事をはじめとするさまざまな面で協力体制をとっています。法教会の教えは秩序の一言で表わされ、変異現象を混沌と称してその平定を掲げています。聖印は『正十字』(+)で、その四方向はそれぞれ秩序、法、正義、公正を示しています。
 法教会もこの地方の文明の復興に寄与してきました。ただし、聖母教会とは異なり、秩序だったものとして認められるものは全て利用し、旧文明(科学魔道文明)の科学技術の発掘にも力を入れてきました。その研究機関として設置されたのが『学問院』であり、一般学問から先史文明に関する研究成果など幅広い知識を身に付けることができます。


▼マイエル教
 主に黄人(黄色人種)の間で信仰されているのが『マイエル教』で、何百という膨大な数の神を祀っています。主な信仰対象は『天神』(父)と『地神』(母)の夫婦と、その娘である『四季の女神たち』で、女神は四つの方位を守護する役目も負っています。マイエル教では、この六大神を示すヘキサグラム(六芒星)を聖印としています。


○身分制度

 聖歴789年のエルモア地方には、貴族制度や奴隷制度といった身分制度が存在しています。旧態依然とした身分制度はエルモア全域で見れば崩壊しつつありますが、今でも生まれや家柄は無視し得ない要素です。大きくは出自によって身分が決定されます。努力したからといって一般市民が貴族になれるわけではないことは、子供でも知っている常識です。そして、奴隷として買われてきた黒人や赤人たちは、そのまま一生奴隷の身分のまま働き続けることになります。職業や経済的格差、あるいは教育の程度によっても差別されたりすることもあり、それらは一般的に当たり前のこととして受けとめられているのです。


○言語

 エルモア地方の言語はすべてアルファベットです。この地方の人々は義務として6年の初等学校教育を受けています。ですから、普通に育った人は公用語としての『共通語』と母国語の会話ができますし、学校に通った人であれば読み書きができます。エルモア地方の言語はどの国のものも似通っており、すべての国に独自の言語があるにもかかわらず、それぞれが方言程度の差しかないので、基本的な会話にはそれほど苦労はしません。


○経済

 この地方の物品売買は共通の貨幣で行なわれています。単位も『エラン』という共通単位で、どの国でも通用します。一般には銀貨が最も多く流通していますが、10000エラン以上になると各国で発行している紙幣を使用します。都市や街で暮らす普通の人であれば、数万エランもあれば並の生活を送ることができます。

硬貨 価値
白金貨 10000エラン
金貨  1000エラン
銀貨   100エラン
銅貨    10エラン
青銅貨     1エラン

(注:1エラン=1円として考えれば目安になるでしょう)


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学問・技術


○単位系

 エルモア地方での単位系は、我々の現実世界のものと殆ど変わりません。呼び名は違いますが、実際の長さや重さといったものは同じ基準でつくられています。また、暦についても1年が360日で1か月が30日という以外は、現実世界と同様です。


○霊子(エーテル)

 霊子(エーテル)はエネルギー物質の1つとして考えられています。聖歴789年のエルモア地方では、石炭や石油のような化石エネルギーだけではなく、霊子エネルギーを含む『霊子物質』(エーテル・マター)も用いられています。霊子物質は微かな青い光を放つ粒子なのですが、固体や液体などの様々な形態を取ります。一般に知られているのは、液体状で存在する『霊水』(エーテル・ウォーター)、固体状の『霊石』(エーテル・ストーン)の2つです。霊子物質は『霊子機関』の燃料として利用されています。霊子物質かどうかは見た目でもだいたい区別することができますが、正式には霊子機関の基盤の一部を流用した、簡単な検知器によって鑑定しています。


○動力機関

 聖歴712年に、『霊子物質』(エーテル・マター)をエネルギーとして変換する『霊子機関』(エーテル・リアリター)が、旧科学魔道文明の遺跡から発掘されました。発掘を主導したのは法教会の付属機関である『学問院』です。霊子機関は現在ある蒸気機関に比べて数多くの利点を持っています。たとえば、燃料の重量当たりの出力は蒸気機関よりもはるかに上ですし、『霊子蒸気』(エーテル・スチーム)と呼ばれる蒸気を出すものの、石炭を燃やす時とは違って煤煙(すす)が出ないことなどがあります。なお、この2つのエンジンが出す煙の色の違いから、霊子機関のことを『ホワイトエンジン』、蒸気機関のことを『ブラックエンジン』と呼ぶこともあります。


○科学時代

 2つのエンジンの実用化によって生活のあり方は一変しました。従来までは手作業だったものの多くが機械仕掛けになり、大量生産が可能となりました。786年には霊子機関を積んだ大型船によって西海の初渡航に成功し、『新大陸エスティリオ』へと到達しました。各国は競って新大陸の開発を試みようとしており、熾烈な争いを繰り広げています。また、輸送船の発達により、エルモア地方の真南に位置する『ペルソニア大陸』からの奴隷の輸送も大規模化しました。しかし、すべてがよい方向へと働いているわけではありません。人口増加に伴う耕地や牧草地の拡大によって森林は伐採され、そこで暮らしていた人が立ち退きをせまられたりしています。また、植民地農場での労働力としてたくさんの奴隷が犠牲になっていますし、新大陸への進出は原住民との激しい衝突を生み出しました。工場ができたことで昔ながらの職人たちが被害を被ることもあります。
 とはいえ、科学の発達が人々の生活を豊かにしたことは間違いありません。堕落した旧文明の悪しき遺産として霊子機関を否定している聖母教会といえども、この普及を止められない状況にあります。これからも科学はますます発展してゆくことでしょう。しかし、その過程において様々な衝突が生まれているという事実も、決して忘れるべきではありません。


○交通機関

 陸の交通手段として最も利用されているのが馬であり、普段の生活でもよく見かける日常的なものです。殆どの都市では駅馬車が整備されており、荷役の運搬やちょっとした旅行にも使われています。近年では蒸気機関や霊子機関の発達によって、自動車やオートバイ、列車などが開発されています。これらは非常に速く、大量の荷物を運搬できるということで人々の注目を浴びています。それから、大型化された蒸気船や霊子汽船は大量輸送時代の現在には不可欠といえるでしょう。一般の人々に人気のある新しい乗物は、工業の発展によって大量の生産が可能になった自転車です。現在はまだ少々高めですが、いずれは人々の間に広まることでしょう。
 交通機関として珍しいものには、空を利用する気球や飛行船などがあります。飛行船は霊子機関を利用したプロペラの開発によって、ようやく実用化が可能となった乗り物です。しかし、霊子機関は燃料が高価なため、一部の人々にしか利用されることはありません。このような新しい交通手段を用いるのは国家機関が多く、主に軍隊で試用されています。また、試作戦車といったような、軍でしか使用されていないものもあります。軍の次にこのような交通機関を利用しているのは、貿易や運輸関連の会社です。


○教育機関

 この世界の教育機関は現実世界のものと大差ありません。初等学校は6年間で、卒業は12歳になります。これは義務教育ではありませんが、たいていの国家では授業料は無償となります。このような制度となっているため、学校に通った経験のある者は多く、一般市民は共通語の読み書きと計算を行うことができます。中等学校は12歳から15歳までの3年、高等学校も15から18歳までの3年間です。大学校は4年が通常で、助手や研究生として研究室や講座に残ることもできます。このような近代的な教育制度が成立できたのは各教会組織の協力と、機械技術の向上にともなって、社会がそれを使いこなす学力を要求しはじめたという事実があってこそです。
 通常の学校の他に、神大学、学問院、専門学校、兵学校などといったものもあります。中等学校以上に進むのはある程度裕福な家庭の子女に限られ、多くは専門学校で必要な技術を学んだり、そのまま仕事につくことになります。


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その他


○警察

 事件を捜査し犯人を逮捕するのは警察機構の役目です。いわゆる警察としての機構が整っている国であれば、都市に地域の中心となる警察署があり、それぞれの地区に詰め所を置いて犯罪に備えているのが普通です。都市を離れた場所や町村では、保安官として民間の者を雇っている場合もあります。この保安官というものは千差万別で、まともな者もいればチンピラのような不逞の輩も存在します。
 国家に属する場合と各領主に属する場合では、警察官の組織や役割も変わってきます。国家に属する場合には法に殉ずる存在となるわけですが、領主が統括する警察機構は領主の私兵といった性格が強くなっています。とはいえ、通常の国家では国王の調査機関が領主の動向を調べますので、領主の無法が際限なく許されるというわけではありません。


○犯罪組織

▼裏組合
 裏組合というのは、その名の通り犯罪者のための組織です。裏組合は情報屋や逃がし屋、それから盗みに関する技術の講習など、様々な仕事を請け負っています。組合は荒事にも精通しており、縄張り争いの調停を行なったり、無届けの露店から場所代を徴収したりもします。裏組合の規模は多様で、国家間に跨って活動する組織も稀にありますが、多くのものは他の職業組合と同様に都市や街単位での組織です。


▼ギャング
 ギャングは新興の組織的暴力団のことです。裏組合とよく似た組織なのですが、盗みを主体とした犯罪を行うことは殆どなく、麻薬の売買や密輸などの裏取引や暴力行為によって金銭を稼ぎます。だいたいの組織は歓楽街を牛耳っており、表向きは酒場やカジノなどの娯楽施設や普通の会社を経営しています。古くからある裏組合とは対立しており、徐々にその勢力を伸ばしつつあります。


○術法

 この世界では『術法』と呼ばれる魔法が存在し、これを用いるものを総称して術法師と呼びます。怪物たちが跳梁するエルモア地方で人類が文明を築いてこれたのは、ひとえにこの『術法』の力があったからといえるでしょう。『聖母アリア』が持っていた奇跡の力は、『聖言』という形で彼女を慕う人々に受け継がれてゆきました。これらはさらに一部の民間人にも伝えられ、現在の『術法協会』という組織を形成するに至りました。聖職者以外の術法師は殆どがこれに所属しているため、『協会術法師』と呼ばれることもあります。


▼術法協会
 術法協会は宗教組織とは別に術法に関する技術を司る組織です。術法を用いて困っている人々を助けたり、あるいは教授してもよいと認可されている術法を一般の人々に教えることで、金銭を得て活動しています。それと同時に術法の研究機関でもあり、術法師を保護する役目もあります。ごく普通の術法師たちは、ほとんどが協会に所属していると考えてよいでしょう。術法協会は国家の垣根を超えた組織であり、エルモア全土に広がっています。ただし、術法師は社会全体から見れば稀少な存在なので、組織自体の規模はさほど大きいものではありません。


○戦闘

 この世界では、日常とすぐ隣り合わせの場所で戦いが起こっています。人間の生活を脅かす怪物たちや、村を襲う傭兵くずれの野盗、列車強盗を企てる無法者、そして戦争といったものが、エルモア地方では常識のように横行しているのです。
 戦争で戦うのは主に騎士や軍の兵士たちです。こういった者たちの中には職業軍人もいれば、戦時に徴兵されて戦地に赴く民間人、あるいは生活のために雇われて戦う傭兵たちもいます。ほんの100年ほど前までは、騎士が剣を持ち、馬に乗って戦うというようなスタイルが当たり前でしたが、現在は銃器の登場によって戦闘の仕方も様変わりしています。
 銃器が利用されるようになってからは、重い鎧が敬遠される傾向があります。大砲や爆薬といったものに対して防具はほとんど役には立たず、むしろ逃げるためには邪魔になるばかりです。しかし、それは戦場においてだけのことです。野外に生息する変異体の中には、銃器を使用したとしても、1度や2度の攻撃では倒れないものも多くいます。また、もとより銃器による攻撃が通用しないものも存在するのです。このような怪物と戦う時には、身を守るための鎧は必須の装備です。


○冒険者

 『冒険者』とは総称であり、戦わずに探偵のような仕事を請け負う者もいれば、地図をつくるために秘境に入り込む『探検家』、あるいは魔獣や危険な動物たちを狩る『獣狩り』など、その仕事は多岐に渡っております。特に資格を必要ともせず、組織として活動しているわけでもありません。なお、冒険者と呼んでいるのは彼ら自身だけであり、一般には流れ者、何でも屋、汚れ屋などと呼ばれています。
 冒険者は特定の組織を結成しているわけではないのですが、彼ら自身のネットワークを持っています。これは一般に『冒険者組合』と呼ばれていますが、あくまでも通称であり、他の同業者組合のようなしっかりとした組織をつくっているわけではありません。冒険者組合は冒険者が立ち寄る各地の安宿屋や酒場、あるいは口入れ屋のような斡旋業者によって成り立っています。冒険者はこれらの場所で情報を集め、仕事を請け負うことになります。


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文化・社会学問・技術その他