導入

立場設定


 

立場


 シナリオの導入を考える際にまず念頭に置いておくべきは、PCの立場についてです。ここでいう立場とは、シナリオ(事件)に対してどのように関わるのかを意味します。
 セッションでは何らかの事件が発生し、それが解決されることで結末を迎えることになります。そのため、TRPGを遊ぶためには、PCは何らかの理由(動機)で事件に参加しなければなりません。しかし、キャラクターの設定次第では、事件に関与する理由が見つけられないこともあります。もし、そのような事態が予測できるのであれば、GMは参加できるだけの理由を用意するか、参加しやすい設定に変更するようお願いしておくべきです。


○当事者と第三者

 事件という観点から見た場合、キャラクターの立場は当事者と第三者に分けることができます。当事者の場合は否応なく事件に巻き込まれることになるため、プレイヤーは何も悩む必要はありませんが、第三者の場合はシナリオに参加するだけの理由が必要となります。
 実際にシナリオをつくる場合、PCが第三者として事件に関わるシナリオの方が作りやすいでしょう。キャラクター設定によっては当事者となるシナリオも簡単につくれるでしょうが、繰り返し同じPCを使う場合は、そう何度も当事者として事件に巻き込まれるのは不自然でしょうし、プレイヤーが飽きたり不満に思うことも多いものです。
 第三者的な立場での参加は、必ず事件に関わるだけの理由が必要となります。一般的には、職業的理由、金銭的理由、性格的理由から事件に参加することになるでしょう。あらかじめPCが設定されている場合は、GMはそれらを考慮してシナリオを作成しなければなりません。GMはPCの職業や経歴といった設定に目を通し、それに相応しい導入を考えてあげましょう。もちろん、キャラクター同士の関係や、NPCとの関係を利用してもよいでしょう。


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設定


 シナリオに関わるためには、必ず何らかの動機が必要となります。非日常の出来事、中でも危険が伴いそうな厄介事に関わるためには、それなりの理由を用意しなければならないのです。なぜPCが必要になるのか? なぜ事件に関わることになったのか? これがなければ、シナリオを始めることすらできなくなってしまいます。


○使命性

 PCをセッションに参加させるためには、一般には押しと引きというテクニックが用いられます。押しというのは、PCを事件に関わらざるを得ない状況に追い込む手法のことです。引きというのはPCの前に興味を引くような題材を提示し、自発的に動くよう誘導する手法のことです。この2つとは別に、プレイヤー自らが題材を作り上げ、積極的にセッションに参加する状況もありますが、これはあまり一般的ではありません。


▼押し
 押しによる導入で問題になるのはPCに与えられる使命の内容です。PCにとって使命性を帯びた状況があれば、プレイヤーはゲームに参加するのが容易となります。しかし、PCにとって本当に圧力がかかる状況でなければ、その状況は何の押しにもならないわけです。
 命を狙われるなどの極限状況であれば、ほとんどのPCにとって確実な圧力となりうるでしょう。しかし、単発のセッションであればよいのですが、同じキャラクターを何度も使う場合には、似たような押しを延々と繰り返すわけにもゆきません。PCにとってもそれは不自然な状況ですし、プレイヤーにもいずれ飽きがきたり、選択の自由のなさに不満に感じるようになることもあります。ですから、GMは押しに頼って強引に話を進めるばかりではなく、PCの立場やプレイヤーの嗜好をよく理解し、色々な設定や状況を利用して積極的関与を引き出すよう努めなければなりません。これは導入に役立つばかりではなく、PCの様々な要素や魅力を引き出す手助けともなるものです。


▼引き
 引きの問題は、基本的にそれ自体は何の強制力も持っていないということです。つまり、よほど興味を引くような題材か、それによって何らかの利益が見込める場合でなければ、積極的に関わるだけの理由にはならないのです。つまり、事件に関与するデメリットに対して、それを補うだけのメリットを提示する必要があるということです。
 また、引きの内容によっては、プレイヤーが事件に関わりたくてもPCの立場を考えると、積極的に関与することの方が不自然に見える場合もあります。押しと同様、そのPCがどのような人間であるかを理解しなければ、引きという手法は意味を為さないのです。


▼バランス
 押しと引きは、それぞれ単独で用いなければならないものではありません。金銭的に困窮している時に依頼を受けたのであれば、内容を選り好みしているほどの余裕はないでしょう。また、家族や恋人が悩みを抱えているのを知れば、頼まれなくても力を貸すというのがごく当たり前の対応です。
 押しだけというのは不満を生みやすいものですし、引きだけでは取っ掛かりを探し出すのに苦労することがあります。押しと引きの要素を適度に織り交ぜておいた方が、実際のセッションではうまく機能するものです。


○導入のタイプ

 実際に状況として起こりうる導入のタイプとしては、依頼型、巻き込まれ型、自発型の3種類に分類されます。


▼依頼型
 金銭、情、人間関係、取り引き、立場といったものが依頼を受ける理由となります。脅迫や命令といった非常に強い拘束力を持つ導入も、この依頼型の導入に含まれます。
 依頼型でも、使命としてより強い立場からの依頼を受ける場合は、事件に関与する理由を考える手間が省けるので、初心者プレイヤーが相手の時やセッションの時間が短い場合に適しています。逆に、知り合いの頼みなど弱い強制力しか与えられない場合は、それなりに周辺状況を整えてやらなければならないでしょう。
 なお、依頼型のシナリオの場合、正統な報酬や満足が得られないような結末を迎えるのは、プレイヤーに不満を与えやすいので注意するべきでしょう。正当な依頼だと思われたものが実は…というパターンも、何度も繰り返すべきではありません。そのうち、PCやプレイヤーが警戒して依頼を引き受けなくなったり、よけいな疑念を持つことによってセッションが滞るなど、何らかの不具合が生じる可能性が高くなります。


▼巻き込まれ型
 文字通り、何らかの状況に巻き込まれることで事件に関わることになります。このタイプも、依頼型と同様に強制力の強いものと弱いものがあります。
 強制力の強いものとしては、身に覚えがないのに何者かに狙われたり、雪の山荘など閉鎖された状況に置かれるなどの場合があります。これらは他人に頼らず自力で解決しなければなりませんから、必然的にシナリオに参加することになります。他にも、濡れ衣を着せられたり、目覚めると隣に死体が横たわっていたり、知らないうちにポケットの中に何かが入っていたり、といったパターンがあるでしょう。
 強制力の弱いものは、身を引けば逃れることも不可能ではありません。ちょっとしたいざこざや、懇願されて仕方なく頼み事を引き受けたりといった程度では、必ずしもPCが自分で動かなくても事件が解決する可能性が高いものです。
 いずれにしても、このタイプのシナリオはGMの強制力が強いことから、プレイヤーの理解が必要となるでしょう。選択の余地がない状況に対しては、プレイヤーは不満を抱きがちなものです。このような導入を用いる場合には、PCの義務感といった性格的要素を利用したり、不満を抱く余地を与えないようなスピーディな展開で危機感を煽るなど、何らかの工夫が必要です。
 この他にも、幾つかの展開を考えておいてサイコロでランダムに決定したり、結果だけを予め準備して置いて、そこに至る過程をプレイヤーの自由な発想にゆだねる、といった方法もあります。制限の枠が存在していても、自分で選択する余地がわずかでもあれば、プレイヤーの不満というのはずいぶん和らぐものなのです。


▼自発型
 PCが自分から動いて事件に関わって行く場合です。情の深い人間や知的探求心が強いタイプなど、キャラクターのパーソナリティを設定する時点から、それなりの配慮が必要となるでしょう。
 このタイプの導入を用いる場合は、プレイヤーが自発的に動くことを期待して待つのは避け、なるべくプレイヤーの協力を予め取り付けておくべきです。というのは、PCに対してGMとプレイヤーが全く同一の認識を持っているわけではないので、必ずしもGMの思惑通り事が進むとは限りません。また、特定の行動を取ることを規定してシナリオを組むというのは、GMによる行動の押しつけであると同時に、PCの性格設定に対する過度の干渉でもあるため、相手を不快にさせる可能性が高いものです。
 ただし、その他の導入を選択した場合でも、プレイヤーが自発的に動くための理由や、選択の余地を残しておくのは悪いことではありません。その方がPCの個性を発揮しやすくなりますし、問題を解決した時の達成感(爽快感)がより増すことでしょう。


○注意点

▼目的の提示
 課題は誰かの意図によるものであったり、事故や自然災害のように全く偶然に生じることもありますが、わずかでも事前に目的を知らされていた方が、プレイヤーとしてはシナリオに参加しやすくなります。もちろん、真相や裏の意図を明かす必要はありませんし、シナリオの途中で気づくという展開に問題があるわけではありません。


▼複数のルート
 導入のためのルートは複数用意しておいた方がよいでしょう。1つしか用意しておらず、それにプレイヤーが全く興味を示さなかった場合、それでセッションは終了してしまうのでしょうか? あるいはどうしても納得できないような条件であった場合でも、プレイヤーはそれを断る権利はないのでしょうか?
 GMは依頼などメインに考えている導入の他にも、セッションにキャラクターを引き込むネタを幾つか用意しておくべきです。ただし、1人のPCが絡めばその仲間も引き込めるので、必ずしもキャラクター全員に導入を準備しなければならないわけではありません。


▼参加理由の選択
 ゲームに慣れたプレイヤーや、あるいは日頃からよく一緒に遊んでいるプレイヤーを相手にする場合は、予め事件に関わることを前提として参加して貰うのもよいでしょう。この時は、どのような経緯で事件に関与することになったのかを、プレイヤー自身に考えて貰うことで、そのPCの性格や考え方を周囲に理解させる手助けとしたり、プレイヤーの満足度を高めることが出来ます。なお、これによって導入を省略することで、ゲームのその他の部分により力を入れることが出来るという効果もあります。


▼関与できない理由
 複数の導入を提示したにもかかわらず、ゲームに参加しようとしないキャラクターがいる場合は、何故に躊躇しているのかを尋ねるべきでしょう。キャラクターの設定が問題となっているのならば、プレイヤー自身に関与するための理由を考えて貰ったり、仲間に助けてもらうなどの手段があります。また、とりあえず参加してもらって、最後にセッションの結果に応じて理由を後付けするという方法も考えられます。


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