司会進行役/情報

情報の提示情景描写伝達ミス


 

情報の提示


 GMはプレイヤーに対して、判断の手がかりとなる情報の伝達を行わなければなりません。さもなければ物語が進行することはなく、プレイヤーは何を行ってよいのかわからず、途方に暮れてしまうことになります。


○情報の例

 以下に、PCが必要とする情報の例を挙げておきます。


 ・PCの目的/セッションの課題
 ・PCのできること/得意なこと
 ・PCにできないこと/苦手なこと
 ・PCの立場と権限/果たすべき義務
 ・PCと周囲との関係/認識
 ・PCのやってはいけないことと、それをした場合の危険性
 ・PCが置かれた状況/場所の情報/周囲の情景
 ・PCが利用できる資源(物品、資金、人脈など)
 ・世界の常識/現実との違い
 ・予測できる危険/敵の存在
 ・支援者の存在/援助の範囲
 ・推測に必要な情報
 ・PCの行動によって起こりうる状況(結果の予測、危険性など)


○目的の説明

 PCが何をすべきかを伝えることで、プレイヤーはようやく行動を選択することが可能となります。これは依頼によってNPCから伝えられることもありますし、直接伝えないままPCを誘導することもあります。


○状況の説明

 PCがどのような状況にいるのかを説明しなければ、目的がわからない場合と同じく、プレイヤーは判断に困ることになります。
 状況の説明は丁寧に行う必要があります。与えられるべき情報を与えないまま危機に陥ったりすれば、プレイヤーたちはその状況に納得することはできませんし、セッションの崩壊という取り返しのつかない事態にもなりかねません。


○可能な行動

 プレイヤーが行動を選択するためには、PCに何が出来て何が出来ないのか、あるいは何をしてはいけないのかを把握している必要があります。GMはその状況において、どのような技能が使えるのかを教えたり、必要があれば世界における常識などを説明しなければなりません。


○手段の提示

 情報の入手ルートや、その時に取りうるべき最適の手段などについては、基本的にはプレイヤーが気づくべき要素であり、こういった手段を考えることもプレイヤーの楽しみでもあります。プレイヤーの判断ミスで情報の入手に失敗していたり、PCの行動(判定)の失敗によって気づかなかったという場合は、セッションが停滞するまでは安易に情報を渡す必要はありません。
 しかし、世界観やプロとしての常識などがわからないために、妥当と思われる行動を失念している場合には、セッションを進行させるために適切な情報を与える必要があります。ただし、なるべくであれば判定を行って成功した場合に教えるなど、何らかの手段を介した方がよいでしょう。直接教える場合でも、選択肢として提示するなどの工夫を行って下さい。


○可能性の示唆

 GMはプレイヤーが気づいていないようならば、利用できる物品や人脈、情報を手に入れられそうな場所、予測される危険、選択した行動のメリットやデメリットを教えてあげなければなりません。これらもPCの取りうる手段と同じように、なるべくであればプレイヤーが自分で気づく方が理想的です。


○選択肢の提示

 プレイヤーが何をしたらいいかわからなくなり、セッションが停滞している場合は、GMの方から幾つか選択肢を提示するというのも1つの手段です。この時、常識でわかる範囲であれば、それぞれの手段のメリットとデメリットを教えて、判断の材料にさせて下さい。


○質問と返答

 情報が不足している場合、当然のことながらプレイヤーはGMに質問を行います。GMはプレイヤーもしくはPCが知りうる限りにおいて、質問には正しく答える義務があります。その情報を得るために判定が必要である場合は、ルールに従って判定を行わせて下さい。また、シナリオの都合などで明確に答えたくない場合は、ぼかして答えたりヒントを与える程度にとどめても構いません。
 プレイヤーが行動の選択に迷っているようであれば、何が理由で躊躇しているのか、何の情報が不足しているのかを尋ねて下さい。たとえ小さな疑問であっても、セッションの進行を滞らせる大きな要因になる場合もあります。


○注意点

▼話し方
 GMだからといって特別な話し方や、うまい演技といった技法が必要となるわけではありません。ただ、はっきりと正確に物事を伝えるよう心がけて下さい。


▼伝達ミス
 これを避けるためには、言い忘れてはいけないことを箇条書きにして、シーンごとにまとめておくなどの対策があります。また、プレイヤーからの質問も受け付けて、相互に情報の伝達ミスを少なくするよう努力して下さい。
 もし言い忘れても、他のシーンで回復できるのであれば、平然とした態度を取りながら後で別のルートから伝えたり、素直に言い忘れたことを告げて情報を追加してやれば済むことです。


▼誤解
 PCが手に入れた情報が、必ずしもGMと同じようにプレイヤーに受け止められているとは限りません。情報に対する誤解によってシナリオが進まなくなるという事態は、TRPGのセッションではよくあることなのです。ですから、GMはPCの立場に立って、与えた情報を整理してみることが肝心です。必要な情報が与えられない場合と同様に、情報が正しく与えられていなければ、プレイヤーは妥当な判断を導き出すことは出来ないのです。


▼推理の材料
 推理のために必要な基礎情報などは、それを入手するイベントがある場合は別ですが、そうでなければなるべく早いうちにPCの手に渡す必要があります。


▼存在しない可能性
 GMは存在しないものについての扱いにも気をつけなければなりません。見つかる可能性がないのにいつまでも捜索を行ったり、何もない場所の探索に時間をかけても仕方ありません。分かれ道をつくった場合でも、何もない方の分岐路は行き止まりにしたり、全く関係ない場所に到達するなど、それが間違った選択であったことを示唆する情報を与えてやる必要があります。


▼脅威の伝え方
 GMは予測しうる危険性についての情報も与える必要がありますが、その脅威や被害の度合いをあまりに誇張して伝えると、プレイヤーの想像の中でその存在が誇大化され、萎縮して行動が制限されてしまう可能性もあります。ただし、それに対抗できる手段の存在を示唆するだけでも不安は緩和されますので、表現の仕方を間違ってシナリオが進まなくなった場合には、危険の度合いが相対的に低く見えるようにする情報を与えるとよいでしょう。


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情景描写


 GMは情景の描写を行い、プレイヤーたちにPCの周辺状況を伝達します。プレイヤーは自身の感覚でPCの把握している情景を感じることは出来ませんから、GMが説明しなければ暗闇の中に置かれているのも同然となります。


○五感による描写

 生き生きとした情景描写を行うためには、PCの五感で感じる全ての情報に気を配らなければなりません。町の風景や天気の状態、人々の話し声、出会った人の表情や服装、周囲に立ちこめる匂いや音、あるいは景色から与えられる雰囲気など、プレイヤーに異世界の空気を感じさせるためには、様々な方向からの描写が必要となります。場合によっては、殺気や第六感による情報さえ描写することもあるでしょう。
 とはいえ、常に詳細な描写をしなければならないわけではありません。実際に必要なのはシナリオを進めるために役立つ情報であり、その1つとして世界の描写があるわけです。人間が手に入れる情報の全てを事細かく描写していては、いくら時間があっても足りませんし、プレイヤーもその冗長な説明にやがてうんざりすることでしょう。
 雰囲気を伝えるだけでよい場面では、現実世界で似た場所があればそれに例えるのも1つの手段ですし、写真などを用意しておけば風景描写を簡便に済ますことが可能となります。位置関係などについては、紙に絵や図を書いたりして説明すればよいでしょう。


○描写技法

▼簡潔な描写
 GMが与える情報は、プレイヤーにイメージできるものでなければ意味がありません。イメージの共有ができていない場合は、その描写が無駄になるばかりではなく、誤解によってシナリオの展開が誤った方向へと進んでしまう可能性もあります。
 まず、与えるべき情報は要点だけを印象的にまとめておきます。そして、描写する際には簡潔でわかりやすい表現を心がけ、よほど重要で印象づけたい場面以外では、なるべく短い言葉で描写を行って下さい。


▼共有イメージ
 プレイヤーにイメージを喚起させるためには、知っているものをうまく織り交ぜて、想像の手助けをしてやる必要があります。表現に凝って詩的な描写などを行っても、プレイヤーに情報が正確に伝わらなければ意味はないのです。


▼ぼかす
 対象の具体的な性質や数値をあえて表現に含めないことで、プレイヤーのイメージを膨らませる手法もあります。
 我々が実際に何かを目にしている時は、そのものの詳細なデータを受け取っているわけではありません。特に大きさ、速さ、距離といった要素については、自分の身長や歩幅など基準となるものの比較によって対象を把握していることが多いのです。また、現実の世界に存在するものをたとえに用いると、異世界のイメージを損なってしまうこともあるのです。GMは必ずしも詳しい描写をしなくてもよいということを覚えておくとよいでしょう。


▼風景描写
 風景の描写を行うことで、そのシーン全体のイメージをコントロールすることが出来ます。映画やドラマではよく行われることですが、緊迫した場面では強い風を吹かせたり、憂鬱な心情を表現するために雨を降らせるといった手法があります。特に光の陰影を細かく描写することで、この効果を強調することが出来ます。


▼日常生活の描写
 プレイヤーに仮想世界の有り様を伝えるには、日常風景の描写をどこかで行うよう心がけるとよいでしょう。この時は、現実世界との共通点と相違点を意識して描写してみて下さい。共通点があればより具体的なイメージが可能ですし、相違点はその世界独特の雰囲気を認識させるのに役立ちます。


▼色の描写
 色が喚起するイメージを利用することで、風景や対象を強く印象づけることが出来ます。ただし、この時に示す色の名前は、普段使っているわかりやすいものでなければ逆効果となります。また、1つの場面で複数の色を強調するのも、イメージを散漫にしてしまうため効果が薄れてしまいます。


▼沈黙による描写
 描写を行わないことで、張りつめたシーンの雰囲気を演出したり、恐怖感を煽るといったことを期待することが出来ます。


▼ヒントの混在
 情景描写の中にさりげなく推理に必要な情報を混ぜたりするのも1つの手法ですが、プレイヤーは通常このような情報に特別気を配ることはないため、簡単に忘れてしまうものです。ですから、凝った伏線を張るのはなるべく避け、気づけば有利になるという程度に押さえておきましょう。なお、どうしても気づいて欲しい場合は、その対象について違う表現を使って何度も描写を繰り返したり、違和感を感じさせるような表現をするよう心がけて下さい。


 情景の表現の仕方には様々な方法がありますが、描写力は語彙の豊富さに頼るところが大きくなります。同じようなシーンを表現するにしても、違った言葉で描写を行うことにより、その情景を新鮮なものに感じさせることも可能なのです。
 情景描写の参考になるものとしては、小説などの文学作品が挙げられます。これらの作品から気に入った表現を借りてくるなどして、少しずつ使える語彙を増やしてゆくとよいでしょう。また、描写の仕方の参考とはなりませんが、情景や場面そのものをストックしておくために、映画や写真集などの映像作品やドラマや演劇を見るのもよいことです。


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伝達ミス


 情報の伝達ミスによって、セッションの進行が行き詰まってしまうこともあります。プレイヤーがミスしている場合は、GMが何らかのフォローは行うにせよ、原則として自身の責任としてセッション内で努力してもらいましょう。しかし、GMのミスによってセッションが停滞することは、セッションの管理者として絶対に避けなければなりません。


○名前の間違い

 NPCや物品、場所の名前などを間違って伝えてしまうことによって、情報の認識に混乱が生じる場合があります。NPCが多く出たり頻繁に移動を繰り返すことが予めわかっている時は、最初から予告しておいてメモを取るようにしてもらいましょう。同時に、頭文字を必ず変えたり同じような響きの名を使わないなど、混乱するような名前を避けるよう気を配って下さい。また、NPCごとに情報をまとめたカードを作成したり、簡単なものでもよいので地図を書いて与えることで、こういったミスを少なくすることが出来ます。


○渡し忘れ

 大事な情報を渡し忘れることによって、課題をうまく解決できないこともあります。これを回避するためには、事前にシナリオを繰り返し読んで、重要な情報や分岐条件をよく把握しておかなければなりません。また、シーンやシナリオのクリアに必須とされる情報やイベントをシーンごとにまとめておき、そこを必ずチェックするようにすることで、こういった問題を回避することが出来ます。これらの注意を払った上で伝達ミスが起きた場合には、後のシーンでどうにか回復するしかないでしょう。
 ミスが起こった場合でも、決して焦る必要はありません。まずは落ち着いてシナリオを見直し、NPCを利用して他のルートから情報を渡せないかを考えます。使えそうなNPCがいない場合は、シーンの順番を入れ替えたり、あとからイベントを挿入することで対処するよう努めましょう。どうやっても回復できそうにない場合は、素直にミスを認めてプレイヤーに謝り、後で伝え忘れた情報を追加するやり方もあります。


○情報の過多

 情報が多すぎてプレイヤーが混乱したり、過剰な描写が多すぎて本当に必要な情報が把握できなくなる場合もあります。


▼作成段階での注意
 過剰な情報による混乱というのは、起こってしまってから回復するのは非常に難しいものですから、シナリオの準備段階で対処しておくべきです。シナリオはコンパクトな形でまとめておき、最小限の情報で解決できるような公正を心がけましょう。


▼メモ
 与える情報が多く混乱が予測できるシナリオでは、必要な情報をまとめてメモしておき、伝え終えた段階でメモを渡すといったやり方もあります。この場合、シーンや時間単位で情報を区切り、その重要度を基準に個別のメモてまとめておけば、シナリオの進行状況に応じて整理された情報がプレイヤーに渡ることになります。もし、同じメモに見られたくない情報が書いてあった場合は、マジックなどで塗りつぶして渡せばよいでしょう。


▼セッション内での回復
 この問題をセッション内で回復するには、GMが情報の整理を手伝ったり、余計なことを言わないよう努めるしかないでしょう。
 また、GMの側でも情報や伏線を忘れてしまい、シナリオに矛盾が生じてしまう場合もあります。これは後から設定を追加もしくは取り消す事で、つじつまを合わせるというやり方がありますが、それによって新たな矛盾を生み出す可能性も考えられます。ですから、こういった場合は素直に謝って訂正するのが、解決への一番の近道かもしれません。


▼情報収集の切り上げ
 納得ゆくまで情報を集めてからでないと、実際の問題解決に動こうとしないプレイヤーも存在します。しかし、これは無駄な時間を使うことになりかねませんし、他のプレイヤーに迷惑をかける可能性もあります。ですから、場合によっては、必要な情報が揃ったら適度なところでシーンを切り上げて、物語を進行させる決断をしなければなりません。


○秘匿情報

 何かの拍子に間違ってシナリオのネタや、プレイヤーが推測するべき情報をあかしてしまうこともあります。その時は決して慌てず、さほど重要ではないフリをして流してしまいましょう。これが原因でシナリオの修正を迫られることもありますが、余計な手を加えることでシナリオに矛盾が生じたり破綻する可能性もあります。ですから、大規模な修正はなるべく避け、本当にどうしようもない状況でのみ、最小限の改変で済ませるようにして下さい。


○設定を忘れる

 キャラクターが保有している技能や物品の存在を忘れていたり、前に渡した情報のことを失念している場合もあります。
 これによって起こる問題としては、シナリオの課題が簡単に解決できてしまったり、データバランスが崩れることが考えられます。この場合、その場で敵などの障害を追加したり、課題の解決方法を変更するという手段もありますが、可能であればこういった修正方法は採らない方がよいでしょう。本当に最後の場面でもなければ、後のシーンに新たな課題を追加して全体のバランスを取る方が、問題は起こりにくいものと思われます。


○ミスの利用

 GMのテクニックの1つですが、伝え間違ったフリをして強調したい情報を再確認させる、という方法があります。この時、本当に間違った情報を伝えておく必要はなく、間違っていないかをプレイヤーに確認するだけでも、十分に効果を発揮します。間違いをわざわざ訂正するということは、それがシナリオと無関係ではないことを意味しますから、プレイヤーがそれに感づいてくれれば、あからさまなヒントを出さずに誘導を行うことが可能となります。これは直接的な誘導以外に、伏線を張る時にも利用することが出来ます。
 ただし、この手法を多用するのは避けるべきでしょう。単にミスが多いGMと思われても意味がありませんし、本当に強調したい情報が他の情報に紛れてしまい、逆効果となることもあります。


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情報の提示情景描写伝達ミス