生命秘学の分野で用いられる薬物や実験用品で、生物が生産したものが多くを占めます。
▼ジフリンスの震針
白金鼠(プラチナラット)のもつ針で、様々な種類の金属成分が含まれていますが、錬金術の世界では白金質の針のみが用いられます。これを細く削り出し、霊液につけたり螺旋を彫り込むなどの加工を施した後に、ようやく震針として利用することができるようになります。通常は10回程度の利用で螺旋溝が削れてしまい、役に立たなくなってしまいます。
▼ユーイングの緑縫液
核型を抽出する際に使われる固定液で、その名の通り透明な薄緑色した薬液です。これはバブリー・ブロブと呼ばれる生物から抽出した粘液に、幾つかの無機成分を加えて作製します。
▼天使の髄液
実際に天使からつくられた薬品ではなく、エンゼル・ツリーと呼ばれる樹木の実からとられる麻薬のことです。これは痛覚を麻痺させる効果を持ち、麻酔のかわりに利用されています。なお、エンゼル・ツリーとは錬金術師が品種改良して作り出した木で、葉の上面に細かい起毛が生えており、光を当てると白い翼のように輝いて見えることから名付けられました。
▼アルカンタラの透硝子
核型を水晶板のような形で結晶化する際に用いられる結晶剤で、アルカンタラの透硝子と呼ばれています。数か月ものあいだ一定温度を保ち続けるため、長期保存のために利用されます。これはユークレイの凍湖から取れる氷を霊水に溶かし、さらに氷晶液と呼ばれる薬液を混合して作製します。氷の量を加減することで、温度を変化させることも可能となります。ただし、満月の夜にしか作製できません。
なお、これはカイテインの永久氷壁によく似た結晶構造であることが知られていますが、永久氷壁の生成原理について調査されたことはありません。
▼メルエトセラの絹糸
カビのような性質を示す繊維状の微細生物で、移植先の生物体の組織と融合し、最終的には神経細胞と同等の働きを示すようになります。ただし、自然界で生息している状態ではこのような性質を示すことはなく、適切な段階を踏んで培養する必要があります。生物秘学を学ぶ集団はこれを継代して培養を続けており、いつでも使用できる状態で保管しています。
▼ポリニウス粉
変異虫と呼ばれる生物の細胞から抽出した分泌物質を精製し、乾燥させたものです。免疫抑制物質として働き、核型を対象生物に融合させる際に用います。なお、変異蠱の細胞は、サカー・ドロップ(肉柱)と呼ばれる生物の細胞と融合させて培養しているので、錬金術師はいつでもこれを利用することができます。
▼レティス=モリエルの卵
錬金術師レティス=モリエルが造りだした最高傑作と言われる、モリエル=アネモネという蛸のような多足軟体動物が存在します。この生物は子宮内に粘液を分泌する肉の網を張り巡らせ、そのまま寄生生活を行います。これが生み出す卵がレティス=モリエルの卵であり、固い殻を持つためモリエル殻胞と呼ばれることもあります。殻に守られていることから乾燥に強く、数年の間は卵の状態で保存しておくことが可能です。
▼生命のエリクシル
トライホーンと呼ばれる動物の角を薬液に溶かし込んだ液体で、特定の薬液と混ぜることで病気や傷を治癒する薬品となったり、細胞の増殖や成長の制御などに利用することが可能となります。古くから存在する薬液でありながら未知の要素が多く、錬金術師にとっても未だ判別しかねる存在となっています。トライコーンの絶対数が少ないため、錬金術師にとっても非常に手に入りにくい薬品であり、よほど明確な目的がなければ利用されることはないようです。
▼生命金属
生命金属、自律金属、活動金属などと呼ばれる奇妙な存在で、金属でありながら生命体のような特定構造や機能を有しています。これは様々な無機物や化合物を内部に取り込んでおり、特定パターンを示す回路のような構造を持っています。そして、酸化・還元といった反応で生じるエネルギーを利用して活動することができるようです。
錬金術師たちがミズガネと呼ばれる生命金属の生命図形を分析したところ、一部の生物の図形とよく似た構造を持っている場合があることから、錬金術師の間では生物の形質を持つ金属というように認識されています。ただし、その活動は非常にゆっくりした速度で行われるもので、また、一般社会では生命図形というもの自体が知られていないため、普通の人間でこれが活動体であると気づいている者はおりません。
▼ミズガネ(水鉄)
最初に発見された生命金属で、水銀のような性質を示します。ミズガネは水鉄層と呼ばれる地層の一部から採取されるもので、かなり深い地層からでないと発見されません。しかし、錬金術師はこれを培養して保存しているので、実験に用いるのに困ることはないでしょう。なお、記録上ではミズガネの死が確認されたことはありませんが、増殖速度は非常に遅いため、1人の錬金術師が大量に所持していることはありません。
▼有機連結金属(連結金属)
有機物同士や有機物と無機物の間に入って、相互を連結する性質を持つ特殊な金属で、有連金属と呼ぶこともあります。また、タンパク質の高次構造に影響を与え、その機能を変えるという性質も持ちます。これらの機能は金属分子の状態で発揮されますが、その他の部分については通常の金属と同じであるため、一般には全く存在を知られておりません。
これは金属化(銀化など)の特殊能力を持つ、一部の生物のみが生産することができます。たとえば、ギンカンナやギンエンドウと呼ばれる植物に含まれる銀や、プラチナラットの針などが、この有機連結金属であることがわかっています。
▼テロエラの記憶
粘菌によく似た性質を示す微細生物の分泌物のことを言い、通常は記憶物質と呼ばれています。この微細生物をテロエラ・ステーツと言いますが、これは群体をつくって活動し、群体の中心部に位置する一部の細胞が記憶物質を産生し、内部に保持してゆくことが知られています。
テロエラ・ステーツは環境から信号を受け取り、それを物質化した記憶(記録)として蓄積してゆきます。テロエラ・ステーツの群体を光輝水と霊水の混合液内に添加しておけば、生命図形を記憶物質に憶えさせることができるのです。
記憶物質自体は顕微鏡を用いなければ見つからない微少な顆粒です。実は錬金術師も知りませんが、発見されている顆粒自体もさらに微小の顆粒の結合体で、タンパク質と有機連結金属で構成されています。これらの結合の組み合わせが顆粒状物質の立体構造を規定し、それが情報の種類を示すのですが、そのことは現在のエルモア地方の技術では知ることはできません。
なお、テロエラ・ステーツ自身は情報を蓄積するだけの能力しか持ちません。また、光や振動、あるいは磁気や電磁波を受容することはできても、高等生物ほど複雑な情報を解析する能力はありません。そのため、他の目的で記憶物質を利用する場合は、テロエラ・ステーツを他生物に組み込むことで、より複雑な内容を記憶物質に記録させます。
▼エヴィラモニデスの生命芽細胞(生命芽)
エヴィラモニデスの萌芽筒と呼ばれる、生命秘学の分野で開発された機械装置を使って生み出される細胞群です。生命芽細胞を作り出す作業には約1か月ほどの時間がかかります。
電気を用いた多段階の過程を経て、既存生物の細胞と無機成分を反応させ、核のない特殊な細胞を生成します。この細胞群はいかなる細胞性生物とも簡単に親和し、接触した細胞の核の情報を得て分化を行います。これは主に治癒や器官の創造などに用います。なお、無核状態での寿命は非常に短く、せいぜい1日ほどで死滅してしまうことになるので、多くの場合は凍結して不活性状態のまま保存しておくことになります。
▼ペイメリンの腐敗蛆
ペイメリンの白蝿と呼ばれる合成生物の幼生で、特殊な薬液で成虫への変態を停止させて用いるものです。この蝿はロッツ・ドロップと呼ばれる変異生物の細胞を融合させてつくった生物で、幼生でいる間に限って特定の物質を腐敗させる能力を持ちます。本来、ロッツ・ドロップは生物、非生物を問わず何でも腐らせてしまいますが、腐敗蛆は孵化してから数時間の間に餌として与えられた物質のみを、選択的に腐敗させます。
▼ダンブルズノイアーの生命血液
複数種類の有機連結金属を人間の血液に取り込ませ、培養を繰り返して生み出された特殊血液です。これは数年前に開発されたものであるために、まだそれほど研究が進んでおりませんが、これを注入した人間の免疫機能や治癒能力を強化させたり、細胞を未分化状態に戻すなどの作用を示すことが報告されています。連結金属や薬液の組成によっても効果が異なるようですが、組み合わせによっては人間を怪物に変身させたり、瞬時に絶命させてしまうこともあるらしく、まだうまく制御できる段階にはないようです。
▼光輝水
北方のカルネア領フリスタスの西島に流れる水で、光を放つ性質を持つことで知られています。この水は特に生物に害を与えることはなく、ビンに入れてランプ代わりに使われています。
この水は光をため込み、時間をかけてゆっくりと放出することができます。ためこんだ光量は元の半分ほどしか放出できませんが、蓄積するために費やした倍の時間もちます。自然界で採取してそのまま用いる場合、光は約1日で失われ、普通の水に戻ってしまうと考えられています。
しかし、一般には知られていないことですが、残った水と霊水を混ぜると再び光を放つようになります。この場合、光が持続する時間は、混合した霊水の量に比例します。
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