霊刻魔儀

基本技術開発利点と問題点霊魂


 

基本


 『霊刻魔儀』は旧コロニー勢力が開発を進めていた特殊な科学魔道技術のことで、無機生物を霊的回路に利用することから『刻命魔儀』と呼ばれることもあります。


○目的

 魂霊子(精神場が保持する霊子)を用いて科学魔道の機械を動かす目的で開発されたもので、そのために霊子を消費して活動する『霊子蟲』と呼ばれる無機生物を利用します。


▼緩衝流
 魂霊子を利用するのは、『緩衝流』(ユーカリヲン)という異常霊子の影響を回避するためです。緩衝流は星界に吹く風のようなもので、これによって霊子機器の異常や完全停止といった事態が発生し、星界での活動に大きな影響を与えておりました。しかし、魂霊子はこの影響を一切受けず、『緩衝帯』(ユーカリヲン・カーテン)と呼ばれる異常霊子の壁の近くでも、自由な活動が可能でした。
 緩衝帯はトリダリス星から半径100万kmの空間を完全に覆っており、人々は生息域の拡大を断念するしかありませんでした。そのために、優れた科学魔道の技術で人口を増大させた人類は、閉ざされた箱庭で領有空間を確保するための戦争を行う羽目になるのです。世紀間戦争と呼ばれる争いの最中、旧コロニー勢力の幾つかの国家において、後に霊刻魔儀と呼ばれる新技術の開発が進められました。しかし、彼らが目指すところは1つではなく、戦局を優位に進めるための兵器開発を目論む勢力と、あくまでも緩衝帯の外域を目指すことを目標とする者たちがいたようです。


○技術

 霊子を活動エネルギーとする無機生物を霊的回路に組み込むもので、これには星界蟲の細胞から誕生した『霊子蟲』という微小生物を用います。この無機生物は無機物および有機物のいずれとも結合でき、霊子エネルギーと構成物質の補給さえ行うことが出来れば、結合状態のままでも生命活動を維持することが可能です。この性質を利用して、刻印を施す導霊物質(霊子を伝導する物質)と霊子蟲を混合し、霊的回路を形成するのが霊刻魔儀の基本技術です。あとは霊子蟲に霊子物質や生物を接触させて霊子を与えれば、自動的に魔道回路が発動して、霊的効果を生み出すことが出来ます。このようにして霊的回路を組み込んだ無機生物の混合材質のことを、『生命刻印物質』(ライフ・カービング・マテリアル)あるいは『刻命物質』と呼んでいます。


○呼び名

 霊刻魔儀もしくは刻命魔儀といった場合は、無機生物を霊的回路に組み込む魔導技術全般のことをいいます。魂霊子を利用する技術に関しては魂霊魔儀と呼んでいます。


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技術開発


 霊子蟲を内部に含む生命刻印物質を作製し、魂霊子をエネルギーとして魔道回路を発動させるのが、霊刻魔儀の手法であり開発目的となります。


○霊子蟲

 霊刻魔儀の技術に利用されている『霊子蟲』は、星界蟲の細胞から開発された微小生物のことで、ケイ素や真砂(ケイ素の導霊物質)を主要な構成物質とする無機生物です。これは星界蟲の研究を行なう過程で偶然に誕生したものだったのですが、後に科学者たちから高い注目を集めることになります。


▼特性
 星界蟲の細胞由来である霊子蟲は、その機能・特性を殆ど受け継いでいます。しかし、一部の遺伝情報を改変してあるので、集合しても星界蟲のような形態になることはありませんし、新たに獲得した機能も持っています。
 
◇霊子吸収
 霊子蟲は環境中にある霊子だけでなく、精神場に含まれる魂霊子からも霊子を吸収し、活動エネルギーを得ることが出来ます。これは霊子を含む対象と接触することで、自動的に行なわれます。この機能が霊子蟲の最大の特徴ですが、元となった星界蟲にこの機能があるかは定かではありません。

◇結合性
 無機生物の1種であるため、無機物/有機物のいずれの物質とも結合できます。また、生命維持に必要なエネルギーと物質が供給されていれば、結合状態を維持したままでも生存し続けます。

◇増殖
 霊子蟲は微生物によく似ており、エネルギーと構成物質を取り込んで増殖を行ないます。

◇生命力
 霊子蟲は非常にシンプルな構造でありながら、過酷な環境条件にも十分に耐える優れた性質を持ちます。また、増殖条件を整えやすいため大量培養も可能ですし、エネルギーを与えなければ自動的に休眠状態に陥るため、長期保管にも適しております。

◇霊的回路
 導霊物質を自己の構成要素に利用しているため、霊子蟲を連結することで魔道回路を形成することができます。

◇群体化
 霊子蟲は群体を形成する能力を持っており、群体化した状態では統制された行動が取れるようになります。霊子蟲を連結して霊的回路を維持するためには、必ず群体化させておく必要があります。


○生命刻印物質(刻命物質)

 霊子蟲が持つ様々な特徴を利用して、導霊物質と霊子蟲を混合した物質を作製し、これに霊刻を施して霊的回路を形成するのが霊刻魔儀の基本技術です。このようにして霊的回路を組み込んだ無機生物の混合材質のことを、『生命刻印物質』(ライフ・カービング・マテリアル)あるいは『刻命物質』と呼んでいます。


▼回路起動
 霊子蟲は物質と結合したままでも、エネルギーと構成物質の補給さえ行うことが出来れば、生命を維持することが可能です。そのため、刻命物質の中で生きている霊子蟲は、霊子物質や生物に接触すれば自動的に霊子を吸収します。
 刻命物質に含まれている霊子蟲は、最初から霊的回路に接続されている状態なので、取り込んだ霊子は自動的に回路に流れ込み、霊的効果を発動させることになります。なお、霊的効果が発動した際には、回路に沿って青白い光が浮かび上がります。


▼混合利用
 霊的回路が正しく形成されるのであれば、導霊物質以外のものを混合した刻命物質を作製することも可能です。また、霊子蟲を間に介したり物理化学的作用を施すことによって、他の物質と結合して利用することも出来ます。


○関連技術

▼錬金術
 錬金術の産物の中にも、霊刻魔儀に似た技術によって生み出されたものがあります。

▼仮面
 霊刻魔儀から派生した技術の中の1つに、ペルアソニアの仮面使い(ペルソナ・マスター)が作り出す呪装仮面があります。これは霊砂と砂孔蟲と呼ばれる無機生物を材料に含んでおり、仮面に刻まれた魔道回路に応じた効果を発揮します。なお、仮面系の術法はこれから派生したものであり、霊刻魔儀とは異なる術法技術となります。


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利点と問題点


○利点

 霊刻魔儀の技術は、これまでの科学魔道に比べて以下の優れた性質を持ちます。


▼サイズ
 刻命物質(ライフ・カービング・マテリアル)は、霊子エネルギーを回路に供給する霊子蟲と、霊的回路が一体となったものです。そのため、これにはエーテル変換装置を必要としませんし、霊刻を施した刻命物質を構成材料とした動作機械は、作業部位と制御系を一体化することも可能となるため、通常の科学魔道の機器よりもコンパクトな装置を開発できます。

▼生命連結
 霊子蟲は無機物、有機物のいずれとも連結が可能であるため、機械と生命体を結合する役目を果たすことも出来ます。

▼霊子
 浮遊霊子、気体霊子、霊子物質(液体霊子、結晶霊子)、魂霊子など、あらゆる形態にある霊子をエネルギー供給源とすることが出来ます。ただし、環境中での浮遊霊子や気体霊子は非常に希薄で、これを利用して霊的回路を発動させることは不可能となり、最低限の生命維持に利用できる程度となります。

▼緩衝流
 精神場に含まれる魂霊子を利用して霊的回路を発動させた場合は、緩衝流による影響を無効とすることが可能です。なお、魂霊子の供給源である精神場と接触していない状態では、自らが精神場を形成しない限り、緩衝流の中で霊子物質を利用した回路発動を行なうことは出来ません。

▼長期運用
 疑似生命体や霊子生命体でも、緩衝流に影響されず霊的回路を発動することができます。しかし、消費した分の霊子の供給は、霊魂の自動回復作用に依存することになり、長期運用には向いた機構とはいえません。これに対し、霊刻魔儀ではいかなる形態の霊子でも利用できるため、状況に応じて供給源の霊子形態を選択し、長期運用を行なうことが可能となります。


○問題点

 これまでの科学魔道機械では、魂霊子を利用して霊的回路を発動させることは不可能であり、霊刻魔儀は科学史上に残る偉大な発見となりました。しかし、誕生からまもなくして、この技術が抱える大きな問題が発覚します。


▼精神影響
 霊刻魔儀の方式では、接触している精神場の意識作用が霊的回路に影響を与えるらしく、予想外の効果を生じることが多々あります。そればかりか、エネルギー供与を行う者の精神にも悪影響をもたらすこともあったのです。
 詳細については現在もよくわかっておりませんが、このよう問題が生じる理由というのは、無機生物が魂霊子を利用する際に、相手方の精神場に穴を開けてしまうためです。そして内外で霊子の行き来が行われたり、霊的回路が繋がってしまうことによって、相互に影響を及ぼす結果となるようです。
 これは複雑な回路を形成した際によく起こる現象であるため、科学魔道の時代に実用化されたのは簡易な技術に限られ、その効果も術法レベルのものでしかありませんでした。現在はこの現象を回避する技術が確立されておりますが、当時のコロニー勢力は本来の目的を達成することが出来ぬまま、科学魔道時代の崩壊を迎えることになります。


▼唯一存在
 コロニー勢力が完成させることが出来なかったこの技術を、唯一実戦に投入したのが『桜華民主共和国』(チェイファトラーズ)という国家です。彼らは霊刻魔儀の技術を組み込んだ『アン・ユーカリヲン』と呼ばれる巨大魔道機を実戦投入し、星界での優位性を存分に活かして、戦局を一変させてしまったのです。
 現在の東方に存在したこの国家が、いかにしてこれを実用レベルまで引き上げたのか、今となっては知る術はありません。また、本当に実用のものであったのかも定かではなく、完全な試験機体を実戦投入してしまった可能性も考えられます。というのは、アン・ユーカリヲンに搭乗していたクローン体の兵士(クロノイド)が、あるとき機体とともに基地を脱走し、実戦が禁じられている実空間へと出現するという事件が起こったからです。この突然の行動の真意を知るものはおりません。わかっていることは、アン・ユーカリヲンの出現とほぼ同時刻に、あるコロニーから浮遊大陸への超長距離霊子砲射撃が行われたことと、アン・ユーカリヲンは落下した浮遊大陸の一部の下敷きとなってしまったという2点だけです。
 このパイロットの突然の行動に、未完成の技術が影響を及ぼしたかどうかは定かではありません。しかし、現在も旧コロニー勢が完璧な霊的回路を完成させていないところを見ると、根本的に何か問題を抱えた技術であることは間違いないでしょう。


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霊魂


 特定の条件が揃った時に、霊子蟲が精神場を形成して霊魂を宿す可能性があります。


○群体結晶化

 霊子蟲は時に自ら集合して群体化することがあります。これは大増殖を行う時に見られる現象で、周囲に霊子が豊富にある際に起こります。この時は個体同士が連結し、周囲のケイ素、真砂、霊子を取り込んで、青白い球状の結晶体を形成する性質があります。この結晶物質のことを『群体結晶』(コロニー・クリスタル)と呼んでいます。
 群体結晶は2層構造となっており、中心核となる透き通った結晶体を、結晶霊子の外層が取り囲んでいます。そのため、霊子エネルギーを使い果たすまでは青白色に見えますが、大増殖によってエネルギーを使い果たしてしまえば、内部に微かに白い網状の霊的回路が見える透明な結晶石へと変化します。その後は霊子エネルギーを与えても無色透明のままとなり、増殖機能も失われてしまいます。


▼条件
 群体結晶化が引き起こされるためには、周囲に豊富な霊子が存在しなければなりません。また、大増殖に必要な霊的回路を形成するために、その材料となる真砂と接触している必要があります。


▼精神場
 群体結晶の中心核には霊的回路が形成されており、周囲に存在する霊子を圧縮して、エーテル・クラスターを発生させます。次に専用の霊的回路を外層部に新たに構成して、精神場を生み出すことがわかっています。これは星界蟲の種子であるエーテル・シードにも備わっている機能です。
 
◇自我
 群体結晶は精神場を持ちますが、自我を宿しているわけではありません。


○増殖

▼大増殖
 精神場を形成した霊子蟲は、中心核の周囲に存在する霊子、真砂、ケイ素を利用して大増殖を行ないます。この後、本来であれば星界蟲の幼生体へと姿を変えるのですが、霊子蟲の場合はこの機能が失われているため、大量増殖しか起こりません。
 大増殖は数時間だけ行なわれるもので、その後の群体結晶は増殖能を完全に失ってしまいます。しかし、霊子蟲が死んでしまうわけではなく、生存条件さえ整っていれば結晶状態で生き続けますし、それが不可能な場合は休眠状態に入ります。


▼増殖抑制
 群体結晶はそれ自体が刻命物質として機能するものです。しかし、通常の刻命物質とは違って精神場を宿しているため、他の霊魂などの影響を受けてしまう可能性があります。また、通常の増殖でも回路構成に異常をきたす恐れがあるため、刻命物質は製造した段階で霊刻を施し、増殖を停止した状態で利用しています。


○魂霊子

 群体化した霊子蟲は、エーテル・クラスターをつくって精神場を形成することが出来ます。この状態にある時は、周囲の霊子を吸収して自らの魂霊子とすることで、緩衝流の影響を受けずに魔道回路を発動させることが可能となります。


▼エネルギー供給源
 群体結晶は自己の精神場の内部に魂霊子(精神値)を持ちます。これは刻命物質が霊的回路を発動させる際のエネルギー源として利用できるため、増殖後の群体結晶はこの目的で利用されておりました。
 なお、通常の生物と同じように、群体結晶は魂霊子を消費しても休息によって自動的に回復しますし、接触している霊子物質から霊子を吸収して、自己の精神場に内包する魂霊子へと変換させることが出来ます。


○精神場/精神情報の影響

▼共有化
 通常、霊魂を持つもの同士が、直接的に魂霊子のやり取りを行うことは出来ません。しかし、群体結晶化した霊子蟲に霊魂が宿った存在は、その吸魂能力によって精神場の結合を可能とするため、相手方の精神場と連結した状態となります。
 2つ以上の精神場が部分的にでも連結した場合は、意識の共有化という現象が起こります。これが完全に行なわれた集団は、まるで1つの精神のように統一された意識を持ち、それぞれの個体が得た情報の完全共有を可能とします。月人が意識統合によって社会を維持しているのも、このような意識の共有化システムを取り入れているためです。
 しかし、短時間の共有化しか行われなかった場合は、自我にも防御機構が存在するためか、完全な意識統合が果たされないまま、霊魂同士が相互に影響を与え合うだけの結果に終わります。この時、一時的な自我の融合や喪失、多重人格の形成、異常行動の発生など、精神に何らかの異常をきたす結果となります。霊子蟲のように相手が自我を持たない存在である場合は、非常に意思が希薄な状態となったり、プログラムされている行動しか行うことが出来ない、抜け殻のような状態になってしまうかもしれません。
 自我の融合には時間がかかるため、長い間この状態が維持されなければ、完全共有を起こさずに済みます。しかし、相手とやり取りした情報が消えるわけではありませんし、その内容によっては心に支配イメージが残される場合もあります。影響の強さによっては、それによって精神に異常をきたす可能性さえあります。


▼霊魂憑依
 特定の物質と結びついていない霊魂も、群体結晶化した霊子蟲と意識が共有される可能性があります。そして、精神場が融合して完全な共有化が果たされた場合は、群体結晶に霊魂が憑依したのと同じ状態となります。


▼精神パターン
 通常の場合、群体結晶化されても霊子蟲に自我が生み出されることはありませんが、意識/精神の型が精神場に組み込まれることによって、自我が誕生してしまう可能性があります。これは基本的に幽子による影響を受けた場合に限られますので、科学魔道、術法、変異現象などの外的な作用を受けた場合に限られます。


○機械生命体

 刻命物質に霊魂を憑依させ、その意識に憑依対象をコントロールさせることで、完全な自律制御によって動く機械の開発が行なわれています。


▼開発
 かつて、科学魔道時代の人々は、金属を材料とした疑似生命体を作製し、それを兵器として利用する研究を行なっておりました。ですが、金属材質では自由な動作が難しい上に、人間をベースとした人工霊魂を憑依させていたため、その基本形状は人型に制限されておりました。また、後に緩衝流の妨害を受けない霊体兵器や生体兵器、あるいはカーバンクルによる生物制御の技術が開発されたため、この研究は無用のものとして忘れ去られてゆくことになります。
 しかし、カーバンクルの技術が実用化されている現在では、制御系として必ずしも意思を持つ霊魂が必要ではありませんし、最終的な形状から計算して人工霊魂の情報を設計できるため、憑依対象の形状は自由に設定できるようになっています。そのため、人工生命体として自律制御を行なう機械は、旧コロニー勢に限らず月でも開発されており、実際に運用もされています。


▼霊刻魔儀の利点
 霊魂を制御系に組み込んだ機械生命体は、通常は自己の魂霊子を利用して霊的回路を駆動させます。そのため、消費した分の霊子の供給は、霊魂の自動回復作用に依存することになり、長期運用には向いた機構とはいえません。また、霊子機器を外装するにしても、緩衝流の影響を受けた時は作動不良を起したり、最悪の場合は機能停止や故障といった事態を引き起こす可能性があります。
 しかし、霊刻魔儀は科学魔道による機械と異なり、いかなる形態の霊子でも霊的回路の発動に利用できます。これにより、状況に応じて利用する霊子形態を選択できるため、緩衝流に妨害されず長期運用を行なうことが可能です。旧コロニー勢力はこういった長所を生かして、無人探査機による緩衝帯の向こう側の調査を進めようと考えています。


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基本技術開発利点と問題点霊魂