上水道
生活に用いる水は、田舎では井戸や河川から汲み上げて用いますが、大都市では上水道が普及している場所も多く、鉄管で各家庭まで給水されています。
ある程度の大きさのある都市の場合は、蛇口をひねれば清潔な飲料水を得ることが出来る場所もありますが、裏通りや郊外では井戸を使うのが一般的となります。地域によっては共用栓という形で用いられており、鍵を使って栓を開いて使用するようなシステムも存在します。
○浄水処理
古いタイプの水道は、山際に出る湧水を集めたり、水源から水車で汲み上げた水をそのまま利用していました。これを地下に網の目のようにはりめぐらせた樋や土管、あるいは水道橋などを通じて都市へ配水されていたのですが、これは衛生上の観点から見ると不十分なものです。水の透明さを保つため、水道本管に沿って溜め池や濾過池は設置されているのですが、上水を通じて伝染病が蔓延することも少なくはありませんでした。
飲料水の衛生に気を配られるようになったのは、近代的な水道設備が整備されるようになってからです。後に都市外部から運び込まれた水は浄水場に一旦集められ、沈殿・濾過という過程を経てから、鉄管で配給される方式へと転換されています。濾過は木炭などを用いて行うものですが、これは手間と時間がかかるために、都市内部の水は安いものではありません。
○ポンプ
近代水道の開発は押上式ポンプの登場からはじまりました。古い水道方式から発展しなければならなかったのは、やはり都市人口の増加が第一の理由となります。まず、問題の1つに挙げられるのは、それまでの水道では防火用水の水圧不足で消火活動の役に立たなかったことです。また、建物を高くする必要性も生まれておりますが、これに対応するためにも水圧が何より問題となりました。
この問題は動力機関を用いたポンプの登場によって、比較的容易に解決されました。ポンプを用いて高い場所にある貯水槽まで水を汲み上げ、そこから近隣の建物に引いた導管を通じて給水するシステムが確立され、人々は蛇口から容易に水を得られるようになりました。しかし、これはあくまでも人口の多い都市に限られるものですし、中層以上の家庭でしか用いられるものではありません。今でも2階ぐらいまでしか水が押し上げられず、井戸や共用栓から汲み上げた水を、上の階まで苦労して運んで利用することも珍しくはありません。
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下水道
古くは伝染病の蔓延を防ぐためにつくられた下水道ですが、これは簡易的なものに過ぎませんでした。肥料屋と呼ばれる下層労働者が屎尿を引き取りにくることもありますが、これらは野菜栽培には使用できますが麦作には利用されませんので、今では買い取ってもらうよりも、金を払って引き取ってもらうことが多いようです。
本格的な下水処理施設は、産業の発達にともない人々が都市に集中し、街路に投棄される屎尿の処理を行う必要から生まれることになります。現在でも、市街地まで下水管を通して下水を流す場所はそれほど多くはありませんが、大きな都市では街路に汚水が投棄されることは少なくなっています。
○仕組み
街で利用されている簡易的な下水施設というのは、側溝や開渠に家庭からの排水を直接流す集合式のもので、雨水や少量の生活排水を流し込むドブ川でしかありません。
大都市の下水道は暗渠が地下に設置されているタイプのもので、各家庭に繋げられた下水細管から大きな土管へと汚水が流され、それが暗渠へ注ぎ込むという仕組みになっています。また、街路の雨水受けの側溝からも土管が繋がっておりますし、マンホールや各街区に設置された整備用の出入り口からも下水道へと降りることが出来ます。土管は内径が2mほどもあるもので、大都市の場合は下水管の総延長距離は数百kmを超える場合があります。下水がつまるのを防ぐために、吐出口はかなりの数に分散されています。
レンガ積みの暗渠はアーチ型の断面をしており、本管は珪石とセメントでできた巨大な排水渠となっています。通常、中央の下水溝は1〜2mくらいの幅をもちますが、大都市の主線となる流路では4m以上の幅を持つ場合もあります。これらは清掃用に数十cmほどの側道が設けられており、舟やワゴンを使って清掃できない場合は、清掃人がシャベルで汚物を取り除き、手押し車で集めた汚物を外まで運ぶようになっています。
下水の流れはそれなりに速く、河川と同じくらいの流速となります。大雨や嵐の時には流量が2〜3倍ほどになり、側道まで水が溢れてくるため、中に住んでいる浮浪者が流されたり溺死する場合もあります。
○トイレ
下水が普及するようになってから、都市では水洗トイレも利用されるようになっています。昔は汚水溜めに屎尿を貯めて、これを窓から外の道に向かって捨てたりしていたのですが、伝染病の原因となるために徐々にこの習慣は廃れてゆくことになりました。下水への放流がはじまるようになると、中流以上の家庭では容器の底に水を溜めておく防臭型のトイレが普及しはじめ、現在では1/3ほどの家庭が水洗トイレを利用しています。
○その他
▼ゴミあさり
暗渠式の下水道は中を歩けるようになっていますので、ゴミあさりがもぐりこむこともあります。彼らは毎日のように明かりと鈎付きの竿、そして大きな袋をかついで暗渠へともぐり、汚れや悪臭に耐えてゴミを集めます。大都市では百人以上がこういった作業で生計を立てている場合もあります。
ここで集めた釘や鉄の破片などは屑鉄屋に売れますし、銅貨や銀貨などの貨幣が見つかることもあります。まれに銀製のスプーンやアクセサリーなどが流れてくることもあり、高級住宅街へと繋がる場所は古株の縄張りとなっていることが多いようです。
▼乞食
下水は不衛生で、場所によってはガスが発生して危険なこともありますが、雨露や寒さをしのぐには最適の場所でもあります。そのため、乞食や都市浮浪児が下水の入り口付近に住み着いている場合があります。
▼通路
犯罪者が下水の側道を利用して逃走したり、乞食や都市浮浪児がこれを利用してネットワークをつくりあげ、情報の伝達を行うこともあります。
▼怪物
下水に巣くう怪物もいるため、これに襲われて乞食が死亡することもあります。なお、こういった死体を発見して警察に通報すると、幾らかの賞金をもらうことが出来ます。
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入浴
中流程度の一般家庭では、体が汚れたらお湯をわかしてタオルで拭く程度で、浴槽を備えていない家が多くなります。きちんとした浴槽で体を洗うのは、ある程度裕福な家庭の者だけです。しかし、水道が普及しはじめてからは、昔よりは浴槽を持つ家庭が少しずつ増えてきました。
下層階級の人間は体を拭くことも殆どなく、非常に不衛生な環境で生活しています。田舎では川や井戸水で水浴びをするのが一般的ですが、都市では川自体が工業廃水で汚れている場合もあり、井戸水を沸かして体を拭くのがせいぜいとなります。
▼浴室
富裕階級以上の家庭には浴室が設置されており、浴槽に沸かしたお湯を入れて体を洗います。水道は普及していますが蛇口から直接お湯が出るわけではないので、使用人などが苦労して浴槽にお湯を張ることになります。浴槽の中で直接体を洗うため、1人が入浴する度にお湯を換える必要があります。そのため、一般の家庭ではこのような贅沢は出来ないわけです。
▼サウナ
一般的に公衆浴場として利用されるのはサウナとなります。サウナの2階はソファが並べられていたり、飲食店が営まれているのが普通で、ここは住民の社交場として機能しています。
浴槽のある温浴場はエルモア北東部の国家に限られ、汗は井戸水などで流すのが一般的となります。かつては他の国家でも温浴場が存在していたのですが、伝染病予防の観点から徐々に減少してゆきました。一般の人々がお湯に浸かる機会というのは、温泉に入る時ぐらいとなります。なお、サウナは温泉とは違い、男女の浴室は分かれています。
▼温泉
温泉地はリゾート地として人々に親しまれており、中流以上の家庭の人々がバカンスでこれを楽しむことがあります。温泉は裸になって浸かるわけではなく、水着や温浴着と呼ばれる薄い布地をまとって入浴するのが普通です。そのため、男女の区別は普通なく、一緒の浴槽で談笑しながらくつろぎます。
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ゴミ処理
人が集中すると問題になるのはゴミの処理です。都市では公道の清掃や塵芥処理は行政機関の仕事であり、民間業者にこれらの作業を委託して都市の衛生環境を維持しています。
○ゴミ収集
家から出るゴミのうちで多いのは石炭殻や石炭灰で、現代社会のような家庭ゴミはそれほど多くはありません。しかし、石炭の燃えカスは想像以上の量が排出され、年単位で考えると人口10万人につき1万トン以上にも達します。
もちろん、これを放置しておくわけにはゆきませんので、業者は朝に馬車を巡回させてこれを集め、空き地などに運び込んで処理することになります。普通の都市では特にゴミ捨て場を設けることはせず、ゴミ収集の馬車が鐘を鳴らして巡回を知らせ、各家庭の人間が直接馬車に運び込むというのが一般的です。しかし、貧民街になると馬車が巡回しないこともあり、自然とゴミだまりが出来たり、勝手に河川などに投棄することも珍しくはありません。
集めた石炭殻は農耕に利用することもありますが、その大部分は粘土と混ぜて煉瓦の材料とします。処理業者は下層労働者を雇って処理を行わせますが、この賃金はそれほど高いものではありませんし、集めたゴミも建築材として売却できるために、かなり儲けの出る業種となっています。
○清掃
▼清掃夫
都市によっては道ばたに清掃夫と呼ばれる人間が待機し、定期的に公道の清掃を行っている場合があります。業者が都市浮浪児や乞食を雇って清掃を行わせることが多く、空き時間を利用して馬車を呼ぶ仕事をしたり、ドアボーイやちょっとした荷物運びしている姿もよく見かけられます。
▼道路散水
舗装が行き届いてない場所では、砂埃を押さえるために散水を行っています。こういった場所では各家庭や店舗が自主的に水を撒きますが、都市では馬車が多く利用されているため、乾いてボロボロになった馬糞が風で飛ぶのを押さえる目的で、行政当局によって定期的に散水を行う場合があります。散水には水を積んだ特別製の散水馬車が用いられることが多く、業者の雇い人が公道に水を撒いて歩きます。近年では動力機関を用いてこれを行うこともあるようです。
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