俳 句 の 歴 史

10人の俳人とその作品

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第3章
与謝蕪村(1716〜1783)
よさ ぶそん

18世紀には連歌形式の俳諧は下火になり、俳人たち
は発句の制作に注力するようになった。

俳人であると同時に優れた画家でもあった蕪村は、
絵画的で光に満ちた発句を数多く書き残し、鮮明な
イメージを言語によって喚起することに成功した。

蕪村の発句は芭蕉と異なり、思想性が表面に出るこ
とはなく、派手な身振りを示すこともない。しかし
その言葉遣いは他に例を見ないほど洗練されており、
彼は穏やかな情景をわずかに描写するだけで、景色の背後に広がる永遠の時間を感
じさせるという、天才的な言語感覚を発揮した。

蕪村の発句は描写的であるが、句の風景はリアルというよりも理想化されたものに
なっている。それは彼が景色の表面ではなく、内面にある理想像を描こうとしてい
ることによると思われる。

言語の機能美を余すところなく活用した蕪村の発句は、多くの詩人を魅了し、近代
俳句に大きな影響を与えた。蕪村の発句は日本語の機能に依存する度合いがきわめ
て大きいため、外国語への翻訳は困難である。


 陽炎や名もしらぬ虫の白き飛

 畑うつやうごかぬ雲もなくなりぬ

 凧きのふの空のありどころ

 春の夕たえなむとする香をつぐ

 みじか夜や毛むしの上に露の玉

 蚊の声す忍冬の花の散るたびに

 四五人に月落かかるおどり哉

 月天心貧しき町を通りけり

 起て居てもう寝たといふ夜寒哉

 水鳥やてうちんひとつ城を出る


執 筆  四 ッ 谷  龍


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