高階杞一詩集

<早く家へ帰りたい>より

信号機の前で

 1

信号を見るたびに

こどもはまるで歌うように言う

あか だめ

あお いい

き?

黄は注意

何度そう教えても

信号を見るたびにくりかえす

あか だめ

あお いい

き?

黄は注意

そうくりかえすぼくにも

黄のほんとうの意味はよく分からない

進んでいいいのか

とまるべきなのか

生きている途中にも

たくさんの信号があって

それが急に黄に変るような時

ゆうすけ

おまえのように

パパも

き?

誰かに問いたくなるようなことがあるんだよ

 2

たぶんママに教えられたんだろう

青になると手をあげて

こどもは

横断歩道をわたる

その日もたぶん

青で

手をあげておまえはいってしまった

もう誰の手も届かないところへ たったひとりで

パパはじっと

おまえのいってしまった方を見る

空の奥処(おくか)

その

赤も黄もない場所を

 3

あか だめ

パパ あか だめ

まだたった三つのおまえに叱られながら

ずいぶんと赤でっわたってきた

信号機の前で

ぼくは

ひたすら青になるのを待っている

あか だめ

パパ あか だめ

口をとがらせて言うおまえの声を

思い出しながら

 4

青になった

さあ いくよ

こどもの手をひいて

ぼくは横断歩道をわたる

行く手には

春が待っていて

おまえは歌いながらいく

あか だめ

あお いい

き?

黄はちゅうい



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