メリッサの誕生日に


 今日は昼間から夢を見てたの。

「えへへぇ…。メリッサは大魔王なのよん…」
「メリッサ!メリッサ・イスキア!」
「ふにゃ?」
 ちょっと寝ただけで教官ったらすごく怒るんだもん、ホント失礼しちゃう。
 でも放課後にはサッパリ忘れて、今日も元気にアカデミーへ行きまーす。数日前から祝え祝えって毎日しつこく言ってた甲斐あって、みんなが誕生会開いてくれるんだぁ、えへへ。
 あ、向こうからマスターと蒼紫センパイが歩いてくる。隠れておどかしてやーろおっと。
「まったく参ったよなぁ…」
「まあまあルーファス殿」
 マスターがまた苦悩してる。なんか知らないけどあんたも気の毒な人だねぇ。
「メリッサのやつ今日も授業中居眠りしてたらしいぞ。さすがウィザーズアカデミーだなって教官から嫌味言われちゃったよ」
 ぎっくぅぅぅぅ〜〜〜!
「ホントにあいつときたらできもしない魔法は使うわものは壊すわ騒ぎは起こすわ」
「そこを何とかするのが我ら年長者の役目ではありませぬか」
「そうなんだけどさぁ…。あいつ言ってもきかないしさぁ」
 ‥‥‥‥‥‥。
 マスターたちが曲がり角までやってきたので、メリッサはそれと逆方向に駆け出した。
「あれ、今誰かいなかった?」
「はて?」

 とぼとぼと校門を出る。足元にあった小石をこつん、とけとばした。
 なによマスターのばか。ちょっと呪文失敗しただけじゃない。ちょっと壁に穴開けただけじゃない。ちょっと変な魔物呼び出しただけじゃない。メリッサ悪くないもん。メリッサ…。
「マスター、やっぱりメリッサのこと嫌いなのかなぁ…」
 ため息をついてあてもないのに街に向かう。これからどこ行こう…。
「あ、めりっちゃだぁ」
「げげっシンシア!」
「あれ?どこいくの?これからめりっちゃのたんじょうパーティなんだよ」
「ふ、ふーんだ。わたしみたいな天才には人には言えないわけがあるのよっ!」
「ふぅん?」
 ぜんぜんわかってない…。しかもその手に持ってるのは何!?魚じゃない!!
「うんっ!シンシアパーティのおかいものがかりなのー」
「あーのーねー、メリッサは魚が嫌いなのっ!あんたの誕生日じゃないんだからねっ!」
「だってだっておいしいもん…」
「フッこれだからお子様はぁー」
「シンシアおこさまじゃないもん!むねだってめりっちゃよりおっきいもん!」
 があぁぁーーん!この猫言ってはならないことをぉぉぉ!!
「とにかくそんなもの捨てちゃってよっ!」
「やだやだやだ!」
「よぉーし、それならこっちも考えがあるもんね」
 そう言ってメリッサは印を結ぶの。どんなものでもパンに変えてしまう呪文、パンナールよっ!
「ホンゲラハンゲラホニャラララン」
「な、なにするのぉっ?」
「えーい、パンになっちゃえ!」
 ボウン!

『パンダーーーーーー!!』

「な、なにこれぇぇ!」
 あ、あはははは…。巨大なパンダになっちゃった…。
 ギロリ
「なんかこっちにらんでるのぉ!」
「もしかしてメリッサの美しさに見とれてるのかしらっ!?」
「めりっちゃのばかーーー!!」
「メリッサばかじゃないもん!」
 とか言ってる間にパンダが腕を振り上げて…振り上げたら振り下ろすよね、普通。
 ブンッ!
「きゃぁぁぁーー!」
「マ…マスター助けて!!」
 ピシャァァァン!
「‥‥‥‥‥‥‥」
 おそるおそる目を開けると、誰かのサンダーブリットを受けた巨大パンダが元の魚に戻ってたとこだった。走ってくるのはやっぱりマスター。
「ふぇーんおにいちゃぁぁぁん!!」
「大丈夫かシンシア!…メ・リッ・サぁぁぁ〜〜〜〜!」
 うう…。
「い、いーじゃない。シンシア無事だったんだしぃ?」
「この馬鹿!」
 な、なによぅ…。
「できもしない魔法使って危険な目にあうのは自分なんだからな!入学したばかりでケガでもしたらどうするんだよ!」
「‥‥‥‥‥」
 マスター本気で怒ってた。ちょっとこぼれちゃいそうになる涙をあわてて飲み込む。
「マスター、メリッサのこと心配?」
「あ、当たり前だろ」
「メリッサのこと心配なんだぁ」
「当たり前だってば!」
「ならいいや」
「あのなぁ!!」
 少し焼けたお魚を拾い上げる。シンシアごめんね。でも洗えば食べられるよ…たぶん。
「さ、それじゃ早く部室に行こうよ!」
「頭痛がしてきた…」
「もーっ、マスターってば勉強のし・す・ぎ!たまにはパーッと騒がなくっちゃぁ!」
「もういい…。勝手にしてくれ…」
「行こっ、シンシア!」
「う、うんっ。おにーちゃんもはやくぅ」
 えへへぇ、メリッサのこと心配なんだ。えへへっ。


「メリッサさん誕生日おめでとうございます。今日のこの日に今の自分があることをご両親及び神に深く感謝し、より一層の魂の救済を…」
「メリッサ、年長者としてひとつ忠告するのだが、もっと礼節をわきまえ落ち着いた行動を…」
「マスター助けてぇぇ!」
「ふ、2人とも。とりあえずはお祝いしてからにしよう、な」
「はいっ、ですから今メリッサさんを祝福しています」
「いや、そうじゃなくて…」
「ねえメリッサ、このケーキボクが焼いたんだよ」
「え、ほんと!?うれしーい、ラシェルってそんなことできるんだ。メリッサのコックにしてあげようかしらっ」
「な、何言ってるんだよっ!」
「じょーだんよん。うんっ、おいしーぃ」
「そ、そう?えへへっ、どんどん食べてね!」
「シンシアおさかなあげるー!」
「…ありがと…。気持ちだけ受けとっとく…」
 メリッサの首にはマスターからもらった魔法の黒水晶がかかって。うふふ、どんな魔法なのかなぁ?考えただけでわくわくするねっ!
「いよーみんな盛り上がってるなぁ!」
「きゃーっ先輩、すっごく盛り上がってるみたいなぁ☆」
「うーむよしよし。飲み物持ってきてやったぞ、存分に味わえい!」
「さっすが先輩話せるぅ!」
「あ、あのさ…。一応学校内なんだからあまり羽目は外さずに…」
「よしルーファス、歌え!」
「メリッサとデュエットよ!曲は『うわさのマジカルエンジェルズ』」
「絶対嫌だぁ!」
 みんなと一緒の楽しいパーティ。こういうの毎日続けばいいのに…。
 …ううん、今日だけなんだからいっぱい楽しまなくっちゃ、ね。


「まったく先輩、何飲ませんたんだよ…。会長にバレたら何言われるか…」
 すっかり夜も更けた星空の下で、メリッサはマスターにおぶってもらってたの。なんでって?デイル先輩の持ってきた飲み物で酔っぱらっちゃったから!あっはっはっ。
「ねえマスタぁー」
「なんだ?」
「メリッサのこと嫌い?」
「なんでだよ」
「だっていつも面倒ばかり起こすしぃー」
「わかってんならやめてくれ…」
「嫌い?」
 マスターはあきらめたみたいに首をふる。
「でもメリッサってなんだか憎めないからさ…」
「そ、そぉ?」
「だからって調子に乗らないように!」
「はぁーい、えへへ」
 マスターの首にぎゅっとしがみつく。あったかぁい。
「メリッサ?」
「‥‥‥‥‥」
 起きてようと思ったんだけど、だんだん目が重くなってくる。今までで一番のバースディかなぁ…
「寝ちゃったか…」
「くー…」
「…ほんと危なっかしいし…。とてもじゃないけどほっとけないよ…」
 最後に聞いたのはマスターのそんな声と、空いっぱいの星の海。宇宙一大きな、ケーキとマジックキャンドル。
 頭の中でおやすみなさいを言って、メリッサはまた夢の中に落ちていくの。

 マスター、大好きぃ…




<END>






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