『クロウ・カード』


その封印が解かれるとき


この世に災いが・・・






美樹原SS: カードキャプターめぐみ









 忘れ去られてるシリーズ設定ですが、ムクの正体は遠い銀河からやって来たワンダフル星人です。ムクの壊れたUFOの中には、キューティメグ変身セットを始めとする宇宙の科学の結晶が、ところせましと押し込められていたりします。
 それは新学期も始まって少し経った日のことでした。
「大変や大変やぁー!愛ちゃん!」
「ム、ムクっ!?」
 おおあわてで走ってくるムクに、思わず目を丸くする私です。
「関西人に弟子入りしたの?」
「わいの意志とちゃうで!クロウカードのしわざや!」
「く、くろうかーど?」
「ワンダフル星の隣にあるクロウ星が作った魔法のカードや。それぞれひとつひとつが様々な力を持っとって、場合によっては悪さをする。そしてその封印が解かれるときこの世に『災い』がおとずれる。そう言われとる!」
 な、なんて恐ろしいカードなんでしょう。ムクの話によると荷物の整理をしていたときに、封印の本をマンガ本と間違えて開いたらカードが飛んでいってしまったそうです。要するにムクのせいですね…。
「人生いろいろや!うっしゃあっ!」
「‥‥‥‥‥」
「ちなみにこれが『大阪(ナニワ)』のカードやな」
 ムクがくわえたのは、表に食い倒れ人形の描かれた奇麗なカードです。
「こいつは自分から封印されてくれたんやが、その時にわいが大阪化されたもんやから、全部のカードを集めるまでわいの言葉は直らへんのや」
「なんで宇宙に大阪が…」
「細かいことは気にしたらあかん!残りの8枚、『文学(リテラチャー)』『科学(サイエンス)』『芸術(アート)』『運動(スポーツ)』『根性(ガッツ)』『お嬢(レディ)』『情報(インフォ)』『美(ビューティ)』のカードは学校の方へ飛んでいってもうた。今ごろ学校は大騒ぎやで!」
「ほ、ほぇぇえ」
「なーに愛ちゃんがおるんやから大丈夫や」
 とっても嫌な予感がします…。
「さ、そゆことでこの鍵を受け取ってな」
「わぁ。可愛い」
「ほないくで」
「どこへ?」
 私のぼけもむなしく、ムクは呪文を唱えはじめました。
「封印の『鍵』よ。なんじとの契約を望む者がここにいる。少女、名を愛。『鍵』よ、少女に力を与えよ!『封印解除』(レリーズ)!」
「きゃぁぁあ!」
 突然鍵からまばゆい光が!目も開けられないような光景の中で、鍵がゆっくりと杖に姿を変えていきます。
「愛ちゃん、杖を取るんや!」
「う、うんっ!」
 はっ、勢いでついつい手にとってしまいました。えーと。
「よっしゃあ!カードキャプターの誕生やー!!」
「ええええええええ!!」
 ああう〜、私にそんな怖いカードさんと戦えっていうんでしょうか。私自信ないです…。なんて言ってる間に
「素晴らしいわー!」
 いきなり部屋のドアが開いたかと思うと、ビデオカメラが突進してきました!
「し、詩織ちゃんっ!」
「校内の平和を守るカードキャプター!とってもメグにぴったりの役目ねっ」
「ほ、ほえ」
「そして記念のビデオ撮影はお約束だわー!」
 新調したばかりのビデオカメラを構えてキラキラと輝く詩織ちゃん。成績優秀でスポーツ万能の素敵な女の子なんだけど…ちょぉおおぉっと変わってるかも。
「さ、特別なことをするにはそれなりの服を着るべきね。こんなこともあろうかと衣装を用意しといた甲斐があったわ」
「こんなこともって…」
「でかした詩織!さー着替えたらカードキャプターの出動や!」
「ほえぇぇぇえええ!」

 詩織ちゃんのお手製の衣装、猫耳猫しっぽつきチェックのベストに羽がはえてニーソックスの格好に周囲の注視を浴びながら、私は早足で学校へと急ぎました。は、恥ずかしい…。
「この衣装は秋の訪れの物悲しさの中を可愛く生きる猫というコンセプトで作られたのよ」
「よく意味がわかんない…」
「やあ、おはよう2人とも」
 はっ!こっこの声はっ!
「あ、あの、あの、主人さん、おはようございますっ」
「あはは、可愛い格好だね。どうしたの?」
「劇の練習よ」
「そ、そう、劇の練習なんです」
「そうなんだ、えらいね美樹原さん。頑張ってね」
「は、はひぃぃい」
 主人さんはご褒美にとキャンディーをくれて、爽やかに去っていきました。
「やるわね」
「はにゃーん」
「去りぎわにプレゼントとは…やるヤツだわね」
「はにゃーん」
 主人さんを見るとはにゃーんってなっちゃうんですよぅ…。頑張ってって言われちゃったし、主人さんも通うこの学校の平和は私が守らなくちゃいけませんねっ。
「その意気よ、メグ!」
「ようやくやる気になったようやな」
「だ、駄目よムク目立たないようにしなきゃ。学校に犬連れてきちゃいけないんだから…」
「わいは犬とちゃうでー!ワンダフル星人やー!」
 さて授業が始まるまで少し時間があります。クロウカードを探さなくちゃ…でもどうやって見つけるのかなぁ?
「カードはその属性に近い者がおるところで活動しやすいんや」
「ふーん」
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
 言ってるそばから校舎をつんざく女性の声!さっそく走って行ってみると、鏡さんがわなわなと恐怖に震えていました。
「あの、どうしたんですか?」
「しっ…親衛隊が私よりも美しくなってしまったわっっ!」
「ほえ?」
 鏡さんの指差す方向を見ると…まばゆいばかりに美しくなった親衛隊の皆さんが、ガラスに映る姿にうっとりと陶酔しています。
「美しい!我々は美しいぞ!!」
 しかも窓の外では外井さんまで美しくなってます…
「ムフッ!」
「これは『美(ビューティ)』のカードのしわざや!」
「この世の地獄ね…」
「ど、どうしようムクっ!」
「だいじょうぶ『美』はおとなしいカードや。一気に片付けたれ!」
 うう、やるしかないんですね。私は首につるした鍵を取ると、その力を解放します。
「闇の力を秘めし『鍵』よ。真の姿を我の前に示せ。契約のもと愛が命じる。『封印解除』(レリーーズ)!」
「とっても凛々しいわー!」
 夢中になってビデオを回してる詩織ちゃんをほっといて、私は杖でそのへんの空間をぶったたきました。
「なんじのあるべき姿に戻れ、『クロウカード』!」
 杖の当たったところにエネルギーが集中し、カードの形をとっていきます。しばらくして光がおさまり、耽美な女の人が描かれたカードが私の手の中に落ちました。
 『美』のカード、ゲットだぜ!(ってそれは番組が違いますって)
「ようやったで愛ちゃん!」
「一体なんでしたの今のはっ!」
「あ、あの、なんでもないんです。失礼します…」
 鏡さんの前からあわてて立ち去る私たち。詩織ちゃんの手が私の手をしっかりと引っ張っています。どこに連れてかれるのかと思ったら…
「さ、次の衣装に着替えるわよ!」
「詩織ちゃん…」
 更衣室に連れ込まれた私は、これでもかとばかりのフリルのつけられた服を泣く泣く身につけるのでした。

「なんじのあるべき姿に戻れ、『クロウカード』!」
 休み時間を利用して、性質のおとなしいカードからつかまえていきます。テニス部全員を古式さん化させていた『お嬢』のカードを封印し、図書室を漢文で埋め尽くしていた『文学』を如月さんと協力して捕らえました。
 美術の時間はちょっと大変でした。
「オーマイガー!」
「だ、大丈夫ですかっ」
 片桐さんや美術部の人が描いた絵が、見えない筆によって落描きされていきます。思いっきりクロウカードのしわざですっ。
「うーむ、私たちのアートがオートマチックにチェンジするなんて。実にミステリアスなアクシデントだわ」
「あの、長○茂雄じゃないんですから…。すぐ終わりますから外出ててください…」
 ムクがくんくんと臭いをかいでカードの正体を探ります。
「『芸術』(アート)のカード!こいつは自分より美しい者でないと封印されへんのや」
「えええっ!それじゃ私なんて無理だよぅっ!」
「大丈夫、メグはとっても可愛いもの」
「うう…。詩織ちゃんは自分が綺麗だからそんなこと言えるんだよぅ」
 卑屈モード入ってる私に、ムクはカードを指さしました。
「このクロウカードはそれぞれ魔力を持っとる。その力で愛ちゃんは魔法を使えるんや」
「そ、そうなの?」
 憧れの魔法少女ですね、ちょっとイメージ違いますけど…。私はムクの言うとおりに、カードを杖で叩きました。
「まばゆき美しさで我を覆え! 『美』(ビューティ)!」
「と…とっても美しいわ!メグ!」
「そ…そう?」
 自分じゃわからないけど魔法が効いたらしいです。でもなんか怖いので鏡見るのはやめときます…。美人の私なんて想像つかないし…。
「なんじのあるべき姿に戻れ、『クロウカード』!」
 『芸術』を封印し、片桐さんたちの絵も元通りになりました。詩織ちゃんもとってもほくほく顔です。
「今日のビデオは全部永久保存版ねっ」
「わいもちゃんと撮ってやー」
「そのうち視聴覚室で上映会をしましょう」
「やめてぇぇぇええ!」

 お昼になりました。詩織ちゃんはビデオテープがなくなったので買いに行ってます。
 そうだ、主人さんにお昼一緒に食べませんかって言ってみようかな…。勇気を出して主人さんのクラスに行く私です。
「いただきまーす」
 はっ、もうお弁当を広げてるっ。
 ひょいぱくひょいぱくひょいぱく
「ごちそうさまー。あれ、美樹原さんどうしたの?」
「…いえ…なんでもないです…」
 結局私は一人で樹の下でお弁当を食べました。しくしく…
「ねえムク、午後もクロウカード探さなきゃダメ?」
「当たり前やがな!わいが大阪弁のまんまでええっちゅうんか?」
「ううん、良くないよね…。なんかその大阪弁不自然だし…」
「何を言うんや!こないに渋くてかっこええわいは何を喋ってもかっこええんや!」
「…なんでやねんなんでやねん」
「なんでやねんなんでやねん!(ひとりつっこみ裏拳パンチ) はっ」
 なんて、ムクと遊んでいたときでした。
「よっ、美樹原さん一人でお弁当?チェックだチェックぅ〜」
「さ、早乙女さんっ!」
 私はあわててムクを後ろに隠します。
「伝説の樹の下でひとり昼食をとる美少女。うーん絵になるねぇ」
「そ、そんなことないです…」
「ところで知ってる?この樹の伝説は実は江戸時代にまでさかのぼるんだってね」
「え、そ、そうなんですか?」
「もともとはこの樹の下で月末に果たし合いを申し込むと必ず勝てるという言い伝えでね」
「ほえ」
「宮本武蔵はそれを使って多くの敵を倒したそうだよ」
「す、すごいです…」
「だから昔は斬殺の樹と呼ばれててね」
「デタラメこいてんじゃないっ!」
 スパーン! いきなり背後に現れた夕子ちゃんが、早乙女くんの頭をひっぱたきました。
「美樹原ちゃんもこんなん真に受けたらダメだっつーの」
「ええっ!ウソだったんですかっ?」
「当たり前っしょ!」
 がーん、信じちゃった私って一体…。早乙女さんは怪しい解説を続けながら夕子ちゃんに引きずられていきました。
「そうそう、殺人コアラっていうのはね」
「あーはいはい。さっさと行くよっ!」
 はっ、もしかしてクロウカードのしわざではっ。私はそっと早乙女さんに近づくと、ちょこんと鍵で叩きます。
「なんじのあるべき姿に戻れ、『クロウカード』っ」
 波紋とともにやっぱりカードが! 現れたのは『情報』(インフォ)のカード。急いで名前を書いてポケットにしまいます。
「ん? どしたん、美樹原ちゃん?」
「な、なんでもないですっ。それじゃっ」
 私はそそくさと樹の下へ戻り、ムクと喜びを分かち合うのでした。

 放課後です。がんばって今日中に集めちゃいたいです。
 ちなみに今の衣装は制服の上からファンタジーっぽい鎧を着ている格好です。
「今回は異世界セ○ィーロに無理矢理召喚され自殺の手伝いをする羽目になった女子中学生というイメージで作ったのよ」
「なんか嫌なイメージだね…」
「第2部で立ち直るから大丈夫よ」
「愛ちゃん!グラウンドにクロウカードの気配がするで!」
 モコ…もといムクの言葉に急行すると、虹野さんが千本ノックをやっていました。
「根性、根性、根性よ!」カキカキカキーーン
「やめてください虹野先輩!」
 みのりちゃんが泣きそうです。か、かわいそうですっ。
「あの金属バットは『根性』(ガッツ)のカードや!」
「虹野さんは野球できないはずなのにどうして!?」
「『根性』は使う人間だれでもド根性の持ち主になれるようになっとるからな!あのお嬢ちゃんの意識は今『根性』に乗っ取られてしもうとる!」
「根性ーー!」
 ムクが大声出したもんだから、虹野さんがぐるんとこちらを振り向きました。
「そう、美樹原さんもノックを受けたいのね。素晴らしい根性だわ!」
「え、あの、あの」
「危ないメグ!」
「あなたには根性があるわーーー!」カキーーン
 きゃぁぁぁ!カードキャプター最大のピンチですっ。迫り来るボールに思わず目をつぶったその瞬間!
「雷帝招来急々如律令、雷撃!」
 空気を引き裂く轟音と共に、稲光が虹野さんのバットを直撃しました。
「ほ、ほえ」
「何をしているの。さっさと封印しなさい!」
「は、はいっ!」
 助けてくれたのは妙な機械を抱えた紐緒さんでした。ううっ、ありがとうございます。
「なんじのあるべき姿に戻れ、『クロウカード』!」
 『根性』の浄解に成功。残る原種核はあと2つ…ってそれも番組が違ーう。
「きゃーーっ!しっかりしてください虹野先輩!」
「だいじょうぶ。気い失のうてるだけや」
 虹野さんはムクに任せて、私はお礼を言おうと紐緒さんに駆け寄りました。が、
 ジャキン
「あ、あの、紐緒さん!?」
「その『クロウカード』、こちらによこしなさい」
 雷撃発生装置をつきつけられ、ほえ?と目を丸くする私に、紐緒さんは白衣のポケットからカードを取り出します。
「ふふふ、こんな素晴らしい研究対象は放っておけないわ。既に『科学』のカードは捕獲済みよ」
「い、いつの間に…」
「あなたにカードを使いこなすのは無理よ。おとなしく渡しなさいさあさあ」
 あうう〜、相変わらず強引です。引き続きカードキャプター最大のピンチです。詩織ちゃん撮影してないで助けて…。
「ぶたまんあったよー!」
 そんな緊張をぶち壊すように、主人さんが笑顔をまき散らしながら走ってきました。
「あ、美樹原さんも食べる?ぶたまん」
「は。はぃぃぃ。(はにゃーん)」
「紐緒さんはカレーまんでいい?」
「ええいせっかく話が盛り上がってるときに!わかったわね美樹原愛。クロウカードは私が集めるわ!」
 紐緒さんはそう言って去っていきましたが、ぶたまん食べて幸せにひたっている私は聞いちゃいませんでした…。はにゃーん。
「そういえば校舎の外をみんながマラソンしてたけど何だったのかな?」
「え、そ、そうなんですか?」
「きっと最後のクロウカード、『運動』(スポーツ)のしわざや!」
「クロウカード?」
「あ、あの、こっちの話です。失礼します…」
 すぐに現場に向かおうとする私たち。でも詩織ちゃんが納得してくれません。
「まだ衣装を着替えてないじゃない!」
「あの、でも、早くしないと暗くなっちゃうし、見たいテレビもあるし…」
「ひどいわー!せっかく自分の好きな人に『貴方は僕が殺します』とか言われて双子の姉を殺される陰陽師の衣装とか、一見無邪気な女の子で実は世界を滅ぼす御子だった衣装とか、不思議の国に迷い込んで綺麗なおねーさんにえっちな目にあう衣装とかいろいろ作ってあるのにー!」
「詩織ちゃん…。私のこと嫌いなの…?」
「なんてこと言うの!私はメグのことが大好きなのよ!?」
 だったらせめて『僕たちは女性の味方です』とか言ってかっこよく事件を解決する衣装にしてほしいです…。
「ご、ごめんね詩織ちゃん。私も詩織ちゃんのこと大好き」
「そう、ありがとう。でも私の『好き』はきっとメグとは違う意味の『好き』だけど」
「そ、それって?」
「メグがもう少し成長したら話すわね」
 なんだか聞きたくないような気もしますが、とにかく衣装はそのままで校門の外へ出ました。案の定みんな苦しそうな顔でマラソンしてます。
「あの…、清川さん、大丈夫ですか?」
「ああっ美樹原さん!あ、あたしは鍛えてるから大丈夫だけどなんで足が勝手に動くんだよ!」
「ご、ごめんなさい。すぐ封印します…」
 なんて言ってる間に私の足も勝手に動き始めてしまいました!
「ほえぇぇぇええ!」
「いやーっ画面がぶれるーっ!」
「あかん、死ぬまで走らされよるで!」
 詩織ちゃんとムクもカードの魔力につかまってしまったようです。ああ、もうダメ。(100メートルしか走ってないけど) 私みたいな鈍足で何の取り柄もない女の子になんて最初から無理だったんです…。ああでもでも、ここで負けたら主人さんにあわせる顔がないです。私は力をふりしぼってカードを叩きました。
「炎よ、我が心に宿れ!『根性』(ガッツ)!」
 くじけそうだった私の心に不屈の闘志がわいてきます!
「ええで!愛ちゃん!」
「カードを探さないと…」
 杖を一回転させてもう一度!
「全てを見通す知識よ、我が前に道を示せ!『情報』(インフォ)!」
「素晴らしいわー!」
 『運動』のカードの情報が頭の中に流れてきます。学校の壁の中ですねっ!
「なんじのあるべき姿に戻れ、『クロウカード』!」
 一帯を覆っていた魔力が集まり、カードとなって地面に落ちました。た、助かったぁ…。
「ふん、多少はできるようね」
「あ、紐緒さん…」
「自分運動が苦手やから隠れてたんちゃうか」
「う、うるさいわね!言っておくけど私はあなたを認めたわけじゃないわよ!」
「そ、そんなぁ。『科学』のカード返してください…」
 ううっ、あとは紐緒さんの持ってるカードだけなのに…。ねえどうしよう詩織ちゃん。あれ、詩織ちゃん?
「! カードの気配や!」
「ええっ!?これで全部じゃなかったのっ!」
「甘いわね、メグ!」
 既に暗くなった空に詩織ちゃんが浮いています。そ、そんなっ…
「私にできないことはない。この世はすべて私のものよ!」
「『完璧』(パーフェクト)のカード!まさか、あいつは本の中におったはず…」
 ぱらぱらと封印の本をめくるムクですが、
「ああっ!これはクロウカードやなくてときメモのトレーディングカードや!」
「‥‥‥‥」
「さすが『完璧』のカード、カモフラージュも完璧やな!」
「それで騙される方もどうかと思うよ…」
 でもでも、それじゃ詩織ちゃんと戦えっていうんでしょうか。そんなの無理ですぅぅぅっ!
「ええいやっぱりあなたでは無理なようね。私がこの雷撃発生装置で」
「し、詩織ちゃんにケガさせるのもだめですっ!」
「じゃあどうしろって言うのよっ!」
「カードを封印できるのはカードキャプターの愛ちゃんだけなんやで!」
 そんなそんなっ。だって詩織ちゃんは綺麗で頭もよくてなんでもできて、それにひきかえ私は勉強もスポーツもダメで何の取り柄もなくて詩織ちゃんの後ろにひっついてるのがお似合いのへっぽこ娘なんです…。
「ほーっほほほ、よく分かってるじゃない。それじゃそのカードをおよこしなさい」
「ううう、詩織ちゃんがそう言うなら…」
「アホかーーー!」
「だ、だってぇ」
「うっとうしいわね。面倒だから消えてもらうわ」
「そんなひどいっ!」
 カードに支配された詩織ちゃんの目は、もはやあの優しかった詩織ちゃんではありません。両手の間にエネルギーをため、私に向けて構えました。ああさようなら主人さん…。
「! これはっ!」
「く…『クロウカード』…?」
 おそるおそる目を開けると、今まで集めたクロウカードたちが私を守るように輪になっていました。その中には『科学』のカードも…。
「ふん、もともと大して欲しかったわけじゃないわ」
「あ、ありがとうございますっ!」
「愛ちゃんが集めたカードも、愛ちゃんのことが大好きなんや!」
「ムク…」
 ありがとう、ありがとうカードさんたち。そうですあれは詩織ちゃんじゃありませんっ。カードキャプターめぐみ、最後の勝負です!
「『クロウ』の作りしカードよ、我が『鍵』に力を貸せ。カードに宿りし魔力をこの『鍵』に移し、我に力を!
 『文学(リテラチャー)』!
 『科学(サイエンス)』!
 『芸術(アート)』!
 『運動(スポーツ)』!
 『根性(ガッツ)』!
 『お嬢(レディ)』!
 『情報(インフォ)』!
 『美(ビューティ)』!」
「あああっそんな原作でもやらない反則技を!」
 『鍵』によって力を発動したカードたちが、すべて私に集まっていきます。まばゆくような光の渦の中でさらに変身!(しゅびどぅばー)
「動物愛護キューティメグ改め、生物警護スーパーメグ!」
「ナイスや愛ちゃん!成績優秀スポーツ万能で容姿抜群にして話題も豊富、さらに根性もあるという究極のスーパーヒロインやで!」
「詩織ちゃんにも告白してもらえるねっ!」
「バカ言ってないでさっさと片づけなさい!」
「は、はいっ!」
 スーパーメグのピジョンウィングで、杖を手に空中の詩織ちゃんに突進します。でぇぇーーい!
「なんじのあるべき姿に戻れ!『クロウカード』!」
「ふ…。さすがカードキャプターね…」
 渾身の一撃!『完璧』のカードは納得したようにカードに戻っていきました。気を失った詩織ちゃんを抱えて、私は地上に戻ります。紐緒さんの姿はいつの間にか消えていました。
 ムクが駆け寄り、封印の本を開きます。私はその中へすべてのカードを収めました。これで全部終わったんですね。さようなら、そしてありがとうクロウカード…。


「いやー、一時はどうなるかと思ったのだワン」
 すっかり暗くなった通学路。元の言葉に戻ったムクは私たちの足元をとことこと歩いています。
「よかったね、ムク」
「愛ちゃんならなんとかしてくれると思ったのだワン。でもカードは本当にしまっていいのかワン?」
「う、うん…」
 カードがなければまた勉強もスポーツも今一つの、何の取り柄もない女の子に元通りです。でもいいんです、私は私なんだもん…。
 一方で詩織ちゃんはどっぷりと落ち込んでいました。
「あああああ!『カードキャプターめぐみ』最後の勇姿を撮り逃してしまうなんてー!!」
「あ、あのね詩織ちゃん…」
「一生の不覚だわー!!」
「あ、あの…。わ、私お洋服着るね。だから元気出して、ねっ」
「本当っっ!?」(キラキラキラ)
「う…」
 そしてそれから数日間、私は詩織ちゃんの着せ替え人形として、100着以上の衣装をとっかえひっかえさせられたのでした。
「とっても可愛らしいわー!」
「ほえぇぇぇえええ!」





<END>






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