これを読む前に『ときめきの放課後』および、ドラえもん15巻『あやとり世界』に目を通しておくとより楽しめると思われます。
(つーか、あやとりをクイズに変えただけ(^^;)






のび犬とときめきの放課後





 僕の名前は主人のび犬。ここきらめき高校の新入生だ。クイズは得意だが勉強もスポーツも今一つなのであまり女の子にはもてない。今日もまた詩織に冷たくあしらわれた僕は紐えもんに泣きついたのだった。
「紐えも〜ん。詩織がちっとも振り向いてくれないよぉ」
「当然よ、勉強もスポーツも並以下のくせに。ちょっと青臭いことをほざいただけで女の子が都合よく惚れてくれるような凡百のギャルゲーと一緒にしないことね」
「ううっ、なんで勉強とスポーツなんだ。クイズは得意なのに…。クイズで人の値打ちが決まるような、そんな世界があったら…」
「なるほど、いいところに気がついたわね。確かに価値観とは流動的なものであって、必ずしも勉強やスポーツが価値を持つと決まったわけではないわ…」
 もしもボックスーーー!(パカパーン)
「そうか!これでクイズ世界が実現できるのか。
『もしも世界中がクイズに夢中だったら!』」
 ジリリリリン
「…これで世界が変わったの?」
「この紐えもんの秘密道具に間違いはないわよ」
 紐えもんがそう言うのでとりあえず今日は家に帰ることにした。明日の学校が楽しみだなぁ。
 そして翌日。
「あっ、おはよう。のび犬くん」
「お、おはよう。(どうしたんだあの冷淡な詩織がにこやかに朝の挨拶を!?)」
 もしもボックスが効いたんだろうか?僕がクイズが得意だからか!し、しかしあまり女の子と話すのに慣れてない僕はとりあえず当たり障りのない話題を振った。
「も、もうすぐテストだね。ちゃんと勉強しないと」
「え?勉強なんてしてどうするのよ。そんな暇があったらクイズの練習しなさいよ」
「‥‥‥‥」
「どうしたのそんな顔して?クイズができないといい大学やいい会社に入れないわよ」
「だ、大学とクイズになんの関係があるんだ?」
「入試で一番大事なのがクイズじゃないの」
 そうだったのか、なんとすばらしい世界だろう!ここでは僕もトップクラスの人間ということか…ムヒョヒョ。
「ちなみに私は今月号のクイズマガジンは全問正解したわ」
「なにっ!あの難解なクイズマガジンを!」
 くっ、詩織が高嶺の花なのは変わらないのか…。よーし、これから放課後は毎日クイズの特訓だ! こうして僕のクイズ生活が始まったのだった。
「はーーっはっはっはっ、今日も無駄に問題を解いているようだね庶民」
「うるさいぞ伊集院」
「まあクイズの帝王と呼ばれたこの僕が出題してあげようじゃないか。リコーダーで中指ひとつだけで出せる音は?」
「レ」
「ホウ酸は何の薬になる?」
「目薬」
「『燃えよペン』柿沢の新必殺パンチは?」
「柿沢E電パンチ」
 おーーーーっ!(パチパチパチパチ)
 ふと見るといつの間にか集まっていたギャラリーが一斉に拍手をしている。
「しょ、庶民にしてはなかなかやるようだねぇ。は、はーっはっはっ」
「すげぇなのび犬。くっそーいいよなクイズのできる奴は。お前がいれば今度の体育祭も楽勝だな!」
「なぜ」
「クイズに正解した方が1m引っ張っていいのが綱引きじゃないか」
「綱引きの意味あるのか…?」
 そう、何もかもがクイズで決まるのがこの世界だった。体育祭もクイズ、定期試験もクイズ、部の対抗試合までそのスポーツに関するクイズで行われるのだ。
 あるいは美樹原さんと動物園に行ったときのこと。
「あの…、コアラさんがいますね」
「そうだね」
「さて私はどう思ってるでしょう? (1)あのコアラ可愛いですね (2)可愛くないですね (3)目つきが怖いですね」
「デートもクイズか――!?」
 そんな感じで毎日は過ぎていった。次々と正解を繰り出す僕は女の子の人気も上昇したが、まだ詩織の顔を赤くするのは難しい。そして時には間違えることもある。
「いやー、失敗失敗」
「もう、そんな大した問題じゃないわよ?それじゃ次ね、太陽系で一番大きいのは?」
「木星」
 ボカーーン
 し、しまった太陽だったっ!何だ今の爆発音は!?
「さよなら」
「し、詩織ーーーっ!」
「なんだなんだどーした」
「ああっ好雄!クイズを間違えただけで詩織が冷たくなっちゃったんだよ!」
「ナニー?バカだなお前クイズ間違えるなんて人として最低のことだぜ。ああ、俺もお前を嫌いになってきた」
「好雄までーーっ!」
 クイズが絶対の価値を持つここでは正解できないような奴はまさに落伍者。5問も間違えれば女の子には嫌われ好雄まで冷たくなるのだ…。しかし負けん!この逆境を乗り越えてみせる!
 次の日から僕は猛然とクイズの本を読みあさった。ありとあらゆる問題を解いた。美樹原さんの「なぜ豚のぬいぐるみは少ないのか」という出題には三日三晩悩んだ。クイズ番長とも戦いこれを打ち破った。そしてついに3年生の1月3日、全国クイズデスマッチで優勝したのである!
「あっ、のび犬くん。デスマッチ優勝おめでとう」
「ありがとう、詩織」
「すごいね、本当にクイズの天才ね…」
 あの頃は無表情だった詩織の顔も今は紅潮し、毎朝一緒に登校する仲だ。
「今度の選挙でクイズ党が勝ったんだってね」
「そのうちクイズ大臣ができるわね」
「僕はいまにクイズ大臣になる!きっとなってみせる!」
「うん。きっとなれるわのび犬くんなら…」
 進路はプロのクイズ選手に決めた。これからバラ色の人生が待っているのだなぁ…。
「ずいぶん嬉しそうね」
「あっ、紐えもん。3年間もどこ行ってたの?」
「ちょっと理科室にこもって大統一理論を完成させていたのよ。別に欲しくないけどノーベル物理学賞は確実ね」
「ハハハ何言ってるんだよ紐えもん。そんな賞はないよ。あるのはノーベルクイズ賞さぁ」
「…は?」
 気の毒に紐えもん、科学なんて研究したってただの趣味としか見られないのに…
「『ドラゴンボール』でじいちゃんの形見は?」
「私が知るわけないでしょう」
「歴代内閣でもっとも短命なのは?」
「無能な政治家のことなんて興味ないわ」
「ボディコンとは何の略?」
「私は白衣しか着ないわよ!」
「ハハハ、この程度のクイズ解けなきゃ話にならないよ。それじゃ僕は伝説の樹の下に呼ばれてるから」
「んなっ…!」
 そう、差出人のない手紙をもらった僕はすっかり有頂天になっていたので、もしもボックスのある理科室の方へ紐えもんが走っていくのはもはや目に入らなかった。
 そして伝説の樹の下に着いたと同時にこんな叫び声が聞こえてきたのも、まったく気づきはしなかったのだ。
「もとの世界に‥‥‥戻れっ!!」
 ジリリリリリリリリ

 ‥‥‥‥‥‥。
「おかしい、なんで誰も来ないんだっ!?」
 パニくってる僕の前を詩織がすたすたと通り過ぎる。
「あっ、詩織。僕はプロのクイズ選手になったんだ」
「あっそう。良かったわね」
「ナニーーー!?」
 歩き去る詩織を呆然と見つめる僕の背後から、重い地響きが聞こえてくる。おそるおそる振り返るとそこには巨大ロボットが…。
「ひ、紐えもんっ!?」
「よくもこの私をコケにしてくれたわね。何がクイズよ。ロボいきなさい!」
「あぎゃぁーーっ!」

 こうして僕の3年間は終わりを告げた。

 しかし人類の価値観は時とともに変わるものなのだ。いつかクイズが絶対の価値を持つ世界だって来ないとは言い切れないかもしれない…?







<END>




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