一瞬と永遠と





 周りに誰もいなかったので

 私は伝説の樹に訊いてみました。

「永遠の愛って、あるんですか?」

 すると伝説の樹はこう答えました。

「あるかもしれないし、ないかもしれませんね。
 未来のことは誰にもわかりませんからね」

 私はそんなことを言われると思ってなかったので、

 思わず涙を浮かべます。

「この樹の下で生まれたカップルには、
 永遠の幸せが約束されるんじゃなかったんですか?」

 伝説の樹は苦笑しているようでした。

「あなただって、いつか彼のことが好きではなくなるかもしれませんよ」

「そ、そんなことないです」

「先のことなんて誰にもわかりませんし」

「ずっとずっと好きです!」

 言ってしまってから、はっと我に返って真っ赤になります。


 葉がゆらゆらとざわめいて、優しい空気を送ってくれました。

「それじゃ伝説なんて必要ないでしょう?」

「‥‥‥‥‥‥‥」

 もちろん伝説の樹は、意地悪をしているのではないのです。

 でも私はなにも答えられなくて、ずっとうつむいたままでした。

「永遠が約束されるなんて、つまらないとは思いませんか」

「でも、怖いです」

 あの人が私のことを、好きでもなんでもないかもしれないから。

「私、弱虫なんです」

「強い人なんていませんよ」

 私は顔を上げました。

「みんなあなたと同じように、告白する前は不安でしたよ」

「みんな、ですか?」

「そう、私の下で告白した人はみんな」

 この学校に、ずっと語り継がれる伝説。

 いつ生まれたのか知る人はいないけど


 今まで何人の人が、それを手に入れようとしたのでしょう。


「みんなが幸せになれたわけではないのです。

 でもみんな、自分で選んで、
 自分で手を伸ばしたのですよ」

 それはきっと

「他の誰にも、代わりは出来ないから」


 私の想いは私だけのもの。

 他の誰のものでもない、私だけの宝もの。


「永遠の愛なんてないかもしれません」

 伝説の樹が尋ねます。

「でも私は、あの人が好きです」

 私が小さく答えます。

「嘘でもいいんです。ずっと続くと思いたい」

 それは、良くないことでしょうか?

「いいえ。それがあなたの願いなら」


 願うこと。手を伸ばすこと。一歩前に踏み出すこと。

 本当にできたかわからないけど、でも私は今ここにいます。

 辛くて泣いた時間、友だちと笑った時間、彼を想った時間…

 どれか一瞬が欠けても、今には決して届かないから。


 そして足音が聞こえます。

 見慣れたはずの、あの人の姿が近づいてきて。

「さあ」

 この伝説の樹の下で、みんなそれぞれの想いを込めて

 その上にそっと乗せる、私の胸のひとかけらの勇気。


 最後に伝説の樹が、優しく私にささやきました。

「先のことなんてわかりませんが、

 あなたのこの3年間は、きっと永遠に消えませんよ」



 そしてまたひとつの時間が終わり、

 伝説は再び語り継がれます。

 いつかそれが終わるときが来ても

 この一瞬だけは永遠だから。


 あなたと並んで歩きながら

 もう一度伝説の樹を振り返ります。

 私たちが入学したあの日のように

 樹はそこに、静かに立っていました。




「どうしたの、美樹原さん」
「あ…。今、あの樹と約束したんです」
「聞いてもいい?」
「は、はい…


 ずっとずっとあなたのことを、いつまでも好きでいますって…」




<END> 




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