甲斐駒ヶ岳/戸台川本谷支流/舞鶴ルンゼ(初登)氷瀑

ARIアルパインクラブ/有持真人、宮川良成、河角敏樹


< 記 録 > 有 持 真 人


(山行日)1996年12月31日(火)〜1997年1月1日(水)

<メンバー>    ARIアルパインクラブ/有持真人、宮川良成、河角敏樹 <場所>      南アルプス/甲斐駒ヶ岳/戸台川本谷支流/舞鶴ルンゼ <ルートグレード> 4級 <ピッチグレード> V+ ★ 記録写真  ★ ルート図  ★ 概念図ここをクリックして下さい。 <記録> 12月31日(火) 戸台(08:30)〜丹渓山荘(10:00/11:00)〜F1登攀(12:00〜15:00)F1〜 テント(15:30)  昨年の年末年始は、屏風岩から前穂/東壁へ行くはずだったが1月2日以降に天候が悪化するためにルー トを変更し、甲斐駒ヶ岳/戸台川本谷へ行くことになった。  本谷は元旦に1DAYで登攀する予定だったので、初日の時間つぶしに、本谷支流の舞姫の滝を登攀しよ うと出かけたところまだ氷結しておらず、上部の七丈の滝沢もだめな様だった。  付近に手頃な滝がないかと物色していたところ、双子山の下部の方に氷瀑がかかっているのが樹林の陰に チラリと見えた。  しかし、樹林地帯に阻まれて全景を見ることができず、「どうせたいしたことはないだろう」と思ったが、 時間もあるのでとりあえず偵察に行く事にする。  この滝は、舞姫の滝からすぐ近くの場所にあり、本谷から離れて15分も登ると取り付きである。樹林帯 を抜けると開けたガラ場になり、上を見上げてみると正面に堂々とした大きな滝がそそり立っているではな いか。こんなスケールのある滝はどこだろうと、甲斐駒ヶ岳周辺のルート図を見比べてみてもルート図には 見あたらないし、それらしい記事も掲載されていなかった。  「もしかして未登の谷か」と思ったが、こんな近くにあるこれほどの滝が未登であるとは思えず、半信半 疑でとりあえず正面にそそり立っている大滝を登攀する事にした。  この大滝は、下部がオーバーハングにかかっているツララの集合体のバーチカルアイスで、幅が約1.5 m、高さは約12mで90度、グレードは(V+)、上部はバーチカルが終了した所から上部に行くにした がって広がっており、70〜90度の約30mのナメ滝になっている。グレードは(IV+〜V−)程度であ る。バーチカル終了点で、スクリューを使いピッチを切ることもできる。  有持がリードで登攀を開始する。この谷は北面にあるために滝は完全氷結している。ツララの集合体なの でバイルを降る度にツララが落ちてくる、滝の裏は空洞になっていたがある程度厚さがあるので「そう簡単 には完全崩壊する事はないだろう」と、ダブルアックスで大胆に登って行く。  アイススクリュー5本を使いバーチカル部分をクリアーした。これぐらい登りがいがあるとアイスクライ ミングも楽しい。  その後は、ナメ滝を快適登り終了点へ。丁度1時間で登り切った。ここでは立木でビレーする事になる。 ここから上部を見てみると更に滝があるではないか。とりあえず今日は時間がないので宮川と河角のため にトップロープをセットしF1でのクライミングを楽しんだ。  この谷はF1で40mのスケールがあり、更にその上部に20m以上の滝がある。これほどの谷なら登ら れていれば必ず発表されているはずである。それなのに記録がないという事は未登の谷ということか?  詳細は、帰宅してから確認する事として、とりあえず元旦の戸台川本谷は中止となり、翌日にこの谷を上 部まで登攀する事になった。思わぬ発見に足取りも軽くテントに戻った。夜は、毎年恒例のラジオから流れ てくるレコード大賞と紅白歌合戦で96年に別れを告げ、97年を迎えた。 1月1日(水) テント(07:30)〜取り付き(08:30)〜F1(09:00〜1015)〜F2(10:25)〜 F3(11:30)〜F4(12:00〜13:50)〜取り付き(14:50)〜テント(15:20/ 16:50)〜戸台(18:15)  97年元旦も天気は上々で、今年の山行も天気に恵まれてほしいものだ。アプローチも近いので朝はゆっ くりと出発する。  約1時間でF1に到着。昨日残置しておいたザイルを使い登攀を開始する。F1終了後に氷瀑混じりのガ レ場をつめていく。まだ積雪量が少ないのでアイスクライミング専用のアイゼンではガレ場が歩きづらい。  F2は、右側がバーチカルだがまだ発達しておらず、登攀不可能だ。左側はナメに近い状態だが完全氷結 している。傾斜は80〜90度で(V−)、高さは上部のビレーポイントまで約20mである。  そこそこ難しいのだが、F1のバーチカルを登った後ではすごく簡単に感じる。終了後は、滝の落口のす ぐ上にある倒木でビレーする。見てみると上部にはまだ滝がある。50mほどでF3の取り付きだ。  F3は12mのナメ滝で上部はまだ氷がかなり薄く、登攀は可能だがアイスピトンを打つことはできない。 グレードは(IV+)。  とりあえず、出だしにスクリューを1本きめて、一気に駈け登る。上部ではバイルのピックが岩を叩く嫌 な音が・・・・・。  F3は難なく登ったが、次のF4はなかなか手強そうである。滝のスケールは約12mと小さいが完全な バーチカルで氷も薄い。バイルを降るとバコバコと反響して嫌な音がする。  とりあえず有持がリードで取り付いた。滝はツララの集合体で中は中空でスクリューもセットできないし、 バイルを降る度にツララが崩壊し滝の厚さが薄くなっていく。半分登った所で滝の完全崩壊の危険を感じク ライムダウンをした。  ここで敗退するのも悔しいが、氷が崩壊してはもともこもないので左岸から巻く事にし、苔むした土の斜 面をダブルアックスとIV+の岩登りで登り切りトップロープをセットする。  トップロープで再度登り返すが、上部も氷が薄くスクリューをきめる場所はどこにもなかった。その上に はF5(IV)8m程度の小滝があるだけで、その後ろには稜線の青空が見えていたため源頭までは登らずに 終了した。終了点からは懸垂下降で、約1時間でF1の取り付きに戻ることができる。  登攀中に、残置ハーケン、シュリンゲ、ゴミ等の残置物は一切なかったため、初登であると確信してその まま一気に下山した。  帰宅後、アイスクライミング(改訂増補)の著者である<広川健太郎氏>に問い合わせたところ、かなり 前にF1を試登したことがあるが発表はしていないし、F1より上部は未登だということであったので、今 回の記録を改めて初登として発表する事になった。  ルート名は、色々と相談した結果、舞鶴ルンゼ/F1(翔鶴の滝)、F2(歌姫の滝)と命名した。名前 の由来は、F1が鶴が飛び立つ様に見えることと、F2は<舞姫の滝>の正面にある滝なので<歌姫の滝> とつける事にした。  この<舞鶴ルンゼ>は、戸台より約2時間半で取り付きまで行くことができ、スケールのあるアイスクラ イミングを楽しむことができる。八ヶ岳周辺のアイスクライミングに飽きた方などには最適なルートである。  各滝のスケール、グレード、今回の使用ギアは下記の通り。 F1/40m V+ スクリュー×9本(1pだが2pに切ることも可能) F2/20m V− スクリュー×2本 F3/12m IV+ スクリュー×1本 F4/12m V+ なし F5/8m  IV  なし <ギア>  アイススクリュー×9〜12本、ザイル/9mm×45m×2本、バイル、ピッケル、アイゼンはアイスク ライミング用の最新のものが望ましい。 ※ F1では、下部でピトンをあまり多く使いすぎると上部でランナウトする事になるので注意が必要。 <アプローチ>  戸台から丹渓山荘まで約1時間半。丹渓山荘より舞姫の滝を左に見ながら戸台川本谷を200mほど歩く と大岩の上にケルンを積んである。そのケルンの右側の斜面を登っていくとF1が現れる。  丹渓山荘より取り付きまで約50〜1時間。 <所要時間>  登攀/F1〜F5終了点まで約4〜5時間。  下降/終了点〜F1取り付きまで約50分〜1時間。 ※ 登攀者の技量によって著しく異なるので参考まで。 <下降>  倒木、立木を支点にし同ルートを懸垂下降する。F3は左岸から歩いて降りられる。 <高巻き>  F1/不可能。  F2/滝の正面の尾根から回り込む。  F3/左岸から簡単に巻ける。  F4/左岸から、IV+の登りで巻ける。
 
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