Aフランケ/赤蜘蛛ルート

獨標登高会/奈良和秋、西方裕、寺田正之


<山行日> 1999年9月土日(土)〜11日(月)<記録> 寺田正之



 当会の平林、奈良、雑賀の3名が、6月の第一週に同ルートを訪れたところ、6ピッ チ目の中間部クラックの残置が数メートルに渡り抜かれていたため登攀を断念。白稜 会ルートにエスケープしたところ、ルート図上の上部草付帯が岩壁に変わっていて、 はまってしまった。横手に降りたのが月曜未明の午前0時。夜行を乗り逃がし翌日3 名とも会社を休むはめとなった。

 今回奈良の雪辱を兼ね、奈良、西片、寺田の3名で山行を計画した。寺田は9月末か ら体調を崩し、出発の前日も風邪気味だった。ちょっと体力的に不安が有ったのだが ...。

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10月8日(金)

 9月末の忙しさが嘘のように、仕事が早くかたずいた。家に帰り速攻で晩飯、20:45 葛飾の自宅を出発。4歳半の息子が「パパ、気を付けて行ってきてね。」と送り出し てくれた。連休前で首都高は四つ木から代官町まで渋滞。外苑まで下道で行く。とこ ろが至る所工事中で予想外に時間がかかった。22:30いつもの待ち合わせ場所、八王 子ICI前着。すでに奈良はいたが、西片が15分遅れて到着。コンビニで買い出し。 23:10八王子インター。24:12韮崎インター。24:40竹宇駒ヶ岳神社の駐車場着。結 構クライマーでにぎわっている。ビールもそこそこ、25:00車中泊とする。

10月9日(土)晴れ

 6:30起床。朝食は軽いものとし早々に身支度を整え7:12出発。黒戸尾根の長い登り が始まる。やはり寺田は病み上がりで調子が悪い、胃の具合が悪くレーションが喉を 通らない。11:46何とか5合目小屋に到着。元気があったのはここまで。この後はペ ースダウンとなる。12:40七丈小屋着。正月にお世話になった小屋のご主人から巨峰 の差し入れ。何とか喉を通った。明日の行動用の水1リットルとビバーク用の水2リ ットルを補給。さらにペースが落ちる。14:15八合目着。

 テントが何貼かあった。そ こから悪いアプローチを下り、15:30Aフランケ取り付き着。赤蜘蛛ルートの下見に 行くと、何と1パーティ取り付いていた。話を聞くと大テラスでビバークするという 。18:00くらいまでコールの声が響いていた。17:30夕食。あたりはガスで覆われて いる。明日の登攀に期待しつつ18:00赤石沢源頭の沢音を聞きながらツェルトにくる まった。

10月10日(日)晴れ

 4:30起床。空にはまだ星が瞬いている。ツェルトから出るのが億劫だったが、それ 程寒さは感じなかった。熱い紅茶とレーションで朝食。明るくなるまではアプローチ を下ってくる者はいないだろうとたかをくくっていたが、大雉を撃っていると上部か ら人の声が聞こえてきた。まだ夜が明けきっていない中2人組が降りてきた。こちら は未だ準備が整っていないので、先を譲る。

 先行パーティが1ピッチ目を登り終わるのに続き、6:15奈良のトップで登攀開始。 寺田がセカンドで行くが、久々の人工と体調不良で出だしのハングでとまどったが、 すぐに慣れた。2ピッチ目は大凹角のフリーだ。ちょっと弱気になっていたが、ロー プを結び直し寺田のリードで取り付く。右手・右足のジャミングが面白いように効い て気持ちよい。3ピッチ目は凹角から人工。西片のリード。4ピッチ目V字ハングは 奈良のリード。ロープの流れを考え、最初の4つくらいランニングをとばす。ハング の乗越しの人工からフリーに移る一手がいやらしい。9:10ここで大テラスに上がる 。ところが前夜大テラスでビバークしたはずの5人組(2人と3人でアンザイレン)が 上部で手こずっているらしい。このため先行パーティはトップが中間支点にセルフビ レイをとって40分ほど待たされた。我々も大休止。ウエアの調整や食料・水分の補給 を行う。

 先行パーティーが6ピッチ目を登りだしたところで我々も10:15登攀開始。これから ビレイ点でのロープの結び換えは危険なので、奈良のトップで行くことにする。5ピ ッチ目凹角から外傾したテラスへ簡単なフリー。6ピッチ目いよいよ6月に奈良達が敗 退した核心部だ。今回サイズが不明だったのでフレンズ#1〜2.5までを2セット。フ レンズ0.0・0.5・3・3.5・4、エイリアン0.33、0.5、ロックス#1〜3を各1セット持 ってきた。垂直に伸びるクラック沿いのルートは、美しくかっこいい。残置への簡単 なアブミの掛け替えの後、フレンズによるエイドとなる。無事核心を抜け終了点でア ブミビレイ。西片セカンド、寺田サードで同時登攀でフォローする。フレンズが結構 決まっていて、回収に苦労した。6ピッチ目の終了点からはスーパークラックが左上 している。7ピッチ目恐竜カンテを越え、反対側にトラバース気味に登る。寺田はフ ォロー中にアブミを落としてしまった。フォローなのでカラビナでなく、フィフィを ひょいひょい掛け替えて登っていたのだが、メインロープの流れでフィフィが外れて しまった。今回軽量化のため予備のアブミは持ってきていない。スリングにカラビナ を掛け数手のぼり、西片の予備のアブミを回収した。さらにこの後、人工からフリー に変わるところで、リングボルとにタイオフされたスリングを回収する際、アブミを 2本とも落としてしまった。アブミを無くしたことより、自分の愚かさに登攀意欲が 無くなってしまった。しかし気を取り直し登り出す。奈良の予備のアブミで段状の岩 をこえ、樹林帯のフリーとなる。最終ピッチは簡単な樹林帯のフリーで14:45Aフラ ンケ頭の岩小屋にたどり着いた。

 明るいうちに少しでも下りたいので大急ぎで身支度をして稜線まで登る。これが結構 きつい。8合目は昨日より天幕の数が増えていた。七丈小屋16:30、小屋のおやじに 下山報告と小休止。17:00五合目小屋、17:30刀利天狗、18:00あたりが真っ暗にな りヘッドランプを点ける。吐く息にライトが乱反射し、足下が見辛い。3人ともへろ へろになって駐車場に戻ったのは19:45だった。

 竹宇のキャンプ場からは、キャンプファイヤーを囲む子供達の歓声が聞こえて来た。 そう言えばうちの息子も「お山(注:小川山のこと)でキャンプしたい!」と言って いたが、私が体調を崩し夏休み以降遊びに連れていっていなかったのを思い出した。 この時間では正月に立ち寄った藪温泉はしまっているかもしれないので、須玉の湯に 行く。3人とも足がへろへろでクルマから降りるのも大仕事だ。その後「珍珍珍(さ んちん)」でラーメンと餃子の遅い夕食。中央高速は60キロの大渋滞!双葉パーキン グで1ビバ入れる。パーキングは渋滞回避で仮眠するクルマで溢れていた。

10月11日(振替休日) 晴れ

 7:30起床。昨晩の混雑が嘘の様にパーキングはガラガラだ。8時出発。9:15八王子 ICI前着。ICIの隣の「なか卯」という京都風の牛丼屋で朝食後解散。首都高が 渋滞していたので高井戸から下道。11:45自宅着。さすがにカミさんはちょっと不機 嫌。午後息子と近くの公園に行くが、筋肉痛で辛かった。

 今回は体調不良で事前に不安があったが、奈良・西片両君のおかげで最後まで頑張る ことが出来た。アブミを落としたのはかなりショックだったが、6月に訪れた平林・ 奈良の両名もアブミを落としたとのことなので、このルートには何か有るのだろうか ?ともあれルート自体の素晴らしさもさることながら、秋晴れの最高の天気の元、充 実した山行であったことは言うまでもない。

【甲斐駒 赤蜘蛛ルート情報】

●アプローチ

 黒戸尾根8合目からの下降は、フィックスも多く結構悪いので注意が必要です。山渓 の茶本の解説図では、大岩の部分を右下(上から下ると、左下に下る感じ)ですが実 際は右マ右に下ります。八丈沢の分岐も右に下るのが正解です。それ以外は踏み後も しっかりしており、テープも有るので迷うことは無いでしょう。

 赤石沢奥壁を登る場合、七丈小屋にベースを置いてもいいですが通うのが結構大変で す。8合目の鳥居の上部や、岩小屋近辺の平らな場所にテント10張り以上張れるでし ょう。朝一で登るなら取り付きでビバーク。軽量化でベースを張るなら8合目がお勧 めですね。水場は取り付き同志会右フェイス下に水流が有りましたが、あまり綺麗で なく集めるに時間がかかります。七丈小屋で補給した方が良いでしょう。ペットボト ル大・小を貸してくれます。ちなみに8合目と取り付きでは、気温は2〜3度違います。 大テラスは大人10人弱ほどビバーク可能でしょうか?ルートが集中しているので雉 場(特に大)に注意が必要です。当日も小便臭くて不快でした。

●ルート

 1ピッチ目は簡単なアブミの掛け替えです。2ピッチ目の大凹角は快適なジャミング のフリーです。このピッチこそ残置を撤去し、ナチュラルの方が楽しめると思います 。サイズはハンドからワイドハンドです。3ピッチめは大凹角のフリーから人工。人 工のフェイス部分をフリーで行けば10bです。4ピッチ目はV字ハング。ハングの乗 越しの人工から、フリーに移る一手が嫌らしいです。すぐ上に終了点がありますがこ こでピッチを切らずに大テラスまで行った方が良いでしょう。5ピッチ目大テラスか ら凹角〜カンテのフリー。6ピッチ目核心部、残置の抜かれたクラックのフレンズに よる人工です。今回使用したギアはフレンズ#0.5・#1・#1.5と残置フレンズです 。ここ以外は残置があるので問題ないでしょう。一ヶ所残置が遠いところと、今にも 切れそうなリングボルトが有りました。6ピッチ目の終了点はハンギングビレイにな るので、先行パーティーがいる場合間隔は十分取ってください。7ピッチ目人工で恐 竜カンテを越え、灌木からフリーに。灌木の横のクラックには、おそらく初登時に残 されたと思われるアルミ製のZ型ハーケンが残置されていました。8ピッチ目出だし のフリーで一段乗越すと、岩が崩壊していて砂状になっています。下部がルートなの で落石には注意が必要です。最終ピッチは樹林帯の中の簡単なフリーでAフランケ頭 の岩小屋に到着します。

 今回3人パーティでハンマー2本とピトン数枚持っていきましたが、使いませんでした。 気温はこの時期、午前中の日陰で7〜10度、直射日光が当たってからは13〜18度、下 山時日が暮れてからは11〜13度でした。特に寒さや暑さは感じず、快適なクライミン グコンディションでした。

●携帯感度状況

 取り付きと大テラスでは、アンテナ2本。Aフランケ頭の岩小屋・8合目稜線上では 3本でした。


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