聖岳/聖沢支流/奥聖ノ沢下部(初登)

日程
2002年12月28日(土)〜31日(火)
メンバー
(地球クラブ)山岡人志、(豊川山岳会)白井良岳
記録
(地球クラブ)山岡人志
写真
ここをクリック
ルート図
ここをクリック

<山 行 記 録>


 今年も、未知の大滝を求めて年末の山行を行った。今回は、南アルプス
南部の畑薙ダム側から、聖沢沿いの一般道経由で、聖沢支流の奥聖ノ沢に
入り、アイスクライミングを行った。上部で深いラッセルのために、アプ
ローチに一日半かかったが、大滝を見つけ登攀することができた。年末の
好天にも恵まれ、だれもいない静かな山であった。

山域  :南アルプス・聖岳聖沢支流奥聖ノ沢下部(初登)
時期  :2002年12月28日(土)~31日
メンバー:山岡人志(地球クラブ(兵庫労山)、44歳)
白井良岳(豊川山岳会(愛知岳連)、30歳)
グレード:4級マイナス
報告  :山岡人志
行動記録:

12 月28日(土)
聖沢登山口1150m(8:10)~聖沢吊橋(10:30)~2050m付近(16:00)
 聖岳東尾根に向かう清水労山のひとたちと途中まで一緒になる。登山口か
ら30分強のところにある崩壊している小屋で、東尾根へ向かう彼らと分かれ、
後は、ずっと我々のみとなる。聖沢吊橋を過ぎたころから、積雪により不明
瞭となった一般道をたどる。だんだんと雪が深くなり、1800mを過ぎたころ
から膝下くらいのラッセルとなってきた。ふたりだと遅々として進まず、こ
の日は、さらに深くなる雪のために結局2000mを少し超えたところまでしか
行けなかった。

12 月29日(日)
2050m付近(7:35)~滝見台2240m(13:00)
 トラバース気味に膝上から時折股下まであるラッセルをふたりでしながら
移動していく。途中、奥聖ノ沢が見え、下部に氷結した大滝を確認できた。
午後1時にやっと滝見台と言われるところに到着した。当初、最初の目標に
していた聖沢の支流のひとつである前聖の沢を観測するが、少なくとも、
下部に顕著な滝は確認できなかった。上部の二股付近には60mを超える大滝
があるのがわかっているが、この雪では、沢筋のラッセルは非常に大変なこ
とが容易に予想され、上部まで行って、日帰りできるとはとても思えなかっ
た。目標をすぐに変更し、来る途中で見えた、もうひとつの目標であった奥
聖の沢の大滝を目指すことにする。いずれにせよ、日帰りするためには、滝
見台からいったん200m強聖沢まで下り、支流の奥聖ノ沢を登攀したあと同
ルートを下降して取り付きに戻り、また、滝見台まで上り返さないと帰り着
けない。このため、この深いラッセルの中、ルートを上部まで登ることはあ
きらめる。対岸から見た限りでは、上部に顕著な滝は確認できなかったので、
大滝の上部の滝を登れば、実質的にクライミングは終わるように思えた。

12 月30日(月)
滝見台(6:10)~ 奥聖ノ沢F1取付2000m(7:15)~ F3取付(9:00)~
F6終了2220m(11:50)~ F1取付(12:45)~ 滝見台(14:30)
 奥聖ノ沢へのアプローチは、我々の来た一般道を100mほど戻り、沢をいっ
たん200m強、聖沢まで降りてから対岸の支流である奥聖ノ沢へ向かう。前日
に積雪のハンドテストをしたところ、60cmほど下にあられの層があり、そこ
が一番の弱層となっていた。その上の層は新雪と結合の弱いこしまり雪がほ
とんどであった。沢筋では、ラッセルにより時折弱層まで達する。小さな雪
崩でもこの弱層から崩れれば、助からないだろうと思われた。しかし、経験
から雪崩の可能性は大きくはないと思われたので行くのを止めようとは思わ
なかった。
 聖沢までの下降は、懸垂下降が入るので、薄明るくなった6時過ぎに出発す
る。すぐに、15mの懸垂、そして、20mほどの懸垂をして、ルートを左より
にとっていくと、1時間ほどでちょうど奥聖ノ沢の取り付きが対岸に見えると
ころに到達した。聖沢自体も雪で埋まっており、渡渉もなく取り付きに至る
ことができた。聖沢も、上部を見ると、氷結した滝が確認できた。
 奥聖ノ沢のF1は、本流の左にある氷のルートを取ることにする。本流は、
雪が多く、ただの雪壁と化していた。すぐにそれぞれ確保なして登りはじめ
る。垂直部はIV級-くらいで全体として50mほど。傾斜の緩いところは雪が
積もっていてそれをかき分けながらのクライミングとなった。上部で本流に
合流する。多くの小さな滝は雪に埋まっているようであった。100mほどラ
ッセルすると、10mほどの傾斜の緩いF2の滝があり、これを超えて少しいっ
たところに、一般道から見えた大滝が確認できた。これを見て、ふたりとも
感嘆の声をあげる。遠めに見たよりも大きく、しかも手ごわそうに見えた。
この沢は南東面を向いているためにすでに日があたっており、水が滴り落ち
ていた。下部は傾斜が緩くやさしいが、上部1/3は、立っていて、しかもつ
らら状の氷のかたまりであった。1P目、ここで初めて確保して、白井リード
で左寄りから中央に向かって登る。下部の氷は脆いが問題ない。35mほどロ
ープをのばす。2P目、山岡リードで垂直部の中央の少し凹角状になったとこ
ろを登る。すぐにランニングをとり、さらに登るが、だんだんと氷が薄くなり、
最後には薄氷状態で、ピトンをセットすることができなくなってしまう。それ
よりも、氷を割って、滝の中に落ち込まないようにだましだまし登るほうが大
変であった。緊張しながら10m以上もランナウトしてやっと滝の出口に出る。
IV+~V-程度であるが、久しぶりに危険なクライミングであった。F4は35mほ
どの傾斜の緩い滝でここも氷が薄い。確保なしで右よりに登る。F5は10mほど
のただの雪壁と化していた。F6は20mほどで、下部3/4はここも雪壁。白井が
先に登っていたところ、突然、足元が崩れて滝の中に落ち込む。幸い、ロープ
をつないだまま行動しており、一応ここではグリップビレーをしていたので、
ロープに引かれて止まり、滝の奥までは落ち込まずにすむ。白井はこれに懲り
ず、結局登り返す。このF6の上は滝らしいものも見えなかったのと、氷の状
態が悪かったので、クライミングはここで打ち切り、下降に移ることにした。
下降は、左岸をトラバース気味に下降していくと、大滝下に出ることができた。
取り付きまでは、1時間ほどで降りられた。
 取り付きからは、聖沢を渡って、また、ルンゼを登りかえさねばならない。
途中、2回懸垂下降したところは、微妙なミックス壁登りを確保なしでして、
滝見台まで帰り着くことができた。

12 月31日(火)
滝見台(6:00)~聖岳登山口(10:40)
 自分たちのラッセル後がほとんど残っていたので、帰りはなんと5時間弱で
登山口に着いてしまった。ここから畑薙ダムまでの林道沿いの沢や、枯木戸沢
の大滝も登攀対象にていたが、道路わきでの水量の多さを見てあきらめ、その
まま帰宅することにした。大晦日であったが、途中、田代にある道路わきの三
角屋根の「ふるさと」という民宿でたのんで温泉に入らせてもらう。
 
 我々にとって、この地域はまったく未知であり、地図と資料だけから今回の
ターゲットを選んだ。結果的に、ひとつのルートの下部は登攀できたが、思っ
たほどの氷はなかった。アプローチのラッセルも大変であった。しかし、静か
な自分たちだけの山を楽しめてよかったのかもしれない。多少の苦労をすれば、
まだまだ、良い氷は他にもあるように思える。これからも、良い場所を見つけ
ておもしろいクライミングを続けることができればと思う。

白井の感想:
 入山が多荷物のラッセルとなり思いのほか疲れた。自分の体力の低下とトレ
ーニング不足を痛感しこの反省を次回の山行に活かしたい。
 一方奥聖ノ沢の初トレースのみに終わる結果となったがこの雪の多さではし
ょうがなかったと思うし、この結果に対しては満足している。とにかく未知の
エリアに入り誰も試みたことがないことを、結果はともかくとして行えたこと
に満足している。
 ほとんどのことがやり尽くされて来た日本であるがまだ「人がやってないこ
とをする」と言う気持ちを持ちつづけてクライミングをしていけたらいいなと
思う。
 山行を通してずっと晴天が続き冬山気分はあまり味わえなかったですが気持
ちのいい山行でした。

<奥聖ノ沢下部のデータ>
ギア=アイスピトン6-8本
 沢は南東面を向いているために、朝から午後2時ころまで日が当たっており、
氷結はあまく氷はやわらかかった。氷の踏み抜きに注意する必要がある。また、
降雪直後は雪崩の危険性も高いと思われる。
F1:50m, IV級-。本流の左側。(標高2000m)
F2:10m, II級
F3:60m, 1P目III級35-45m。2P目15mIV級+。(標高2150m)
F4:30m, III級。
F5:10m雪壁。
F6:25m, II級。氷雪壁。

★ エリア別山行記録へ戻る ★ INDEXへ戻る