アラスカ/マッキンリー/ウエストバットレス

日程
2002年5月24日(金)〜6月24日(月)
メンバー
(福岡/FYK)堀永敏克、福村浩子、蜂谷一彦
記録
(福岡/FYK)蜂谷一彦
写真
なし
ルート図
なし

<山 行 記 録>


 蜂谷一彦@FYK(福岡)、通称ハッチーと申します。
 会の仲間と共に、北米大陸最高峰・マッキンリーに登頂し、先日帰国
しました。
 当初の目論見では、ウェストリブやメスナークーロアールなども登って
みたいと意欲満々でしたが、ノーマルルートのウェストバットレスを登る
のが精一杯でした。
 以下、マッキンリー登山の概要をご報告いたします。
(長文で失礼いたします。)

期間: 2002年05月24日(金)〜06月24日(月)
山域: 米国・アラスカ州 Mt.Mckinley(マッキンリー)
 (現地名:Denali=デナリ: 標高6,194m)
ルート: ウェスト・バットレス
参加者: 堀永敏克さん、福村浩子さん、蜂谷一彦
  合計3名・ともにFYK(福岡山の会)所属

行動概要:
05/24(金) 福岡空港10:00発 (大韓航空KE782便) ソウル・仁川空港11:25着
 ソウル・仁川空港18:55発 (大韓航空KE085便) アンカレジ空港09:35着
 現地在住・加藤さんのお迎えを受け、アウトドア用品店「REI」ならびに
「AMH」にてオーバーブーツ等の装備買出し。
 加藤さん経営の「Captain CookInn B&B(Bed&Breakfast)」、
別名「Midnight Sun Express」に宿泊。
加藤イツロウ方: P.O.Box 104113  Anchorage , Alaska 99510
  Tel: 907-276-2033  Fax: 907-276-3805
 E-Mail: mseanc@alaska.net
05/25(土) 現地スーパーマーケット「CARRS」にて食糧等買出し。
 宿泊同上。
05/26(日) 「アンカレジ」から「タルキートナ」へ移動。(加藤車にて)
 タルキートナ・レンジャー・ステーション(通称、「NPS」=ナショナル
・パーク・サービス)にて入山受付。加藤さんがグリーフィングに同席・通訳
して下さったので英語力が極めて乏しい我々としてはとても助かった。
 軽飛行機の順番待ちならびに天候不順によりこの日は入山できず。
 タルキートナ・エア・タクシー(TAT)のバンクハウス泊。(無料)
05/27(月) 「タルキートナ」から「ランディング・ポイント」(LP)へ
 軽飛行機にて入山(LP:標高約7,200ft=約2,130m)。食糧デポ。LP泊。
05/28(火) LP〜C1 (カヒルトナ氷河上、標高約7,800ft地点) 食糧+燃料
 デポ。C1泊。
05/29(水) C1〜C2 (カヒルトナ氷河上、標高約9,200ft地点) C2泊。
05/30(木) C2停滞 (降雪・休養日)
05/31(金) C2〜C3・通称DC (デポキャンプ、標高約11,000ft=約3,350m地点)
06/01(土) C3〜MC (メディカルキャンプ、標高約14,200ft=約4,330m地点)へ荷揚
 げ〜C3泊。MCでは、「北極海からタルキートナまで自転車をこいで来た」と
 いう鳥取大学山岳部OBの安藤氏にお会いした。
06/02(日) C3〜MC 残りの荷物を上げる。MC泊。
06/03(月) MC停滞 (降雪・休養日)
06/04(火) MC〜16,200ft(約4,940m)のショルダーへ荷揚げ・デポ。MC泊。
06/05(水) MC停滞 (休養日) 蜂谷はMC〜4,940mのショルダーまで、福村
 さんは約4,700mまで高所順応のために往復。
06/06(木) MC〜4,940mデポ回収〜HC(ハイキャンプ、標高約17,200ft=約5,250m
 地点)設営〜MC泊。
06/07(金) MC停滞 (快晴・休養日)
06/08(土) MC停滞 (強風・ガス)
06/09(日) MC〜レスキューガリー経由〜HC (アタック準備完了) HC泊。
06/10(月) 蜂谷・高山病(頭痛)でダウン、ならびに天候不順のためHC停滞。
06/11(火) HC停滞。強風&寒気。気温-20度以下。食糧切り詰め作戦実施。
06/12(水) HC停滞。強風&寒気。夕方、蜂谷と福村さんの2名、デナリ・パス
 (標高約18,200ft=約5,550m地点)まで往復。空腹と寒気で力が入らぬうえ、
 風でトレースも消えて苦労する。夜中から晴れる。
  期待が膨らみ、一睡もできず。
06/13(木) 快晴。殆ど無風と言って良いほどのベストコンディション。
 FYK3名の後ろに、北海道・鈴木氏がついてくる。途中、MCから上がって
 きた富山大・長坂氏が追いつき合流。HCから約5時間半で「Mt.Mckinley」
 South・Peak(標高20,320ft=6,194m)に登頂。居合わせた外国さん達と次々
 に握手し、「Congratulation!」とか「Good Job!」とか言って、お互い
 の健闘をねぎらう。山頂からHCへの下降は約2時間。HC泊。
06/14(金) HC撤収〜MC撤収〜C3(DC)へ。C3泊。
06/15(土) C3〜C1デポ回収〜LPへ。C1では、デポしておいたジャガイモや人参
 などを輪切りにして、フライパンの上でラード油で炒めて食べたが、バリウマ
 かった。広大な氷河のド真ん中で、周囲の山々を眺めながら3人で輪を囲んで
 箸をつつく。なにせ白夜なので時間の制約なんかなく、最高に贅沢なひととき
 だった。その後のソリ引きは最悪だった。雪の状態はイタリアン・ジェラートのように
 グヂュグヂュになっており、スノーシューが埋まるほどだった。
 やはり断然スキーの方が有利だと思う。LP泊。
06/16(日) LP〜「タルキートナ」へ軽飛行機にて下山。
 丸3週間ぶりにシャワーを浴びる。なんと、我々の登山期間中に、「デリ・
 ピザ」が火災で焼失していた。これは大ショックだった。NPSにて下山
 報告(チェックアウト)。TATのバンクハウス泊。日本人クライマーどうしが集ま
 って乾杯。
06/17(月) コインランドリーで洗濯。装備の日干し等をして過ごす。
 TATのバンクハウス泊。
06/18(火) 周辺散歩。NPSに行って、「岩と雪」誌を読み漁る。
 (同誌のバックナンバーが数十冊置いてあり、大変貴重である。欲しい記事
 があれば、1枚5セントでコピーすることも可能。)
06/19(水) アンカレジへ移動。スペナード・ユースホステル(1泊16$)泊。
 満室のため、外でテントを張ってくれと言われたが、面倒だったのでソファ
 の上で寝た。
06/20(木) 床屋に行って散髪。REIの店員さんに「I have one question.
 Do you know climbing-gym near here?」と最寄の人工壁の在処を尋ねた
 ら、親切丁寧に地図を書いてくれたので、一人で行ってみることにした。
 しかし、REIから歩くには遠すぎた!「本当にこっちで良いのか?」と不安
 になりながらも、なんとかジムに辿り着いた。
 店の規模は案外と大きく、ボルダー、リード壁ともに充実している。
 「ALASKA ROCK GYM」
 (4840 Fairbanks St. Anchorage Alaska TEL907-562-7265)
 場所はOld Seward Highway & Tudor Rd の交差点から徒歩5分。
 系統60番のバスがすぐ近くを運行している。
 この日は、ボルダーだけしてユースホステルに歩いて戻った(その距離も
 結構長かった!)が、V3というグレードを登るのが精一杯だった。
 ユースは相変わらず満杯で、この日もソファーで寝た。
06/21(金) 午前中は土産物を物色。午後から堀永さんと2人でジムへ向かう。
 ジムには「マークス」という犬が居て、仲良しになった。この日もボルダー
 だけ。夜は加藤氏宅のB&B泊。
06/22(土) 午前中は土産物を物色。バスのトランジット・センター前で富山
 大の長坂君と偶然再会し、午後から4人で一緒にジムへ行く。この日はリー
 ド壁にもトライ。5.10Bの被ったカンテが面白かったが結構シビアに感じた。
 5.11A/Bは難しくて歯が立たなかった。V3を一撃できたのがせめてもの救い。
 夜は空港に移動して待機。
06/23(日) アンカレジ空港04:25発 (大韓航空KE086便)
06/24(月) ソウル・仁川空港06:05着 同18:45発(大韓航空KE781便)福岡空港 20:10着。

 以上です。デナリ(マッキンリー)のウェスト・バットレス(ノーマルート)
は、技術的には超簡単です。
 昨年(2001年)度には、日本人のウチダ・トシコさんという方が70歳で登
頂され、女性の登頂者最高齢記録となったようです。2001年度は、総登山者
1,305人中、登頂者は772人で、成功率は59%だったそうです。
 ちなみに今年度の数字ですが、僕達がチェックアウトした時点では、下山者
709人中、登頂者は323人で、成功率は45%でした。その後、多少は変動があったものと思われます。
 ウェストバットレスは登攀的要素が少なく、最初の頃は、「距離が長いだけ
で、なんだか期待ハズレだなぁ」とか思っていたのですが(=出発前に遠征メ
ンバーで登った今年の春山合宿:鹿島槍・天狗尾根のほうが、はるかに難しい
コンディションでした。)、後半は悪天候に悩まされ、食料も尽きかけて、あ
わや敗退というところまで追い詰められました。
 しかし、日頃の行いがよいせいか(?)、未練がましい性格のゆえか(?)、
粘りに粘った挙句、1年に1度あるかないかと思われるくらいの「殆ど無風」
と言って良いほどの快晴に恵まれ、土壇場で登頂することができました。
 いや〜、北米最高峰の山頂からの眺望は、まさに絶景そのもの。
 筆舌に尽くしがたいですが、とにかく素晴らしい最高の景色で、ホントに
最高・至福の瞬間を味わえました。つまらない登行が報われたような気がし
ました。
 氷河上のソリ引きは地獄の苦痛だし、クレバスは怖かったし、極北の高峰
なので寒さも半端じゃなかったけど、外人さんのお友達もできたし、いろいろ
と楽しめました。

<デナリ登山の手順ならびにルート概要>
(1) 入山60日前までに、タルキートナ・レンジャー・ステーション(ナショ
 ナル・パークサービス=「NPS」)に登山届を提出する。(60日前までの
 提出は「絶対厳守」。)
  登山届の様式は下記のHPよりダウンロードできる。登山者全員が、一人
 1枚ずつ記入し、リーダーが全員分まとめてFAXか郵便でTRSに送る。
  http://images.myareaguide.com/aps/parks/denali/reg.html

 NPSの連絡先は、以下のとおり。
 United States Department of the Interior National Park Service
 DENALI NATIONAL PARK AND PRESERVE
 (アメリカ内務省内国定公園サービス・デナリ国立公園)
 P.O. Box 588 Talkeetna, Alaska 99676
 Phone: (907)733-2231 Fax: (907)733-1465
 E-Mail: DENA_Talkeetna_Office@nps.gov
  
 ちなみに登山届に記入する項目は、下記のとおり。
 (ア)遠征隊の情報として、「遠征名・パーティーの人数・山域・ルート・
 出発予定日・帰着予定日・利用予定のエアタクシー会社・利用予定のガイド・
 リーダー氏名」
  ※エアタクシー会社未定の場合は「owm arrangement」、ガイドレスの
  場合は「needress」と記入すればよい。
  ※ガイド利用の場合、デナリ国立公園での活動が許可されたガイド7社
  のみ有効。不法ガイドは禁止され、登山許可が取り消される。
  許可されたガイドサービス社の一覧は、NPSから入手できる。
 (イ)個々人の情報として、「登山者本人の氏名・住所・自宅電話・勤務先
 電話・FAX番号・生年月日・年齢・性別・メールアドレス」
 (ウ)緊急連絡先の情報として、「(連絡先の)氏名・あなたとの関係・
 住所・自宅電話・勤務先電話」
 (エ)登山者本人の主な登山歴として、「登山した年・ピーク名・ルート・
 到達高度」
 (オ)登山料金の支払い方法(どれか1つを選択)「米国通貨為替、ビザ
 カード(カード番号)、マスターカード(カード番号)、カード有効期限」
   ※パーソナルチェック(個人用小切手)での支払いは不可。
   ※登山料$150のうち、前金$25が申請と同時に引き落とされる。
 (カ)小冊子郵送の希望の有無。郵送を希望する場合、翻訳言語の選択して、
 「英語・スペイン語・フランス語・イタリア語・ロシア語・ドイツ語・韓国
 語・日本語」

(2) タルキートナに到着したら、NPSで入山受付(チェックイン)を行い、
 登山料の残金として$125を支払う。(カード可。)NPSの営業時間は8:00
 〜18:00。受付された各登山隊毎にグリーフィングが行われ、下記の項目など
 を聴かれる。また、希望するルートの情報を得ることができる。
 「テントの型・色」、「食糧(何日分か)」、「コンロの型・個数」、「燃料
 の量」、「スキーかスノーシューか」、「高山病対策用の医薬品の所持・品
 名」、「無線機の所持」、「スコップの本数と材質」(高所デポ地などでは
 雪が氷化して硬いので、金属製スコップの所持を薦められる。)等々。
 ちなみに、ソロの方から伺った話では、聴取される項目がもっと細かく増える
 模様です。

(3) NPSで入山届を済ませたら、エア・タクシー会社に向かい、NPSで
 発行された「Permit・Number」を申告して、軽飛行機代(TATの場合、往復
 で$295)や燃料代(ホワイト・ガソリン=1缶あたり1ガロン=3.785リット
 ルで$6)、CBラジオ(シチズン・バンド無線機。レンタル代$60)、Base・
 Camp・Fee($10)、スノーシュー (レンタル代$60、スキーは$130で要予
 約。)等の代金を支払い、フライトの手続きを行う。
  このとき、外の秤で荷物の重量を計量し、何Lb(ポンド)あるか申告する。
 (1kg=2.205ポンド。1ポンド=0.45359kg)所定の重量をオーバーすると
 超過料金が追加される。帰りの着替えなどの荷物は倉庫等にデポ可能。
 パスポート等の貴重品も、セーフティ・ボックスに預けられる。

(4) タルキートナからエアタクシーで約50分ほどでイーストフォーク・カヒル
 トナ氷河上のランディング・ポイント(標高約7,200ft=約2,130m地点)に
 到着する。ここで注文していた燃料を受け取る。また、ソリはランディング・
 ポイントに山積みにされていて、各自好きなものを取って利用するが、中には
 取っ手の部分が切れていたり割れていたりするものがあるので注意が必要。
 尚、天候状況によっては軽飛行機が飛べない日があり、下山時にはランディン
 グ・ポイントで足止めを喰らうこともあるので、ここに数日分の食糧を余分に
 キャッシュ(隠す意=デポのこと)しておくことが望ましい。
 LPから歩いて下る場合(あるいは歩いて入山する場合)は、重荷を担ぎなが
 ら氷河のクレバス帯や山麓の湿地帯などの通過、そしてグリズリー・ベアに怯
 えながら1週間以上は余計にかかるもの、と覚悟したほうがよい。

(5) ランディング・ポイントからウエストバットレス経由・山頂までのコース
 概況は以下のとおり。
 (ア) ランディング・ポイントからカヒルトナ氷河本流へゆるやかに下った
 のち、広大な本流をゆるやかに登って北進する。「ノースイーストフォーク・
 カヒルトナ氷河」の合流点の手前(カヒルトナ・ピーク西峰の西側付近)が
 C1。(標高約7,800ft地点)ここまでは殆ど平坦といってよいくらいであ
 る。
 (イ) C1からC2は傾斜が少しきつくなり、ソリ引きが少々辛くなる。斜面
 を登りきって平坦状になったところ付近がC2。(標高約9,200ft地点)
 (ウ) C2からしばらく平坦部を進み、カヒルトナ・パスの手前で東に折れて
 S字状に登ると、C3に到着する。(標高約11,000ft=約3,350m地点)
 C3は通称デポ・キャンプ、あるいはキャッシュと呼ばれている。クレバスが
 多いのでワンド(旗竿)で幕営地の雪面を刺してチェックすることが望まし
 い。
 (エ) C3からは、傾斜が一段と増して標高差が大きくなるので、荷物の量
 ならびに高所順応を考えると、次のキャンプ地(メディカル・キャンプ)まで
 2回に分けて荷揚げすると良い。目前の「モーターサイクル・ヒル」と呼ばれ
 る斜面を登り、ウェスト・バットレスの末端壁を左手に見ながらプラトーを抜
 けてひと登りしたことろが「ウィンディー・コーナー」である。更に氷河を超
 えてベイスン(洗面器)と呼ばれる広大なプラトーにあるメディカル・キャン
 プ(MC:標高約14,200ft=約4,330m地点)にたどり着く。
 MCにはレンジャーがシーズン中は常駐しており、緊急時にはヘリコプターも
 飛来してくる。このプラトーの縁は「エッジ・オブ・ザ・ワールド」と呼ばれ
 ており、ノースイーストフォーク・カヒルトナ氷河まで約1,400m落ち込んで
 いる。
(オ) MCからハイ・キャンプへは、主に2つの登路があり、トレースがY字
 状に分かれている。通常のノーマル・ルートは「左側」のヘッドウォールの
 雪壁で、約4,700m地点から約4,940m地点のショルダーにかけて、レンジャー
 によってFIXロープが2本(登り用と下り用)張られており、登行器がある
 と楽である。(「カラビナ掛け」だけで登っている人も居たが。)
 尚、このFIXは、右側が登り専用、左側が下り専用である。
 4,940m地点のショルダーでデポをするパーティーも多い。4,940m地点から先
 は、岩と雪のリッジを進む。途中、FIXが張られている箇所も一部分ある。
 17,230ftの小ピークを左から巻くと、ハイ・キャンプ(HC、17,200ft=
 約5,250m地点)に辿り着く。
 MCからの登路のうち、もう片方の「右側」のトレースは、「レスキュー・
 ガリー」と呼ばれ、HCへダイレクトに上がることが出来るが、その分、傾斜
 はきつい。(我々が行ったときはFIXが1本だけ張られていたが、6/12の
 時点では撤去されていた。)
  HCには、NPSのキャッシュ(デポ品。ワイヤーで張られた貯蔵庫)が
 あり、「Denali’S West Buttress」というガイドブックによれば、この中
 には、「レスキュー用の装備」として、酸素ボトルとレギュレーター、ガモウ
 バッグ、300m分のスタティック・ロープなどが置かれているようである。
(カ) HCから先は、左上する長いトラバースを経て、デナリ・パス
 (18,200ft=約5,550m地点)に至る。技術的には容易だが、下りのときに、
 HCが見えた安心感から油断が生まれるのか、あるいは疲労や高度障害から
 か、スリップによる事故が多発している箇所でもあり、注意が必要である。
 また、上りにおいては、強風・低温時にはパスに出たとたんに凍傷にやられ
 やすく、油断は厳禁といえる。
(キ) デナリ・パスを回りこんで雪の斜面を登っていくと、頭上にJAC
 (日本山岳会青年部)の風力計(標高5,715m)が見えてくる。コースは、
 風力計の右側を辿る場合と、左側を辿る場合があり、我々のアタックの時は
 左側にトレースが付いていた。
 左手前方には、アーチディーコンズ・タワーが聳え、その左奥には南峰頂上
 部分の雪稜も見える。風力計から先は、ゆるやかな雪の斜面が続き、やがて
 左方向に弧を描きながら平坦部を進んで少し上ると、「フットボール・フィ
 ールド」と呼ばれる広大な雪原に出る。(約19,500ft)
 ここに荷物をデポして頂上に向かうパーティーが多い。この雪原を400m程
 まっすぐ突っ切って、「ピッグ・ヒル」と呼ばれる急斜面をカヒルトナ・
 ホルン(カシンリッジの頭)の直下まで登り、左方に稜線をトラバース、
 雪庇に注意しながら約400m慎重に進むと、「Mt.Mckinley」South・Peakの
 山頂(標高20,320ft=6,194m)である。

<備考・雑感・余談>
○ 5月〜6月の時期がベストシーズン。7月以降はクレバスが広がり、軽飛行機
 のランディングが難しくなる。5月以前は、厳しすぎる寒気が問題となる。
○ LP〜C3までは、各キャンプ地間の行動時間・標高差が短いので、つい欲が
 出て、「2日分を一気に稼いでしまおうかな」とか思いがちだが、高所にう
 まく順化するには、とにかく焦らずに「ゆっくり登る」ことを徹底すること
 がコツのようである。
○ ソリの荷物の積み方は、重たい物をなるべく底辺(ソリと接触する側)に
 詰めて、重心を低くするのがコツ。(ソリが安定してひっくり返りにくくな
 る。)重たい物を上に積むと、数mも進まぬうちにすぐにひっくり返ってしま
 う。
○ ソリの引き綱の太さは3〜4mmの径で充分。引き綱は、腰のハーネスに着
 けるよりは、背負ったザックの両サイドに付けたほうが(僕自身は)引きや
 すかった。また、下りの牽引を考えると、パイプフレームがあった方が(ソリ
 が前に落ちてこないので)有利。塩ビのパイプを2本持参して、その中に引き
 綱を入れるなどの工夫も有効かと思われる。パイプフレームがない場合は、下
 りの時はソリを前方にして、左右の綱でソリをコントロールさせながら下ると
 楽である。
○ デポ品を雪の中に埋める際は、1m以上の深さを掘り、2m以上の長さの
 ワンド(旗竿)を設置することが望ましい。(3週間に及ぶ登山期間中、雪
 が解け、カラス等に食料が攻撃される被害が多い。)
○ 入山時、NPSでゴミ袋と大便廃棄用のコーンスターチ製の袋が支給され
 る。登山活動中のゴミはすべて、所定のゴミ袋にひとまとめにして、自分達
 で持ち帰る。大便はLPやMC、HCなどに設置されている簡易トイレで済
 ませるか、コーンスターチ製の袋に入れてクレバスに投下する。(コーンス
 ターチ製の袋は3〜4週間で分解するとのこと。)
 また、今年度?から試験的に、メディカル・キャンプに「携帯用小型樽」が
 250個ほど備えられ、レンジャーのテントにて無料貸し出しが行われ、高所
 での排泄物の持ち帰りを奨励している。
○ 夜中に尿意を覚えたとき、吹雪の日などは「小便ボトル」があると重宝
 する。「DOLE」のジュースのペットボトル(16Floz=473ml)が、
「飲み口」の部分が大きくて使いやすかった。ただし、キャップの閉まりが
 浅く、しっかりと閉めないと少し漏れるし、逆に閉めすぎると開けるのに
 苦労した。
○ 長期間の山行のときは、入浴できずにどうしても不潔になるが、コンビニ
 等で売られている除菌ウェットティッシュで身体を拭くと大変スッキリした。
○ オーバーブーツは靴底から丸ごとカバーできるタイプのものをAMHにて
 $110で購入した。勿論、ワンタッチ・アイゼンは装着可能。
○ ワンド(旗竿)はAMHで10本$4.95と安いが、タルキートナのエア・タク
 シー(軽飛行機)会社の倉庫の脇に、使用済みの竿がたくさん捨てられてい
 ますので、超セコいけど、それを活用する手もあります。
○ 5月〜6月のハイシーズンは「白夜」なので、ヘッドランプは全く不要。
 ただし、バンクハウスに泊まる場合は、(照明がないので)ヘッドランプが
 あったほうが便利。着替えなどの荷物は倉庫等にデポ可能。
○ 食糧については、蕎麦・うどん・そうめん等の乾麺が高所では生煮えに
 なり、調理が難しく不評だった。特に蕎麦はドロドロして最悪だった。
 美味しかった食材としては、「青さのり」、「ふえるワカメちゃん」などの
 海藻系があげられる。
○ タルキートナ周辺は蚊が非常に多いので、バンクハウスやテント泊の場合
 は、モスキート・コイル(蚊取り線香)が重宝する。現地の店では下記の2種
 類が売られていた。
  Pic Corporation製(Made in INDONESIA)8枚+金具8個
 で$3.50
  Coleman製(Made in CHINA)10枚+金具2個で$2.35
 ※アンカレジのでは、他のメーカーのやつが10枚で$1.95くらいでした。
○ TATから北へ300mくらい行ったところの右手にタルキートナの「ユース
 ホステル」があり、$5でシャワーが利用できる。(シャワー代としては少
 し高い気もするけど、下山後すぐに手っ取り早く浴びることができるので、
 3週間ぶりに山から下りた身としては、大変有り難かった。)
○ 日本で買ったコンロ(MSRのドラゴンフライ)は、1万8千円くらいした
 が、アンカレジの「AMH」では同じやつが$100ちょっとで売っていた。
 ちきしょ〜。
○ 以下の医薬品がとても重宝しました。(FYK磯辺氏提供)
 ◇ヨウフェナック: 解熱鎮痛剤。発熱時、頭痛時、怪我(捻挫、骨折等)
 で痛んでいるときに、1回1錠、3回まで。
 ◇ラシックス: 利尿剤。顔面や足のむくみが酷いときに1回1〜2錠、
 2回まで。同類のダイナモックスに比べ、副作用の心配がないらしい。
 ◇オパルモン: 血管拡張剤。凍傷予防に1回2錠、3回まで。

<参考文献・資料>
○「新連載 世界の名峰を登る 1.マッキンリー」(山と渓谷誌2002年4月号
No801号掲載記事、大蔵喜福さん編)
 =ヤマケイに掲載されたガイド記事。ルート概要やテクニカル・データが簡潔
 にまとめられており、大変参考になった。ただし、P123の文中「ここをアタ
 ックキャンプとし、右上する・・・」とあるが、これは誤植で、「左上する」
 が正しい。
○「マッキンリー気象観測機器設置登山隊」全11次におよぶ登山記録と学生等
青年隊員の総合的登山能力育成の報告 (日本山岳会 科学委員会マッキンリー
気象観測プロジェクト編、2000年07月30日、非売品) 
 =大蔵喜福さんが担当されている気象観測の報告書で、大変優れた内容となっ
 ている。ウェストバットレスのルート解説や観天望気の要領などが具体的に記
 されており、大変貴重な1冊と言える。
○「登山 デナリ国立公園および保護地区」(デナリ国立公園登山レンジャー
編)
 =登山申請時に配布を希望すると郵送されてくる冊子。和訳バージョン。
 マッキンリー登山に関する基礎知識や要領、著名な登山家達の苦闘の証言と
 忠告などがびっしりと記載されており、出発前に是非とも目を通しておくと
 よい。
○「Mount McKinley,Alaska」(1/50,000地図、Swiss Foundation for 
 Alpine Research and the University of Alaska Press製、Bradford
 Washburn 編、$18.00)
 =ウェストバットレスルートからの初登者の一人・ウォッシュバーン氏による
 編集で、市販の地図の中ではもっとも精密で見やすいと思われる。
 なぜか、REIにもAMHにも置いてなかったので、NPSやTATで購入
 した。
○「Denali's West Buttres」(The Mountainerrs、1997年、$16.95)
 =ウェスト・バットレスの写真入りコースガイド。数多くの空撮写真の中に
 ルートや地点名などが示されており、大変わかりやすい。準備段階での情報
 やマッキンリー登山に関する各種知識も詳細に解説されている。
○「High Alaska」(Jonathan Waterman、AAC Press、1988年、$26.00)
 =マッキンリー、フォラカー、ハンターの3山に関する登攀史、ならびに3山
 の数多くのルートが解説されており、評価の高い1冊。(一時、絶版になった
 らしい?が、近年、復刻版が出た。)
○「Alaska 〜Exploring Life on the Last Frontier〜」
 =アンカレジのユースホステルで見つけた雑誌で、Denali特集の記事があっ
 た。レンジャー発表の2001年度のデーターなどが書かれてあった。
○その他、昨年のACMLで黒澤さん(猫の森)や石角さん(無所属)、宮本さん
(大阪ぽっぽ会)、山田さん(京都岳人クラブ)、堤さん(旭川山岳会)達が書かれ
た情報が、大変参考になりました。ありがとうございました。

<個人費用>
(出発時レート$1=約130円として計算。現地購入の装備代は除く。)
○交通費(大韓航空・福岡〜ソウル〜アンカレジ往復1ヶ月FIX=約9.3万円、
セスナ代=約3.8万円、現地交通=約1.9万円。 小計約15.0万円)
○滞在費(食費、宿泊費等。 小計約7.2万円)
○登山経費(入山料、共同食糧、レーション、燃料、スノーシュー+CBレンタル代、日山協
海外山岳保険等。 小計約7.2万円)
○土産代・その他(ユースホステルでのインターネット利用料金、書籍代、散髪代、人工壁
料金等。 小計約2.5万円)
  以上の合計 約32.0万円

<装備>
○「共同装備」: ベース用テント(4〜5人用)1張、アタック用テント(2〜3人用)
1張、ツェルト1張、スコップ2丁、スノーソー1個、テントマット3枚、
竹ぺグ、ガソリンコンロ2台、燃料ボトル(計3.5リットル分)、ガソリン4ガロン
(現地調達。実際には3ガロンで充分足りた。)、コッヘル(大・中)、コンロ用
板2枚、炊事用具(お玉・しゃもじ等)、スポンジ、フライパン1個、ロープ
(9mm*50m)2本、スノーバー3本、旗竿10本、ろうそく1本、細引き(6mm*
10m)、たわし1個、雪取り用ビニール袋、裁縫用具、修理キット(ガムテープ、
ペンチ等)、マジックインキ1本、洗濯バサミ2個、医薬品(下記参照)、
無線機(CBラジオ、現地レンタル)1台
「医薬品」: クラビット(抗生物質、化膿止め)、ヨウフェナック(鎮痛解熱
材)、ビオフェルミン(整腸剤)、ロペミン(利尿剤)、ガスター(胃薬)、CBス
コポラ(腹痛止め)、ラシックス(利尿剤)、オパルモン(血管拡張材)、PL(風
邪薬)、エルタシン軟膏(化膿止め)、リンデロン点眼(雪盲用目薬)
「個人装備」: オーバージャケット上下、高所帽、目出帽、アンダーウェア
上下、中着フリース上下、羽毛服、手袋、オーバーグローブ、プラ靴、靴下、
オーバーブーツ、テントシューズ、アイゼン、ピッケル、バイル(1回も使わ
なかった)、ハーネス、アッセンダ−、下降器、ストック2本、カラビナ数枚、
シュリンゲ数本、アイススクリュー1本、大型ザック、シュラフ(寒がりな我々
は、ダウン1,100gの厳冬期用を持参した。)、大型シュラフカバー、コンテナ
バック(ソリ運搬用。僕は大型ザックで代用した。)、運搬用ソリ(現地レンタ
ル。無料。)、エアマット、ゴーグル、サングラス、日焼け止め、コンパス、
地図(現地購入)、各種資料コピー、計画書、レーション、食器、水筒、テル
モス、カメラ、時計、筆記具、歯ブラシ、タオル
 (その他デポ品として)パスポート、現金、着替え、せっけん等

 最後に、貴重な助言を頂いたうえ出発当日にはわざわざ福岡空港までお見送り
に来てくださった徳永哲哉さん・悦子さん御夫妻をはじめ、高山病や凍傷対策等
の医薬品について甚大なる御協力を賜った磯辺英彦さん、美味しい食材を差し入
れしてくださった江崎雅子さん、緊急連絡先を快く引き受けてくださった岡崎猷
之さん・稲永篤さんらFYKの諸先輩方に対して深く感謝いたしますと共に、資
料を取り寄せて下さった庵・鹿川メンバーの新名義文さんと資料提供者の大蔵喜
福さん、現地宿泊や空港送迎、セスナ手配等でお世話になったアンカレジ在住の
加藤さん御夫妻、デナリ山中ならびに下山後にいろいろとお世話になった(鳥取
大OB)安藤さん、(北海道・単独)鈴木誠さん、(富山大・現役)長坂心さん、
(東京・登研)杉坂さん・荒田良司さん・増本亮さん、日本国内での装備調達の際
にいろいろと便宜を図って下さったICI石井スポーツ本店の宗像文和さんや豊
口さん(現・神田登山店に配属)、その他・応援して下さった多くの皆様、そし
て苦楽を共にした同行メンバーの堀永敏克隊長と福村浩子さんに対し、心より感
謝申し上げます。
 ありがとうございました。

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