消えた婚約指輪


 


○概略

 エリッサという若い女性が婚約指輪をなくしてしまいました。しかし実際は、不注意でなくしたのではなく、結婚に反対する彼女の妹が指輪を隠してしまったのです。婚約者は兵役についており街にはおりませんが、数日後には戻って来る予定です。PCたちは、エリッサと婚約相手が出会う前にどうにか指輪を見つけなければなりません。


○舞台

 基本的には、サンプルシティで紹介されているアイリストールを舞台にすることを前提としております。これは下水道や都市浮浪児などを仕掛けとして取り入れているためですが、シナリオの障害となる要素を自作する場合には、特にアイリストールにこだわる必要はありません。ですが、なるべく大きめの街を舞台とした方がやりやすいシナリオだと思われます。


○目的

 基本的なシナリオの目的は指輪を探し当てることです。しかも、婚約者とエリッサが再会するまでというタイムリミットが設けられています。似た形の指輪を探して一時的に場をしのぐという手段もありますが、それはおそらくエリッサの心が許さないでしょう。
 婚約者が兵役に行く前に給料をはたいて買った指輪であるとか、あるいは婚約者の母親の形見であるなど、簡単には手に入らないと同時に、非常に心のこもったものであることを強調しておくといいでしょう。また、エリッサの落胆ぶりを見せることで、それがどれほど大事にしていた品であるかを示してもよいかもしれません。もちろん、家族の口からそのことを伝えても構いません。


○導入

▼立場/第三者
 PCを第三者として扱うならば、探偵や何でも屋といった職業がよいでしょう。失せ者を探すという依頼によって、PCは容易に事件に関わることができます。ただし、警察が出てくるほどの騒ぎにはしない方がよいと思われます。そのためには、他の貴金属と一緒に置いてあったはずなのに婚約指輪だけなくなっていたなど、外部の者の犯行ではなさそうだと思われる状況を設定して下さい。そうすれば、届けを出すにしても紛失届けがせいぜいであり、警察が介入する余地はなくなります。
 なお、婚約者をがっかりさせたくないという理由では不足だと考えるのならば、相手の親が非常に厳格な人物であるという設定にしてもよいでしょう。あるいは相手の親が結婚に反対していて、指輪を無くしたことで難癖をつけられる可能性があるという設定でも構いません。

▼立場/当事者
 PCを当事者側として扱う場合には、エリッサの家族や友人、あるいは近所の人間ということにしてもよいでしょう。この場合には、なるべく親身になってくれる人であることが条件です。場合によっては、指輪をなくした当人をPCとすることも可能です。また、エリッサが非常に心優しい女性であり、いろいろと近所の浮浪児たちの世話をしているということにすれば、都市浮浪児をキャラクターとして扱うこともできるでしょう。そのPCは、どうにかして彼女の恩に報いようと頑張ることでしょう。


○展開と結末


(1)依頼

 依頼はエリッサ本人からでも、あるいは家族からということでも構いません。依頼を受ける受けないにかかわらず、ここではエリッサの置かれている状況をプレイヤーに伝えます。PCが彼女に近い立場にいる場合には、この部分をカットして状況だけを簡潔に伝えてしまっても構いません。
 状況設定はシナリオに費やす時間やプレイヤーの立場などを考慮して、各GMが決定して下さい。指輪が無くなった状況としては、料理などちょっとした用事で外していた時に無くなった、というあたりが無難でしょう。ただし、指輪以外に無くなった物はないということだけは、依頼人の口から明らかにしておいて下さい。その他の要素は、調査にどれだけ時間をかけさせるつもりかによります。宝石箱などのきちんとした場所にしまっておいたのだとすれば、どこかに落としてしまったり置き忘れたという可能性がなくなります。妹がその時間に外出していたということにすれば、こっそり家の中に忍び込んだのだという情報を後で与える必要があります。ここでは机の引き出しの中に仕舞っておいたという設定で話を進めます。


(2)情報収集

 PCたちはまず最初に、それが普通の空き巣の犯行ではなく、そしてエリッサがどこかに置き忘れたというわけでもない、ということを明らかにしなければなりません。エリッサは確かに引き出しの中に仕舞っておいたのだと断言します。盗まれたのだとしたら、家族など明らかにそこに指輪があることを知っている人物の犯行であることに気づくよう、少しずつ情報を提示する必要があります。そして、結婚に反対しているのがエリッサの妹だけであり、ここ数日様子がおかしいということを告げれば、妹があやしいと推測できるでしょう。
 ただし、このことが家族の口から話されることはありません。家族がそれに気づいているようならば妹はまっさきに疑われているでしょうから、近所の子供たちなどから、実は結婚に反対しているのだと告げるようにして下さい。これを聞き出すための条件として、ちょっとしたお菓子やお小遣いを要求してもよいでしょう。それでもPCたちが迷っている場合は、指輪が無くなった時間に妹がこそこそと家の中に入っていったなどという、決定的な情報を与えても構いません。


(3)追求

 妹を問いつめるなりすれば指輪の行方がわかります。ここで何か一悶着あってもよいでしょう。相手は子供ですから、尋ね方によってはかえって意固地になってしまうこともあります。最悪の場合は、家出をしてしまう可能性もないわけではありません。
 うまいこと話を聞き出すことができた場合は、いま手元には指輪がないということがわかります。彼女は最初は家の中に指輪を隠していたのですが、PCが家を捜索しはじめたことから危険を感じ、外へと指輪を持ちだしたのです。しかし、道を歩いていたところ指輪は都市浮浪児に盗まれ(あるいは脅し取られた)、現在はどこにあるのかわからないというのです。PCは指輪をもっている都市浮浪児を探し出し、どうにかしてそれを取り替えさねばなりません。

(あるいは、指輪を盗んだ相手を都市浮浪児ではなく、大人ということにしてもいいでしょう。また、指輪を犬の首輪に隠したのだが、その犬が逃げ出してしまったなどの展開も考えられます。最近妹が捨て犬を拾ってきたが、家族に飼うのを反対されたなどというエピソードを追加しておけば、事件の前後に多少妹の様子がおかしかったとしても不思議ではありません。調査に時間をかけさせたい場合は、このような設定も有効です)


(4)都市浮浪児

▼居場所
 貧民街で都市浮浪児について聞き込みをすれば、ある程度の行動範囲などを絞ることができます。この場合、相手がタダで情報を教えてくれることは殆どありません。ここでは金銭的な取り引きも含めて、駆け引きを主体とした交渉を行うようにして下さい。交渉の相手は乞食や都市浮浪児を中心とした貧民街の住人ということになるでしょう。もしPCの中に都市浮浪児がいれば、この情報は無条件で与えても構いません。

▼設定
 指輪を持っている浮浪児については、様々な設定が考えられるでしょう。たとえば、病気の母親のために仕方なく指輪を盗んだのかもしれませんし、実はエリッサの妹に好意をよせていて、気を引くために意地悪をしてみたのかもしれません。または、今日の晩御飯にも困っている子供であったり、あるいはギャングの一員として盗むことを余技なくされているということも考えられます。

▼展開
 これらの設定と合わせて、その後の展開についても様々なものが考えられます。迷路のような裏路地を舞台に追いかけっこをすることになれば、浮浪児たちは非常に手強い相手となるでしょう。なんといっても地の利は彼らにあり、そして街の人々も彼らの味方です。下水道に逃げ込まれればなおさら厄介ですし、また下水道では怪物が出てくる可能性もあります。こういった怪物たちに逃げている側の都市浮浪児が襲われ、それを救わなければならない状況に陥る可能性もあります。
 また、(プレイヤーたちの)時間的に余裕があるのならば、浮浪児たちの要求と引き替えに指輪を渡してもらうということでもいいかもしれません。逆に余裕がない時は、金銭での取り引きを持ちかけて簡単に解決してしまってもよいでしょう。


(5)解決

 PCたちが婚約者の帰還までに指輪を手に入れることができれば、シナリオの目的は一応達成したことになります。
 ハッピーエンドでシナリオが終了した場合、結婚式で幕を閉じるのが一般的なエピローグとなるでしょう。この時、事情を聞いた婚約相手が、妹のために新居をエリッサの実家の近くに定めるなどの話しがあっていいかもしれません。


○注意点

 シナリオの目的として問題になるのは指輪そのものの行方ですが、本当に大事なのは、エリッサの結婚を妹が祝福してあげられるかどうかということです。ですから、お姉さんは幸せになるために結婚するのだということを理解させてこそ、事件を根本から解決したことになるでしょう。
 仮にPCたちが指輪を無事取り戻すことができなかったとしても、妹が心から2人のことを祝福できるようになれば、2人もきっと妹のことを許すのではないでしょうか? ですが、このような展開に持ち込む場合でも、あくまでもPCの行動が鍵とならなければなりません。


○バリエーション

▼原因
 設定をまったく変えてしまって、指輪がなくなった理由をカラスのように光り物が好きな動物に持ってゆかれた、などということにすることもできます。これを、(ちょっと太ってしまって(^^; )指輪のサイズを直すためにこっそりと店に預けていたら、運悪く泥棒に盗まれてしまったという設定にすると、今度は犯罪もののシナリオになります。泥棒の足どりを追って闇取引きの場に潜入して取り返すとか、ちょっと荒事をまじえた展開に持ち込むことができますね。

▼呪縛
 それから、婚約者はとっくの昔に戦死しているのだが、指輪に呪いがかかって抜けなくなってしまった、という設定にしてみましょう。この呪いをかけているのは実は自分自身で、新しく好きな人ができたのだが死んだ婚約者に対して済まないという気持ちが、指輪をはずれなくさせているのだと設定すれば、エリッサに自分の気持ちを気づかせるというのがシナリオの目的になります。


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