概説
この世界では、『術法』と呼ばれる魔法が存在します。術法の中には魔術、武術、呪芸術などが存在し、これを用いるものを総称して術法師と呼びます。
○術法の功績
怪物たちが跳梁するエルモア地方で人類が文明を築いてこれたのは、ひとえにこの『術法』の力があったからといえるでしょう。『聖母アリア』が持っていた奇跡の力は、『聖言』という形で彼女を慕う人々に伝えられ、そして後世の聖職者たちに受け継がれてゆきました。
術法は怪物を倒すためだけの力ではありません。未熟な医療技術しか持たなかった頃のエルモア地方では、治癒の術法はなくてはならないものでしたし、自然を操る術は荒れ果てた土地を肥沃なものにし、人々に生きる糧を与えてくれました。他にも、特定の変異現象に対抗するために生まれた術法もありますし、あるいは職業技術の1つとして発達していったものも存在します。
○分化
こうして時代が過ぎて種々の広範な分野に浸透し、そして特定の現象や用途に対して非常に高度に専門化していった術法は、やがて一般の人々に扱えるようなものではなくなり、専門技術の1つとしてとらえられるようになりました。この傾向に拍車をかけた1つの要因に、『術法変化技能』に代表される術法の可変性があります。術法変化技能によってその要素(効果範囲など)を改変されたまま定着した術法は、新たな術法として後の人々に伝えられてゆきました。現在ある術法は、アリアが伝えたものとは形式も内容も少なからず変化しておりますし、数もまた飛躍的に増加しているのです。
そのため術法は、たった1つの系統でさえ個人で把握できるような存在ではなくなり、規模はさまざまですが、特定の集団によってようやくまとまった術法系統として継承することが可能となっていったのです。この代表的な例が宗教機関や術法協会といった組織であり、小宗教や民族の単位でも同じことが行われています。
○現状
現在のエルモア地方では、誰にでも使用できる科学技術が、特定の人にしか使用できない術法の地位を脅かしています。実際、術法という奇跡をもって人々を救い続けた聖母教会は、科学技術(特に霊子機関)の普及に反対的な立場を取っていることが原因で、その影響力を徐々に弱めていっているのです。聖母教会に限らず、これはエルモア全土で見られる傾向であり、もしかしたら今まさに消えてゆこうとしている術法も存在するのかもしれません。
とはいえ、術法でなければ決して為し得ない技があることも確かな事実です。この技術がこれより後のエルモア地方で生き残ってゆくかどうかは、この世界の今を生きるあなた方次第なのです。
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宗教機関
エルモア地方では、大変異以来の混乱を術法によっておさめることに成功しました。その中心となったのが聖母教会であり、それから分派した法教会、さらにそれから分派したエリスファリア国教会、そして中央地方から伝わったマイエル教では、現在でも治癒の術を行使して人々の病を癒したり、いまだ数多く存在する怪物たちを掃討したりしています。
いずれの宗教組織でも、術法は神あるいはその使徒から賜った奇跡の力として定義されており、宗教機関が人々に必要とされ、信頼を得たことの大きな要因の1つでもあります。また、現在ある宗教機関が絶大な信頼を得て成立していることは、信頼できる高潔な人格の聖職者が、正しい目的のために術法を用いてきたことの証明でもあります。
各宗教機関における術法の占める位置づけというのは、それぞれの教義が密接に関係しています。知識の貯えとしては聖母教会が最も多く、それから法教会、国教会と分派した順に少なくなってゆきます。科学を肯定する法教会では学問的な研究も盛んであるため、術法の重要性は聖母教会よりもおさえられています。エリスファリア国教会は国王の権威を助長するための機関としての色合いが強く、術法の知識はあまり深くありません。マイエル教は系統が全く異なる組織であり、独自の術法系統が幾つか存在します。
○習得
宗教機関で術法を学ぶことができるのは、聖職者として教会のために働くものだけです。中でも特に素質を認められ、教会内での評価が高いものだけが習得することができる技術であり、人格や信仰心が伴わない者に教えることは決してありません。これは術法がいかに強力であるかということの証でもあります。
いずれの宗教機関においても、聖職者が術を習得するには組織の許諾を得る必要がありますし、聖職者個人の判断でこれを行うことはできません。また、神徒以上の聖職者に術を教えることもありませんし、宗教機関に属する者が外部の組織から術法を習得することもありません。
○使用
聖職者ではない一般の人々は、寄進という形でお金を払い、治療などのために術法をかけてもらうことは可能です。寄進の額は一応は規定されていますが、聖母教会では個々の神官の判断に任されているのが実情です。一方、法教会では規則を重んじるため、一部の例外を除いては規定料金を払わなければなりません。これはエリスファリア国教会やマイエル教でも同様です。ただし疫病などが流行した時には、ほとんどは無料で治療してもらうことができます。
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民間の術法
宗教組織以外にも術法を使うことができる人々が存在します。これは身を守るなどの必要があって聖職者から教えてもらった術が、そのまま民間で継承されてきたためです。
民間の術法師は大きく2つに分類されます。1つは社会や宗教組織に認められている術法師で、術法を用いて生計を立てています。このような術法師を特別に『職業術法師』といいます。もう1つは『異端術法師』と呼ばれており、一部の特別な地域や団体でのみ継承されている術法を使います。
○職業術法師
職業術法師の多くは、少数ながら自身の団体をつくってその知識を伝承しています。その中の最大の組織は『術法協会』と呼ばれるもので、エルモア全土に広がっています。一般に術法協会に所属する術法師を『協会術法師』と呼びます。術法協会は宗教機関と密接な関係を持ち、多額の寄進を行ったりしています。このような努力によって、協会術法師は異端ではない存在として認めて貰っているのです。術法協会の規模は国家によって様々ですが、およそ宗教機関の勢力に比例します。たとえばルクレイドなどの聖母教会の影響の強い国では、術法協会はそれなりの力を持っており、術法師の存在する割合も高くなっています。
また、変異に対抗する手段としても術法は有効に利用されており、それを専門とする特別な職業も存在します。これらの職業術法師は術法協会の会員とは限りませんが、社会的・宗教的に認められています。中にはルワール大公国の『鏡界師』やルクレイドの『夢使い』のように、人民に多大な尊敬を受けるような職業もあります。また、芸術家として認知されている職業術法師もいます。彼らが使う術法は『呪芸術』と呼ばれており、術法師の中でも非常に特殊な存在です。多くが一流の芸術家として活動しており、貴族など上流階級の人間と親交がある者もいます。
○異端術法師
異端術法師は2つのタイプに分類することができます。
一方は宗教組織から異端として認定されている者たちで、ほとんどが社会と敵対する存在です。国際的に有名な事件を起こしたこともある『錬金術師』や、ジグラットにいる『竜の一族』、あるいは自然信奉者として知られる『精霊使い』などがこれにあたります。これらは皆、異端階級に属する者として忌避されています。
もう一方は、社会的には認められているものの非常に数が少ない存在で、滅多に目にすることはありません。『呪曲師』、『占術師』、『舞師』と呼ばれる存在がこれで、ほとんどが各地を放浪する芸人の一種です。特に問題を起こすことはないのですが、術法協会に登録しているわけではありません。これ以外にも若干、協会に登録していない術法師もおりますが、一般社会に出てくることは殆どないでしょう。
異端の術法による効果は、時として変異現象による産物と間違えられることがあります。また、人に被害を与えた場合は、法的な措置を取られるだけでは済まないこともあるのです。いずれにせよ、異端術法師が一般社会で生活する人々と接触する際には、なるべく術の使用を控えた方が得策でしょう。
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