国家と術法協会


 


 複数国家にまたがり、情報を瞬時にやり取りできる集団である術法協会は、それゆえに特定国家と強く結びつくことを避けて活動してきました。いずれかの国家に肩入れすれば、他国は術法師を警戒するのは当然のことですし、そうなれば活動の範囲を狭めてしまうことになるのです。数多くある術法の継承ということを考えても、それは協会にとって明らかに不都合な事態となります。


・ルクレイド
 しかし、その中で唯一協会と結びつきが強い国家があります。それが協会本部があるルクレイドで、革命時にも術法協会は大きく貢献しています。さらに、現在では魔術兵団と呼ばれる特殊な傭兵隊が結成されており、旧王権派の残党狩りなどに力を発揮しています。このような活動が行われている下地には、革命期に他国と取り交わされた密約の存在があります。これは聖母教会とカーカバートを仲介して行われたもので、このために術法協会のルクレイドへの過剰な肩入れが黙認されているのです。

・背景
 これが成立する元となる背景に、かつてのフレイディオン皇帝カヴァリアによるペルソニアへの入植と、それを阻止しようとするロンデニアとの争いがあります。海軍国家であるロンデニアに海路を封じ込まれた形となったフレイディオンは、次にアリアナ海への道を開くことを考えました。しかし、絶対変異地帯によって国土と海を阻まれているフレイディオンがアリアナ海へ至るためは、その間にあるルクレイドが障害となります。また、同じように海への道を阻まれたライヒスデールでも、ちょうどこの頃は先代皇帝が軍事体制の強化に力を尽くしていた時期でもありました。ルクレイドという土地は古くからユナスフィール教国の防波堤として役立ってきたものであり、聖母教会としてはこれを失うことは避けなければなりません。特に先の2国では、聖母教会はその影響力を削がれており、状況次第ではユナスフィール教国でさえ、ただの領土の1つとしか見なさない可能性もありました。
 しかし、この頃のルクレイドは利権を争う貴族たちによって国内が乱れ、聖母教会の意見を軽んずるようになっておりました。そこで聖母教会は民衆の側につき、革命に力を貸すことを決意します。しかし、聖母教会が表立って一国の内政に深く干渉することはできませんし、民衆を主導して革命を興すことも立場上は不可能です。そのために聖母教会は術法協会と取り引きを行い、間接的に革命に力を貸すこととなったのです。

・取り引き
 とはいえ、術法協会が力を貸すことで問題が起こるのは明白ですから、他国の上層部とも裏取り引きが行われました。この調停役を買って出たのがカーカバートです。ルクレイドの革命後期には、カーカバートの銀行に預けてあったルクレイド貴族の口座が停止されており、その一部が各国の為政者などに分配されています。
 この時にカーカバートには各国の貴族や政府高官が集まり、幾つかの密約が交わされております。これが聖暦760年のことです。聖暦761年にカヴァリアの暗殺があったことと、カーカバートに有名な暗殺ギルドが存在することは、決して無関係ではないでしょう。もちろんカーカバートは停止した口座から多額の報酬を譲り受けておりますが、それ以上の報酬を得ているという噂があります。
 このような密約が結ばれたために、現在でもルクレイドと術法協会の結びつきについて、他国から過剰に干渉される心配はありません。ただし、その活動の範囲は制限されており、国内の政情を安定させるために力を貸すことしかできず、協会がルクレイド政府に国外の情報を与えるようなことはありません。ただし、国内での諜報活動などは非公式にですが認められており、フレイディオンやライヒスデールの密偵に対する抑止力として働いているようです。


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