○概説
エルモア地方の南に存在する大陸『ペルソニア』は黒人たちの住む土地です。
エルモア地方の人々は、まだこの大陸の北半分までしか足を踏み入れておりません。その理由は、『大断層』と呼ばれる断崖の存在によります。大陸の西端から東端まで高さ1km以上の断崖が走り、それが南方への進出を不可能にしています。不思議なことに、この断層は同じ緯度の上に存在しています。現在でも断層の向こうに何があるのかは不明ですが、これを越えることに憧れる探検家たちは多く、気球による断層越えの計画などが立てられているようです。
この大陸の気候は我々の世界のアフリカとほぼ同じで、草原や砂漠が広がっています。北方には植民都市がつくられており、ラシャン川の周辺では麻綿と呼ばれる乾燥に強い綿花や香辛料を栽培するための農場が開かれており、被征服民である奴隷たちが過酷な労働を強要されています。
○略史
ペルソニア大陸の存在は古くからエルモア地方に知られており、北部海岸には幾つかの植民地がつくられたり、北部に居住していた部族との間には交易もあったようです。この状況に変化が訪れるのは、聖暦84年のことです。この年に、中央地方のラガン帝国による大侵攻があり、大陸北部のほとんどがこの支配下に置かれることになりました。そして彼らは被征服民たちを奴隷として使役し、帝国の地盤を揺るぎないものとしたのです。この支配は600年あまりもの長いあいだ続き、ペルソニアは略奪の楽園と呼ばれることとなりました。
しかし、聖暦709年のことです。とある遺跡の中から、『冒涜の王』と呼ばれる怪物が発掘されました。化石のように眠っていたこの生物は、蜘蛛の胴体にねじれた人間の上半身をくっつけたようなおぞましい姿をしていました。発見当初は、これは邪神の彫刻だと考えられており、調査隊の1人がこれに不用意に触れてしまいました。その時、不意にその5つの眼を開いた冒涜の王は隊員を体内に取り込み、そして活動を開始したのです。これ以後のことは、今ではラガン帝国そのものが滅んでしまったため詳しく語ることはできませんが、冒涜の王はたった1体でペルソニアの駐留軍をほぼ壊滅状態に陥れ、帝国は植民地を多数失うことになりました。冒涜の王は最終的には倒されることとなるのですが、それまでに帝国軍の本隊にも大打撃を与えました。これは魔神のうちの1体だと考えられていますが、その肉体が消滅してしまった今では、その真偽のほどは永遠の謎となっています。
こうしてペルソニア大陸は、帝国の支配からようやく逃れることができたのですが、状況が改善されたわけでは決してありませんでした。弱体化した帝国の隙をついて、カルネア、ロンデニア、エリスファリア、フレイディオンがこぞって入植を開始し、より多くの人々が奴隷として囚われることとなったのです。そして、原住民たちは奴隷組合などのルートを通じて、今まで以上のペースでエルモア地方へと送り込まれることとなりました。そして、彼らの忍従の日々は現在でも続いているのです。
○自然
断層より向こう側は未踏地であり、すべてが不明の地域です。断層より以北の地域は北部と南部の2つに分けられており、北部は草原や熱帯雨林、南部は広大な砂漠になっています。気候的には、北部地方は亜熱帯から熱帯、南部地方は熱帯に属しています。どちらの地方でも(夜間を除いて)、気温は1年を通じて20℃を下回ることはありません。
北部にはラシャン川やザップ川といった大河が流れており、その周辺には密林が広がっています。こういった密林は最近では伐採され、大規模な農場が開かれるようになりました。しかし、密林の奥地は開発の手を逃れており、その詳細はまったく知られておりません。奥地は川も急流で、ちょっと進むと滝に遭遇するので、舟での移動もままなりません。猛獣も多く出現することから、かつて探険に出かけた人のほとんどが逃げ帰るか、2度と帰ることができなくなったかのどちらかです。
大河から離れると、青々とした草原の広がりを目にすることができます。ここにはペルソニア大陸特有の動物たちが生息しており、独自の生態系をつくりあげています。こういった生物たちは灼熱の太陽から身を守るために夜間に活動することが多く、日中は日陰で過ごしています。この周辺では蚊や蝶やイナゴといった虫が大発生することがあります。ユスリカやイナゴは食料にすることができますが、数年周期で大量に発生する時は手におえず、野放し状態になっています。まれにイナゴやバッタによって作物が食い尽くされるという困った事態が起きることがあります。
草原から更に南に突き進むと、少しずつ緑の少ない乾燥した土地に変わってゆきます。ここには乾燥から身を守る仕組みをもった植物たちが生息しており、普通の動物たちの姿はあまり見られなくなります。そして更に南に進むと、ついには砂漠に行き当たることになります。この大陸の砂は非常に粒が細かく、まるで水のようにさらさらとしています。砂漠の環境は場所によって極端で、嵐のように風が吹き荒れる地域もあれば、まるで死の世界のように静かな風景に出会うこともあります。変わらないのは一面に砂が広がっているというその1点であり、エルモア地方の人々はその広大さと、風がつくる波のさまを大海原にたとえて『砂海』と呼んでいます。
○変異
『砂雲』と呼ばれる、宙を浮遊する砂の塊が有名です。これは本当の雲のように空を流れており、ときおり砂の雨を降らせることがあります。この砂は湿度が高くなると水分を吸って下に降りてきて、砂の霧となって地表近くを覆います。この砂漠に降る霧は、視界を遮って旅人を迷わせることはもとより、体温をも奪ってゆきます。砂漠に住む部族は砂避けにマントをきっちりと着込み、口覆いと呼ばれる布で顔の下半分を隠して、この砂から身を守っています。
砂雲は地域によって色が異なっており、それぞれ黄砂、赤砂、白砂、黒砂と呼ばれています。奇妙なことに、これは4系統の人種の肌の色にぴったりと一致します。砂雲が嵐に巻かれて地上に落ちたときは、一帯の地面はこのどれか一色に染まってしまいます。
この他にもペルソニアでは、『星の波』と呼ばれる変異現象を見ることができます。これは非常にまれに起こる現象で、大気が震えて星が歪んで見える夜のことをいいます。主に大断層の付近で見られ、原住民たちは神の奇跡だと考えています。大断層の辺りでは流星が多く観察されることもあり、2つの現象には何か関係があるのではないかと言われています。
○現況
カルネア、ロンデニア、エリスファリア、フレイディオンの4国で土地を分割しており、それぞれが植民都市をつくっています。ただし、カルネアは内戦に突入したため植民地の支配が甘くなっており、領事官の独裁がみられるようになったり、治安が悪化したりという事態に陥っています。
近年では急速な工業化に伴い、かつてないほど大勢の奴隷がエルモア地方に輸送されるようになっています。『スレイブ・マスター』という奴隷売買組織の活動も活発化しており、独自の傭兵隊による奴隷狩りも激しさを増し、大陸の南部の方でも過激な侵略が続いています。
最近の変わった話題としては、ロンデニアの植民地を繋ぐ長距離鉄道の敷設計画に関してです。しかし、そのためには密林を伐採する必要があり、原住民の激しい反発を受けています。
○産物
トウモロコシ、太陽麻、香辛料、油椰子、スイカ、メロン、コーヒー、硬ゴム、パルプ材
○文化・生活
この大陸で特徴的なのは黒人の存在です。この大陸は乾燥しており、人々もそれに適した文化をつくりあげてきました。彼らは特定の国家と呼べるものをもたず、部族単位で生活をしています。
大部分の部族では、部族における特殊な地位(族長、巫女、戦士など)にあるものは仮面をつけるという風習があります。これは部族や個人の『トーテム』(守護聖獣)や『守護神』、あるいは『守護精霊』などをかたどったもので、エルモア地方の人々はこれらの仮面を総称して、『ペルソナ』と呼んでいます。ペルソニアという名前は、そこから派生したものです。
部族は長や巫女を中心に結束がかたく、独自の武器や術法などを行使して一族の者を守ります。たとえば『精霊獣』と呼ばれる精霊の1種を呼び出して力を借りたり、これを自分に憑依させて強力な戦闘力を身につける者がいます。このような能力をもつものは、戦巫女や戦士としての地位を得ることができます。
トーテムや守護精霊などと部族によって様々な呼ばれ方をしていますが、これらはすべて精霊獣をさす呼び名です。この精霊獣はエルモア地方に出現する霊獣とよく似ていますが、霊獣のように人間を無差別に攻撃するような危険な存在ではありません。なお、一部の学者の間では、霊獣とは変異の影響を受けて凶暴化した精霊獣ではないかということが指摘されています。
精霊獣とは別に、『仮面』(ペルソナ)に能力を与えて、その力で戦うものもいます。このような人々を『仮面使い』(ペルソナ・マスター)といい、巫女や戦士と並ぶ重要な戦力となっています。仮面使いは部族の祭祀を司る存在として最高の尊敬を受けており、一族の仮面をつくりだす役割をもっています。
しかし、このような能力を用いても近代的な武器にはついに勝てず、彼らの多くは奴隷としての道を歩まねばなりませんでした。とはいえ、現在でも頑強に抵抗を続ける部族もおりますし、変異獣などの存在のために未知の地域も多く、まだまだ彼らの生活の全てを知るまでにはいたっておりません。
○食事
主食はトウモロコシをつぶして焼いたパンやオートミールです。暑い土地ということで非常に汗をかくので、食事は全体的に塩味をきつくします。これは南へゆくにつれて顕著になります。たとえばスイカやメロンを塩味で煮込んだり、塩漬け肉を食べたりといった具合です。また、この大陸は香辛料が豊富で、たくさんのスパイスを混ぜ合わせて煮込んだスープなどをよく食べます。
ペルソニアではサトウキビの変種が自生しており、農場で大量に栽培されてエルモア地方に輸出されてゆきます。しかし、原住民はこれを歯磨きがわりに噛む習慣しかなく、また、精製した砂糖を口にする機会もありません。しかし、子供たちはスイカやメロンをおやつ代わりに食べますし、蜂蜜をとることもあります。ハチノコの蜂蜜漬けといったものもありますし、ユスリカのダンゴを果物の汁で味つけして食べる場合もあります。なお、珍しいものとして、ハニービールという蜂蜜を発酵させたお酒も飲まれています。
この大陸ではコーヒーの木も生えており、最近ではエルモア地方へと輸出されるようにもなりました。しかし、原住民はこれを飲むのではなく、薬として疲れた時に口に含むのが習慣のようです。
○要所
・悪魔の緑
ロンデニアのギャングが密かに麻薬を栽培させている地域をいい、ここから大量に本国へ密輸されています。・サボテンの森
西部のサバンナにあるサボテンだらけの土地で、千種以上のサボテンがあるといわれています。サボテンに擬態する怪物が中に紛れているので、近くを通る時は注意しなければなりません。・メルセラノ川
東部を流れるやや大きめの河川で、付近では罪を清める川として信仰の対象となっています。・死者の谷
カラマテ盆地の向こう側にあるメアティク山のどこかにあると言われています。かつての王朝の遺産が眠っているという噂ですが、伝説では大量の不死者が徘徊するとも伝えられています。
○組織・集団
・クルラッケン探検隊
フレイディオンの大商人の1人が支援している探検隊であり、死者の谷の探索を行っています。しかし、成果はまったく思わしくなく、あくまでも伝説に過ぎないのではないかという結論に落ち着きそうです。・エミムル族
かつては象使いの一族として一大勢力を誇っていましたが、カルネアの侵略を受けて現在は奴隷となっています。象を巧みに使役し、人間ではとてもできない力仕事で活躍しています。・岩壁の民
トーテムウォールと呼ばれる、精霊獣の姿を模した彫刻を大断崖に彫り上げる一族です。成人の儀式として、1人につき1体のトーテムを彫る風習があります。一族の守り神であるセンラというトーテムの彫刻は、高さ40mを越える立派なものです。・砂織り族
砂漠に住む一族で、砂を用いた術法を使用します。侵略者に対して激しい反発を示し、現在もロンデニア軍を相手に戦っています。・サリライ族
砂漠に住んでいた一族で、ユマという植物から取る糸でつくる絨毯の見事さで知られています。砂漠ということで緑に憧れるためか、花柄の絨毯を多くつくっていましたが、植民地に移住させられた現在では、様々な模様の品が織られるようになりました。
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