文献にもなく、誰からも聞き出すことができない情報というのは、自分の目や耳で確かめるしかないでしょう。そういった情報のうちでも特に難しいのが、情報を盗み出す作業です。エルモア地方には軍の密偵や民間の諜報員など、諜報活動の専門家が存在しますが、彼らは非常に高度で厳しい訓練を受けて、ようやく一人前の諜報員として活動しているのです。また、もし諜報活動を行ったことが知られてしまえば、犯罪者として取り扱われることになるでしょう。相手が国家機関である場合は、単なる犯罪以上の刑罰を受ける羽目になりかねません。諜報活動には常に危険が伴うということをわきまえておいて下さい。
○感覚
諜報活動といっても、忍び込むだけが手段ではありません。たとえば、内緒話を盗み聞きするのも立派な情報収集の1つですし、双眼鏡や望遠鏡で建物を覗くこともできます。
視力によって得られる情報は、知覚力(一般:心+感応)による視覚の判定に成功すれば知ることができます。しかし、いくら目が良いといっても、あまりに遠くにあるものはそう正確に判別できるものではありません。せいぜい[心×100]mくらいの距離を限度として下さい。
音に関する情報は、知覚力(一般:心+感応)による聴覚の判定に成功すれば得ることができます。単に何かが聞こえたかの判定だけでなく、雑音の中から特定の音だけを聞き取るといった行為にも用いることができます。難易度や修正値は、音源までの距離や周囲の音の大きさによって変化します。なお、コップや紙筒を丸めてあてがうなどの工夫をした場合は、+1程度の修正をあげてもよいでしょう。聴診器であれば+2といった具合になります。
他にも、知覚力(一般:心+感応)による触覚の判定でどれくらい前にベッドを出たかが判断できますし、香水の匂いが強ければ相手が近くにいることに気づく可能性もあります。GMは適当な技能を指定して判定を行わせて下さい。
○潜入
潜入捜査を行うことで、間接的な手段では得られなかった情報を集めることが可能となります。しかし、潜入捜査は身軽さや慎重かつ大胆な判断力を要求されるものであり、事前の周到な準備や計画も必要です。相手の懐に飛び込むということは、場合によっては命がけともなりかねませんし、見つかれば間違いなく犯罪者です。どのような処罰が下されようとも文句はいえないでしょう。
事前の準備としては、まずは潜入先の状況を知っておく必要があります。見取り図が手に入っていれば問題ないでしょうが、そうでない場合は遠くから内部を観察するなどして、おおよその部屋割りを把握しておく必要があります。警備や番犬がいるのならばその配置も問題となりますし、家人の留守を狙うのであれば不在時間を事前に調べておかなければなりません。
次は潜入ルートと時間を決める必要があります。潜入するのは夜だけとは限りませんし、また夜陰に乗じるにしても手早いに越したことはないのです。もっとも効率よく、そして誰にも見つからずに潜入するためには、忍び込む先の状況によって変わってくるでしょう。
潜入するための手段の選択もまた重要です。鍵が必要ならば合い鍵や隠密技術:鍵操作(専門:技+作業)の技能をもっていなければなりませんし、警報装置が仕掛けられていればそれも解除する必要があります。事前に装置の存在がわかっていれば別ですが、そうでない時は隠密技術:屋内罠(専門:知+作業)の判定に成功しなければなりません。気づかずに扉を開けてしまった場合は警報装置が作動し、潜入は失敗に終わるでしょう。また、たとえ気づいたにしろ、屋内罠(専門:技+作業)の判定で解除に成功しなければ、警報を発動させてしまうことになるでしょう。そうなれば一度その場を離れなければならなくなり、余計な時間を費やすことになります。もちろん、次に忍び込む際には、警戒は非常に厳重になっていることでしょう。
塀や門といった障害物がある場合は、それを乗り越えなければ忍び込むことはできません。障害物が大した高さでなかったり、梯子を使うことができるのであれば判定は不要ですが、そうでない時は軽業(一般:技+運動)による登攀の判定に成功する必要があります。
○移動
無事に潜入に成功したとしても、中で誰かに見つからないとは限りません。忍び込んだ後は、とりわけ周囲の状況に気を配る必要があります。聞き耳を立て、廊下の角ごとに向こう側の様子を探るべきでしょう。ただし、あくまでも手早くです。時間をかけることもまた、致命的な失敗を引き起こしかねない要素なのです。時間制限がある場合はなおさら急がなければなりません。
足音を消して静かに移動するには、隠身行動(一般:技+運動)による忍び足の判定に成功しなければなりません。近くに誰かがいる場合、相手は聴覚の技能で対抗判定を行います。対抗判定で負けた場合は相手に気取られる可能性があります。しかし、忍び足をしている側は自分のミスに気づくことはできますが、見えているのでもなければ相手のことはわかりませんので、GMは描写に気をつける必要があります。
もし見つかりそうな場合は、隠身行動(一般:技+運動)の技能による潜伏で身を隠す必要があります。相手はこれに対して、知覚力(一般:心+感応)や観察力(一般:知+判断)の技能で対抗判定を行うことができます。この際、発見する側は明るさなどの条件で修正を受けることがあります。また、周囲に紛れるような服装をしていた場合は、潜伏をする側はプラスの修正を得ることが可能です。
○扮装
潜入捜査といっても、必ずしもこそこそ隠れる必要はありません。内部の者に変装したりすることによって、堂々と中に入り込むことも可能となります。また、最初からスパイとして相手に近づき、信用を得たところで情報を手に入れて姿を消すといった手段もあります。
一時的に誰かと入れ替わるには、相手が不在の時を狙うか身柄を拘束しなければなりません。そのためには、やはり不在の時間を事前に探り出すか、1人になる時間と場所を知っている必要があるでしょう。前者の手段は主に時間との勝負になり、後者は拘束できるかどうかが問題です。潜入先で相手と顔を合わせることになっても失敗ですし、拘束できなかった場合もこちらの存在に気取られてしまい、警戒が厳重になるのは間違いないでしょう。仮にこれらに成功しても、うまく変装できなければ何の意味もありません。外見を変えるには偽装技術(一般:知+作業)による変装の判定を行います。これには化粧品やカツラ、あるいは付け髭などの小道具が必要です。それから、特定の誰かになりすますには、相手のことをよく調べ挙げた上で演技力(一般:知+判断)の判定に成功しなければなりません。相手が貴族であれば上流知識:礼儀作法(専門:知+記憶)や舞踊技術:社交ダンス(専門:技+運動)といった技能、知識人であれば学問の知識が必要となることもあるでしょう。
観察力(一般:知+判断)による対抗判定に成功した者は、変装に違和感を感じることができます。また、変装の元となる人物のことをよく知っている者は、記憶術(一般:知+記憶)で対抗判定を行うことも可能です。
なお、特定人物ではなく、不特定の誰かを装う目的で変装を行うこともあります。この場合は、それほど不自然な態度を取らなければ、目立つことなく潜入することができるでしょう。たとえば、パーティの席でボーイやウェイトレスに化けたり、護衛の振りをして何食わぬ顔で任務につくといった具合です。いずれの場合にしろ、場所によっては合い言葉が必要となることもあるでしょうし、入り口で厳しくチェックされる可能性も考えられます。潜入先の情報をなるべく多く仕入れておくことが、成功への第一歩となります。
○逃走手段
潜入において侵入経路よりも大事なのが、予め逃走手段を考えておくということです。逃走経路や手段を把握していなければ、致命的な事態に陥る可能性もあります。
侵入経路を逆にたどれば、逃走は簡単だと思うかもしれません。しかし、それが最短経路かどうかは場合によりますし、1カ所しかルートを確保しておかないのは下策といえるでしょう。また、潜入前に見つかったのであれば口先三寸で逃れることもできますが、逃げ出す瞬間を見られた場合は言い逃れのしようがありません。
それから潜入に成功しても、情報を素早く届けなければ意味がない場合もあるでしょうし、何より周囲に怪しまれないためには、一刻も早くその場から離れることが肝要です。逃走手段として馬車や自動車などの交通機関を用意したり、下水道などのルートを調べておくのも下準備の1つです。もちろん、人目につかずにというのが条件です。夜遅くに辺りをはばかるようにして近づいて行けば、馬車の御者は間違いなくそのことを覚えているでしょう。その場にはそぐわない、あるいは妙に汚れた服装のまま公共の交通機関を利用するのも同じことです。
なお、裏社会にコネがある場合は、逃がし屋と呼ばれる人間に金を払って、逃走を手助けしてもらうことも可能です。また、乞食などに下水道を案内してもらったり、追われている時に匿ってもらうこともできるでしょう。
○協力者
協力者がいれば潜入を楽に行うことができます。内通者がいれば事前に潜入先の情報を手に入れて、最も安全なルートを探し出すことが可能となります。また、内部の警備状況を伝えてもらったり、合い鍵を準備したり、もし見つかっても匿ってもらうこともできるのです。他にも料理に薬を盛らせたり、逃げ出す時に陽動を行ってもらうなど様々な作戦が考えられるでしょう。直接的な手助けでなくても、アリバイ工作を行うための承認になってもらったり、仲間との連絡役を頼んだりすることもできます。
協力者といっても、同じ目的のために活動する仲間や同一の組織に属しているのでもなければ、何の見返りもなく手助けしてくれるということはまずありません。何も要求されない場合は、むしろ疑ってかかってもよいくらいです。協力者というのは共犯者であると同時に、自分の犯行を知る証言者でもあるのです。もしかしたら、唯一の目撃者かもしれません。そういう人物を無条件に信用するのは、油断という他ありません。裏切る可能性を常に考えて付き合うべきでしょう。
○情報の複写
文書などの形で情報が存在している場合、そのものを直接手に入れることができるとは限りません。盗み出したことで相手を警戒させたり、計画を変更されてしまうこともあるでしょう。盗み出すことでダメージを与える目的があるのでもなければ、相手に一切気取られずに情報を手に入れるのが最良なのです。
結局のところ、必要な分が正確に伝わっていさえすれば、情報はどのような形であっても構わないのです。ですから、自分の頭に焼き付けておくだけでも問題はありません。そのためには、記憶術(一般:知+記憶)の判定に成功する必要があります。この技能は積極的にものを覚えるだけでなく、何かを思い出す際にも用いることができます。しかし、人間の記憶力というのはそれほどあてになるものではありませんから、やはりきちんとした形に残しておくのが最も確実でしょう。
手早くミスがないように書き写さなければならない場合は、作業の判定を行わせても構いません。長文ともなると限られた時間で書き写すのは困難ですから、職業知識:速記(専門:知+記憶)の技能が必要となることもあります。
なお、この時代には既にカメラが存在しておりますが、あまりこういった潜入捜査に向いたものではありません。焦点を合わせるのに手間がかかりますし、周囲が明るくなければ撮影はできません。また、被写体は短くても数秒は静止していなければなりませんし、大きさもそれなりにかさばるものですから、かえって邪魔になることの方が多いでしょう。
○情報の判読
仮に情報を手に入れたとしても、それが判別できるとは限りません。知らない言語で書かれている以外にも、たとえば帳簿に関しては職業知識(専門:知+記憶)が必要となることもあるでしょうし、特定分野の略語などは職業知識:職業言語(専門:知+記憶)の技能を習得していなければわからないこともあるでしょう。裏帳簿のようなものであればなおさらです。裏社会で使われている裏社会:盗賊語(専門:知+記憶)もまた、裏組合や乞食組合などに所属する者でなければ読むことはできません。
それから文書が暗号で書かれている場合は、非常に複雑な解読作業が必要となるでしょう。暗号表があれば別ですが、そうでない場合は規則性などを見つけて解析しなければなりません。使用している暗号は組織ごとに異なりますので、暗号(専門:知+記憶)の技能もまた組織別のものです。簡単なものであれば霊感(一般:知+感応)の技能による謎解きの判定をさせて、解読のためのヒントを与えても構わないでしょうが、軍などが使用しているような複雑なものは、諜報部の人間が数人がかりで多大な時間をかけて解読を行うものです。独力では解析できないとしてしまっても問題ありません。
○尾行
相手を尾行することで得られる情報もたくさんあるでしょう。犯罪の証拠やアジトの在処、それから交友関係や行動半径などを調べることができます。
観察力(一般:知+隠密)による尾行の判定に成功すれば、周囲に不自然さを感じさせずに尾行することができます。特に相手の視界に入るようなことがなければ、比較的騒がしい場所では容易に尾行することが可能でしょう。しかし、相手が振り向いたりした場合には、観察力との対抗判定になります。
尾行に気づかれたと思った場合は、隠身行動(一般:技+運動)の技能で素早く身を隠すことも可能です。ただし、これで見つかってしまった場合は致命的です。相手は間違いなく尾行に気づき、逃亡を企てたりこちらに襲いかかってくる可能性があります。
なお、尾行といっても直接相手を追いかけるのではなく、遠い場所から隠れて見張っていたり、乞食や都市浮浪児に金を払って、行き先を聞きながら後を辿るという方法もあります。この場合、見失ってしまう可能性も高くなりますが、だいたいの行き先の見当をつけることはできるでしょう。
○術法
術法を用いて諜報活動を行うことも可能です。特に裏組合や暗殺ギルドに所属している者は、盗賊系や隠身系といった専用の術法を身につけることも可能です。しかし一般に教えられる術法に関していえば、情報に関わるものは特に規制が激しいのが実状です。それほどまでに情報というものは重要で、かつ悪用されやすいものなのです。たとえ術法教師や魔法屋であっても、むやみに情報収集に役立つ術法を教えることは許されませんし、教えた相手がそれを悪用した場合は、教授した者ともども厳しく処罰されることになります。
術法を用いて調査を行ったとしても、対象が物品であれば殆ど気づかれることはないでしょう。もし何らかの痕跡が残った場合でも、術法知識:魔術学(専門:知+記憶)の判定に成功しなければ普通は気づかないものです。ただし、人間やそれを含む空間に術法をかけた場合は、必ず強い圧迫感を感じます。もし初めて術法をかけられたというのであれば、単に変な気分がしたということで終わることもありますが、以前に術法をかけられている経験があれば、それは術法によるものだと気づくことができます。先頭へ