○自然
穏やかなログリア内海に位置し、気候は温帯に属しています。夏はあまり雨は降らず、冬期は温暖で降水量が多くなります。
この島は全土が山地といってもいいほど起伏が激しい土地柄で、人が住むにはあまり適していません。そのため、住居はほとんど海岸域に限られ、作物もすべて山裾の段々畑でつくられています。
○変異
『噴水土砂』と呼ばれる変異現象が起こります。平たくいえば土砂崩れなのですが、原因は山の上に湧いた地下水が間欠泉のように勢い良く噴き上がり、土砂を巻き込んで下に降りてくるためです。
この島の山には、地下水が溜まってできた泉が無数にあり、そのどれもが透明度が高いにもかかわらず水底まで見通すことができません。この泉の中には『白結晶』(ホワイト・クリスタル)と呼ばれる、水晶のような形をした純白の結晶石がふわふわと漂っており、ラチェン人はこれをお守りにして持ち歩いています。部族によっては、この泉に潜って白結晶を拾ってくるという成人の儀式がありますが、今まで一番深くまで潜った者でも水底に触れることはできませんでした。
○略史
聖暦256年に、ラガン帝国の被征服民であるラチェン人の一部が逃亡し、この地にたどり着きました。しかし、この島は狩猟や農耕生活には適していないため、この地を本拠地とする海上生活を始めるようになりました。
こうして貿易や漁業を主体とした生活が始まるわけですが、穏やかなログリア内海での交易にはエリスファリアやラガン帝国などのライバルが多く、非常に苦労が多かったようです。そして聖暦495年には、ついにエリスファリアとの『ログリア通商戦役』と呼ばれる戦いがはじまることとなりました。当然の結果といえばそうなのですが、ラチェン人はこの戦いに惨敗し、多くの部族はエルモア中に散ってゆくことになりました。
このようにヴァンヤン島を離れていった人々の中に、『ラグ』という名の男がいました。通商戦役で一族の大多数を失った彼は、アリアナ海で海賊行為を始めるようになり、後にはブルム内海にまでも『海賊王ラグ』の勇名を馳せることになりました。そのラグが聖暦510年に、大量の武器と傭兵を引き連れてヴァンヤン島に帰還して復讐戦を敢行したのです。『ラグの復讐海戦』と呼ばれるこの戦いで、ラチェン人の勢力はエリスファリアに上陸を果たし、一時は3つの都市を陥落させる勇猛ぶりを見せました。しかし、海上生活を主としていたラチェン人たちは、陸地での戦いに移るにつれ劣勢になり、翌年には戦局を逆転されることとなります。そして、ついにラグやその側近たちは処刑され、海上でのラチェン人の勢力は更に削がれることとなったのです。
○制度
部族ごとにばらばらに生活をしており、特定の政体をもっていません。しかし、各地に散ったラチェン人同士は連帯感が強く、まるで1つの国家のように協力します。『海の鎖』と呼ばれる海洋氏族の連合体が中心となって、この協力体制は維持されています。
○現況
現在のヴァンヤン島には、小さな港町や山の方に住む小さな部落しかありません。ラチェン人の本拠地として機能しており、海で生活している一族の者たちが、入れ替わりこの島を訪れて物資を補給したりします。
○民族
・ラチェン人(ラチュエン)
黄人の一族で、肌は浅黒い者が多いようです。かつてラガン帝国によって土地を奪われた人々の末裔です。誇り高い民族であり、自由人の気風を大事にしています。
一般にヴァンヤン島に住む者を『島ラチュエン』、海で生活する者を『海ラチュエン』、大陸に土地をもって暮らす者を『土ラチュエン』、そして放浪生活を続ける者を『風ラチュエン』と呼びます。
○宗教
もともとはマイエル教を信仰していましたが、今では海そのものを崇めています。祭の日には海に供物を流したりしますし、死者もまた海に葬られます。
○産物
魚介類、米、サラ豆
○文化・生活
言語を非常に大事にしている民族で、昔話や詩といったものが非常にたくさん残っています。これは言葉だけが各地に散らばった民族を繋ぐ絆であるということと、小さな島で他に楽しみがないという2つの理由から成立したものです。特に即興詩と呼ばれる定型詩がよく知られており、現在でも娯楽の1つとして人々を楽しませています。こうした詩文化の1つに、大勢の人々が車座になって、テーマに沿った短い詩を次々と繋げてゆく「連詩」というものがあり、酒の席でよく行われています。
この島は起伏が激しい土地ということで、人々は頭に篭を乗せて歩く習慣があります。他の地域の人々からすると、非常に歩きにくそうに見えるのですが、慣れれば物を落とすことなく全速力で走ることができるそうです。
○食事
この島の住人は、当然のことながら食料の大半を魚介類に頼っています。エルモア地方では珍しく生魚を食べる習慣があり、香辛料と塩を寝かせてつくる特製のソースをかけて食べています。また、魚ではありませんが、海ヘビなど変わったものを食材とすることもあります。ユノスの国民もそうなのですが、「海にあるものは岩以外なら何でも食べる」と、他国の人間は彼らを評しています。
主食となるのは米とサラ豆です。米は普通に炊いて食べており、サラ豆は粉にして卵黄と混ぜて練り合わせ、それを団子状にしてスープに落として食べています。
また、この島の人々は非常にキノコ好きで、様々なキノコ料理があります。お茶の葉とキノコの炒めものや、大きなキノコの傘で魚を巻いて蒸したもの、あるいはキノコ酒といった変わったものまであります。キノコ酒には香辛料とショウガを混ぜて飲むのが一般的で、非常に変わった味がしますが、慣れるとやみつきになるそうです。
○要所
・大トンネル
島の南北を貫通している自然の洞窟で、ちょうど馬車が2台すれ違うことができるくらいの大きさです。10年程前に舗装工事がなされ、現在は重要な通路として役立っています。
○組織・集団
・海エルフ
島の南側で海女をしている者たちです。海エルフといっても、その美しさと小柄な体格からそう呼ばれているだけで、本当は単なる人間です。彼女たちは数分も潜っていることができ、主にアワビやウニをとって生活の糧としています。・エイルン族
各地を旅して歩く女性だけの一族です。彼女らは踊り子であると同時に売春婦でもあり、主に貴族や政治家たちを相手に商売をしています。彼女たちはこれと決めた男性と一夜をともにし、子供をもうけます。しかし、その子供が女の子であれば旅に連れてゆきますが、男の子であった場合は相手のもとに子供を置いてゆきます。実は、彼女たちはラチェン人の密偵としての役目も果たしており、ラチェン人だけにわかる即興詩に情報を織りまぜて伝えます。・ティタ族
黄色虫と呼ばれる特別な種類の蚕蛾を飼っており、この幼虫が吐く糸を集めて布を織って、それを売り歩くことで生活しています。彼らは船上生活を送っており、虫の飼育に適した気温に合わせて海上を移動します。船には飼育から機織りまでの、全ての工程に必要な道具が揃えられています。この虫は特別な配合の餌を与えていると死ぬまで幼虫のままでいるのですが、これはティタ族だけの秘密となっています。この糸で織られた布はティタ織りと呼ばれ、非常に高値で売買されています。
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