○錬金術の過程
完全存在に至るまでの変質の過程には2つの方法があります。1つは自然の過程による変化であり、もう1つが技術による変化です。短時間でこの過程を完成させるのが錬金術の作用であり、それを達するためには2つの手法があります。
1つ目の手法は原質への純化と再構成で、このためには形相の収奪と付与という作業が必要です。しかし、これを為すためには術法を用いなければならず、錬金術の世界では純粋な学問としては取り扱われておりません。ですから、作業の過程として術法を利用することはあっても、研究として分析を行う対象とはならないのです。
そのため、実際の作業として行われるのは性質の付加であり、移階や転相という複数の過程を経て、不完全存在を完全性質へと変容させようというものです。つまり、物質を加えたりすることで何ものかに変化させ、その過程と結果についての知見を蓄えてゆくということになります。しかし、これは膨大な時間を費やす大変な作業であり、これこそが錬金術師たちが個人の研究過程を秘匿しながらも、組織として活動する最大の理由となっています。
○実験の場
実験は外的要因の影響を受けずに行われるのが理想であり、実験に際しては自律的な閉鎖系を用意する必要があります。そのため、錬金術師は隔離された錬金場という空間をつくりあげて実験を行います。たとえば、錬金系の術法に水晶の窓という術がありますが、これによってつくられる空間も一種の錬金場として機能しますし、密閉されたガラス容器や高熱で熱せられる錬金炉の中も錬金場として扱われます。
錬金術師は不完全な存在が世界の大多数を占めることから、不完全存在を蛹に、そして現在の世界を繭や卵に例えます。そのため、錬金場を総称して錬金卵、錬金繭という呼ぶ場合もあります。なお、学派によっては宇宙には虚空を満たす虚無が存在しており、そのマイナスの影響から逃れるために錬金場を創造する必要があると言う人もいます。
錬金場には様々な種類のものがあり、それを作り上げるための研究も多数なされています。たとえば、宇宙卵と呼ばれる模倣宇宙空間や、霊石で構成されたエーテル容器などがありますし、他にも外的環境から一切の影響を与えずに実験を行うために、天球水晶と呼ばれる水晶球の中に錬金小人を入れて、外から指示を与えて実験操作を行わせる錬金術師も存在するようです。
○月と星
錬金術の実験は月と星の位置に強く影響されるといいます。実際、同等の実験を行ってもまれに完全に異質の結果を示すことがあり、長く錬金術師たちの頭を悩ませてきました。これは古くは変異現象のせいであると考えられていましたが、天文学を学んでいた1人の錬金術師が星の軌跡と月の満ち欠けが、実験に何らかの影響を与えていることに気づきます。そして現在では、特に科学魔道時代の発掘品を使用している際に起こる現象であることまで知られるようになりました。
また、月が犯罪件数やその他の自然法則に影響を与えることも示唆されており、錬金術の世界では月が何らかのエネルギーを与えるものであるか、あるいは形質への影響力を持つ存在ではないかと考えていますが、その機構に対する研究は殆ど成果を得ていないのが実状です。
とはいえ、錬金術師にとって天体の動きは、実験のスケジュールに大きく影響を及ぼすものであり、無視することのできない存在です。そのため、錬金術師の中には天文学を学ぶ者も多く、星位交響学という天体の動きを音楽に見立てて示す特異な学問が発達した時期もありました。また、天体を測定する機器なども多数開発されており、星位天球層や天球街道箱といった天体の動きを再現するための器具も存在します。それから、錬金術師の暗号である錬金文字にも、惑星や星座を示すための記号が使われています。
○寿命
錬金術の実験台とされた生物は、殆どの場合は本来の寿命より遙かに少ない時間しか生を与えられません。寿命を延ばす技術も存在し、他の実験で負荷をかけられた分をわずかに補うことができますが、いかなる手段を用いても不死となることは出来ません。
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