芸術の普及
かつては貴族たちの文化であった芸術は、現在は一般の人々の間にも浸透するようになっています。これは技術革新による印刷技術の向上や出版物の頒布、それから人間の移動技術の進歩が大きな原因で、市民でも外国の絵や音楽に触れることが出来るようになっています。また、貴族制度の廃止によって、かつてそれらの人々が所蔵していた芸術品が市場に流出したり、博物館や美術館へと姿を変えて市民の間にあらわれることもあります。
・上流階級
そのような理由はあっても、いまもってなお芸術分野は上流階級の人々と関係が深く、芸術に理解を示すことは上流の身分の証でもあります。そのため、娘のために一流の演奏家をピアノの家庭教師として雇ったり、芸術活動に出資する人々は大勢います。王室や貴族が個人的に宮廷楽団を設立したり、王立の劇場を建てることもありますし、有名な芸術家のパトロンとなって個展を開く資金を出したりします。
こういった風潮から、富裕階級の成功者が音楽堂を建設したり、美術館に絵や彫刻を寄贈したりすることも多いのですが、社交界では成り上がり者の売名行為だと陰口を叩かれたりもします。しかし、それでも芸術の進歩に力を貸していることには違いはありませんので、芸術家の側からすれば非常にありがたい存在といえるでしょう。
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音楽
古来より音楽は大きな楽しみの1つで、オーケストラの荘厳な調べもあれば、大衆酒場の歌姫の可憐な歌声や吟遊詩人の古い物語など、様々なものが存在します。歌は楽しみだけでなく、人々の心の支えになったり、歴史を伝える役目なども担ったりします。奴隷の娘たちが糸紡ぎの時に自らを勇気づける歌もありますし、古い歴史を伝える歌も数多く残っており、特に青年識字率の低い辺境地域では貴重な文化資料となります。
○楽器
エルモア地方で用いられている楽器は、現実世界のものと大差ありません。ピアノやバイオリンといったものもありますし、ギターも既に誕生しています。
・上流階級
ピアノは上流家庭の象徴ともいえる楽器であり、成り上がりの金持ちは必ず1台は家に置こうとするものです。特に一流楽器メーカーのブランドものは外観の意匠もこらされており、自らの権勢を見せつけるにはうってつけのものです。中流の家庭にもこの風潮は広まっており、上流の生活に憧れる者はローンを組んででも購入しようとします。そのため敷地の狭い家庭のために、家具としても利用できる棚ピアノと呼ばれる形式のピアノも製造されるようになっています。・ハープ
ピアノと同じように宮廷や上流階級でもてはやされているのがハープで、淑女たちは好んでこれを学びます。ハープは装飾としても美しいもので、それ自体が芸術品として扱われています。・教会
教会ではオルガンの演奏に合わせて賛美歌を歌うため、聖職者の中にはオルガンを演奏できる者がたくさんいます。大教会ではパイプオルガンやカリオンと呼ばれる演奏用の鐘が設置されており、専門の演奏家が荘厳な調べを礼拝堂に響かせます。・バイオリン
バイオリンは民衆にもわりと身近な楽器の1つであり、バイオリン弾きが酒場や路上で演奏する姿は日常的に見られるものです。
○種類
・管弦楽
大劇場で演奏されるオーケストラは、上流階級や富裕階級の人々の楽しみです。観劇と同じように正装して鑑賞するもので、一般市民にはあまり縁のない娯楽となります。こういった場所で演奏するのは音楽学校出身のエリートが多く、独学で成り上がる人はあまりおりません。・演奏会
演奏家や歌手などが地方を渡り歩いて、興行的に演奏を披露することもあります。料金は非常に幅広く設定されており、1回の興行で百万エラン以上も稼ぐ一流の音楽家もおりますし、安宿に泊まるのが精一杯という人も珍しくはありません。有名でも気さくな性格の人は、バカンスの途中で立ち寄った街などで、きわめて安い料金や無料で演奏を引き受けることもあります。こういった場合は広場の屋外劇場などで演奏会が催され、一般市民でも気軽に一流の技術に触れることが出来ます。・音楽売り
路上や酒場を渡り歩き、小銭をもらってバイオリンなどを演奏する人々のことです。彼らは下層の労働者で、ひもじい思いをしながら木賃宿を泊まり歩いて、各地で演奏を行います。・大衆歌
一般市民に馴染みが深い音楽は大衆歌と呼ばれるものです。これは路上の音楽売りや酒場の歌姫が歌ったり、大道詩人と呼ばれる人々が路上で売り歩く風刺の歌などのことで、人気の高い歌は酒場や祭などでよく歌われたりしています。・古楽
吟遊詩人と呼ばれる人々が、リュートなどの古い楽器を用いて演奏する古典民謡などのことです。一般の人々も耳にすることはありますが、貴人の優雅な趣味としても認められており、宮廷に演奏家を呼び寄せて演奏させることもあります。・奴隷哀歌
最近では黒人女性歌手『フォルテ』の歌が非常に話題を呼んでいます。フォルテは奴隷解放戦争の真っ直中にあるカルネア南部に生まれた奴隷であり、その最初の歌は北部への逃亡の途中で戦いに巻き込まれた自分の体験を歌ったものでした。その出だしは「母のかけらを拾った。それは手のひらだった」という衝撃的なもので、彼女の哀しい歌声はカルネア北部の白人たちに改めて奴隷問題について深く考えさせ、黒人たちの戦意を奮い起こしました。・流行歌
聖暦789年現在は、以下のような大衆歌が人気を集めています。
「グラスベリーを君に」「星屑夜曲」「蒸気船のかなた」「いつかきっと」「ティーポット・ドリーム」「ラビンツェロ」「自由の口笛」「僕が死んだ後で」「たったひとつの恋だから」など
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観劇
観劇はオペラのような大がかりなものから、大衆劇場のような街の小さな劇団が行う芝居まで、様々な種類のものが楽しめます。
○大劇場
大きな都市には格式のある大劇場が幾つも建てられ、夜毎に一流の役者やオペラ歌手による歌劇や古典演劇が上演されています。建物は一流の建築家によって設計されたもので、それ自体が芸術品といって差し支えのないものばかりです。
観劇にはそれなりの料金が必要で、客の殆どは上流階級や富裕階級に属する人々となります。正装した紳士淑女たちが馬車で訪れるのが普通で、身なりによっては入場を断られることもあります。しかし、国家によっては祝日に入場規制をゆるめたり、文化向上のために無料で観劇できるよう劇場を開放する場合もあります。・形態
古い国家の場合、観劇は立食パーティといった趣の舞踏会の一種として成立しています。壁際にソファが添えられていたり、幾つかテーブルと椅子が用意されている場合がありますが、立ち見が基本的な観劇スタイルとなっています。こういった劇場では観劇のみが目的ではなく、貴族たちの社交場の1つとして利用されています。劇場は深夜まで開かれており、ホールで談笑しながら高級な料理や酒類を味わい、踊ったり音楽を聞いてのんびりとくつろぐ場所というのが一般的です。
しかし、先進国家の劇場は観劇が目的の中心となっており、ホールに並べられた席に座って、静かに劇を楽しむのが通常のスタイルです。また、深夜まで営業していることは珍しく、日付が変わる前に閉じられてしまうのが普通となります。・歌劇
歌劇には政治色やその時の風潮のようなものが反映されます。現在人気を博している劇には以下のようなものがありますが、その多くが社会的問題を含んだ内容の劇で、主に貴族制度を廃した先進国家で好んで上演されています。仮面の夜:仮面紳士事件をアレンジした怪作です。ロンデニアで上演されています。
難破船:ラチェン人が主人公の民族問題をテーマにしたものです。
踊る炎:精霊との出会いから別れまでを描いた恋愛劇です。戦争の中での美しい愛を語る、セルセティアの作品です。
奇妙な系譜:貴族を中傷するような内容の劇で、ルクレイドで上演されています。
○小劇場
有名劇場に入れないような人々が集うのが小劇場と呼ばれる場所で、上昇志向の持ち主がメインの客層となっています。劇場もそれほど粗末なものではなく、料金も大劇場の半額くらいが一般的となります。とはいえ、あくまでも普通の市民が訪れる場所なので、タキシードやドレスといった正装をする必要はなく、少し上等な背広でも着ていれば入場が許されます。また、少し粗末な劇場では学生や労働者が遊びに訪れることもあり、多様な階級の人々が入り混じって楽しんでいることも珍しくはありません。
・形態
こういった劇場は古いタイプの大劇場と同じで、観劇も出来るパーティ会場といった具合のものが大半を占めます。観劇だけに限らず音楽や料理を楽しんだり、躍動的な音楽に合わせて踊ったりできるような場所も存在します。中には仮装パーティを催している小劇場もあり、貴人がお忍びで市民の中にまじって遊ぶことが出来るために、ひそかな人気を集めているようです。
○芝居小屋
芝居小屋と呼ばれるのは劇場ほど立派な建物ではなく、ダンスホールを兼ねた小さな酒場や飲食店といったものを指します。店舗によっては文字通り粗末な木造の建物で、扉さえないような場所も存在します。客層も一般市民や下層労働者ばかりで、酒場と同じ様な気軽さで入ることが出来ます。
・形態
芝居小屋といっても芝居だけを見せる店は少なく、多くは飲食店をかねて営業を行っています。歓楽街では珍しく昼から店を開ける場合が多く、一晩中営業しているのが一般的です。
芝居は店の奥に設置された小さな舞台の上で行われ、客は舞台の前に並べられた席につき、飲食しながら芝居を見物するようになっています。舞台といっても小道具や背景にこだわるような客層でもないので、すべて役者たちの手作りという粗末なものばかりです。劇の合間には踊り子や歌姫、あるいは大道芸人などが舞台にあがって、それぞれの芸を披露します。
たいていの店では中は騒々しく、役者の芝居に客が合いの手を入れつつ劇が進行するのがごく普通の光景です。しかし、一部のスターが出る場面では静かにするのがマナーで、あまり騒がしくすると他の客たちになじられたり、つまみ出されたりすることもあります。・風刺劇
このような芝居小屋では、滑稽芝居や風刺的なものが特に好まれ、庶民の政府に対するささやかな憂さ晴しとして役だっています。そのために施政者からは疎まれているようですが、庶民の人気を考えると廃止するわけにはいかず、野放しになっているようです。もちろん、独裁制を敷くライヒスデールのような国では、皇帝を批判するような芝居を行なうものは重罪に処されるため、ほとんど廃止同然の状態です。・役者
どちらかといえば、旅回りの役者たちによって行なわれているのが普通ですが、より大衆的な芝居は地元に根付いた役者によって行なわれます。こういった舞台で演じるのは、もっと上のクラスの役者を目指す者が殆どで、芝居そのもので稼ぐことが出来るのはごく一部に過ぎません。多くは給仕や掃除係、あるいは踊り子などを兼ねており、その給料とチップだけが収入となるのです。ある程度売れている役者でも、1回の舞台では最高5000エラン程度が精一杯で、本当に有名にならなければ芝居で生活することは出来ず、体を売って生活費の足しにする女性も少なくありません。しかし、劇場を満員にするくらいの超一流ともなれば、1回の舞台で何十万エランという稼ぎを得たり、大きな劇場からスカウトされることもしばしばあります。まさに人気だけが頼りの職業ということが出来ます。
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見せ物
広場や大通りには大道芸人やバイオリン弾きなどがおり、さまざまな芸を披露しています。時々、サーカスや移動動物園などの大がかりな催し物が開かれることもあり、子供ばかりでなく大人たちも大勢見物に訪れます。
・音楽売り
バイオリン弾きやアコーディオン弾き、あるいはギター弾きといったものが一般的です。少し珍しいものでは、ストリートオルガンという手回し式の演奏機械があり、音楽に合わせて人形劇を見せたりすることで、子供たちに人気を集めています。・路上劇
劇といっても人間が行うのではなく、人形芝居や紙芝居、あるいは影絵芝居といったものが一般的となります。・大道芸
通りや広場では、よく芸人が芸を披露している姿を見かけます。ジャグリングや手品、腹話術といったものから、馬の曲芸のような大がかりなものもあります。・鳴き声売り
カナリア売りやコオロギ売りが、小さなカゴにいれた動物を売り歩いている姿を見ることもあります。・ショーハウス
蝋人形や機巧人形を展示したり、ターンスコープと呼ばれる手回し式の動画映写機を見せて楽しませる建物です。移動式のテントや小屋である場合もあります。・占い
夢占い、花占い、水晶占い、カード占いなど、地域によって内容は異なりますが、占いはいつの世も少女たちに人気があるものです。占い小屋を構えている場合もありますし、毎日路上に出て仕事をしている占い師も多くいます。安いものではだいたい1回100エランくらいから楽しむことができます。・大道詩人
街頭で流行歌や風刺歌を歌いながら、その歌詞や挿し絵入りの歌謡本を売り歩く者です。子供向けの童謡売りもおり、子供たちに本を読んで聴かせて小銭を稼ぐこともあります。また、その日の出来事を歌にして売り出すという、一種の新聞のような役割を持つ通俗詩商人も人気があります。
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