エストルーク連邦国家


 


○自然

 北部は干拓によってできた国土で、海抜0m以下の土地もあります。気候はフレイディオン北部とほぼ同じで、夏は涼しく冬は温和で、四季を通じて降水量は多くなります。
 北部の一部地域には『水原』と呼ばれる土地があります。ここは大きな沼地なのですが、浮草やハスなどの抽水植物が一面に生えており、見渡しても水面を見ることはできません。ここには『ウォーターベリー』と呼ばれる植物が群生しており、エストルークの特産物として国外にも広く知られています。


○変異

 絶対変異地帯に接する南部地域で見られる『変種現象』が有名です。これは生物が異なる種に変わってしまう現象で、この国の場合は比較的近い種に変化することが多いようです。当然のことながら人間に作用することもあり、特に生まれてきた子が変異の影響を受けていた場合、その子供のことを『取り替え子』(チェンジリング)と呼びます。変種現象ではエルフや妖精になったり、あるいは腕だけが竜になっていたりすることもあります。取り替え子は忌み嫌われており、そのような子供の多くは殺されたり捨てられたりします。これを育てようとする親もいますが、それは教会から破門されることを意味しており、地域によっては家族ごと土地を追放されたり、ひどい時には子供を取り上げられ殺されてしまうこともあります。
 よく知られているもう1つの変異現象には、『暗き沼』と呼ばれるものがあります。これは水原に現われる門のことで、この門に入ると異次元へと飛ばされてしまいます。飛ばされる先は決まっておらず、それが精霊界であったり魔界であったりと様々です。門の出現する地域は、ウォーターベリーの最大の群生地から近く、無理を承知で収穫に出て行方不明になる人は後を絶ちません。


○略史

 元々はイーフォン皇国が支配していた土地なのですが、皇国の滅亡によってベルメック(現ロンデニア)の領地に変わりました。国名がロンデニアに変わった後もしばらくはその支配を受けていたのですが、本国とユノスが制海権問題で戦争を行った際に、この地は条約としてユノスに譲渡されることとなりました。
 譲渡された当初は自治権が認められていたのですが、中継貿易を主とした活動により北部の港町を中心に発展してくると、ユノスは自治権を奪い取ろうとしました。これに反発した自治州はエストルーク同盟を結び、聖暦787年にユノスで起こった軍事革命の混乱をついて、独立を勝ち取ることに成功しました。そして『サレムの丘の盟約』という都市間の盟約が結ばれ、晴れてエストルーク連邦国家が誕生することとなりました。
 この革命が成功したのは、ひそかにロンデニアとの間に同盟が結ばれていて、ポラス海峡の通航問題に関するロンデニアとユノスの海戦が画策されていたためです。しかし、ロンデニアと連動していたとはいえ革命はそう簡単には成功せず、数多くの人々の死の礎の上に現政権が築かれることとなりました。その年は猛暑で、流れた血がすぐに乾いてしまったことから、人々はこれを『乾血革命』と呼んでいます。


○制度

 全8州からなる連邦制がとられており、全体としては三権分立と選挙による近代的政治制度が整備されています。
 国家元首である『総督』は選挙により選出されるもので、初代総督には乾血革命において首領となった『ディアルード家』の『ミストレイル』が就いています。この総督と大臣からなる行政府、そして各州の代表で構成される国民議会によって、国政が運営されることとなります。
 州は自治権をもつ地方政体として機能しており、たとえば法律などでも、全体としての憲法の他に各州独自の州法をもつことができます。

・貴族:名誉階級。主に政治家として活動しています。
・騎士:存在しません。
・軍隊:行政府が統括していますが、各州政府の要請で動かすことができます。
・司法:連邦国家の名の下に司法府が裁判を行います。
    連邦法と州法の双方に基づいて判決を下します。
・警察:行政府の管轄下に置かれていますが、活動は州単位となります。


○現況

 絶対変異地帯の存在から南部の開発はあまり行なわれず、北部の港町を中心に発展しました。特にブルム内海の中継貿易で栄えた『港湾都市アスフィリス』は、商業、金融においてカーカバートに並ぶ都市に成長しつつあります。また、見識ある経済学者の意見を取り入れて、革命以前からも大規模な干拓を行ったりと、貿易だけではなく国内産業の発展にも力を注いでいます。
 この国ではユノスへの反発心からか、聖母教会への信仰はあまり熱心ではありませんでした。そのため早い時期に霊子機関が導入され、将来的には新大陸への入植を考慮しているようです。しかし、これを実現させるためには、新大陸の利権を渡したくないロンデニアと何らかの形で衝突することが予想されます。この通航問題と、独立に力を貸したことを理由に内政に干渉しようとすることの2点について、国内ではロンデニアに対して何かと不満の声が上がるようになっており、両国の間には溝ができつつあるようです。
 しかし、革命後の国内整理も不十分なままの現在は、まず国力を高めることが第一と考えており、ユノスのような失態をおかすことはなさそうです。何より、ロンデニアの艦隊はエリスファリアと並んでエルモア最強の名を冠するほどの存在です。霊子機関の性能で遅れを取っているこの国としては、なんとかして技術格差をなくそうと懸命に努力しています。


○国家関係

・友好国:ロンデニア
・敵対国:ユノス


○民族

・エストクレア人
 茶系統や赤い髪と瞳の、そばかすの多い白人です。
 ソファイアに住むトアルクレア人と同じ系統の民族です。

・セナイア人
 小麦色の肌に金髪、碧眼の白人です。


○宗教

 基本的には聖母教徒なのですが、それほど熱心に信仰されてはいませんでした。しかし、革命期とその後の積極的な福祉活動と、人々の心に植えつけられた強烈な死への恐怖から、最近になって信仰心に目覚める者が少しずつ増えています。
 なお、カンカサスには『火の聖フィーナ』教会があるため、信心深い者が大勢います。


○要所

・水原
 草原のように見えますが、下は膝ぐらいまでの高さの水で覆われています。ウォーターベリーの群生地として知られています。

・白の野原
 クロティア市の北に広がる地域で、塩湖だったところが干上がったものです。塩が地面を覆いつくして真っ白に見えることからこの名がついたもので、ここから塩が掘り出されて各地に輸送されています。


○産物

 ウォーターベリー、岩塩、砂椿、魚、鶏、牛乳、チーズ、バター


○文化・生活

 乾血革命では、文字通り大勢の人々の血が流れることとなりました。特に働き盛りの成人男子が多数死亡したことから、20代〜40代までの世代をさして『喪失世代』(ロスト・ジェネレーションズ)と呼んでいます。もちろん死んだ大人の数に比例して戦災孤児たちも大勢いるわけで、こうした子供たちの救済対策も熱心に議論されています。
 これらの子供たちを放置して都市浮浪児とすることを避けるために、この国では保護施設を各地につくりました。そして、新たな科学技術に対応できるだけの高度な学校教育を行うと同時に、干拓などの国家事業に関する労役にも就かせています。成人男子の絶対数が少ないため、こういった子供たちの労働力は国家にとって非常に有益であり、子供たち自身もそのことに対して誇りをもっているようです。人々はこのような明日の国家を担う世代を、『夜明けの子供たち』と呼んでいます。
 同様に理由によって、最近ではかつて以上に女性の社会進出が目立つようになりました。男性の職場とされていた場所でも、女性たちは積極的に職を求めています。これによって産業の空洞化は防がれ、辛うじて国際的に遅れをとることを恐れずに済んでいます。
 女性の職場進出に伴って最近現われるようになったのが、お総菜などを扱う小売り店です。こういったことを嘆く古い世代の人々もいるようですが、女性といえども一家を支えねばならない立場にいる者には大歓迎されています。また、家族を失った人々が寄り集まって交代で家事をしたり、隣の家の食事を面倒をみたりといった風潮も生まれており、革命以前よりも民衆の結びつきは強くなったようです。


○食事

 何よりも有名なのがウォーターベリーという果実で、この甘く柔らかい果実をパイやパンにはさんだり、果実酒やジュースにしたり、スープの具にしたりと様々な料理に利用します。
 次に特徴的なのが、トマトをふんだんに使った料理が多いということでしょう。トマトピューレはどこの家庭にもある調味料で、タラのトマトソース煮や野菜の炒めものなどがよく食卓に出されます。
 海産物としてよく食べられるのがカニで、カニミソを使ったグラタンなどは子供からお年寄りにまで人気があります。


○組織・集団

・商業会議
 国内の経済を管理している特殊な民間組織で、大会社や組合が自主的に集まって組織した団体です。革命後の混乱で貨幣価値が急激に変動するのを強制的に押さえつけ、国内産業を保護する役割を負っています。

・水原管理局
 水原の安全とウォーターベリーの収穫量を管理する組織です。変異体の出現に備えて、武装隊も常駐しています。

・ウォーメイト
 軍用犬や軍馬などを育てる会社で、国外からの注文もあります。

・グッドフェロウズ
 年若き総督ミストレイルのもとに集う友情で結ばれた集団で、密偵のような仕事をしています。政治家としても彼らは優秀で、ミストレイルの良き相談役となっているようです。


○人物

・総督ミストレイル=ディアルード  38歳  男
 革命時には首領として革命軍を指揮し、そして独立後には初代の総督に選出された優秀な人物です。優れた能力を有していながら自分を見失うこともなく、周囲の意見を聞く聡明さも合わせ持っています。

・ヒースリン   18歳  男
 家族や幼なじみを守るために、発狂するまで術法を使い続けた少年です。革命集結以後もその意識は正常に戻っておらず、不可解な行動を取り続けています。時折、謎の言葉を発するのですが、それはどうやら古代語のようで、家族は近々専門家を呼んでその真偽を判断してもらおうと考えています。

・邪なる生ティモア   23歳  男
 バーデンの南にあるカザロフ村で生を受けた彼は、取り替え子としての運命を抱いてこの世に現れました。それも魔人という最も人々に忌み嫌われる存在であったため、5歳になった直後に異端として処刑されることとなりました。しかし火刑に処されたはずの彼はわずか1日後に蘇り、両親を含めた街の人々を全て喰らい、教会の建物に火をつけてこれを焼き尽くしました。これがカザロフの炎事件と呼ばれる教会焼き討ち事件の顛末です。現在の行方は知られておらず、教会は追跡調査を行っています。

・スーニア=ニールセン   23歳  女
 革命時に民衆の先頭に立って戦ったアルマビリア州の貴族の娘で、その勇猛果敢な戦いぶりは現在でも語り草になっています。その人気の高さから州議会の議院にも当選を果たし、現在は政治活動で多忙の様子です。

・シルヴァリィ   26歳  男
 護衛としてスーニアに仕えていた青年で、革命時にもその隣で剣を振るいました。スーニアには忠誠を誓っており、生涯守りぬくことを心に決めています。

・クロウズクロー   29歳  男
 黒曜石に変わってしまった手をもつ男で、異端として故郷の街を追放されたという過去を持ちます。彼はそのことを深く恨んで、革命の混乱に紛れて街中の人間の半分を惨殺してしまいました。現在は指名手配されていますが、その行方はいまだに分かっておりません。


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