馬車

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馬車の種類


 聖暦789年におけるもっともポピュラーな乗り物といえば、なんといっても馬につきるでしょう。ただし、これは馬車のことであり、直接背中に人を乗せて歩く乗馬のことではありません。レジャーとして遠乗りを楽しんだり、あるいは都市間や田舎での交通手段として乗馬はよく行われています。しかし、比較的大きな規模の町では、馬車として利用されるのが普通です。馬車といっても貴族が乗る上等なものから荷馬車、あるいは都市の交通機関として利用されている乗合馬車など、様々な種類があります。


○タイプ

 形状における馬車の分類は、大きく3つのタイプに分けられます。


・箱馬車
 箱馬車(ボックス型)と呼ばれる天蓋つきの車両で、両側には窓とドアがついています。比較的しっかりしたつくりで、バネなどで振動を抑える構造があります。貴族が個人で所有しているような馬車がこれに当たり、数人が楽に腰をかけるスペースがあります。乗合馬車もこれと同じつくりで、大きなものは二十人以上が乗ることができます。

・平馬車
 平馬車はいわゆる農作業用や荷馬車に利用される粗末な構造のもので、乗り心地はあまりよくありません。簡単な枠をつけて幌をかぶせた場合には幌馬車と呼びます。興行師たちが移動用に使う大型の有蓋馬車は、平馬車の荷台部分を簡素な小屋に改装したもので、特別に家馬車と呼ぶことがあります。基本的に構造は単純で、安く手に入れることが可能です。

・軽馬車
 軽馬車は箱馬車の屋根を取り払ったような構造をしています。市内をゆく辻馬車がこのタイプで、前に御者が座り、後ろには客が2〜4人座れるようになっています。タイヤにゴムを履かせていたり、座席の下をベルトで吊ったりバネをしかけているので、乗り心地はそれなりに良いものです。雨に備えて折り畳みの幌をつけたり、客が乗る部分だけ屋根がついているものもあります。たいていは一頭引きか二頭引きの二輪馬車で、上の2つに比べると小型です。四輪の大型のものは4人くらいが座ることができます。


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駅馬車


 都市間をゆく馬車は駅馬車と呼ばれます。これは街や村を単位として各区間に駅を設置し、そこで乗り降りできるというものです。駅はだいたい15〜20kmごとにあり、馬を交換したり休憩をとったりします。このような方式をとっているため、会社経営のものが多くなります。馬車には会社の名前と馬車の番号が記されており、それによって忘れ物などを届け出ることが可能となっています。


○タイプ

 駅馬車にもいくつかのタイプがあって、普通馬車、急行馬車、郵便馬車、荷役馬車の4つに分類されています。


・普通馬車
 普通馬車は乗客を乗せてのんびり走る箱馬車で、たいていは6人以上を乗せて走ります。乗客は決められた区間の切符をあらかじめ買っておき、発着場から馬車にのりこみます。予約制のところもあればそうでないところもあり、土地や会社によって方法はバラバラです。予約客が定期的に見込める区間では、予約便を別に運行していたりします。祭などが行われる時期にも、臨時の予約便を運行することがあります。
 しかし、大抵は予約制ではなく、空いていれば乗ることができます。席に空きがなければ立って乗ることも可能ですが、馬車全体として乗せることができる重量は決まっておりますので、乗車を断られることもあります。荷物の重さにも制限があり、1人につき20kgのものしか乗せることができません。それ以上のものを持ち込む場合には、超過料金を払う必要があります。なお、なるべく人を多く運ぶために屋根の上にも座席を設けてある馬車もあります。

・急行馬車
 急行馬車は普通馬車の倍ほどの速度で走るもので、1日に100km以上の距離を進みます。これは完全予約制で、キャンセルがなければ飛び入りで乗せてもらうことはできません。明け方早くから出発して夜中近くまで走ることで距離をかせぐのですが、そのため乗り心地は最悪で、悪路では屋根に頭をぶつけることもあるくらいです。
 各駅では急行馬車の到着に備えて馬を待機させ、すぐに馬を取り替えて次の駅へと出発してゆきます。そのため、のんびり休憩する時間もありません。このような理由から、よほど急ぎの旅でなければ普通馬車の方が人気があります。

・郵便馬車
 基本的には急行馬車と同じものですが、手紙や小包など郵便を乗せて走るので郵便馬車と呼ばれます。乗客は4〜6人ほどしか乗せず、完全予約制となっています。また、荷物の重量超過も普通は認めず、許してもらったとしても高い料金をとられることになります。
 郵便馬車の特徴としては、郵便物を強盗などから守るために銃やサーベルで武装した警備員が乗っていることが挙げられます。これは会社専属であり、車掌も兼ねているのが普通です。馬車を守る仕事の他にも、料金の徴収や荷物の管理、時間の記録、車両の点検などをこなします。また、御者に何かあった際には、臨時の御者として働くこともあります。
 郵便馬車はとにかく時間厳守で、またスピード重視です。道路の状態がよいところでは、1日に150km以上の距離を走破します。郵便馬車は時刻表を守ることが最優先ですので、乗客が遅れても待ってはもらえません。馬の交換を行う他は、真夜中以外の1日のほとんどを走りっぱなしですので、急行馬車よりもさらに人気のない乗り物となっています。

・荷役馬車
 その名の通り荷物のみを運搬する用途で運行される馬車で、駅馬車の中では唯一、幌馬車を使用します。荷役馬車といっても乗客を乗せて走ることもあります。その場合、荷物とまったく同様の扱いを受け、距離と体重で料金が決定されます。席もないので乗り心地はあまりよくありませんが、そのぶん料金が安いので、これを利用する人は結構います。また、最初に料金を払うシステムになっていますので、途中で降りたくなった場合でも、御者に声をかければ好きな場所で降ろしてくれるのが普通です。なお、郵便馬車と同じく、荷役馬車にも護衛がついていることがあります。


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乗合馬車


 乗合馬車は街中を定期的に運行するもので、現在でいえば路線バスにあたります。運賃が安く大量の人員を運ぶことができるため、中層市民の通勤手段としてよく利用されています。大都市では郊外にも路線があり、広域をカバーしています。上流階級の人間は自分の馬車や貸し馬車を利用するのが普通なので、あまり乗合馬車に乗ることはありません。


・システム
 乗合馬車は一定の路線を一定の時間間隔で走らせ、停留所で客を拾って次の停留所へ向かうというシステムで運行されています。基本的には停留所で乗り降りするのですが、合図をすれば止めてくれるのが普通です。

・運行時間
 運行時間は朝7〜8時くらいから開始となり、夜も7〜8時くらいまでは運営しています。冬は運行時間が少し短くなります。15分〜30分くらいの間隔で停留所に発着しますが、これは都市の規模や乗客の数によって変化します。

・搭乗人数
 小さい馬車でも10人程度を乗せるのが普通で、大型のものになると2頭立てでも20人以上の人間を乗せることがあるようです。駅馬車のように屋根の上にも乗客を乗せることが可能で、2階席は屋根がないかわりに料金が少し安くなります。都市によっては、路面馬車というレールの上を引くタイプのものも存在します。

・運営
 路線の権利の問題があるため、通常は個人ではなく会社が経営しています。他にも、馬が食べる飼料は大変な量になりますし、ある程度調教する必要もあるので、とても個人でどうにかできるものではありません。


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辻馬車


 辻馬車は現在のタクシーに相当する交通手段で、乗合馬車と同じく町中でよく見かけるものです。


・システム
 客は空いている御者に行きたい場所を告げて目的地まで連れていってもらい、移動距離の分だけ料金を支払うことになります。移動距離は町中の標識で判断する場合もありますし、馬車にメーターがついている場合もあります。乗り場はある程度決まっていて、馬車がお客を待ちかまえています。都市の大通りでは、何台もの馬車が歩道脇に止まっている姿を見ることができます。
 箱馬車は少なく、二輪あるいは四輪の軽馬車を使うのが普通です。待ち時間や乗り換えの必要がないという利点がある分、乗合馬車よりは少し割高で、お金に余裕がある人間の乗り物です。基本料金に少しお金を追加すれば、時間を指定して自宅に呼ぶこともできますし、観光客を相手にガイドを行う御者も存在します。

・運行時間
 運行時間は人によっても異なりますが、だいたい朝7〜8時くらいから開始するようです。比較的遅くまで仕事をしており、夜でもランプを吊して走っている姿を見ることができるでしょう。

・運営
 辻馬車は個人経営ですが、組合や自治体に許可をとる必要があります。登録制となっており、大抵の土地では馬車に番号が割り振られています。そのため、番号さえ覚えていれば馬車の持ち主を捜しだすことは容易です。


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貸し馬車


 辻馬車とは異なり、裕福な人間が利用するのが貸し馬車です。馬車だけを借りることもできますし、御者をつけてもらうことも可能です。辻馬車とは違って上等な装飾が施されているのが普通で、御者もきちんとした格好をして礼儀をわきまえています。
 数頭の馬を常時飼っていなければならないというのは、餌代はもちろん、飼育係や御者といった人件費も必要とされます。個人で馬車を所有して管理するというのは、非常にお金がかかるものです。現在のエルモア地方では、貴族が必ずしも金銭的に恵まれているとは限りません。しかし、支配貴族の場合は体面もありますから、粗末な辻馬車に乗ってパーティに向かったり、普通馬車で旅行に出るわけにはゆかないのです。


・システム
 貸し馬車は呼び出されて屋敷に伺い、客を目的地に送り届けます。そして、時間が来れば迎えにゆき、また屋敷まで客を乗せてゆくのです。旅行へ出る場合には御者は自分の屋敷の雇い人を使ったり、自分が御者をしたりすることが多いようです。料金は高めで、1日につき数万エランほどの料金を取られます。

・馬車の種類
 貸し馬車の多くは、貴族が自家用馬車として使っていた箱型馬車を払い下げたものを使っています。このような理由から、現在貴族が存在しない国家や、制度改革によって名誉階級になった貴族がいる国家に多いようです。言うまでもなく、乗り心地は非常に良好です。


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馬車の速度


 馬車の移動速度は、舗装道路がある場所でも急いで時速十数kmほどにしかなりません。最速でも20キロほどで、郵便馬車は平均でこれぐらいのスピードを維持して走ります。これが草原など少し状況が悪い場所では15〜6キロほどになり、山岳地帯などの悪路では時速6〜8キロくらいが精一杯となります。
 自動車に比べれば非常に遅い交通機関といえますが、町中では制限速度がもうけられていることから、スピードはさほど問題にならないようです。長距離においては、速度や乗り心地はもちろんのこと、さらには料金においても列車に劣るのは確かなのですが、鉄道はまだ普及しているとは言いがたい交通機関です。レールの敷設には様々な問題が絡みますし、さらに開通までには多くの時間が必要とされるのです。
 とはいえ、次第に馬車の交通網は列車にとってかわられるだろうと予測されています。しかし、現状で馬車のライバルとなるものは水上交通くらいのもので、まだまだ馬車は現役の交通機関として活躍することでしょう。


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