エルモア地方の文明は、我々の世界で言うと1800年代に最も近いレベルにあります。この地域は動力機関の発達により、聖暦700年代に入ってから急速に発展しました。ただし政治制度や宗教機関の意向(およそ機械と術法の普及率は反比例)、あるいは地理的な影響などがあるため、国家や地域によっては多少の格差があります。
たとえば自動車やオートバイといったものは既に開発されておりますが、ほとんどの場所では馬車がつかわれています。戦場においても、矢と術法が飛びかう中を戦車が駆け抜けてゆくという、異様とも思われる風景を見ることもあります。このように非常にアンバランスな世界の中で、人々は宗教や学問、あるいは古い風習といったものに影響を受けつつ、精一杯に生活をしているのです。
○言語
エルモア地方のほとんどの人間は、公用の言語として共通語と母国語を話せます。これは、もともとこの地域の人々は共通性のある言語を使っていたことに加えて、かつての多くの戦乱で移住や征服が繰り返し行われたためです。共通語と母国語は方言程度の差違しかなく、名詞や形容詞に多少の違いはあるものの、外国に行っても会話で苦労することは殆どありません。
○人種
エルモア地方には様々な人種が住んでいます。奴隷として扱われている赤人や黒人、そして黄人たちと白人の文化の間には大きな隔たりがあります。というのは、大勢を占める白人は、他人種との差異を変異による影響と考え、積極的に排斥したためです。それは現在の差別状況にも著しく現われています。なお、この思想は宗教的に暗に肯定されている(聖母教会の神書には、白人以外の人種との戦争の記録が多く記されている)ため、現状ではおそらく改められることはないでしょう。そのため、近年ではこれら人種の暴動、革命といったものが引き起こされています。
○余命
何事もなく健康に暮らした場合は、老人は60〜70歳くらいで死亡することになります。しかし、乳幼児の死亡を考慮した場合の平均余命は、男性が40歳で女性が45歳くらいです。特に下層市民は栄養事情も生活環境も劣悪のため、死亡率が非常に高くなります。また、厳しい労働を繰り返す者は見た目も老け込んでゆくため、30代ぐらいでも老人のように見える人もいます。
○身分制度
聖暦789年のエルモア地方には、貴族制度や奴隷制度といった身分制度が存在しています。旧態依然とした身分制度はエルモア全域で見れば崩壊しつつありますが、今でも生まれや家柄は無視し得ない要素なのです。職業や経済的格差、あるいは教育の程度によっても差別されたりすることがあり、それらは一般的に当たり前のこととして受けとめられているのです。ただし、聖暦789年のエルモア地方では、努力によってそれを改善することができるようになりつつあります。
○奴隷制度
エルモア地方では、基本的に奴隷制度は公認されています。奴隷とされているのは、黒人と赤人の2つの人種です。黒人は元来ペルソニア大陸に住んでいたのですが、白人たちによってエルモア地方に連れ出され、奴隷として使役されるようになりました。赤人は美しさにおいて他人種より秀でており、鑑賞奴隷として貴族の慰みものとなることが多くなります。
奴隷は殆ど全ての国で容認されていますが、特に数多く存在する国は、カルネア、エリスファリア、フレイディオン、ロンデニアです。逆に法教会を信奉する国々では奴隷制度は存在せず、他国の奴隷制度に対しても否定的な見解を示しています。聖母教会では奴隷問題については正式な見解を避けているようです。
○食物
エルモア地方ではパンが主食です。他に主食となるものにはパスタ類や米、あるいはトウモロコシやジャガイモなどがあり、国によって様々な特色が見られます。主菜としては、昔は野菜を煮込んだシチューなどが多かったのですが、近年になって森林を伐採して牧場を開拓したことから、牛や羊や豚の肉が食卓に出ることが非常に多くなってきました。
○服装
この地方の人々の服装は各々の職業を表わすような傾向が強く、特に知識人階級や知的労働者と呼ばれる人々はスーツに身をつつむことが多いようです。これに対して肉体労働者は実用的な服装を好みます。
男性の着衣は主にズボンとシャツといった簡単なもので、都市であればこれにスーツやジャケット、それにネクタイがつきます。女性は肌を隠すような服装が多くなります。夏でも、上は半袖になるのですが、下はロングスカートというのが普通でした。しかし最近の風潮として、若い娘の中には肌の露出する服装を選ぶ者も現われつつあります。
○住居
住居に関しては、昔は一戸建てに家族全員が生活しているのが普通でしたが、人口が増加してくるにつれてアパートや公営の集合住宅などが多くなってきました。これは城壁で囲われて土地面積が決まっており、建築物が高くつくられるようになった都市で顕著な傾向です。これらの背景には、機械化によって新たな産業が生まれ、都市へ人口が集中しているということがあります。
○教育
この世界の教育機関は現実世界のものと大差ありません。初等学校は6年間で、卒業は12歳になります。中等学校は12歳から15歳までの3年、高等学校も15歳から18歳までの3年間です。大学校は4年が通常で、助手や研究生として研究室や講座に残ることもできます。これら通常の学校の他にも、神大学、学問院、専門学校、兵学校、魔術学校といったものがあります。
現実世界と違うところは、初等学校を除いて義務ではないということです。普通の子供たちは中等学校以上には行かずに、何らかの職業についたり専門学校(私塾なども含む)に入ることになります。また、貧しい家庭の子供たちは初等学校すら通わず、家の仕事を手伝ったり、どこかの店や貴族の屋敷などで働きます。
○通貨
この地方の物品売買は、エランという単位の共通の通貨で行なわれています。通貨の価値は、だいたい1エラン=1円程度の目安で考えるといいでしょう。ただし、物価は我々の現実世界よりも若干低くなります。特に住居や食事にかかる費用は安くなります。都市や街で暮らす普通の人であれば、数万エランもあれば並の生活を送ることができます。
この時代になると村でも貨幣経済が浸透しつつありますが、あまりに都市から離れると未だに物々交換を行っているような場所も存在します。このような土地では質素な暮らしが営まれており、特に金銭を必要とせず生活することができるでしょう。
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