概略
黄人(黄色人種)の間で信仰されているのが3大宗教の1つである『マイエル教』です。もともとは中央地方にあったラガン帝国で信仰されていたもので、その支配地の拡大によってエルモア地方にも少しずつ広まってきた信仰です。しかし、ラガン帝国との交通が結界によって閉ざされてしまったために、エルモア地方でも少数派の宗教となってしまいました。今ではセルセティアや都市国家半島に住む黄人、およびユノスの一部で信仰されています。
彼らは唯一神を信仰するのではなく、何百という膨大な数の神を祀っています。それぞれの神は場所や何らかの技術、事柄などを司っています。たとえば農業の神、太陽の神、学問の神、川の神というような具合で、これらの神々は一族としてとらえられています。
○セルセティア
エルモア地方の中でマイエル教が最も強く信仰されているのは、南方にあるセルセティアという島国です。聖暦789年の現在、セルセティアは南北に分かれて内戦を行っているのですが、国家動乱の引き金となったのはマイエル教の一宗派であるラハト派の台頭です。
そもそもマイエル教は国政への発言力はなかったのですが、今から21年前に、セル人主体のラハト派が改革を唱え、戒律を非常に厳しいものに改定し、民衆の生活にも干渉するようになりました。しかし、セティア人はこれに反発の意を示したために、ラハト派側についたセル人との間に亀裂が生じ、今まで解決されぬまま積み重ねられてきた民族間の問題にまで論争が発展し、ついに全土で両民族の衝突が起きることとなりました。
その後、北島ではセル人による政教一致の政体がつくられ、宗派の1つであるラハト派が三権を掌握することとなりました。この内戦は今でも継続中で、多人数のセティア人に対して、セル人が独立戦争を仕掛けている形になっています。
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教義と信仰
マイエル教では、自然物をはじめとした万物を司る神を崇めています。これは自然が生命を育み、豊穣を与えてくれることへの感謝の気持ちから生まれた信仰です。人間は自然と触れあい、自然と調和した生活をすることで、瑞々しい生命力を保つものと考えられています。また、清廉な生活は魂を浄化し、浄化された魂は神々と一体化できるというという教えを説いています。
これと同時に、自然物の圧倒的な力に対する畏怖の心も忘れることなく、神々の荒ぶる心を鎮めることも重要な信仰の一端と考えられています。しかし、これを行うには魂を常に清廉な状態に保つ必要があり、それを一般の人々にかわって行うの聖職者の役目となります。
・主神信仰
主に信仰の対象とされているのは『天神』(父)と『地神』(母)の夫婦と、その娘である『四季の女神たち』で、女神は四つの方位を守護する役目も負っています。これらは中央である天地とその四方を合わせて、世界そのものを表しているのだといわれています。・万神信仰
主神以外の数多の神々を『万神』と呼んでいます。風や炎といった自然の存在はもとより、医療や学問、あるいは道や橋といったものにも神が宿ると考えられています。・亜神信仰
偉業を成し遂げた過去の人間を神格化し、神に次ぐ『亜神』として神殿に祀ったりしています。神として扱われる人間には、神名という生前とは異なる名前が与えられます。・聖印
マイエル教では六大神を示すヘキサグラム(六芒星)を聖印としています。・教典
教典と呼ばれる書物に神々の物語が記されています。すべてを合わせると数百巻にも及びますが、特に人々に知られているのは主神とその血族の物語で、これを『天地教典』といいます。基本的な教えについては全て天地教典に書かれており、聖職者たちはこれに倣って日々修行に励んでいます。・儀典書
儀式の規則などが記された書物で、聖職者として正式に認められた時に渡されます。・奥義書
高位の聖職者にのみ閲覧を許されるもので、より高度な内容の教えや、神殿でのみ行われる儀式の規則などが記されています。・神獣
神の使いである獣の呼び名で、格の違いによって神魔、天魔、聖魔という分類がなされています。神獣から神へと昇格したものも存在します。・鈴と鐘
マイエル教では鈴と鐘は神との交信に用いる神聖な物品とされています。神殿の軒先には鐘を飾っておりますし、儀式や巡礼でも鈴を鳴らします。また、これらを用いてかける術法も存在します。・科学
マイエル教は自然を大事にすることを推奨しているので、自然を不必要に破壊する科学は認めておりません。逆に霊子機関のように公害を出さないものであれば、積極的に推奨することはないものの、特に禁止することもありません。・巫女
神に捧げる舞いを踊るなどの特別な儀式に参加する役目となり、一般的な神殿の仕事は受け持っておりません。男性の一般聖職者とは一線を画した存在であり、一般社会とは接触せずに暮らしています。・呪符
神の祈りの力を込めてある札で、祀っている神によって異なります。・祈り
祈りを捧げる時は、胸の前で手のひらを合わせて左右の指を揃えてから、それを軽く開いて三角の形をつくります。・精霊
聖母教会系の宗教とは異なり、精霊を異端視することはなく、神の1つとして崇められています。といっても、自然信奉者と同じような認識をしているのではなく、同じ存在でありながら違った伝承を受け継いでいます。
○穢れと禊
神は穢れを嫌い、清浄な状態であることで魂は救われるとされています。それを清めるための儀式を禊の儀といいます。変異現象が最も忌むべき穢れとされていますが、悪行を犯したり誰かを憎んだりすることも、魂が穢れる原因になると考えられています。
・禊の儀
禊の儀には様々な方法があります。大がかりなものには神事がありますし、巫女による舞いも一種の禊の儀式となります。それから術法を用いた浄化もそうですし、手を洗ったり泉で身を清めたり、火で穢れたものを焼き払うといったことも、簡易的な禊の儀式に含まれます。・修行
マイエル教では死んだ後も魂はいつか還ってくる(輪廻転生)と信じられています。しかし、そのためには心身を鍛え上げ、魂を澄んだ状態にしておかなければなりません。そうでなければ世界との一体化は得られず、一個の穢れとして世界と切り離されてしまうのです。この穢れた状態が変異であり、それを防ぐためには日々繰り返される心身の苦行が必要とされます。・善行
日頃の善行は魂を清めることになり、宗教的に推奨される態度です。そのため、同じ神殿に属する民はお互いを助け合いながら日々の生活を営んでいます。宗派によって善行の内容は異なり、いつも笑顔でいることで周囲の人を幸せにするといった教えもあれば、生き物を殺さずに生きることを奨励する宗派もあります。・妖魔
いわゆる変異の影響を受けた変異体の総称です。これを調伏することは、穢れた魂を解き放つための慈悲であるといわれています。
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宗派
マイエル教にはいくつかの宗派が存在し、宗派ごとの単位で管理されています。宗派は総本山となる大神殿と各地方に分散する小神殿で構成されており、小神殿は地域と深く密着しています。主な宗派には以下のようなものがあります。
○ラハト派
セルセティアで信仰されている宗派です。主神に連なる血族を主な信仰対象としており、大神殿のある場所は夏の女神が降臨した土地と言われています。
セル人に強い影響力を持っており、現在は時代に逆行する政教一致の新政体をつくりあげ、この宗派がセルセティア北島の三権をほぼ掌握している状態です。『光の聖女』とも呼ばれる巫女『リュミル=カレルレン』の出現も、ラハト派の台頭に拍車をかけています。
・グラン=グラブドゥ 57歳 男
ラハト派の大神官であり、北島の実権のほとんどを握っています。非常に厳格な人物で、戒律を何より大事なものとしています。政治家としての手腕にも定評があり、人身掌握術にも長けています。現政府の中でも一番のやり手で、駆け引きのうまさでは右に出る者はいないと言われています。・リュミル=カレルレン 15歳 女
「光の聖女」と呼ばれており、セル人の英雄として先頭に立って戦っています。まだ年若い少女でありながら非常に聡明で、巫女としても非常に優秀です。神の啓示を受けたと主張していますが、宗派の上層部はその点に関しては一言も言及していません。
○テムリュー派
主神の血脈のうち、おもに四季の女神とその従者たちを主な信仰対象としています。最も多くの巫女を抱えている宗派ですが、一般聖職者として抱えている人数はあまり多くありません。そのため、セルセティア北島の北方地方では影響力が強いのですが、全体としての力はラハト派に比べてかなり劣ります。
この宗派はラハト派の強引なやり方に反発していますが、政治的な手段によって勢力を弱められており、逆に少しずつ信者を失いつつあります。とはいえ、信者の殆どをセル人が占めるため、南島側に協力しているわけではなく、基本的に中立の立場を守っています。
○メロアー派
森林の神の一族を信奉しており、山岳地方で影響力の強い宗派です。主にセルセティアの北島で信仰されていたのですが、ラハト派の策略によって多くの小神殿を奪われ、急激に力を失ってしまいました。一部の聖職者は山に隠れて、ラハト派に対する反抗運動を主導していますが、大きな打撃を与えるには至っておりません。
○マロスク派
マロスクと言われる川の神の一族を主な信仰対象としており、川沿いに住む民に強い影響力を持っていた宗派です。信仰の中心となるのは大河ヤハトで、セルセティア南島の北方地方の殆どはこの宗派の信者でした。一時期はラハト派と肩を並べるほどの勢力を誇っていましたが、今回の内戦で聖母教会系のセティア人との折り合いが悪くなり、今ではヤハト川流域の一部の民族でしか信仰されておりません。それでも攻撃の対象とならないのは、この宗派はラハト派のやり方に表立って反対の意を表明しているためです。
○ミスク派
都市国家半島に住む黄人が信者の大半を占めます。ミスクというのは山の神の一族のことで、山岳信仰を中心とする宗派です。大神殿が山奥にあるという事情から、宗派上層部が一般社会と接触することは少なくなります。そのため、都市にある地方神殿が信仰の中心となっており、宗派としての足並みはあまり揃っていないようです。
○ターバー派
かつての主派で、ほぼ全ての神を信仰対象としています。ラガン帝国で大きな勢力を誇っておりましたが、帝国が崩壊とともに大神殿を失い、エルモア地方に残された小神殿も少しずつ信者を減らしてゆきました。現在では、ユノスの一部とセルセティアの人里離れた山奥で信仰されているだけとなっています。こういった状況から、揶揄の意味も込めて古宗派と呼ばれることもあります。
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