1996-春

*** うそばっかりのうささぎの話  ”うささぎの本名” ***


うささぎ「その胸についているものはなあに?」

カステラ「あっ、これは名札だよ。会社で使っているものを

     家までつけてきてしまったんだ。」

うささぎ「カステラって書いてある。」

カステラ「うん、私の名前が書かれている。私が何者であるかを示して

     いるんだ。初めて私を見る人は、私の足の裏を虫めがねで観察しようと、

     毛穴の一本一本を丹念に調べたりしても、私の名前がカステラだって

     ことはわからない。だから、だれにでも名前がわかるよう、

     名札を付けているんだ。」

うささぎ「ふーん」

カステラ「うささぎも名札要る?」

うささぎ「名札ならもう、うささぎにもついているよ。」

カステラ「ほんと?」

うささぎ「おしりのほうについているでしょ。見て。」

カステラ「ほんとだ、布切れがついていて、文字がかかれている。」

うささぎ「でしょ。」


*** うそばっかりのうささぎの話  ”うささぎの本名” ***

うささぎ「きっと、ぬいぐるみ工場でうささぎが作られた時、つけてもらったんだ。」

カステラ「名札ってことは、うささぎにはほんとうの名前があったんだね。」

うささぎ「工場から出荷されてっても名前がわからなくならないよう、

     ちゃんと名札をつけてくれたんだね。」

カステラ「わあー」

うささぎ「うれしいな。うささぎには、ちゃんとした正式名称があったんだ。」

カステラ「いままで、知らずにうささぎって呼んでいたけど、うささぎには

     本名があったんだ。」

うささぎ「そうだよ。わいわい。」

カステラ「よかったね。これからは本名でいこう。」

うささぎ「由緒正しい名前、わくわく」

カステラ「わくわく」

うささぎ「でも名札がおしりにあったから、今まで読むことができなかったんだ。」

カステラ「じゃあ、代りに読むね。」

うささぎ「早く読んで、本名を、早く!」

                  つづく


*** うそばっかりのうささぎの話  ”うささぎの本名” ***

カステラ「じゃあ読むから、むこう向いて。」

うささぎ「はーい。」

カステラ「英語で書かれているよ。」

うささぎ「うささぎは外国製だから、そんなことより読んで。早く!」

カステラ「じゃあ読むよ。

     Surface washable: Use sponge, warm water, mild soap

     (このぬいぐるみの表面は洗うことができます。スポンジ、温水、弱性石鹸を

      つかってください)

                って書いてある。」

うささぎ「ひょえっ。”表面は洗うことができます。スポンジ、温水、弱性石鹸を

     つかってください”って長ったらしい名前。全然名前らしくない。」

カステラ「うーん、ちょっとねー。」

うささぎ「あんまりパッとしないし。」

カステラ「なんか、洗濯時の注意に似ているし。」

うささぎ「やだなぁーー」

カステラ「うささぎのまんまの方がいいかな?」

うささぎ「うん」

おわり


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