うささぎ「その胸についているものはなあに?」
カステラ「あっ、これは名札だよ。会社で使っているものを
家までつけてきてしまったんだ。」
うささぎ「カステラって書いてある。」
カステラ「うん、私の名前が書かれている。私が何者であるかを示して
いるんだ。初めて私を見る人は、私の足の裏を虫めがねで観察しようと、
毛穴の一本一本を丹念に調べたりしても、私の名前がカステラだって
ことはわからない。だから、だれにでも名前がわかるよう、
名札を付けているんだ。」
うささぎ「ふーん」
カステラ「うささぎも名札要る?」
うささぎ「名札ならもう、うささぎにもついているよ。」
カステラ「ほんと?」
うささぎ「おしりのほうについているでしょ。見て。」
カステラ「ほんとだ、布切れがついていて、文字がかかれている。」
うささぎ「でしょ。」
うささぎ「きっと、ぬいぐるみ工場でうささぎが作られた時、つけてもらったんだ。」
カステラ「名札ってことは、うささぎにはほんとうの名前があったんだね。」
うささぎ「工場から出荷されてっても名前がわからなくならないよう、
ちゃんと名札をつけてくれたんだね。」
カステラ「わあー」
うささぎ「うれしいな。うささぎには、ちゃんとした正式名称があったんだ。」
カステラ「いままで、知らずにうささぎって呼んでいたけど、うささぎには
本名があったんだ。」
うささぎ「そうだよ。わいわい。」
カステラ「よかったね。これからは本名でいこう。」
うささぎ「由緒正しい名前、わくわく」
カステラ「わくわく」
うささぎ「でも名札がおしりにあったから、今まで読むことができなかったんだ。」
カステラ「じゃあ、代りに読むね。」
うささぎ「早く読んで、本名を、早く!」
つづく
カステラ「じゃあ読むから、むこう向いて。」
うささぎ「はーい。」
カステラ「英語で書かれているよ。」
うささぎ「うささぎは外国製だから、そんなことより読んで。早く!」
カステラ「じゃあ読むよ。
Surface washable: Use sponge, warm water, mild soap
(このぬいぐるみの表面は洗うことができます。スポンジ、温水、弱性石鹸を
つかってください)
って書いてある。」
うささぎ「ひょえっ。”表面は洗うことができます。スポンジ、温水、弱性石鹸を
つかってください”って長ったらしい名前。全然名前らしくない。」
カステラ「うーん、ちょっとねー。」
うささぎ「あんまりパッとしないし。」
カステラ「なんか、洗濯時の注意に似ているし。」
うささぎ「やだなぁーー」
カステラ「うささぎのまんまの方がいいかな?」
うささぎ「うん」
おわり