千田好夫の書評勝手

小さく大きく

もう今は余り聞かれなくなった住専問題。住宅ローンに関係ない我々には関係ないかと思うと、いやいやそうでもない。たとえば、時間外に自分の金を出すのに、自分で機械を操作させられた上に、たった1万円出すのにも103円も取られる。1万円の定期預金が103円の手取り分の利子を稼ぐには2年もかかるのを思うと全く腹立たしい。つまりはこの不景気に銀行は濡れ手に粟の不当な利益を得ているのだ。経営責任をもつ住専の処理では莫大な国税を使わせ、しかも2次3次と数兆円の国税追加出費をかちとった。ところが、銀行は自らの不動産を初めとする超優良資産を処分したという話を聞いたことがない。

それどころか、近ごろ東京の街角で目立つのは、あのATMだけの銀行の出張所がすごく増えてきたことだ。駅前のコーヒーショップが無粋な機械の並ぶ場所になってしまった。それに、コイン駐車場。おやと思うような狭いところにゲリラ的に出来ている。これらは便利なようだが、実は経済活動が停滞していることを示している。そこでは何かしら仕事をしていたのだ。その人たちはどこへ行ったのだろう。土地は不良債権の担保に取られたのだろう。売れずに更地のままでいるよりは、何かしら使おうということらしい。普通の感覚なら、高く売れないのなら買手がつくまで安くすればいい。銀行は短期的には損をするが、経済活動が回り出す。銀行は自らは生産をしないのだから、その方が結局銀行にとってもいいはずだ。ところが、銀行は値上がりを待ち、買う方は値下がりを待つ。結果として、金も土地も動かない。空洞化現象は円高だけのせいではないということだ。

こんなことが許されるのは、大蔵省の「護送船団方式」といわれる保護監督行政があるからだ。ここでは他の業界では当たり前のリストラも関係がない。バブル崩壊への対策が、ぞくぞく続く銀行の大型合併。大きいことはいいことなのだ。これが日本経済の首を締めつけている。それが、我々の動きをも制約している。乏しい預金から103円を巻き上げられるだけではない。消費税率の引き上げ、年金支給開始年齢の引き上げ、保育園への助成金カットや福祉活動への助成打ち切りなどという大衆へのしわよせとなる。

このような大日本、大銀行に抵抗するには、我々のちっぽけさを武器にするしかない。この9月に訪れたユージーンのMIUSAを思いだそう。彼らは、十数カ国と交換プログラムを行っている。大組織かと思えば、あにはからんや、地方都市の小さなビルの二階に事務所を構えた、小さな組織だった。つねに動いているスタッフは5〜6人だ。しかし、彼らはオレゴン州内、アメリカ国内そして世界中にネットワークを張りめぐらしている。様々なチャレンジコースを実際にこなすのは、それぞれ独立した専門のグループなのだ。これは、いわゆるベンチャー企業の作り方と同じだ。それが大企業なみの力を発揮する。障害者の自立に向けての運動もこれでいこう。小さく大きく。アメリカ経済の復活の秘密もここにある。

こういう読み方ができるのが、この小さな本の大きな力だ。