千田好夫の書評勝手

『2ちゃんねる』って何?

みなさん、『2ちゃんねる』って知ってますか。テレビでビデオを設定するやつかって?

違います。これは、1日に800万回アクセスがあると豪語するインターネット上のBBS(掲示板)で、東京都北区に住む「永遠の19歳、うまい棒が大好物のヒッキー、ひろゆき」こと、西村博之さん(25)という青年が「個人で運営して」います。

『「ハッキング」から「夜のおかず」までを手広くカバーする巨大掲示板群』と称し、実際、「馴れ合い(自己紹介など)、マスコミ、ニュース、会社・職業、裏社会、文化、学問全般、家電製品、政治経済、食文化、冠婚葬祭、教育、受験、趣味一般、スポーツ、旅行、ギャンブル、ゲーム、漫画・小説、音楽、人生相談、宗教、パソコン、ネット関係、地域情報、雑談系、厨房、大人の時間」と、実に多岐にわたっています。

ここでは、誰でも「気兼ねなく会社、学校、座敷牢からアクセスできるように、発信元は一切記録していない掲示板群です。お気楽、ご気楽に書き込んで下さい」と、匿名性が最大限尊重され、個人的誹謗中傷ではない限り、内容は全くの自由のようです。

表現の自由を理想的に保障するかのようですが、想像されるのはかなり内容がえげつなくなることで、悲しいかなまさにその通りなのです。「介護福祉、ボランティア」と銘打った掲示板の中には、障害者関係がたくさんありますが、見てみると、ギョッとさせられるスレッド(項目)が多数あります。

「障害者は人間じゃありません」

「人類の未来の為に障害者を抹殺せよ!」

「パラリンピック(藁)」…(笑)のこと?

「障害者を殺しても罪に問われない法律希望」

「障害者は自殺しろよ」

「バリアフリー撲滅」

「障害者は入店お断り」

たとえば、こんな書き込みがありました。

「私のバイト先の近所に病院あるんだ/で 車椅子がうじゃうじゃ通ってるよ/でも飲食店って雰囲気が大事らしいんだよね/美男美女の客は目立つ場所に誘導/障害者はやんわり断れ」って店長命令/ゴメンネ 障害者」

という具合。このような書き込みには、当然反論や反発がでます。

「もっと、言葉の使い方に気を付けた方がいいです。掲示板を盛り上げようとしているのかもしれないけれど、こういう中傷的な書き込みはしないようにしましょう」

「私、近々この福祉板を訴えるつもりです。あまりにひどすぎますよ」

しかし、まじめな再反論は絶対に出ません。「ネタに真面目に反応するヤツかこわるい」とニヤニヤしながら逃げるだけ。笑いのネタなら自分のことでもさらけ出せばよいものを、障害者を笑い者にする精神構造には怒りを禁じ得ません。

表現の自由は、政治権力と人民の数百年にわたる闘争の結果、人間の基本的人権の一つとして勝ち取られたものです。その緊張感がなくこんなことをやっていると、これを口実に掲示板自体が政治的弾圧を食らうかもしれません。実際、政府はインターネットの規制に食指を動かしています。

それを防ぐには、藁(笑)でごまかしたり、「彼ら若者の今後のしたたかさに期待するしかない」(「本の話」の平野悠)と突き放したりせずに、とことん冷静な議論をやればよいのです。差別的な表現の中にも重要な指摘や情報が隠されており、それを明らかにすることによって、我々自身が利口になるべきなのです。『2ちゃんねる』は文藝春秋などにもてはやされているようですが、表現の自由の墓穴を掘っては何にもなりません。