2003年6月の柿のたねニュース

東京都心身障害教育検討委員会中間まとめの報告
「これからの東京都の心身障害児教育の在り方について」

7月9日(水)、東京都心身障害教育改善検討委員会中間まとめに関するシンポジウムが、東京都教職員研修センター(目黒区目黒1-1-14)でおこなわれ、親の会のメンバー数人とともに参加した。

全体の参加人数は500人を超え、あらためて心身障害教育に対する関心の高さを感じさせる熱気があった。(講堂は350人定員なので、別室でモニターを見ながらという形となった)

中間まとめの概要(ポイント)は以下の通り。

  1. 現状認識と今後の在り方(序章)
    1. 社会背景とLD等への新たな教育課題
    2. 国(文部科学省)の動向
    3. 新たな「特別支援教育」の構築
    4. 都独自の教育・社会環境と地域の総合的な「特別支援教育」のシステム
  2. 都の心身障害教育の現状と課題(第1章)
  3. 今後の都の「特別支援教育」への展開に向けた基本的な方向(第2章)
    1. 改善の理念と指針
      改善の理念
      障害のある幼児・児童・生徒等の特別な教育ニーズにこたえ、一人一人の能力や可能性を最大限に伸長する多様な教育を展開する
      改善の指針
      1. 障害の重度・重複化、多様化に対応するため、LD等を含む障害の在る児童・生徒等の個に応じた指導を充実し、「特別支援教育」を推進する
      2. 児童・生徒等の特別なニーズに対応するため、都と区市町村が連携し、地域の実情に応じた「特別支援教育」体制を充実する
      3. 児童・生徒等の教育ニーズに応じた専門指導を充実するため、学校の専門性と教員の資質・専門性の向上を図る
      4. 児童・生徒等の多様なニーズに対応するため、教育環境の整備を推進する
    2. 改善のグランドデザインとしてのエリア・ネットワーク構想
      • エリア・ネットワーク
      • パートナーシップ
      • 特別支援プロジェクト
  4. 今後の改善の方向
    1. 「特別支援教育」の推進とそのための都と区市町村との連携と支援(第3章・第4章)
    2. 専門性の向上と多様な教育ニーズに対応した教育環境の整備(第5章、第6章)
    3. 一人一人のニーズに応じた教育の展開をめざして(第7章)

本文では小・中学校における「特別支援教育」の推進として従来の心身障害学級の在り方を見直し、特別支援教室の設置を進め、専門家の導入や教員の専門性向上のため研修体制の改善などを進める必要がある、とあるがこれは目黒区で言えば、ゆりの木学級のような通級制の学級を各学校に作り、個々の必要に応じて教育支援をおこなうというものだが、固定(本来在籍するクラスに戻らない)は考えていないという。パネラーからも指摘があったが、これらのプランを推進するには、教員の数、教員の質、教室や教材の確保といった点が必要不可欠だがそれについて予算の面も含めてなんら具体的なものが示されていない。また個別の教育支援計画を進める上で、どういった教育を受けるかという点について、本人や親の意思がどれだけ反映されるかという点も明確にはされていない。ともすればこれまで以上に専門家や学校の意向のもと、「特別支援教育」を強いられる危惧さえある。

中間まとめに関する東京都HPもご参照ください。

(櫻原)

障害者が地域で生きる・ネットワーク(仮称)報告

先日、江戸川の矢作さん世田谷の亀山さんから、表題のようなネットワークを立ち上げたいので参加しないかとの呼びかけのFAXをいただき、7月6日の午後「障害児を普通学校へ全国連絡会」の事務所で初めての集まりに参加した。柿のたねからは私と琴絵さんが出席し、全体で17名が集まった。

それぞれが自己紹介とともに現状の報告をし、話題は支援費制度やヘルパーの利用、自立生活などへと移っていった。参加者のほとんどが親と当事者で、いわゆるヘルパー、支援者の立場で参加していたのは柿のたねの2人と、呼び掛け人の一人江戸川の在田さんだけだった。

みんな普通学級で頑張ってきた家族が多く、せっかく地域の普通学級で学んできたのであまり作業所には通わせたくない、ヘルパーがいなくても一人で地域で受け入れられるような社会であるべきだといった感想が出ていたが、私はそれに違和感を覚えた。

たとえば柿のたねでいえば、邦彦さんは東が丘福祉工房(区立の作業所)に通い、以前は「市」の時「ひとり」で参加していたが、いまはできるだけヘルパーといっしょに参加している。それでは邦彦さんが地域で受け入れられずに生きているかといえばそんなことはないと思う。むしろ邦彦さんほど地域でしっかり生きている知的障害者は少ないのではないか。

確かに作業所には通っているがそこでは職員や他の利用者との人間関係、社会をしっかり構築しているし、他にも行き場として柿のたねがあり、ガイドヘルパーを利用して外出も頻繁にしている。柿のたねの「市」の時も以前は彼が退屈してその場を離れたいと思っても体制の中でそれは叶わなかったが、ガイドヘルパーがついていればそれは容易にできる。ようは与えられた環境ではなく当事者の選択の幅をどれだけ保証できるかなのではないだろうか。

ヘルパーが当事者の係として社会の関係の中で全面に出てしまうのには問題があると思う。あくまでも当事者主体でサポートの立場を自覚しながら、時に社会の軋轢にともに怒り、悲嘆に暮れ、同調しながら生きていくパートナーシップを築いていけばよいのではないかと思う。

親にとって子は保護の対象として過ぎる時期があるが、一定の年齢に達して子どもは一人立ちする。親が前面に立つ関係の中で子は主体的に生きていくことができるだろうか。ヘルパーと同様に一歩引いて子の生き方に同感し、場合に寄っては対立しながらもともに地域社会の一員として共存していくことを模索していく必要があるのではないかと思う。

親の立場も思いも解からないくせにとお叱りの声も聞こえてきそうだが、この日の集まりはお互いに意見を交換し合いながら自由に話し合える場だったのでどうかご容赦願いたい。また次回以降それぞれの立場で意見を交しながら、誰もが気ままに生きていくことができるような社会を目指していければいいと思う。そんなネットワークがもっと広がっていけば個々のニーズにあったアイデアももっと生まれてくるのだろうと思う。

(櫻原)

福田孝広さんの自立生活に向けて!〜第2回〜あいアイ館体験〜

先月号でも報告した孝広さんの自立体験。第3弾の今回は心身障害者センターあいアイ館で6月24日(火)〜27日(金)の3泊4日、初めて会うヘルパーさんたちと一緒に過ごすという孝広さんにとっては初の試みとなりました。

事前に面接をおこなって孝広さんの様子を見てもらい、彼を知る上でのポイントとなる部分を簡単に話しておいたのですが、今回の目的は「本人が相手をよく知らない、相手も本人について情報が少ないという関係の中で、自分の意思をきちんと相手に伝えていく体験を得ること」に置いていました。以前は初めての場所などでしりごみしたり、少々人見知りすることが多かったのですが、最近はそれも少なくなり、今回も直前こそ緊張した面持ちでしたが雨の中2人であいアイ館に到着し、スタッフの人と話をしばらくしているとだんだん慣れてきたようで、さっそくその日の夕食の買い物に出掛けるともう普段の様子に戻っていました。

私はそこで引き上げてきたのですが、スタッフの方たちには、単語での会話や「はい、はい」と生返事することがあるので、ある程度の意思はそれで伝わると思うけれど、あえて何をどうしたいのか聞き返してなるべく会話をするようにという、孝広さんにとってはちょっと意地悪とも思えるお願いをしてきました。

そんなこともあって体験の期間中の孝広さんは少々落ち着かないのではと思っていたのですが、翌日顔を合わせても別段いつもと変わることのない態度でした。こちらから「昨日は何を作ったの」などと質問をしても面倒くさそうに「カレーライス!」と答えるだけであまり話に乗ってきません。けれど新聞配達に出掛ける前は「新聞配達が終わったらあいアイ館に行く?」と必ず確認していたのでまんざらでもないようでした。3泊4日の体験は、孝広さんにとっても私にとっても本当にあっけなくあっという間に終わってしまいました。その後野沢温泉の旅行から帰ってきて、あいアイ館からの生活体験報告書が届き、どれどれと開けてみるとびっくり。

「コミュニケーションについてはその都度修正するようにしましたが、短期間なので本人の変化は特に見られませんでした。」ふむふむ、まぁそれは仕方ないよな。「調理について声掛けを要する場面が多くありましたが慣れたものは大変手際よくできています。後片付けは大変上手です。微妙な分量の調整や加減はやや難があります。次回利用の際は調理についての細かな打ち合わせをお願いしたいと思います。家事動作は自立しています」。う〜ん、まぁ得意分野だし、よくがんばったじゃん。そして添付された活動日誌のコピーを見ていると2日目のメニュー「レトルトカレー、ポテトサラダ(出来合い)、玉葱スープ(缶)」。 なに〜っ!お前何作ったって聞いた時カレーライスって言ってたけどレトルトかい!しかもサラダもスープも既製品かい!あっ、調理についての細かな打ち合わせってこれのことか!

孝広さんの名誉のために言っておくと、彼はカレーもサラダもスープも全部素材から調理できます。何しろ金曜倶楽部のメインシェフをするほどの腕前です。けれど体験中は相手がわからないということで手抜きをしていたようです。う〜んやられた。私の完敗だ。確かに今回は初めてだったので料理のことまで細かに打ち合せはしなかったよな。しかし…。

報告書をじっくり読んでいると言いまわしを指摘されてイライラする場面もあったようで、その分違う場面で帳尻を合わせていたみたいです。おーいと思う反面しっかり処世術を身に付けている孝広さん、なかなかやるじゃないか。まぁあんまり厳しくスパルタで、自立生活に夢も希望もなくなってしまうのもどうかと思うし、これも本人の意思なのだからと一人得心しながら、次回の攻防にはや策略を練る私。よし、今度は食事メニューが検討課題だ!

(櫻原)