ドライフラワー雑記

77

テルミン

不思議な楽器がある

何やら箱のようなもの

その端に鉄の棒が立っていて

別にキーボードがあるわけでもなく

弦が張られているわけでもなく

吹き口があるわけでもない

演奏してる姿は、ともかく風変わり

手を動かしてはいるが箱にふれてる様子はない

空気中を手探りしてるようにも見える

これで音が出る

魔法のように空中からメロデイーが紡ぎだされるのだ

この楽器、20世紀初頭にロシアで誕生した

シンササイザーより前に出来た電子楽器第一号

音色は

バイオリンとソプラノとのこぎりを混ぜたような

音域によっては、マリア・カラスの声のようにも聞こえた

非常に情緒的でレトロな音で

悲しい時には聴かない方がいいかもしれない

心の隙間から入ってきて

心を掻きむしりながら消えていく音楽に

一人、取り残されてしまいそうだ

明日から恵比須ガーデンシネマで

この楽器を発明したレフ・セルゲイビッチ・テルミンの

ドキュメンタリー映画がはじまる

清里の夜に

サンサーンスの白鳥をきく

この美しいメロデイーは

チェロで耳馴染みだが

テルミンの方がよりふさわしいのではないかとさえ思われる

ボクは今、胸が潰れるような気分ではない

しかし

心のどこかに埋めてきた思いでぽろぽろ

わざわざ掘り出して

泣きたいような誘惑にかられた

演奏は、今は亡きクララ・ロックモア

  

 

    

 

 

2001年8月11日

return to index