ドライフラワー雑記

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雪明かりの道

泣き止んだあとのように

月が白い輪をもった夜更けて

わたしは一人おしょろの町を通り抜ける

切りどうしを上り切れば

海の見える錆れた家並みがある

海は湾の内に死んで

灰色の背を見せ

家々は寝静まっている

外に夜通し立っている桐の木の花が

甘く鋭く匂っている

わたしは 幾つも幾つも塩風で白くなった板戸の前を過ぎて

悪いことをするように

下駄の音そ忍ばせて そこを通り抜けた

ああ なんのために遠い夜道だったろう

イタドリの多いおしょろから出る坂道で

だれも知るまいと

わたしは白い月を顔に浴びて

微笑んでみたのだ

                 

年末に、指揮者の北村協一さん宅へ遊びに行った

帰り際、彼が指揮をした4枚組のCDを持って行けと言う

久しぶりで聴いてみた

その中の一曲

伊藤整の詩集<雪明かりの道>から

おしょろ

第一声で

貧しい、寂しい、暗い、寒い、悩ましい気持ちが蘇ってくる

何故、思い出はうすくらいモノクロで保存されてるのか

輝かしい青春 という言葉には嘘の響きがある

古いアルバムの中に

悩めるボクが一人立っている

今日は一日、粉雪が降ったり止んだり

この時間になると空も晴れてきて

星がちらちらミズスマシのように動いている

寝静まった夜の中へ一人

だれも知るまいと

ボクは白い月を浴びて 微笑んでみたのだ

お〜〜〜い

朝山く〜〜〜ん

 

 

2001年1月4日

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