高階杞一詩集

<キリンの洗濯>より

春になれば

落語に
おもしろい話しがある

ある北国に
ひどく寒い町か村があって
そこでは何でも凍る
水たまりや
蛇口はもちろん
朝の
おはよう
まで凍ってしまう
おは
バリッ
てなもんで
どんなおはようも
ここでは
決して相手に届かない
ただ
春になると
それがいっせいに解けだして
あっちでも おはよう
こっちでも おはよう
と鳴り響き
うるさいのうるさくないの
という話
だけど

知ってる?
落語のことではなくて
今朝、僕が君に言ったこと
おはよう
も言ったけど
その他にも言ったこと
聞こえなかった
のはたぶん凍ったせいだろう

ここも
相当寒い

だから
もうこれ以上
寒い言葉を吐くにはよそう

今は何を言っても凍るから
何も言わず
そして
ひたすら春の来るのを待とう
春になれば
きっと解けるに違いない
たくさんのおはようといっしょに
僕の言葉も
君の言葉も
それらのぶつけ合った訳も

 



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