前書き

たんぽぽは考える

 1999年5月2日。
 今日から連休の間、一人清里ですごします。
 山桜がきみどり色の新緑のなかで地味にさいている。
 地面にはいつくばって行列しているタンポポの黄色い行進。

 
 次の日。曇り。
 早起きしたので、八ヶ岳大橋に出かけました。ここは清里の新名所で
 みんなに勧めています。谷を流れる空気を胸いっぱい吸ってきました。
 さて、タンポポのほふく前進は昨日よりまたいっそう進んだように見えます。
 よく見ると、タンポポのしんがりは我が大草原の小さな家で先頭が目指している のは空き地をはさんで隣のかしわぎさんのお宅ではありませんか?
 かしわぎさんは国立で歯医者さんをしているのですが、草むしりが大好きなので す。
 僕としてこれ以上かしわぎさん家に近ずかない方がいいと思うのですが。
 お知らせするのはどうしたらいいでしょうか?

 5月4日。
 清里の空は午後からのどしゃぶりの準備中といった風情。
 タンポポの続報を書こうと思って外を見てみたら、陰も形もありません。
 すると、空き地の隣のかしわぎさんが庭のくさむしりをしているではありません か!
 よく見ると、たんぽぽは全員顔を伏せているのでした。
 やっぱしかしわぎさんの怖さを知ってるんだ。

 伏せてるといえば、たんぽぽを増やすのに根伏せという方法があります。
 たんぽぽの根はごぼう根なのでそれを切って地中に寝せておくのです。
 そうすると各々から発芽するのです。
 かしわぎさんが国立に帰ったら、芝生の下にたくさん寝せておこうと思っていま す。

 5月5日。
 まあまあ晴れ。
 僕が7:00amに起きた時はすでに、かしわぎさんはいませんでした。
 僕を一人残して国立に帰っていったのです。

 道路端は黄色い花で埋めつくされています。

 この春に一番きれいな花は桜草でもパンジーでもなく、タンポポだったことに改 めて気がつかされます。

 さて、この黄色い帯は蟻の行列の様に、多少の蛇行をしながら、かしわぎさんち を通り越し緩やかな坂を登りつめて森に消えて行ったのでした。

 




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