ほーだい日記

27

太陽

じっと見つめて、

二人を見つめて!

全世界の女性の、母親の名において!

戦争を、

人殺しをなす世界の男たちに怒りを!

あたかもそのように二人を見つめてください!

目を開けたまま、

涙は流さないで、

堪えて、

ただじっと見つめて!

監督のアレクサンドル・ソクーロフが

桃井かおりに叫んだ言葉だ。

今迄、いろいろな映画を見てきて

その中のどこにもなかった

サイレントで衝撃的なエンディング。

ソクーロフの<太陽>という映画をはじめて知ったのは

半年ほど前のこと。

TBSラジオ・ストリームという番組で

映画評論家の町山智弘さんが紹介してるのを聞いた。

日本で天皇をだれかが演じるというのは

暗黙のタブーらしく

日本で上映されないかもしれないということだった。

2006年

長雨が続き

靖国をはじめ、色々と考えさせられる出来事があった夏に

<太陽>を見ることが出来て

ホント・ヨカッタ

ファンタジーとリアルが

紡ぎ合わされて、

敗戦直前から人間宣言へ

まるで長い一日のように時間はたんたんと進む。

しかし、戦争状況は殆ど描かれない。

僅かに、ラジオから一瞬間、戦況が流され

ヒロヒトが見る悪夢の中で

空襲のイメージが描かれる。

どのように追いつめられた状況になっても

日常というのがあって

それなりに楽しい出来事も起きる。

ホルマリン浸けになったカニを観察したり

侍従をからかってみたり

カメラをかまえた大勢のアメリカ人に

庭先で写真を撮られる時も

楽しそうにポーズをとる。

生れながらの境遇の違い。

その極端な例が、戦前の天皇だったのかもしれない。

それでも、<紙屋悦子の青春>と同じく

細かいことの積み重ねで日々は過ぎて行った。

あっそ

という口癖でそれぞれを区切りながら

選ぶことの出来ない新しい時代が始まったのです。

それから60年あまり。

今は大丈夫なのか?

ソクーロフは映画の最後に

桃井かおりに向かって叫んでいます。

死の世界から夫を連れ出して!

子供たちの許へ!

生の世界へ!

一方の人にとって

天皇があまりに人間として描かれてるのがいやかもしれません。

もう一方にとっては

いい人過ぎる、と思うのかもしれません。

ボクはどちらかというと

天皇制そのものに疑問があって

今もそんな感じです。

別な意味で、皇室報道のしかたもなんとなくいや。

しかし、

昭和天皇に対する考え方は

ここのところ少し変ってきたような気がしていました。

天皇ヒロヒトは

昭和が終るまでの時々に

あっそ

と言いながら、

自分にはどうにもできない環境の中で

できるだけの平和を願っていたのではないか

そんな感じがしています。

2006.8.17

return to index