#5. 窪田氏の主張その1

目次へ #4. 特殊相対性理論
#6. 窪田氏の主張その2

図1
図1 : t2 の計算  左の図1を見てください。これは 「#2. マイケルソン・モーレーの実験」 で AC 間を光が往復する時間 t2 を計算するための図です。 窪田氏はこの図が間違っているといいます。

 窪田氏によれば、鏡Aで反射した光は C' ではなく、C にいくはず、というのです。 なお、窪田氏は、この図のように A で反射した場合ではなく、 A の下側に光源をおいて、光が A を透過する場合について考察していますが、 この図のような場合についても、同じ事を主張するはずです。

 もちろん当時の実験で使われた光源はレーザーのような鋭いビームではなく、 ある程度広がった光ですから、C' にも光は届くでしょうが、 それは C に向かう光とは別の光だというのです。

図2 : 窪田氏の論点
図2 : 窪田氏の論点  窪田氏の論点を整理すると、以下のようなものになります。

 左の図2の(1)で、 光源 A と標的 C は絶対静止系で静止しています。 光源 A はレーザーのような非常に指向性の強い光源で、 光は C の真ん中に小さなスポットを作ります。

 この状態で、(2) のように A と C を右方向に動かします。 #2 の計算では、このとき光は点線の矢印のように斜めに進み、C' の位置に移動した標的にあたる、として計算していますが、窪田氏によれば、 光源 A が動いていても光はあくまでも図の上方に進み、実践の矢印のように C の元の位置に向かう、というわけです。

 窪田氏によれば、光は物体と違って光源が動いていてもその影響を受けず、 C の方向に発射すれば C に向かう。それを C' に向かうとしてしまったのはアインシュタインが光の運動を物体の運動と混同していたからだ、 というのです。

 しかし、この考察は間違っています。なぜなら、 図の A のように鋭い指向性を持った光源には、 「特定の方向に進む光だけを選び取る」仕掛けが必要で、その仕掛けが動いていると、 選び取られる光も変わってくるからです。

図3 : スリット型光源
図3 : スリット型光源  具体的な例として左の図3のようなスリット型の光源を考えましょう。

 点光源 P の前にスリット S を置き、ます。P からはあらゆる方向に光が出ていますが、 S を通ることのできる光は特定の方向へ進む光だけです。

 図の(1)のように、 P と S が静止しているときに、上方向に進む光だけが通れるように P と S を調節します。

 その状態で P と S が右方向に運動するとどうなるでしょう。P から出た光が S に到達するまでに、 S は右に動いています。つまり、S を通れる光は (1) のような上に進む光ではなく、 少し右方向に傾いた光です。

 少なくともこのようなスリット型の光源については、 窪田氏の考え方が間違っていることが分かるでしょう。

 では、スリットではなく、 他の形式の光源ならどうでしょうか? たとえば、レンズを使えばどうでしょうか。

図4 : レンズを使った光源
図4 : レンズを使った光源  左の図4で、点光源 P から出た光は、レンズ L で屈折して、特定の方向にそろえられます。

 図の(1)のように、P と L が静止しているときに、上方に光が向かうように調節しておいて、 P と L を右方向に動かすと、(2) のように光が L に到達するまでに L は右に進んでいるので、 光軸がずれて、ビームは右に傾きます。

 このように、この場合についても窪田氏の考えが間違っていることが分かります。

 では、最初の図1のように、鏡を使って見たらどうでしょう。

図5 : 鏡を使った場合
図5 : 鏡を使った場合  この図5のように指向性のある光源(図のようなスリットを使ってもいいし、レーザーのような光源でもいい)から出た光を、 45°の鏡 M で反射させた場合、装置が静止していれば図のように光は上に向かいます。

 装置が右方向に動いていればどうでしょう。光源から出る光は運動方向と一致しているので、 運動に関係なく右方向に出ると考えられます。一方、鏡 M も動いていますが、 角度は45°で変わりまりません。

 もしかすると、この場合は窪田氏のいうように、 運動に関係なく光は上方向に反射されるのではないでしょうか。しかし、答えは否です。 この場合も、やはり光は図1のように右に傾いた方向に反射されます。

 なぜそうなるのでしょうか。答えは光が波であることによります。 波というのは本来、広がりを持ったものです。どんな細いビームでも、 わずかに広がりを持っています。この広がりを考慮して、 光が鏡 M で反射する様子をもっと詳しく考えましょう。

図6 : 運動する鏡による反射
図6 : 運動する鏡による反射  どんな細いビームも、拡大すれば必ず広がりを持っています。 左の図6でその広がりの各部分を a1〜a3 と名前をつけます(もちろん本当は無限の線が引けます)。

 a1 が M に届いたとき、a2、a3 はまだ M に届いていません。a2 が鏡に届くまでに、 鏡は M' に移動しています。a3 が届くときにはさらに M'' に移動しています。 a1〜a3 が鏡に到達した点をつなげると、点線 N になります。この時、光はあたかも N で反射されたかのように振る舞います。

 これはホイヘンスの原理の応用です。高校の物理で、 波の反射の原理を習った人ならわかるでしょう。

 その結果、光は垂直方向ではなく b1〜b3 の斜めの方向に反射されるのです。

 さてここまで来ると、窪田氏なら、「レーザーならどうなのだ」というでしょう。 窪田氏はなぜかレーザーを「魔法のように特定方向にだけ光が出てくる」 神秘的な光源だと思っているようです(この部分皮肉)。

 しかし、実際にはレーザーこそ、「特定の方向に進む光だけを選ぶ」 仕掛けの代表なのです。レーザーは誘導放射という現象を応用した装置です。

 誘導放射というのは、不安定な高エネルギー状態(励起状態という)におかれた原子の側を、 ある特定の波長の光が通ると、つられてその原子からも同じ波長の光が飛び出す現象です。 この時に出る光は、元の光と波長も方向も位相もぴったり同じなのが特徴です。

図7 : レーザーの構造
図7 : レーザーの構造  レーザーには気体レーザー、固体レーザー、半導体レーザーなど、 いろいろな種類がありますが、たとえば気体レーザーの場合、 左の図7のようにガラス管 T の中にクリプトンやネオンなどの気体を閉じ込め、 放電によって気体の原子を励起状態にします。励起状態になった原子は、 ある程度時間が経つと、自然にある特定の波長の光を出します(自然放射)。

 自然放射によって出た光は、他のまだ励起状態のままでいる原子に誘導放射を起こさせ、 それがさらに他の原子の誘導放射を招き...という連鎖反応でどんどん強くなっていきます。 なお、光を放射した後の原子は、低エネルギー状態になっていますが、 放電によってまた励起状態になるので、励起状態の原子がなくなることはありません。

 ここで気をつけて欲しいのは、自然放出には特定の方向性はない、ということです。 どの方向に光が出るかは決まっていません。原子に「特定の方向」はありませんから、 当然のことです。

 ですから、この連鎖反応の初期の段階では、光に方向性はありません。しかし、 しかし、ほとんどの光はガラス間の管面から逃げてしまうので、 それ以上の連鎖は続きません。

 ところが、図の上下方向に進む光だけは、管の両端に置かれた鏡 M1、M2 で反射され、 管の中に戻されます。つまりこの方向の光だけは連鎖が続くのでどんどん強くなり、 波長と位相、方向のそろった強い光になるのです。ここで、 鏡のうち一方(たとえばM1)が一部の光を透過させるようになっていれば、 装置の上端からレーザー光が放射されます。

 つまり、レーザーというのは窪田氏の考えるような

「とにかく理屈抜きで特定の方向に光が出てくる魔法のランプ

等ではなく、今までに挙げたスリット式の光源などと同じく、

特定の方向に進む光だけを選び取る仕掛けそのもの」

なのです。

 さて、この装置が全体として右に動いていればどうなるでしょう。 ここまでの説明を読めばわかりますね。装置が右方向に動いているので、上下に進む光は、 反射を繰り返すうちに装置の動きに取り残されてしまい、ガラス管の左側面から逃げてしまいます

 連鎖を続けられるのは、上下方向に進む光ではなく、 右方向に斜めになった光です。つまり、レーザーの場合でも、窪田氏の考えは成り立たないのです。

 さて、窪田氏は実はすでにこのような指摘を度々受けているのです。 その指摘に対する窪田氏の態度を見てみましょう。  まず私が図3で説明したスリット型の光源の場合と同じことを神戸大学の松田卓也教授が 「科学朝日」1995年4月号で指摘しています。

 松田教授の場合、スリットではなく、細長い筒を点光源にかぶせることで光を絞っていましたが、 基本的にスリットと同じ事です。

 これに対する窪田氏の反応を「科学をダメにした7つの欺瞞」p.312 から引用しましょう。

 私は筒が動いていると光は鏡 C' にはあたらないとしているわけで、 当てるためにはあらかじめ筒の下の光源の光軸の向きは C' 方向でないといけないという立場である。

 松田教授は

「窪田氏の考えるような細いビームを出すためには光を絞らなければならない。」

といっているのです。そして光を絞るための仕掛けとして、筒のようなものを考えているのに、 窪田氏はまず「とにかくある特定の方向にだけ光を出す魔法のランプ」 を考えてしまい(もちろんそんなものは存在しない)、その上に筒をかぶせる、と誤解しているのです。

松田教授の文章を素直に読めば、こんな間違いはしようがないのですが、窪田氏の頭の中は

「とにかく光は C に行く。相対論は間違っている」
という考えに凝り固まっているために、こんな誤解をしてしまうのです。

 さらに、窪田先生の魔法のランプ、レーザーの場合についても、 「アインシュタイン 崩壊する相対性理論」の p.147 にこのような記述があります。

(窪田氏に対する批判部分)....氏が半導体レーザーの内部構造を知らないわけではないだろう。 半導体レーザーは半導体の中で光を往復反射させて発振させ、その一部を取り出している。 すなわち運動している半導体内部では斜めに光は反射往復して増幅、発振しているのである。 まさに特殊相対性理論が実証されている現象である。窪田氏の考えでは光は反射しないことになり、 半導体レーザーは存在しないことになる、というものです。先生は、 これに対してどうお答えになりますか?』

 相対論信奉者は自分の考えを正当化するためには、 徹底的に論理の飛躍をして相手をねじ伏せようとしますが、 こういった反論にも伺い知れます。

 上記考察はまったく実際的ではないです。私が光は直進するから、 鏡が運動していればずれるはずだから反射しないと言っているのは、 理論的な話をしているのであって、たとえば図1で(引用者注 : 元の本の図1だが、 たまたまこのページの図1でもある)、AC が 10m の場合、ずれの CC'は基準光 AC に対する鏡の速度が、もしかりに秒速 3万m なら、たったの約 1mm です。 だから鏡の大きさが 1cm 四方もあったらずれていたって必ず反射します。 野球でキャッチボールをするとき、ミットの大きさが10m四方もあれば、 かなり下手なピッチングでもグローブにあたります。

 それと同じで、半導体レーザーの活性層の長さはミクロンオーダーですから、 そこを往復反射するずれなど、まさに無視できる世界です。

 「ずれるなら鏡で反射しないことになる、 おまえの理論では半導体レーザーは存在できない」などと、 よくも私をバカに出来るものだと思います....(後略)

 なるほど、たとえば図7で多少レーザーが動いていても、確かに上下方向にも 多少は発振できるでしょう。でも何度もいうように、 最初に原子から出る光には方向性はありません。 何度も鏡の間を往復することによって、往復できる方向の光が選ばれるのです。

 ですから、当然レーザーの運動にそって斜めに往復する光が一番強く出るのです。 この批判者が一番言いたかったことはこの事であって、 「窪田の言う通りならレーザーは存在しない云々...」はまあ、皮肉でしょう?

自分の考えを正当化するためには、徹底的に論理の飛躍をして相手をねじ伏せようとする...

 このお言葉、そっくり窪田氏にお返ししましょう....

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