超科学にありがちなパターン

理解しないで攻撃

たとえば、相対論は間違いだと主張している窪田登司氏の最新刊、 「アインシュタイン 崩壊する相対性理論」の p.88 を見てみましょう。

 地上を走るトロッコがあります。地上に対して速度 v です。 このトロッコの上から速度 v' で物体をその進行方向に投げたとき、 地上から見てその物体の速度はいくらになるでしょうか。 正しい答えは v0 = v + v' です。

 しかし特殊相対性理論によると、

数式000・・・・・・・・(1)式

です。これが有名なアインシュタインの速度の合成則です。

この部分は別に間違っていません(c は光の速さです。念のため)、ところが、

 しかしこの合成則の(1)式が間違っていることは、すぐに分かるのです。 それはトロッコの上から物体ではなく光を発射することを考えるとわかります。 光速は c ですから代入すると、合成速度は、

数式001・・・・・・・・(2)式

となって、光速は c ではなくなります。無茶苦茶な式です。だから相対論では、 「光速度不変の原理」なる仮定を持ち出して光速だけは加減算してはいけないのだ、 となっています。言葉による数学の破壊です。

つまり、窪田氏は何を批判しているかというと、

  1. 相対論においては「光速度不変の原理」 によってトロッコから見ても地上から見ても光の速さは c でなければならない。
  2. よって、式(1)の v' に c を代入すると、v0も c にならなければいけない。
  3. ところが結果は式(2)になって c に等しくならない。
  4. しかし相対論ではここで「光速度不変の原理」を持ち出して、 光については式(1)を適用してはいけない、としてごまかしている。
  5. こんなでたらめが許されるだろうか。

ということです。さて、すでにお分かりだと思いますが、1. と 2. は正しいのです。 3. からが間違っています。なぜなら、式(2)は、

数式002

となって、この場合も v0 = c が成り立つからです。

 この本にはこのような基本的な間違いがほとんどページ毎にあります。 窪田氏は全然相対論を理解していないのです。

このような指摘は氏も散々受けたはずですが、 本人は頑として「自分は相対論をきちんと理解している。 むしろ物理学者の中に相対論をきちんと理解していない者が多い」 と主張して譲りません。

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批判は弾圧?

 まずは、 ここを見てください。 これはアメリカの学生 Frank Lofaro 氏の「相対論にはこんな矛盾点がある」 という主張についての、ニュースグループ alt.sci.physics.new-theories での議論をまとめたものです。議論の中身はともかくとして、

some religious support of Einstein's theories and attacks against "heresy"

この部分です。拙い和訳ですが、 「アインシュタインの理論に対する宗教的支持と『異端』に対する攻撃」 と書いてあります。

 しかし、実際の議論を見ると、氏に対する批判は中には感情的なものもありますし、 間違っているものもありますが、すくなくとも「アインシュタインはとにかく正しい」 「相対論を批判するとは何事か」等と主張するものはほとんどありません。

しかし、氏にはどんな批判も、「異端に対する弾圧」にしか聞こえないのです。 これは窪田氏やその他超科学者一般にいえることです。

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引用の誤用・悪用

 「複素電磁場理論」の猪股修司氏も「相対論は間違っていた」 と主張する人々の一人です。氏はその著作「ニューサイエンスのパラダイム」 のなかで、「ブラッドレーの光行差の発見」が相対論の反証である、 と主張します(もちろんそんなことはありません)。

 そして、科学史の分野で有名な東大教授、 村上陽一郎氏も自分と同意見であるとして村上氏の 「科学史の逆遠近法 - ルネッサンスの再評価」(中央公論社) から次のように引用します。

所謂、教科書的な解釈では、1905年のアインシュタインによる特殊相対性理論の着想は、 19世紀末に行われた、光エーテル系に対する地球の相対速度を測定しようとするマイケルソン ・モーリーの実験の否定的結果を説明するために得られたということになっていた。 もう少し慎重に言えば、一方に、たとえばブラッドリーの星の光行差現象の発見によって、 光エーテル系に対する地球の相対速度を肯定するがごとき材料があり....

つまり、 猪股氏によれば光行差現象は地球がエーテルに対して運動していることを証明しており、 エーテルが存在しないとした相対論の反証になっている。 その点は東大教授の村上氏も認めている... というわけです。

 しかし実際に「科学史の逆遠近法」 を読むと村上氏がそんなことをいっていないことはすぐ分かるのです。 猪股氏の引用したこの部分より少し後の部分を読むと、

「相対論がマイケルソン・モーレーの実験とブラッドレーの観測の矛盾を解決したのは事実である。 が、この矛盾を解決しようとして相対論ができたわけではない」

という趣旨のことが書いてあるのです。 つまり村上氏はブラッドレーの観測が相対論に矛盾する、 等とはまったく考えていないのです。

 猪股氏がこの続きの部分を読まなかったのか、 読んでいながら意図的に無視したのかはわかりませんが、 結果としてこの引用は村上教授の趣旨を完全に捻じ曲げたものになっています。 そして、このような引用の誤用、悪用もまた、多くの超科学者に共通するものなのです。

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