『やさしい死神』 大倉崇裕 8点
『禁涙境事件』 上遠野浩平 7点
『夜のピクニック』 恩田 陸 8点
『記憶汚染』 林 譲治 6点
『富豪刑事』 筒井康隆 7点

『やさしい死神』 大倉崇裕 東京創元社 BK1-3.gif (240 bytes)

 落語専門誌「季刊落語」の編集部に配属された当初は大いに戸惑った間宮緑だが、徐々に馴染み、牧大路編集長との掛け合いも板についてきた。前座を卒業、そろそろ二つ目編集者というところ。総員二名の編集部には、なぜかしら校了前の忙しいときにばかり落語がらみの騒動が持ち込まれる。過去幾度も名探偵の横顔を見せてきた牧だが、平素は携帯電話の電源も入れないで寄席を回るばかり、仕事はそっちのけで全く当てにならない。そのあおりで緑のサービス残業と休日出勤は着実に増えていく…

 落語ミステリの第三段の短編集。といっても事件といえる事件はなく、ちょいとしたいたずらの謎(というと大げさだけど)を解くというもの。落語とミステリが実に相性よく描かれている作品だと思います。落語のネタをうまく絡め、最後にチョンと落とす部分など見事だなあ、と。毎日呼ばれる救急車、噺の最中になってしまった携帯電話、死者の結婚式の司会。ほんと、こんないたずらがどうしてこう魅力的なミステリになっちゃうんでしょうか。面白かったです。

『禁涙境事件』 上遠野浩平 講談社ノベルス BK1-3.gif (240 bytes)

 魔道戦争の隙間のあるその非武装地帯には、見せ掛けと偽りの享楽と笑顔の陰でいつも血塗れの陰惨な事件がつきまとう。積み重ねられし数十年の悲劇の果てに訪れた大破局に、大地は裂け、街は震撼し、人々は喪った夢を想う… そしてすべたが終わったはずの廃墟にやってくる仮面の男がもたらす残酷な真実は、過去への鉄槌か、未来への命綱か…?

 禁涙境という魔法を使用することの出来ないエリアにて起こった過去の事件を短編風にまとめた作品。なんだか凄い拍子抜け。周りが戦場である以上、そこで起こる殺人などの事件に緊張感などが感じられません。というより殺人がむしろ日常? そしてそこでおこる不可解さも、魔法が使えないという例外というかエラーがあるため、「なんらかの方法があるのだろう」と最初からエラーを考えてしまい、まともに推理もできず、という感じが。だから、個々の短編はファンタジーとしてならば、それでOKと言う部分はありますが、最後の最後の展開だけは、無様と言うか、なんというか… ”犯人”がもろすぎでしょう、精神的に弱すぎ、口先だけに惑わされるなんて。悪役ならもっと、冷酷非道な悪役になりきらないと、なんでここまでやってこれたの、と問いただしたくなります。んで、次が『残酷号事件』ですか… これだけで荒唐無稽さを想像できてしまうんですが…

『夜のピクニック』 恩田 陸 新潮社 BK1-3.gif (240 bytes)

 夜を徹して八十キロを歩き通すという、高校生活最後の一大イベント「歩行祭」。
 生徒たちは、親しい友人とよもやま話をしたり、想い人への気持ちを打ち明け合ったりして一夜を過ごす。そんななか、貴子は一つの賭けを胸に秘めていた。三年間わだかまった想いを清算するために――― 今まで誰にも話したことのない、とある秘密。折しも、行事の直前には、アメリカへ転校したかつてのクラスメイトから、奇妙な葉書が舞い込んでいた。去来する思い出、予期せぬ闖入者、積み重なる疲労。気ばかり焦り何もできないままゴールは迫る―――

 うん、これぞ恩田作品の真骨頂かも。ただ歩いて、どうでもいい会話をするだけの作品です。ある種『黒と茶の幻想』と共通する部分もあります。このテーマもなく、「ただ歩くだけの状況で、なんともない会話をする」というシチュエーションが実に魅力的であり、不思議な空間をかもし出してくれます。扱っているテーマ自体はどこぞにありそうなんですが、それが歯がゆい青春となっていて、なんとも微妙な緊張感となごみを与えてくれました。読了後もさわやかだし、楽しめた一冊でした。

『記憶汚染』 林 譲治 早川文庫 BK1-3.gif (240 bytes)

 破滅的な原発テロの教訓から、携帯情報端末による厳格な個人認証が課された近未来日本社会。土建会社社長の北畑は、奈良の弥生遺跡から謎の文字板を発見するが、なぜかそれは200年前のものと推定された。いっぽう痴呆症研究に従事する認知心理学者・秋山霧子は、人工知能の奇妙な挙動に困惑していた。2つの事象が交わったとき、人類の営為そのものを覆す驚愕の真実が明らかになる―――

 序盤はそれなりに読めてましたが、やたらと地の文章が多く説明的で、どうにもストーリー展開がいまいち… 中盤から、大きく話が動いたものはいいものの、スケールが大きくなりすぎて逆にわけのわからない結果に。なんだったんだろうなーという部分と、都合よすぎるんじゃないのと言う部分があいまった、いまいちーな作品だったような気がします。特に中盤以降が、全然記憶に残らなかったんですが…

『富豪刑事』 筒井康隆 新潮文庫 BK1-3.gif (240 bytes)

 キャデラックを乗り廻し、最高のハバナの葉巻をくゆらせた”富豪刑事”こと神戸大助が、迷宮入り寸前の五億円強奪事件を、密室殺人事件を、誘拐事件を……次々と解決してゆく。金を湯水のように使って。靴底をすり減らして聞き込みに歩く”刑事もの”の常識を逆転し、この世で万能の金の魔力を巧みに使ったさまざまなトリックを構成した、筒井ミステリ。

 富豪っぷりを利用してそれを捜査で用いるというアイデアはなかなか面白く、そのお金の使い方も凝ってて見事。ただ、多少読みにくい部分も。たとえば、なんの前振りもなく、いきなり場面が変わっていたり、作中の人物が急に読者に対して語りかけてきたり。そういう部分は物語というよりもエンターテイメントを追求した作品だなあと感じさせられる部分もありますが。なんにせよ、面白かったです。シリーズとしてはこれ一冊なのかな? もうちょい他に色々あってもよさげですが。