レビュー

「あの日の上海バンスキング」

 “ラスト公演”から16年ぶりの再演。コクーン時代とほぼ同じキャストでリリー役に六本木自由劇場での初演キャストさつき里香さんを迎えての公演。

 演出の大枠はコクーン時代と殆ど違わないけれど、二点だけ大きな違いがあります。 コクーン時代の演出は冒頭、客電が全暗すると緞帳の向うからドラムロール、暗い客席の何処かから「ワンッ・ツーッ」のカウントと共に客電が上がると通路でトランペット・サックス・トロンボーンを構えたバンドマンが華やかに「ウェルカム上海」のテーマを演奏し、緞帳が上がるとそこはオールド上海。ダンサー達が「ウェルカム上海」を歌って観客を迎え、そして四郎とまどかが客船から降りて上海の地に足を下ろすのです。

 今回の公演では、客電が明るいままにオーバーコートを着た「笹野さん」が「上海バンスキング」のロゴマークが描かれた緞帳をしみじみと見上げ、おもむろにトランペットを取り出して音を出す。「ウェルカム上海」のテーマ。それに答える様に舞台下手からもジャンパー姿の「串田さん」がクラリネットで応じる。客席通路から「大森さん」「小日向さん」「真那胡さん」が再会の旧交を暖めるように肩を叩き合ったりしながら「幻のセンッション」を繰り広げ、緞帳が上がるのです。緞帳が上がるとそこは上海。でも客船から「まどか」が登場するシークエンスは無くなってます。

 もう1つの大きな変更点は若いキャスト達による「あの日のまどか」「あの日の四郎」「あの日のバクマツ」等が舞台の上は袖から様子を眺めている点です。この視点が今回の舞台の重層化に効果を上げているように思えました。

 この2点から私が読み取ったのは今回の公演は『あの日の上海バンスキング』又は『あの日の「上海バンスキング」』と呼ぶべきものではないかと言う事です。

 今回の再演が発表された時、古くからのファンほど脳裏に浮かんだのが主要キャストの年齢です。何かのインタビュー記事で読んだのですが串田さんは、一度“封印”した筈の作品を敢えて再演するにあたって「いつか又やってみたい」、そして「この年齢でやってみたい」と思ったそうです。

 制作発表パーティーの席で串田さんは、この芝居を作るに当たって、本当に戦前の上海でJAZZを演奏していたジャズメン達に取材した時の事をお話になってました。 その時の話は「昭和のバンスキングたち」に収められていますが、串田さんや斉藤憐さん達に色々と嘘を織り交ぜながら当時の事を語ってくれたジャズメンの年齢がちょうど今の串田さん達の年齢に近いそうで、そういう視点で見ると舞台の上にいる「あの日の四郎」「あの日のバクマツ」「あの日のまどか」は実は、老人達が語る昔の上海の話を聞く「あの日の串田さん」「あの日の憐さん」「あの日の日出子さん」ではないかと読み取れるのです。

 そうしてみればオープニングのそれにもすごく納得がいくのです。久しぶりに会った仲間達が、若者に問われるままに語る「昔の上海」「幻の上海」。かくして「あの日の上海バンスキング」の幕が上がります。

託された「上海バンスキング」

 そういう視点で観るとこの舞台は、大枠ではコクーンの頃と演出も美術も殆ど変わってないにも係わらず、コクーン時代の「上海バンスキング」とは別の「あの日の上海バンスキング」なのではないかと思えるのです。それは「上海バンスキング」というお芝居を、若い世代に託すための舞台ではなかったのか。

 「上海バンスキングはデコさんのまどか以外考えられないよね」と言いつつも、私の観劇仲間の何人かは「この傑作脚本を埋もれさせるのはもったいない」という声も聞きます。確かに出来上がった舞台そのものが素晴らしいことは確かですが、稀に見る名作脚本であることは間違いないのです。

 別のプロダクションで公演するとしたらどんな舞台になるのだろう?
キャストは?演出は?。斉藤憐さんは上演許可依頼があったら「俳優さんたちが生で演奏してくれるんならいいですよ」と答えているそうだ。

 もし、別のプロダクションで再演がかなった時、今回の8人の若手演者が係わるかどうかは判りません。が、ひょっとしたら「上海バンスキング」というお芝居が若者達に託されたのがこの公演だったのかも知れません。

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Club St.Louis フロアマネージャー ダッチ@三澤美