質問内容/回答

<質問>

宇都宮渓嶺会の谷嶋です。

最近、特に不安定な確保支点では、片方の支点が抜けたときに残った支点に衝撃荷重が掛かる流動分散ではなく、
支点に掛けたスリングの下をまとめて8の字結びで結ぶ方法が推奨されています。ロクスノでもヌンチャクを使
った別の方法が紹介されていましたが、皆様はどういう風にスリングを使われているのでしょうか?

最近、私はスリングの下を8の字で結ぶ代わりに、テープスリングを2本まとめてクローブヒッチ(マスト結び
orインクノット)にして環付カラビナを固定しているのですが、これについて皆様はどう思われますか(危険or安全)?

利点
一 支点の一方が抜けても他方に衝撃荷重が掛からない。
二 締まっても解き易い。8の字結びよりも速く回収できる。
三 左右の長さが調整しやすく、引かれる向きが変わっても左右均等荷重に調整できる。
四 8の字結びよりも速くセットできる。

欠点
一 片方の支点に掛けたカラビナが壊れた時、スリングに荷重がかかってクローブヒッチが滑ると、すっぽ抜ける。
(ただし支点が抜けてビナが壊れなかった場合はすっぽ抜けない)
二 2箇所からしか取れない。(ただし別の支点からヌンチャク等でバックアップを取ることはできる)

特に、もし欠点その一が起こると致命的です。
ある知人には、片方が何もなくなったクローブヒッチは滑り抜けそうで怖いとか、滑って抜ける可能性のあるもの
はダメだろとか言われましたが、便利なので使ってました。
ただ、パートナーの安全にも関わる以上、本に載ってない物を自己責任だけで使うわけにもいかないと思い、皆さ
んのご意見をお聞きしたいと思いました。(皆で渡れば怖くない?)
テープのクローブヒッチでカラビナを固定して作ったは支点はダメでしょうか?
ご意見をお願いします。


<解答> 


宇都宮渓嶺会の谷嶋さん、はじめまして新保@”昴”です。
 
> 最近、特に不安定な確保支点では、片方の支点が抜けたときに残った支点に衝撃荷重が
> 掛かる流動分散ではなく、支点に掛けたスリングの下をまとめて8の字結びで結ぶ方法
> が推奨されています。ロクスノでもヌンチャクを使った別の方法が紹介されていました
> が、皆様はどういう風にスリングを使われているのでしょうか?

最近は本当に固定分散が推奨されていますね・・・
日本のテキストはもちろん、アメリカのジョン・ロングのクライミングアンカーでも、
残りの支点に新たな衝撃がかかる危険にふれながらも、 流動分散を強く勧めていま
す。スリングの長さを調整して均等に力を支点にかける方法は、完璧ではないと言っ
ています。
私も、難しいと思っている一人です。ただ、固定分散が「完璧」ではないと言うより
も、「均等に加重することが限りなく難しいので」ので負荷が「一点」にかかってし
まい「支点破壊」につながるのではと言うことで、一般的には「流動分散」の方が良
いのではと思っています・・・。でも、ケースバイケースだと思っています。
この辺のこと意見交換できればとおもっています・・・

> 最近、私はスリングの下を8の字で結ぶ代わりに、テープスリングを2本まとめてクロ
> ーブヒッチ(マスト結びorインクノット)にして環付カラビナを固定しているのですが
> 、これについて皆様はどう思われますか(危険or安全)?

固定分散の場合負荷をかけて固定の位置を確認するという作業をしても結び方等、チ
ヨトずれたりするだけで「均等負荷」になりません。一重結び又はオバーハンド・ノッ
ト等の場合はほとんど不可能に近いです、クロブピッチ・ノットですと微調整が出来
ます。私も、固定分散の時にクロブピッチ・ノットもつかっています。

又、1つの長いスリングですと
支点が2ヶ所ですと、「ラビットノット」3ヶ所ですと「イキュライズィド フィギ
ア エイト」(三点固定分散)(Equallzed  figure-eighe)
と言う方法があります。これについては「絵」を見ていただいた方が良いので、興味
があれば個人メール下さい。添付書類で送付します。

固定分散のセット方法についてですが・・・
縦に支点がある場合、固定分散ですと、(ダイニマーなど延びが少ない物でない限り)
「延び」が有るので「短い方」の延びが小さいために手前の支点により多くの負荷が
かかってしまいます。このために一見「不均等負荷」とでも言うようなセットが必要
です。短い方に最初は負荷をかけないようにする必要があります、長い方に負荷がか
かったとき=伸びたとき・・・均等になるように・・・
又、支点が不安定な方に負荷がかかりにくい様にセットを逆にしやすいと思いますが、
均等に負荷がかかるようにセットするという「難しい」作業が必要です。

>特に不安定な確保支点では
支点が不安定な場合とか関わらず又、流動分散であれ固定分散であれ、バックアップ
をとる必要はありますね。


川上@MSCC 谷嶋はじめまして。 僕の場合は迷わず流動分散を選びます。 その理由として、流動分散は”最大衝撃荷重が一箇所の支点に集中しない”の一言に 尽きます。 個別のスリングで荷重を分散させようとしたとき、どんなに調整しても、調整しきれ るものではありませんから、必ず片側の支点に最初の荷重・・つまり最大衝撃荷重が か かることになります。 固定分散の場合、あくまでも、片方の支点はバックアップとして考えておいた方が、 無難です。 ランニングでも、アンカーでも支点が不安なときは、流動、固定どちらでもかまわな いから、とにかくバックアップをこまめにとることです。 特に、ランニングをこまめにとることは重要で、落ちれば明らかに抜けるような支点 でも、数多く取っておけば、ブチブチ抜けるうちに衝撃は徐々に緩和されて、アン カーにはほとんどショックは来ません。 ハーケンなどが良好な状態であったときおよそ500kgの荷重まで耐えるとかも言 われています。 不安定な支点を想定しているわけですから、それが、100kgなのか200kgな のか?具体的な数値は、いくら経験をつんだクライマーであっても計り知れません。 現場で確認できるのは、せいぜい自分の体重の静荷重分ぐらいでしょう。 仮に、2点の支点でそれぞれ、100kgの荷重に耐えられるとしましょう。 流動分散なら、支点2点間の角度は均一ですから、2点の支点にかかる荷重は同じで、 合計200kgまでたえられます。墜落の衝撃荷重が150kgとしたとき、流動分 散なら耐えられます。 一方、固定分散では”最悪の場合”150kgが片側の支点に集中することになりま す。つまり支点の一箇所は抜けることになります。 そのあとは、残りのエネルギーがどれほど残っているかによって、最後の支点が耐え られるか否かが決まります。 先ほどのケースで、2点の支点がそれぞれ150kgと50kgの耐荷重だったとす ると、流動分散でも片側の支点は抜けます。片方の支点が抜けたときに残った支点に 衝撃荷重がかかります。 位置エネルギーUはU=mgh(J)であらわせられますがら、加算される衝撃荷重ははずれ た支点までのスリングの長さ分:hとなります。”m”は、墜落者の重さ”g”は重力 加速度ですから一定です。 つまり、スリングの衝撃緩和度合いを無視すれば、短いスリングが有利といえます。 そうは、いってもスリングの衝撃緩和度は長い方が有利なので一概にどちらがいいか ?といえば曖昧です。 安全サイドから、支点は理想的な状態にあるとは考えないので、基本的に支点にかか る荷重を小さくする、均一にする工夫は重要で、その点では流動分散が有利です。 流動分散であれば、3点支持も容易にセットできます。 固定分散の不均一さと、セットのわずらわしさを考えると、僕の場合やはり流動分散 になります。 安全に関わることなので、誤解のない様にと文章が長くなってしまいました。 すみません。
有持です。  みなさん、こんにちは。    3連休だと言うのに梅雨も明けずに相変わらず雨が降っていますね。今月は ジムばかりで、指にマメができてしまいました。(*_*)(*_*)(*_*)  さて、確保支点でのシュリンゲの使い方ですが、私なりの意見を書いてみた いと思います。みなさんそれぞれ流儀があるとおもいますから、みなさんの方 法を否定するものではありません。あくまで私の考えだと参考程度に読んでく ださい。 <トップの確保>  私はトップの確保を確保支点に直接、確保器具をセットしたりする事はありま せん。確保支点ではセルフビレーを取るだけで確保器具はハーネスにセットし て、トップの墜落の衝撃をまずは身体で吸収するようにしています。ほとんどの クライマーの方はこの方法では無いでしょうか?  この方法だと、ランニング支点が全て抜けて、確保者の身体が持ち上げられ ない限りは確保支点に衝撃がかかる事はありません。  衝立岩の岳人ルートやミヤマルートなどの残置支点がかなり老朽化して腐 食しているオーバーハングのルートで残置のみ使用した場合にはこのような 状況になる可能性はありますが、通常のクラッシックルートでは残置が全て 抜けてしまうなどと言う事はまずないでしょう。 <セカンドの確保>  私はセカンドの確保には、確保支点にトップの確保の時と同じ要領でシュリ ンゲをセットしてそこにジジをセットして使います。そして、いかにも腐っていそ うな残置は使いません。自分でハーケンやボルトを打って補強します。  もしセカンドが墜落しても、ザイルを張って確保している訳ですから、確保支 点に強い衝撃が来る訳ではないので、よほど腐った残置支点ばかり使用して いなければ確保支点の残置が抜ける事はまずないと思います。 <懸垂下降支点>  一番の問題になるのは懸垂下降の支点だと私は思っています。懸垂下降し ている時のクライマーの動きによって常に支点には衝撃がかかって来ます。 ベテランならエイトカンなどを滑らすようにしてスムーズに下降できますが、初 心者など懸垂下降の経験の少ない人ならギクシャクした下降になり、そのたび に下降支点に衝撃がかかる事になります。  ですが、懸垂支点で流動分散や固定分散にしている場所をまず見た事があ りません。ただ、残置支点にシュリンゲをリング状に通しているだけです。  確保支点に関してはみなさんかなり気にしているのに懸垂支点にあんまり 気を使っていないのが不思議でなりません。  と言う私も、しっかりした支点の場合にはそのまま使用していますが・・・・・。  常識ですが、いかにもやばそうな支点の場合にはしっかりと均等に加重が かかるようにセットしなければなりません。シュリンゲを残置するのがもったい ないから残置をそのまま使用すると言うのは論外ですよね。たかが数百円の シュリンゲを惜しんだために死んでしまったら割が合いません。  しかし、流動分散で懸垂支点を作ると、万が一片方の残置が抜けてしまった 場合にはザイルを通している輪がしまってしまってザイルが抜けなくなってし まう場合があります。でも、これはカラビナを残置する事で解消できます。それ とシュリンゲの輪がしまって小さくなるために、残った残置に衝撃がかかります。  しかし、固定分散にするのは加重を均等にするのは調整が難しいですよね。 まあ時間をかけて調整すればいいだけの事ですが・・・・・。  私は、懸垂支点を新たにセットする場合や、シュリンゲを掛け替える場合には 流動分散や固定分散、下記の「プロハスカ方式」を使用しています。  または、固定分散の用に各残置にシュリンゲをかけてその末端は結ばない で、末端に短めのシュリンゲで流動分散をセットします。これだと微調整がい らないし、たとえ1本抜けたとしても流動分散の輪が小さいので衝撃も少ない です。  それと、上記の新しいセット方法が「改訂版/生と死の分岐点」の195ページ に掲載されています。知っている人もいるのではないでしょうか?  セットの方法は本をご覧下さい。  「プロハスカ方式」 ・ 2つの支点に均等加重される。 ・ 片方の支点が抜けてもロープは外れない。 ・ 片方のシュリンゲが抜けてもシュリンゲの輪が締まらないのでロープの回収  に問題はない。  絵では残置は2本ですが、残置が多くても長いシュリンゲを使用すればセット できます。ただし、長いシュリンゲをかけている残置が抜けた場合には短いシュ リンゲに多少の衝撃が来ると思います。  とにかく、状況に応じて最良な状態に各種方法を使い分ける必要があります。  色々書きましたが、みなさんにもこだわりの方法があると思いますので、是非 ご紹介下さい。  ではでは。
新保様、川上様、有持様、いろいろご意見有難うございました。 地元ということで足尾は松木沢のウメコバ沢あたりに登りに行くことがたまにあります。 そこの確保支点が結構怪しくて、ハーケンまたはナッツ、カム等で補強して 確保支点として使ったりしていたんですが、ナッツ、カムを使った場合、 可動分散にして、ハーケンが折れたら残りのカムとかが弾かれそうで怖いのです。 支点が灌木、ボルト等でしっかりしていれば、可動分散にするのですが、 抜けることもあり得る様なところでは、固定分散?にしていました。 そもそも、大事な確保支点を、一本抜けて荷重の掛かり方が変わったら外れるような カムで補強というのはマズイのかも知れませんね。 もちろん場合によりますが、本当に抜けそうなところは、設置、回収の手間を惜しまず、 もっとハーケンを打つ様にしたほうが良いのかも知れません。 大変勉強になりました。改めてありがとうございました。
有持さんへご無沙汰しております。 大阪労山凍稜会の宮本です。(元ぽっぽ会です) 昨日不動岩で松本憲親さんの実験を盗み見していたら ACML有持さんへ報告するようにと宿題をもらってしまいました。 2点のリングボルトに流動分散したテープスリング(エーデルワイスのダイニーマ) の先端をクローブヒッチにして(ノーイクステンションというそうです)ロードセル を連結、片方のビナを外して手動ジャッキで加重テストを行ったところほんの少し結 び目の形状が変形したもののずれることもなくロードセルは640KGをさしていまし た。 アンカーに使うクロブビッチ・ノットも有効であるとの実験結果の報告でした。 詳しくは松本さんご本人へ! こどもの使いですみません。

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