西伊豆/波勝崎/海金剛/左壁/新ルート開拓

TORITON

ARIアルパインクラブ/有持真人、宮川良成、漆谷多二男


< 記 録 > 有 持 真 人


<開拓場所>    西伊豆/波勝崎/海金剛/左壁
<ルート名>    TORITON
<開拓日>      1996年11月30日(日)8Pまで
           1997年 1月12日8日)12Pまで完登  
<開拓者>     ARIアルパインクラブ/有持真人、漆谷多二男(全ルート)
                       宮川良成      (8Pまで) 
<ルートグレード> 6級
<ピッチグレード> 5.9+/AA3
<ピッチ数>    12p
<登攀距離>    290m
<所要時間>    11時間〜13時間

★ 記録写真  ★ ルート図  ここをクリックして下さい。

<概要>
 当初は、下部岩壁は<SURF&SNOW>と同じにしようかと思っていたが、良く観察 すると、左壁の中央寄りにクラックが入っているのを見つけ、ここから開拓する事にした。  そして、上部岩壁帯の脆い部分を避けながら登り、下部要塞へと右寄りに登って、下部要 塞、上部要塞へとつなげる事になった。

<開拓記録>

1996年11月30日(日)

駐車場(0540) 〜 入り江(0600) 〜 取り付き(0700) 〜 8P終了点(1500) 〜 入り江(1640) 〜 
駐車場(1700)

 ルート開拓に魅せられて、この岩壁には今年は何回通っただろうか?自分でも呆れてしま う。 海金剛は、自宅から車で3時間、アプローチ20分と手頃な距離にあり、夏の暑いのを我 慢すれば1年中登れる岩壁である。おまけに手つかずの岩壁がごろごろとあり、ルート開拓 ができるとなると自然と足が向いてしまうのもしかたがないだろう。

 <赤道小町>、<SURF&SNOW>に続き、アメリカンエイドルートの開拓は今回で 3本目になる。 午前3時に宮川、漆谷と合流し海金剛へと向かう。途中でコンビニに寄るが<釣り屋>は いっぱいいるが、<山屋>らしき人は全くいない。これは当然か・・・。

 いつもの駐車場から、ヤブと朝露対策のためカッパを着こんでアプローチを開始する。今 の時期なら丁度良いが、夏はこれだけで1s以上はやせてしまう。 歩いていると、意外なことに先週まであったヤブが全くなくなっている、おまけにガレ場 などは歩きやすいように石まで並び替えてある。狐に摘まれたようだ。 あれだけの整備をするとなると、かなりの人数が必要だし、まさか地元の人たちが整備し たとも思えない。

 私が思うには、山渓12月号に<黒潮ロック、極楽ロック>の私が投稿した記録が掲載さ れたので、開拓に意欲を燃やすフリークライマーが大挙して押し寄せて整備したのではない かと想像する。とにかく、これでアプローチが非常に楽になったのはありがたいことだ。

 今日は、今年一番の冷え込みでかなり寒いし西風が強い。対岸には南アルプスが真っ白に なっているのが見える。 海金剛のロングルートは、風の強い日などは、波の音でパートナーの声が全く聞こえなく なるので、無線機を使うか、なければ笛などで合図を決めておかなければ、少々面倒な事に なってしまう。ちなみに、私はいつも無線機を使用している。

(ピッチ/グレード/登攀距離/リード者)

1P III 30m (ノーザイル)

   1P目は<SURF&SNOW>と同じで、入り江のガレ場から下部岩壁基部のビレーポ イントまで登る。 このピッチは、簡単だが岩が脆く落石を落とす危険があるので、十分に注意が必要である。

2P III 30m (ノーザイル)

 ビレーポイントから、ブッシュのバンドを右上気味にトラバースし、中央綾にでる。

※ 1、2Pは、ノーザイルで登ったが、岩が脆い部分があるのでザイルを使った方が無難だ。

3P 5.9+ 30m (漆谷)

 中央綾の左側に左上しているクラックが入っている。岩質は柔らかく脆い部分があり神経を使う 登りだ。 漆谷がリードで、有持がフォロー、宮川がユマーリングで登る事にする。リード中も時々落石が あり、やはり岩が脆いらしい。漆谷も慎重に越えていく。

 ブッシュを抜けた所で声がかかる。私がセカンドでフォローするが、途中のフレークを掴んでレ イバック気味に引っ張ったところ、フレークが剥がれてしまい墜落。これがリードだったらさぞか し痛かっただろう。終了点では立木でビレーする。

<使用ギア> エイリアン、キャメロット

4P 5.7 45m (有持)

 緩傾斜帯のスラブをブッシュでランニングを取りながら、ザイルが一杯になるまで登ると、 広いブッシュ帯にでる。ここから上が上部岩壁になる。

5P II 15m (漆谷)

 簡単なスラブを上部岩壁基部までトラバースする。

6P 5.8/AA3 30m(有持) 

 ここから上部岩壁を見上げると、凹状の右側は巨大な岩が積み重なっているような感じで ルートにはならない、中央部の上部にはリスが走っているが、下部は岩が脆そうで落石が集 中する場所なので取り付く気にはならない。

 凹状の左上部を見ると多少オーバーハングしたワイドクラックがある。ここまで登るため には凹状の真ん中から取り付かなければならないが、危険が大きい。

 良く見ると、凹状の左側壁にブッシュ帯から約5mの高さのところに、約15mのトラバ ースできるリスが走っているのが目に付いた。<これなら落石がきても大丈夫だし、何とか なりそうだ>と言うことで、ここから取り付くことになった。

 ビレーポイントは立木でとり、落石を避けるために、位置は左側壁にめいっぱい寄った所 にする。

 まず、ブッシュ帯を約5m登り、少し脆そうな岩を3m登り、ブッシュでランニングを取 る。ここから先がネイリングだ。最初にバカブーの連打でトラバースする。ここまではピト ンも良く効き快適だが、だんだんと岩が脆くなってくる。

 次に、脆そうなリスにナイフブレードを叩き込んで、抜けそうなので軽くテスティングし てみると何とか効いているようだ。アブミに乗り込んで体重移動し、フィフィイをかけよう とした瞬間に墜落、ナイフブレードのアゴが当たっている岩の部分が崩壊してしまったらし い。大したことはなかったので登攀を続行する。

 皮肉な事に、崩壊した所はピトンがしっかり決まるようになった。更に、ナイフブレード、 ロストアロー、アングルの連打で凹状の中央部にあるフレークまでたどり着いた。

 このフレークにはワイドクラックがあり、簡単に越せそうだったので、キャメロット#4 をセットして、気軽にテスィングをしてみた。すると、3m四方はあるフレークが動くでは ないか。<エクスパンディングフレーク>だ。

 前のピトンはナイフブレードのタイオフだし、墜落して抜けない保証はないがこれを越え なければ目前にあるテラスに着かない。こうなったら度胸を決めて登るしかない。ただ気が かりなのは、フレークが剥がれて落ちた時に、漆谷と宮川を直撃する事だ。

 キャメロットにアブミをかけてゆっくりと体重移動する。キャメのカムが広がり、フレー クも少し広がってきたが、これ以上広がらずに何とか耐えている。後1ポイントでテラスに 着く。

 落ち着いて、フレークの上部にある水平クラックにエイリアン#3/8をセットしテスティン グすると、ダルマ崩しの様に一番下の岩が動きだした<いい加減にしろ>と怒鳴りたいが そんな暇があれば、この現状を処理しなければならない。岩を押さえてエイリアンを外し、 少し手前のクラックにセットし直す<ここは大丈夫だ>。後は一気に狭いテラスに立ち上が った。

 ここは、なかなかエキサイティングなピッチだったが、<たまに味わうこの緊張感がたま らない>と感じる私は異常だろうか?

 ビレーポイントには、ハンマードリルでペツルアンカー×2本を埋め込んだ。後でハンガ ーは回収した。

 このピッチは、低いトラバースなので、2本連続してピトンが抜けるとグランドフォール する危険があるのと、エクスパンディングフレークの処理などがあるために<AA3>とし た。剥がれすい岩などは落としてあるので、再登者はもう少し簡単に感じるかもしれない。

 その後、ザイルを固定し、漆谷がユマーリングを開始し始めた時に、又アクシデントが発 生した。出だしで岩にザイルが引っかかっていたが、取れないのでとりあえずそのままユマ ーリングを始めたところ、引っかかっていた約1m四方の岩が崩壊し漆谷を直撃した。

 丁度、岩壁に張り付いていたので、ヘルメットと背中をなめるようにして、漆谷に当たり、 下にいる宮川の真横をかすめて落ちていった。怪我は、アゴと手首、背中に擦り傷ができた 程度だったが、危ない所であった。漆谷はの怪我は大したことがなかったので、そのままフ ォローを続けた。 後日に漆谷は、落石による<むち打ち症>に悩まされることになった。

<使用ギア> ナイフブレード×2、バカブー×5、ロストアロー×2、アングル×1
       エイリアン#3/8、キャメロット#4、ペツルハンガー×2(回収)

7P 5.8 AA1 15m (有持)

 ビレーポイントのすぐ上は、積み木状の岩に押さえつけられており登攀は不可能である。 左側のフェースから外傾したバンドに上がろうとしたが、手がかりがなくどうしようもない ので、仕方なくリングボルト×1本を埋め込んだ。

 浮き石に気を使いながら上部のワイドクラックに向かう。ワイドクラックはしっかりして おり、キャメロット、フレンズで快適に高度を稼ぐ。

 クラックを抜けた所は、外傾したバンドになっているが、バンドに上がってからビレーポ イントを作ると、鋭利な岩角にザイルが当たってしまうため、とりあえずリングボルトを1 本打ってから身体を固定し、ペツルアンカー×2本を埋め込んで、ハンギングビレーをする。

 ここに3人がぶら下がるのは不可能なので、外傾バンド上にRCCボルト×2を打ってビ レーポイントとした。

<使用ギア> キヤメロット#1〜#4、キャメロットジュニア#0.5、#0.75
       フレンズ#1、リングボルト×2、RCCボルト×2、
       ペツルハンガー×2(回収)

8P 5.8/AA1 20m (有持)

 ここから下部要塞に向かうには外傾バンドをトラバースして上部のクラックを登らなけれ ばならない。上部の様子が分からないので、とりあえずキャメロットをセットしながらトラ バースしていくと行きずまってしまう。

 ネイリングで乗り越えようとしたが、岩がまたダルマ崩し状になっており、ピトンを打つ 事ができない。仕方なくフェースにリングボルト×1本を打ってアブミに乗り様子を見てみ ると、ナイフブレードを打って乗り越えられそうだった。

 乗越してから、更に外傾したバンドをキャメロット、アングルを使いながらトラバースす ると、クラックの下部にでた。このクラックを越えると下部要塞の左側に出るはずだ。

 バカブー×1、ロストアロー×1でクラック直下まで登ってペツルアンカー×2を埋め込 み、ビレーポイントを作る。ここで丁度、ハンマードリルの予備のバッテリーも使い果たし てしまった。

 時間も15:00だし、ワンプッシュで開拓できなかったのは残念だが、仕方なくここか ら懸垂下降で下山する事にした。 もう一日あれば完登できたのだが、メンバーの日程の都合で今日中に帰らなければならな いのでしょうがない。

 45mの懸垂×4回で入り江に降り立った。

<使用ギア> キャメロット#3、#0.75、アングル×1、ロストアロー×1、
       バカブー×1、ナイフブレード×1、リングボルト×1、
       ペツルハンガー×2(残置)

1997年1月12日(日)

駐車場(0600) 〜 取り付き(0710) 〜 8P終了点(0820/0850) 〜 終了点(1420) 〜  取り付き(1520/1600) 〜 駐車場(1630)

 このルートは96年内に完登する予定でいたのだが、漆谷が前回の落石で<むち打ち症> になってしまいしばらく休養する事になり、2年越しになってしまった。 今回、宮川は会社の慰安旅行でスキーに行くため参加できず、有持、漆谷の2名で開拓す る事になった。

 とりあえず8Pまではエスケープし、<ネイビーブルーに抱かれて>を1P登り、中央綾 右側綾を1P、その後もう1Pで前回の到達点である8P目の終了点に着いた。1時間10 分となかなかのペースである。

9P 5.9/AA1 15m (漆谷)

 ビレーポイントにぶら下がりながら装備一式を準備し、漆谷リードで開拓を開始する。 約8mのワイドクラックに、キャメロットをセットし順調に越えていく。上部には不安定 そうな岩があったために漆谷も緊張している。しかし、その岩には触れることもなくクラッ クを登り切った。右にトラバースして立木でビレーする。

<使用ギア> キャメロット#1、#2、キャメロットジュニア#0.75、エイリアン#1/2

10P 5.8/AA3 20m (有持)

 次はいよいよ上部岩壁の核心部だ。ビレーポイントから上部に真っ直ぐリスが走っていた が、ここは登らず右にトラバースし、下部要塞の左肩をネイリングして行く事にする。

 まず、フリーで右に3mトラバースしネイリングが始まる。最初は約8mのネイリングト ラバースだ。出だしにエイリアン#3/8をセットし、ロストアロー、バカブーの連打で前進 する。

 最初はピトンも良く効いており安心してネイリングできるが、中間部から段々と悪くなっ てくる。ナイフブレードが1/3しか入らないタイオフは、緊張してアブミに乗り込む。

 トラバースの最後に、又エクスパンディングがでてきた。下向きのクラックなのだが、ロ ストアローを打ち込むと段々広がってくる。アングルでもだめだ。エイリアン#1でテステ ィングするとまだ広がる。最後には<ゴトッ>という音と共に剥がれてしまった。

 しかし、外側の岩に引っかかり、キャメロット#2が丁度良くセッティングできるように なった。<ラッキーだ>。

 そこからハングしたリスを直上していかなければならないのだが、岩が脆くハンマーで叩 いて見ると<ボコボコ>といかにも浮いている音がする。よく見るとクラックの1mほど右 に極細リスが約1mほど直上しているのを見つけた。

 とりあえず、ここを登り上部の様子を見ることにする。キャメロット#3でトラバースし 極細リスにナイフブレードを叩き込む。半分は入った。

 上部のクラックには、ワイドクラックの中に岩片が引っかかっており、その隙間にエイ リアン#3/8をセットし上部のリスにロストアローをきめる。この岩片は触ると動くので多 少は緊張する。

 ロストアロー3本で核心部が終了。下部要塞の左肩にでる。外傾テラスにアンカー2本を 打ち、ハンガーをセットしビレーポイントとした。所要時間は約1時間。

 フォールバックを荷揚げしていると、<NOVEMBER RAIN>を登ってきたパーティがいる。 海金剛にはさんざん通ったが、他のパーティに合うのは初めてだ。

<使用ギア> ナイフブレード×3、バカブー×2、ロストアロー×5、アングル×1
       エイリアン#3/8×2、キャメロット#2、#3、
       ペツルハンガー×2(残置)

11P 20m 5.9+ (有持)

 外傾テラスから左に回り込み上部を見ると、上部要塞の基部まではフリーで行けそうだ。 左にトラバースしてロストアローを1本打ち直上するとチムニーにでる。出だしにリスがあ るのでバカブーを1本叩き込んで一気に上部要塞の基部まで登る。ブッシュでビレー。

 ここには広いテラスがあるが、基部には深さが10mはありそうな広い亀裂が入っている。 見上げると終了点が見えている。後1Pで完登だ。

12P 20m 5.9 AA1 (有持)

 いよいよ最終ピッチだ。上部要塞の正面にはリスがあるが<白波ルート>で使われている。 左端の方に6mと短いがリスがあり、ここをネイリングする事にした。

 出だしにバカブーをきめアブミに乗り込む。基部には深い亀裂が入っているので、抜ける と亀裂の中に落ちる事になる。続いてバカブー×1、エイリアン×2、クワッドカム×1で ネイリングが終わり、上部要塞の左肩にでる。

 途中でブッシュでランニングを取り一気に終了点まで駈け登った。漆谷がフォローで登っ てきて<14:20>に終了。海金剛で3本目のマイルートが完成した。

 ルート名は、昔のアニメの<海のトリトン>から取って<TORITON>と命名した。 このルートは海金剛で最長、最難ルートに仕上がったと思う。

<使用ギア> バカブー×2、エイリアン#3/8、#1、クワッドカム#00

 これで、海金剛の主要岩壁は登り尽くしたと思われ、もし更にルート開拓をするとなる と各ルートと重複し、あみだくじ状態になるのは避けられないだろう。

 海金剛の岩場は、明るく、冬場は天候も安定しているため、谷川のような悲壮感は全く 無く楽しい気分で登攀できる岩場である。 アメリカンエイドルートばかりということもあり、訪れるクライマーは少なく順番待ち をする事など皆無である。 シーサイドにはフリーのエリアも開拓したので、もっと多くのクライマーが訪れる様に なる事を期待したい。


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