甲斐駒ヶ岳/八丈沢/右俣奥壁/オリオン

山岡人志(リーダー、40歳)「はりま山岳会」(兵庫労山)、香取 純(47歳)「相模勤労者山岳会」(神奈川労山) 、香取静子(48歳)「相模勤労者山岳会」(神奈川労山)、鈴木 高(32歳)「めっこ山岳会」(石川労山)


<山行日> 1999年10月9日(土)〜10日(日)<記録> 山岡人志



 山岡@はりま山岳会(兵庫労山)です。 甲斐駒の8丈沢奥壁に新しくルート開拓したので少し長く なりますが報告いたします。

山域・山:甲斐駒ヶ岳/八丈沢/右俣奥壁
ルート名:「オリオン」
ルート :「相模労山ルート」の左。
1ピッチ目は相模労山ルートの左の細いクラックから。
     全8ピッチ。
     全体で約260 m。アメリカンエイドのルート。
グレード:ルートグレード4級、 最難ピッチグレードA1, 5.9+
所要時間:7時間〜9時間
開拓日 :1999年10月9日(土)〜10日(日)

<開拓記録>

   8丈沢右俣奥壁はAフランケのとなりに位置する。Aフランケへのアプローチの途中 でだれもが目にする壁である。全体としてAフランケと比べて傾斜が緩く従って草着 きも多い。Aフランケ側の開拓も考えたがルートが交錯しているため、「相模労山ル ート」しかない8丈沢奥壁を開拓することにした。お盆の頃同じ目的で来たが悪天の 為取り付きまでいっただけで終わった。今回は好天に恵まれ約1日半で開拓を終了す ることができた。混み合っていたAフランケと違い、こちら側の岩場は我々の貸し切 りであった。メンバーは、「相模労山ルート」を作った2人を知っている香取夫妻、 及び最近実力をつけてきている金沢の鈴木さんを加えて4人となった。「相模労山ル ート」開拓者の2人もひとりは一ノ倉で事故死し、もうひとりも病死して2人ともい ない。

 全体で8ピッチのルートとなったが、1ピッチ目はボルトの残置があり誰かが登ってい た。全体として「相模労山ルート」の左側を登る。最後の7, 8ピッチ目も気がつかな いうちに「相模労山ルート」と合流していた。他のピッチはオリジナルなラインにな ったと思われる。以下、各ピッチの概要。時間はリードした者が要した時間。長さは おおよその値。

<<1ピッチ目 (40 m、A1)、2時間10分>>

 ラインは「相模労山ルート」の大きなクラックのすぐ左にある細めのクラック。上 部の2 mほどのルーフを乗り越えていく。ルーフの少し下にボルトと残置ピトンが1本 ずつ、ルーフ直下にボルト(たぶん終了点用)が2本打たれていた。しかし、我々は これを使わなかった。使わなくても十分登れるしそちらのほうがおもしろい。ルーフ はフレンズ類がしかりと決まった。ルーフを越えて少し登ったところでクラックが消 滅する。ここで右上にリングボルトが2本連打されていたが、我々は左に向かうので ここで終了とした。リードは山岡。終了点は、ボルト2本。

<<2ピッチ目 (15 m、振り子トラバース)、15分>>

 左横に5 mほど振り子トラバース後、草着きをルーフ下まで登る。リードは鈴木。 終了点は、大きなルーフの取り付きにボルト2本。

<<3ピッチ目 (30 m、A1) 、1時間>>

 4 mくらい張り出した大きなルーフをダイナミックに乗り越えて行く。ルーフには フレンズ類がしっかりと決まる。越えた後は傾斜の落ちたクラック沿いに直上して終 了。リードは鈴木。鈴木はピトンを持っていくのを忘れたため最後はランナウトして しまった。終了点はボルト2本。

<<4ピッチ目 (40 m、A1, IV+) 、1時間>>

 右上に上がり、大きな凹角状のところを登る。プロテクションが悪く、岩ももろく 恐怖のピッチ。少し外傾した大きなテラスで終了。リードは香取純。終了点は、灌木 。このピッチは3ピッチの終了点から左側を登ったほうが岩が安定していたかもしれ ない。

<<5ピッチ目 (50 m、A0, 5.9+)、1時間>>

 バンド状のところに上がり、ブッシュを超えて右上し、ボルト類が連打されている 「相模労山ルート」があるフェースのすぐ左を登る。我々は、4ピッチ目終了点の上 、約 5 mのバンド状のところまで上がって次のピッチのビレーをした。ルートは途中 からA0で左の浅い凹角に入り直上する。フリー主体のピッチ。リードは香取静子。終 了点は灌木をピトン類で補強して使った。

<<6ピッチ目 (20 m、II~III級)、10分>>

 浮き石の多い階段状の岩を過ぎ、ブッシュをかき分けながら一番奥まで登る。山岡 リード。終了点は灌木。

<<7ピッチ目 (50 m、A1, IV+)、30分>>

 上に見える凹角沿いに素直に直上する。後でここと、この次のピッチは「相模労山 ルート」と同じであることが判明した。小さなハングは疲れていたのでカメロットの 4番を決めて人工で乗り越える。初登者はV級としていた。ランニングはブッシュから 。ピトン類は全く使わなかった。山岡リード。終了点は灌木。

<<8ピッチ目 (15 m、II~III級)、10分>>

 ブッシュの中を稜線状の唐松のところまでロープをのばして終了。終了点は灌木。 鈴木リード。

取り付き:

 8丈沢横を降り、トラバースしてAフランケに向かうところまではAフランケに至る 道と同じ。8丈沢奥壁は、トラバースのところでいったん少し下に降りて、そこから 右上していく。8合目から約1時間で取り付きに到着する。8丈沢横を降りながらずっ とルートを観察することができる。取り付きはブッシュがあり傾斜も少しきつい。

終了後:

 ルート終了点から黒戸尾根の稜線に向かって右上がりに30分強、立木とブッシュの 中を登ると少し開けた8丈沢の頭に到着する。道はない。頭からは8合目の鳥居がすぐ そこに見える。一般道へはさらにそれから10分ほど這松帯をかき分けてトラバース気 味にいく。そこから5分ほど登ると8合目に到着する。4ピッチ目以降で下降する場合 、そのまま取り付きまで懸垂下降してもよいが、バンド状のところを8丈沢に向かっ ていくことができる。但し、途中にギャップがあって必ずしも容易ではない。2ピッ チ目終了点の大ハング下からは、50 mロープなら一回の懸垂下降で取り付きまで降り られる。

注意:

 残置ピトンはなし。終了点は下部の1~3ピッチのみボルト2本ずつ。他の終了点は灌 木またはそれをピトンで補強して使った。4ピッチ目、5ピッチ目の最初、そして6ピ ッチ目は落石に注意。我々は、6ピッチ目を登っていて、人為落石で5ピッチ目にフィ ックスしたロープにダメージを与えてしまった。

 Aフランケと同じく南面なので朝から太陽があたり暑い。水を多く用意していったほ うが良い。ビバークサイトとしては、4ピッチ目終了点が良い。少し外傾しているが2 ~3人くらいなら泊まれるだろう。

使用ギア類:

 フレンズ2セット(4番まで)、カメロット1セット(4番まで)、エイリアン(小 )1セット、アングルピトン4-5本、ナイフブレード2本程度、ロストアロー3本程度、 バガブー3-4本程度。

 終了点用ボルト6本 (HILTI, M10)、Boschハンマードリル、予備バッテリー1個。ロ ープは50mが良い。


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