穂高岳/屏風岩/雲綾ルート

ARIアルパインクラブ/雨宮尚之、久本英司


< 記 録 > 雨 宮 尚 之


<山行日> 1998年7月4日(土)〜5日(日)
 雨宮です.既に久本さんからも報告が出ていますが,僕からも報告致します. 7月4日  沢渡→(タクシー)→上高地→横尾→T4→扇岩テラス<ビバーク>  未明はかなり雨も降り迷ったが,速く流れる雲間に青空ものぞいていたので,とりあえず行こうとい うことで沢渡をタクシーで出発.上高地にはほとんど人がいない.こんなに静かな上高地は初めてであ る.屏風雲稜から北尾根,前穂東壁古川ルートを目指す久本・雨宮と,屏風東稜から北尾根を目指す宮 川・原の4名で横尾への道を急ぐ.  次第に空も明るくなり,横尾に着く頃には晴れあがった.横尾岩小舎の前で適当な場所を探して渡渉 したが梅雨の時期だけあって横尾本谷の水量はかなり多い.炎天下の1ルンゼの押し出しを登った後,T4 尾根の取り付き付近に雪渓を発見したときは嬉しかった.  冷たい水で喉を潤し一服.T4尾根取り付きでハーネス,ロープをつけ,宮川・原P,久本・雨宮Pの 順でT4尾根を登っていく.今回は,北尾根・前穂東壁への継続の予定で1泊分の全装備を背負っているの で,アプローチのT4尾根から結構難しく感じられ人工をしてしまった.  T4に着き,東稜に取り付くためT2で準備をしている宮川・原Pを見ながらこちらも準備をする.一時 雨がぱらついたがすぐにあがったので,1ピッチ目は雨宮リードでスタート.14時登はん開始である.ジ ェードルを右上していくがだんだん傾斜が増し,やがて右手から小ハング上に岩が被さってくる.全装 備を担いでフリーでリードする自信はなく早速あぶみのお世話になってしまったがちょっと手こずって しまった.  そこを上がって少しいったところで1ピッチ目を切る.1ピッチ目は約40メートルといったところだろ うか.セカンドの久本氏はフリーで登ってきた.2ピッチ目,出だしが再びかぶっていていやらしい.リ ードする久本氏も今度はあぶみのお世話になっていた.  10m弱で1番目のピナクルの下に出て久本氏はそこでピッチをきる.3ピッチ目,雨宮のリードの番であ る.「日本のクラシックルート」ではピナクルを越える出だし(本では2P目.  1ピッチ目50m=「我々の1P+2P」としているので)がV+と書いてあるのだが,ピナクルはどうというこ となく越えられる.どうも,このあたりルート図は怪しい.1番目のピナクルを越えると右上に明瞭な2番 目のピナクルが見えるが,1番目のピナクルのすぐ上がホールドのない垂壁である.迷わずA1で上がり, あとは人工,IIIのフリー混じりで2番目のピナクルへ.  2番目のピナクルからはルートは左に大きく折れて扇岩テラスに向かうが,ロープの流れが悪くなりそ うなので2番目のピナクルでピッチを切る.4ピッチ目(久本氏リード),扇岩テラスまでは易しい階段状 であるが,そのころ一時やや激しい雨が降り,この時点で各自,今日は扇岩テラスまでだなと思っていた.  扇岩についたのは17時頃.ちょっと時間がかかり過ぎた.荷物の重さ,リードでの思い切りの悪さ(雨 宮),ピッチを短く切りすぎたことが反省点である.荷物を扇岩テラスにおいて,明日のために次の直上 人工ピッチに久本氏が空荷でロープを張りにいく.その後,扇岩テラスにフライ付きのツェルトを張り,  快適なビバーグへ.扇岩テラスは岩壁と扇岩に挟まれた人二人が横になれる位の広さで快適なビバーグ サイトである.雨も連続的にかなり激しく降るようになるが,全く濡れずに快適な夕食タイム.雨の中, 東稜Pはまだがんばっているがなかなかペースは上がらないようである.  雨の闇の中にライトが二つ揺れている.悲惨そうだなあ.やがて,東稜Pもあきらめ懸垂下降を始める ころ,我々は眠りについた. 7月5日  扇岩テラス→雲稜ルート(後半)→屏風の頭→パノラマ新道→徳沢→上高地  朝4時に起きて5時スタートの予定であったが4時にはまだ雨が降っている,半ばあきらめ,でも昨日の 例もあるから雨はあがるかなと思いつつ,再び二人揃って爆睡状態へ.ふと目が覚めた雨宮がツェルトの 隙間から外を見ると岩肌が陽で輝いている.  あわてて久本氏に声をかける.7時過ぎである.そそくさパン等の簡単な朝食を済ませ8時半頃登はん開 始.1ピッチ目,昨日張っておいたロープを使ってまず久本氏登り雨宮が続く.一部,怪しげなスリングに あぶみをかけるところとフリーが混じったが想像していたよりは悪くなかった.  登りきったビレイ点はハング下トラバース部分の3m位下である.順番から,2ピッチ目は雨宮リードで行 く.「ホントはこのトラバースの所はリードしたくなかったんだけどな...」.ビレイ点から,3m人工で 直上するがトラバースするバンドに出るあたりが岩が脆くちょっと嫌らしい.バンドにあがったあと,右手 にトラバースしていくのだが,バンドの幅はそこそこあるもののバンドの上がハングしており,大きなザッ クが上から抑えられ結構窮屈である.  そろりそろりと人工を交えてトラバースしていき,一回1-2m下に降りてから右手の岩に上がってビレイ点 に到着.2ピッチ目は10m強か.その先に,傾斜の落ちた東壁ルンゼを見たときは,それがとても穏やかな風 景に感じられた.3ピッチ目久本氏リードで東壁ルンゼ状のスラブを行く.  ロープの流れが悪くなりそうということで20m位できる.4ピッチ目雨宮リード.右から庇のように張り出 した岩の下を左上していくが,一部,岩が濡れていていやらしく感じる.庇をかわすとスラブが続く.ロー プをほぼいっぱいまで延ばしてビレイ点(約40m).先が見えた.  ルンゼ状スラブを後1ピッチ久本氏リードで登る(30m).ビレイ点の直前が嫌らしい.最後,左手に見え るブッシュの中に食い込んだ泥と脆そうな岩の溝を雨宮リードで登って終了点のテラス着.13時過ぎであっ た.さあ,後は屏風の頭をまわって帰るだけ,と思いきや錯綜する踏み跡を間違えてしまい,ちょっと悪い ところへ迷い込んでしまった.ワンポイントロープを出してそこを越えるとしっかりした踏み跡発見.  あとは,踏み跡伝いに屏風の頭へ.屏風の頭15時.あとは,最低コル→パノラマ新道→徳沢と道を急ぎ, 上高地に着いたのは18時22分であった.  荷物を背負ってのフリー,人工ともトレーニングの必要性を痛感した山行ではあったが,とりあえず,完 登できてよかったです.

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