黒部/丸山南東壁/左岩綾フランケ(新ルート開拓)

ブッシュマン

ARIアルパインクラブ/有持真人、原岳広


< 記 録 > 有 持 真 人


<山行日>     1997年4月27日(日)1P
                 28日(月)2P〜3P  
               5月12日(月)4P

<場所>      黒部/丸山南東壁/左岩綾フランケ

<ルート名>    ブッシュマン

<グレード>    5級 AA2+ 77m

<所要時間>    7〜8時間
 
<メンバー>    (ARIアルパインクラブ)有持真人、原岳広

★ 記録写真    ★ ルート図


 今回の開拓には、有持、宮川、原の3人で行く予定であったが、宮川が都合で参加できなくなり、結局、有持、 原の2人で登攀する事になった。  原はアルパインクライミングホームページの会員募集を見て、2月に入会したばかりの新人で、岩登りを始め たばかりで本番の登攀経験は全く無く、もちろんアメリカンエイドも初めてである。    原も本番のデビュー戦がいきなりアメリカンエイドで、しかも新ルート開拓となるとさすがに緊張しているら しい。  今回の新ルート開拓にあたっては、偵察無しの行き当たりばったりのいい加減なもので開拓する余地が無けれ ば既成ルートの登攀に切り替えるというものであった。  ルート図を見たかぎりでは、岩壁にはびっしりとラインが引かれており開拓の余地は全く無いように思える。 丸山東壁/中央壁/右岩壁/右岩綾にはどこにもアメリカンエイドルートを開拓する余地は無かった。  双眼鏡で南東壁を観察してみると、左岩綾の左にある左岩綾フランケにクラックがあるのを発見した。  ルート図と見比べてみると、左側の白いクラックは<APPENDIX>で使われていたが、その右側のブッシュの生 えているクラックは未登の様である。  上部はこのクラックを登るとして、下部をどうするか再度双眼鏡を覗いてみる。<APPENDIX>は右から左に左 上気味にルートが引かれているが、<APPENDIX>の取り付きの左側に、直上しているリスを発見した。 一部<APPENDIX>と重複する箇所もあるが、左岩綾フランケをダイレクトに直上するラインが引けそうだ。  迷わずここを開拓する事に決定し、急な雪壁を登り取り付きへと向かう。今回は時間がとれなかったために原 にアメリカンエイドの練習をさせることができず、ぶっつけ本番になってしまった。 4月27日(日) BC 〜 取り付き 〜 1P目終了点 〜 取り付き 〜 BC 0830 0920/1010 1420   1430/1500 1520  今回は、有持がオールリードで原がフォローをする事にし、ユマーリング方法、ピトンの回収方法、荷揚げ方 法を取り付きで教え込む。 1P AA2− 20m  10:10に登攀開始。  2mほどフリーで登りネイリングが始まる。最初の数本は比較的良く効いているが、そのうち岩が浮いている 箇所に出くわした。ハンマーであちこち叩いてみるとバコバコとリスの周辺が浮いているのが分かる。  しかし、ここしか登攀する箇所が無いので度胸をきめて登攀を続行する。リスにはドロやブッシュが詰まって いるのでハンマーで掻き出し、ピトンやエイリアンなどをきめていく。  墜落して滑落距離が長くなると浮いた岩に衝撃を与えることになるので、通常よりは若干短い間隔でランニン グをセットしていく。  リスが終了した辺りで<APPENDIX>と合流する。<APPENDIX>の1P目は小ハングを左から回り込んで草付き テラスに達しているが、今回のルートは小ハング下にビレーポイントを作ることにした。  ハンマードリルでペツルアンカー2本を埋め込んでハンギングビレーをする。その時には持参したピトンのう ちアングル以外は全て使い果たしていた。ハンガーは回収済み。1P目は、ピトンを多数使用したのとリスの掃 除をしながら登ったため以外と時間がかかってしまった。  12:20に1P目リード終了<所要2時間10分>  新人の原も、ユマーリングでのピトン回収に最初は手間取っていたが、段々と要領が分かって来たようだ。し かし、以外と時間がかかりビレーポイントに到着したときには2時間が経過していた。さすがに2時間もハンギ ングビレーをするとお尻が痛くなる。  今日はここまでとし、ザイルをフィックスしてBCに帰った。 <使用ギア>  ナイフブレード、バカブー、ロストアロー、(各種多数)   エイリアン、キャメロット、クワッドカム、(小サイズ)  ハンマードリル、ペツルアンカー及びハンガー(回収)×各2 4月28日(月) BC 〜 取り付き 〜 3P目終了点 〜 取り付き 〜 BC 〜 黒部ダム 0600 0630/0710 1230 1300 1320/1510 1620 2P 5.7 AA1 15m  取り付きにデポしてあったギアを回収し、フィックスロープを早速ユマーリングする。  2P目は<APPENDIX>とルートが少し重複する。ハングを左から回り込んでフリーでブッシュ混じりの岩を登 るとテラスがあり、ここでピッチを切る。ここは<APPENDIX>1P目の終了点である。 <使用ギア>  キャメロット、ロストアロー 3P 5.7 AA2 15m  ここから上部を見上げてみると、目的としていたクラックが真上に見える。このクラックに達するためにはハ ングを越えて行かなければならないが、双眼鏡で見て予定していたラインの岩が見た目にも浮いている。この岩 を落とすとビレーポイントを直撃するためラインを変更し、ハングの右端のリスをネイリングする事にした。  まず、<APPENDIX>のラインをフリーで5mほど登り、クラックに生えた細い木の辺りから直上する。  最初の数ポイントはピトンの効きがあまり良くない。小ハングの辺りから、クラックの泥やブッシュを掻き出 しながらエイリアンをきめて前進していく。  小ハングを抜けると下向きの開き気味のクラックがあり、ここにキャメロット#2をセットし次のポイントを 探していると、キャメロットが外れて墜落。下のエイリアンが効いてくれて止まった。  再度セットし直し、次はスカイフック1ポイントで立ち上がり、エイリアンをきめる。ここが丁度、上部クラ ックの真下になるためビレーポイントを作りハンギングビレーをする。  このころから雲が段々と低くなり、雨がパラパラと降りだした。上部のクラックを1P登ればルートが完成す るのだが雨が段々と強くなってきたため、仕方なく最終ピッチを残して下降する事にした。  次回のために、3P目の終了点までザイルをフィックスして残してきた。  BCに着いたときには、雨がかなり強くなってくる。朝の気象通報では低気圧が接近していると言っていたし、 私の風邪の具合もあまり良くないため連休が明けてからルートを完成させる事にし、残念だが今回はこれで下山 する事にした。  今回の開拓は、風邪薬を飲んで鼻水を垂らしながらの登攀であった。 <使用ギア>   ナイフブレード、バカブー、ロストアロー、(各種)   エイリアン、キャメロット、クワッドカム、(小サイズ)  スカイフック 5月12日(月) 扇沢 〜 黒部ダム 〜 丸山南東壁/4P取り付き 〜 終了点 〜 取り付き  0445 0550/0600 0800/0945 1310 1330/1415 〜 黒部ダム    1615  連休に3Pまで開拓してあと1Pというところで下山する事になり、ザイルをフィックスしたままになってい たのが気がかりであったが、やっと都合がついてルートを完成させる日がやってきた。  扇沢からトロリーバスの始発は08:30だったので、早朝からトンネルを歩く事にし出発する。ここは冬に 歩いたことはあるがダラダラと長く足が痛くなる。  トンネルを抜け辺りを見回すと、2週間前にはあれだけあった雪がきれいになくなっているのには驚いた。  黒部川にも雪はほとんど無く、内蔵助谷出会の手前からやっと雪渓の上を歩ける。しかしクレバスが開いてお り、重荷を担いで飛び越えるのには少々勇気がいる。  フィックスを2週間も掛けっぱなしにしておいたので、回収されていないかというのが一番心配であったが、 2本ともしっかり残っていた。 4P AA2+ 27m  洞穴で登攀準備をしユマーリングで4P目の取り付きへと向かう。今日は快晴で風もなく登攀日よりである。  4P目のビレーポイントはペツルハンガーとリングボルトの2本で残置してある。4P目は左岩綾フランケの チムニーの左に走っているクラックとリスである。クラックには所々ドロとブッシュが詰まっているため、1本 目からドロ掃除になる。  ハンマーでドロとブッシュをかき出しカム類をきめていく、しかし以外とクラックが浅く外開き気味のためセ ットが難しい。  5mほど登ってからだろうか、ドロをかき出しフレンズをきめて次のピトンを叩いている時だ、いきなり中吊 りになった。フレンズが外れた様だ。しかし、1つ前のナイフブレードのタイオフで止まってくれた。  今までルートを何本か開拓したが、そのたびに何回かは墜落しているのでもう慣れっこになってしまった。  気を取り直して登攀を続行する。もう身体中がドロだらけだ。腰に吊した水筒の水で顔を洗う。  ブッシュがない箇所のクラックはカム類もしっかり効いてくれるが、それ以外ではクラックの中にピトンを打 ったり、左右にあるリスを使ってネイリングし前進していく。  さすがにこれだけのピトンを使うと時間がかかる。終了点間近になってくるとピトンの種類と数が少なくなり、 丁度良いリスを探すのに苦労した。  4P目は、出だしがカム類を使用し中間部はピトンとカム類のミックスで上部はピトンでのネイリングである。 2時間10分で終了点へ到着。  クラックの左上にある立木でピッチを切る。ここは<APPENDIX>や<MAZE>のビレーポイントでもある。この 上部は後1Pで左岩綾にでるのだが、簡単だし他のルートとまるっきり同じだというのもいやなのでここで終了 とする。  原も回収作業にだいぶ慣れてきたようで1時間強で回収が終了した。トロリーバスの最終に間に合わすために、 休む間もなく懸垂下降をし、取り付きで原と握手を交わす。    これで今年2本目のアメリカンエイドルートが完成した。ルート名は4P目でブッシュを掘り起こす作業で苦 労したので<ブッシュマン>と命名した。  このルートは4Pと登攀距離は短いが、岩を見る目と確実なピトンワーク、カム類のセット技術が必要である。 まず、初級ルートでネイリングの経験を積んでから取り付いて欲しい。リードすれば充実したクライミングを堪 能できるだろう。  下山後は最終トロリーバスに間に合うように急いで帰路につく。最終出発の3分前に乗り場に到着した。さす がに丸山の日帰りはきつかった。  帰宅後は、次はどこを開拓しようかと各種写真とルート図とのにらめっこをする毎日である。 <使用ギア>  ナイフブレード、バカブー、ロストアロー、アングル(各種多数)   エイリアン、キャメロット、クワッドカム(各種多数)  ハンマードリル、ペツルアンカー及びハンガー(残置)×各1、リングボルト×1

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